表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三つの世界 彼女が魔女に堕ちるまで。  作者: 春日部 光(元H.A.L.)
本章 中節 広がりと狭まり
162/268

百十話 魔人と獣人

「へー、西の方ね」

「驚かないのか?」

「なんか驚くことあるか?」


 この毛むくじゃらなテーラは西の……なんて言ったっけ、エルジェンヘーム? から来たらしい。

 あっちの方は呪人よりも獣人が多くて、テーラよりも強い戦士がわんさと居るとか。


「あれ? なら普通はウラーフ・イナールの方行くんじゃねーの?」

「あっちじゃ俺達は特に嫌われてる。魔人よりも扱いが悪い」

「ならなんで出てきたんだ?」

「……それを言う必要があるのか」

「いや別に。人それぞれってヤツだし」


 左に居る赤毛の女がタァブラで、右に居る毛むくじゃらがテーラだな。よっしゃ覚えた。

 タァブラの方はアタシよりも弱っちいけど、テーラに関しちゃここの誰よりも強い。

 獣人ってのはみーんなこんなに強いとか……はぁ、自信無くすぜ。マジで。


「アルムーアにはどれくらい?」

「ホワイトとレッドは昔居たらしい。アタシらは数日前にヘッケレンから」

「あら、なら組んで浅いの?」

「ん、んー……」

「元々別のパーティ同士だ」


 お、ナイス助け舟!

 なんかあんまり喋りすぎると怒られそうなんだよな。程々にしとかねーと……。


 つーか受け付け始まるのまだかよ。

 もう結構ないい時間じゃね? せっかく早起きしてきたってのに。


 このギルド詳しいヤツいねーの?

 と聞こうとして思い出した。そういや全員が新人じゃねーか、なら分かるわけもないか。

 んー……そろそろ1時は超えるはずだけど……。


「ブラック、今何時?」


 アンが「こっちのほうが使いやすい!」とかなんとか言って南部の時間を押し付けてきたけど、マジでさっぱり分からねー。

 起きた瞬間と0時の瞬間がズレてるってのはなんか感覚的に気持ち悪いし、つかなんで寝てる間の時間まで考えなきゃいけないんだ。

 めんどくせー……けどアイツ、言い出したら全然止まらないしなぁ。慣れるまでの我慢かね。


「……5時、か?」

「そんくらいだよなー」


 やっぱレニーですらよく分かってないじゃねーか。

 ギルドが始まるのが5時ちょうどだって言ってたから、それよか前なんだろうけど……暇だな。


「よぉ、見ない顔だな?」


 とかなんとかぼけーっと考えてたら知らんヤツから声掛けられた。

 少なくともアタシらの知り合いじゃあないし、タァブラの知り合いって感じでもないらしい。テーラの方は表情分かんね。

 ……すげーでっかい武器背負ってんな。コイツも纏身使うのか? にしたってあれじゃバランス悪そうだが。


「なんか用?」

「どこかクランには所属してるか?」


 クランっていうと……でっかいパーティみたいなヤツだよな、確か。


「いいや。誘いか?」

「おう。お前ら全員強そうだ」


 ほう、コイツ見る目あるじゃねーか。

 やっぱりアタシくらいになると黙ってても強者のオーラってのが語っちまうんだよな。しゃーない。

 でも別に長くここに居るってわけでもなさそうだし……アンはレアとお喋り中かー。


「全員と言ったが、俺達は別のパーティだ」

「構わねえよ。そっちの獣は無――」



◆◇◆◇◆◇◆



 ブラウンの語る"事の顛末"というものはどうにも分かりづらい。

 "獣人"のことを"獣"と呼んだ瞬間、ぶん殴っちゃいましたよってことでいいのかな。


 んで獣人とパーティを組んでたダバァはセットで注意を受けている。うん、当然だな。

 一緒に居たブラウンとブラックも注意を受けている。うん、まだ分かる。


「――通りです。今回は一度目ですから――」


 なんであの2人と同じパーティだからって私らまで怒られてんねん。あの状況で止めろとか言われても無理ありますわ。

 別にあの冒険者が死んだってわけでもないし、壊れた備品だって獣人に払わせてそれで終わりでいいじゃん?

 ったくもー……最近身の回りでのトラブルがどうにも多い。引き寄せる体質にでもなっちゃったんか? 勘弁してくれ。


 しかも張本人たるあの獣人は全く悪びれる素振りがない。さっきから謝罪はしないの一点張りだ。

 まあ彼にしてみれば先に喧嘩を売ってきたのはあの呪人なわけで、自分には何の非もない……みたいな感じだろうか。知らんけど。

 でも手を出したのは確かなんだし、自分は全く何1つ悪くないみたいなその態度はどうなのよ。そのせいで話が長くなっちゃってるんですけど?

 ……愚痴ってみても仕方がないし、別のことでも考えよ。


 ゲーン・ピューエル山脈によって呪人大陸東部は他の地域と隔てられ、言語や文化が変わってくる。

 ピューエル山脈南部に位置しているアルムーアはエトラと呼ばれる地域にあり、当然現在も東部に位置してはいるものの、文化的にはどちらとも言い切れないような混ざり合ってるような国家だったらしい。

 しかしヘッケレンへの併合によって南部文化の追い出しなんかがあり、一時的とはいえかなりひどい状況に陥っていたとかなんとか。

 その後の独立によって今度は東部文化を追い出せみたいな状態になり、今は併合前に比べてかなり南部寄りだとかかんとか。


 アルムーアは魔人と呪人が同じように扱われる素晴らしい町! 男女の差別も他よりかなり緩い!

 という都合のいい話ばかりに耳を傾けていたけど、これは要するに単なる文化の違いであって、南部国家では魔人よりも獣人への差別がキツいというだけであった。

 呪人ってのは何かを差別し続けないと死んでしまう生き物らしい。鶏かな?


 南部は中央に地中海があり、その沿岸部と近辺をウラーフ、ハラオス川以東の南東部をリウンと呼び分けられてる。

 ウラーフもリウンも元はイナールっていう大国が統べていた地域らしいんだけど、色々あって空中分解。リウンにはリアトレットっていうそこそこ大きい国が残ったけど、ウラーフには極小国家が乱立する事態に。

 極小国家達はザールを中心に新たにイナール連邦を立ち上げ、なんだかんだあって現在のウラーフ・イナールと呼ばれる国家連邦へと繋がった。ウラーフしか持ってないイナールだからウラーフ・イナールなのかもしれない。

 分解から連邦までの間に何も無かったなんてことはなく、南東のハラオス川以東は全てリアトレットの物に。そして……南西川でいいか、より南西側は"砂の民"に占領されて今に至る、らしい。


 キネスティットじゃ大まかな情報しか手に入らなかったし、仕方ないっちゃ仕方ないんだろうけど分からないところが多すぎる。

 例えばウラーフ・イナールの王、というか指導者? は世襲制ではないとかなんとか。今の指導者はテレ・キレットの領主らしいけど……さすがにここら辺のシステムの情報とまでなるとこっちでも手に入らないんだろうなぁ。

 逆に正確性の高い情報としては、この"砂の民"ってのはほとんどが獣人が構成されていて、イナールの時代からずーっと殴り合っていた、とか。"砂の民"には海賊も多く、沿岸部じゃ本気で嫌われまくってる、とか。

 ヘッケレンに比べて獣人への当たりがキツいのはここら辺の背景があるせいなのかもしれない。

 獣人らに関しては気の毒だけど、嫌ならデルクイン……今はシクリムだったかな? のような獣人の町から出てこなければいいだけだ。世界と戦うだけの力がないなら、従う以外に道なんてない。


 よっし。

 一旦区切りがついたところで……うわ、まだまだ掛かりそうだ。

 今日の私の頭は冒険者モードなわけで、何かを考えるモードじゃないんだけどなぁ。

 あ、そうだ。


「まだ掛かります?」


 ブラウン直伝の"直接聞く"を発動ッ! このカードの効果により、目の前の人間から答えを1つ得ることが出来るかもしれないッ!


「色付きの皆さんは帰っていただいて結構ですよ」


 え、もう話終わってたの。これ私が聞かなかったらもっと拘束されてたんじゃ? ていうかなんか微妙に上からっぽくて腹立つ。

 ……まあいいや。さっさと本拓証貰ってクエスト受けることにしよ。


「本拓証ください」

「ブラックさんに渡してありますが?」


 いつの間に?


「……また考え事か?」

「はい、ごめんなさい」


 いやー別にさ、私が悪いわけじゃないと思うんだよね? 元を辿ればあの獣人だったりそれに声を掛けてきた……テリアだっけ? が悪いと思うんだよね?

 でもこうやって口先だけでも謝っておけばさ、コミュニケーションってのは円滑になるわけだ。

 つまり私は今、自分自身を犠牲にして、彼に技術を伝授してやってるのだ! えらい!

 ……あほくさ。さっさとクエ受けよ。


 というわけでやってきたのはクエスト掲示板。

 こちらにはなんと、募集されているクエストが貼りだされております。

 東部と一緒だね。


「どれにしよ」

「あんまり残ってないもんなー」


 ギルドのシステムはかなり似てるもののようで、こっちも1時間毎に更新されていく。そして朝一の更新時が1番クエストが豊富。

 となれば当然朝一に受けに来る人が増えるんだけど……残念ながらそのピークを私達は逃してしまっている。

 なぜか? そう、あの獣人がおっさんをぶん殴ってしまったからである。つまり私達も被害者なのである。


「今日はブラウンに任せてみよう」

「ん、じゃあコレ」



======


分類:狩猟(常設)

対象:ティァバ・クラッハーノに出現する全ての魔物

階級:F程度まで

報酬:変動なし

期間:-

期限:-

名前:アルムーア

詳細:魔獣の目撃例あり。市民権の無い者に限る。


======



「ティァバ……え、どこ? 誰か知ってる?」

「クラハ川が合流する手前の辺り、だったかな。そんなに遠くないはず」


 ブラウンが選んだクエストは「一定の場所に現れる魔物が邪魔くさいから掃除しといてくれ」みたいな奴。

 今回のティァバ・クラッハーノに聞き覚えは無いような気がするけど、レッドが知ってるらしいので問題にはならなさそう。


 出てくる魔物についてだけど、JやI級に属するのは魔物……というか動物? がほとんどで、魔石は取れないものと考えておいたほうがいいらしい。

 私が初めて狩った土蟲(ワーム)ですらこっちではI級と1番下の存在なんかではないとか。

 Jでも中には怪我くらいは覚悟しておいたほうがいいのも居るらしいけど、あんまり危険性のある生物はIになるから、Jは"戦闘"って感じにはならないらしい。Jがネズミ駆除、Iが野猫駆除とかそこらへん?


 色々飛ばしてF級まで来ると、なんとあの二息歩行トカゲやコウモリの1個下ということになる。特にトカゲの方はこちらでは魔獣と呼び分けられていて、人を積極的に襲ってくるタイプの魔物なんだとか。

 肝心のF級だけどー……実は知ってる魔物がいない。ネヌク・ケノーがちょうどここらしいんだけど、残念ながら私は会ったことがないし、それにあいつら群れるから実質E級だとかなんとか。

 とりあえず、下級であるGからEに掛けては強さの幅がとんでもないと考えておいたほうがいいのかも。


 ブラックの戦力階級は上級にあたるD級になったけど、実は私もD級を貰うことができた。上級は受けてないのに……と思って聞いてみたけど、見てるのは結果じゃなくて中身なんだとか。へえ。

 ブラウンはE級を貰ってたけど、魔力生物さえなんとかできればすぐにでも上級に行けるとか。私達3人の実力はそれほど離れてないらしい、けど今は"色付き"の中で唯一の中級。

 牛さんの命を少しずつ削り続けたレッドはI級、ただ見てただけのホワイトはJ級と、どちらも下級を貰っていた。つまりは2人とも土蟲以下の存在である。……さすがにそれはないとは思うけど。


 と長々と戦力階級を思い返してみたけど、実はこの階級、あんまり意味が無かったりする。

 いや全く無意味ってわけでもないんだけど……自身の階級プラス1までのクエストなら受けられてしまう上に、パーティで受ける場合は最も高い人間の階級が適用されてしまう。

 レニーも私もD級だから、本来はB級まで受けられるはずなんだけど、アルムーアの南部ギルドで発行されたことのある最上位クエストはD級。つまりはE級さえあればそれで十分なのだ。

 じゃあウラーフ・イナールの方なら、といってもこっちもこっちでB級までしか出たことがないとか。最上級のA級が"募集"されてるのを見たことある人が居ないとか。


 募集されないタイプのクエスト、つまりは指名だったりを得るためには階級が高いに越したことはないんだけど……別にそこまで有名になるつもりはない。

 稼ぎとしても生活に困らない程度のお金があればいいし、ていうか多すぎると移動がしんどいってのはこの前の一件で十分理解できてしまったし。

 こっちに家族が居るなら送金とかもできるけど、大陸を渡るとなると送ったところで届くかどうかも不安定だし。

 世界中どこからでも使える銀行だったりとか、アイテムボックスだとか、ファストトラベルだったりとか……そういうの、誰か開発してくれないかなぁ。


「おーい、行くぞー」

「あいさー」


 魔力視の調子はっと……うん、問題無さそう。

 実はこのパーティ、残念なことに探知役が未だに見つかっていないのだ。

 早々見つかるものではないと聞いていたし、私がある程度できるせいで積極的に探してなかったってのもあるだろうけどさ。

 でも移動中ずーっと警戒してるのって結構疲れるし、レッド辺りができたらよかったんだけど……残念ながらその手の感覚だったり技術だったりは持ってないとか。


 一応レッドは初歩的な闘気は使えてるらしいんだけど、せいぜい人の視線を感じるだとかその程度だとかなんとか。ていうかそれ、多分勘違いを繰り返した結果作られた思い込みなのでは?

 はぁ、どっかにいい感じの斥候落ちてないかなぁ。……さすがに無いか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ