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三つの世界 彼女が魔女に堕ちるまで。  作者: 春日部 光(元H.A.L.)
本章 中節 広がりと狭まり
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百九話 上級と最上級

 魔法陣の上では獣人と試験官が戦っている。


 中級戦力測定から上級戦力測定に移るにあたって、私とブラックは順番を逆にされた。

 当初は理由が分からなかったけど、上級戦力測定が始まった今なら分かる。

 期待度とか推定戦力とか……まあそこらへん。要するに実力順だ。

 つまり私はブラウンよりも強く、ブラックよりも弱く、そしてあの獣人は上級戦力測定を受ける中で最も強いと思われたと。


「なぁ、ブルー」

「なぁに」

「アタシって結構強いよな?」

「うん」


 もちろん強さってのは色々あるわけで、一概には言い切れないけど……うちのパーティのメインアタッカーはブラウンであり、破壊力だけで見た場合は1番だ。

 指標を破壊力ではなく制圧力に変えてみれば、きっと1番は私になる。そして総合力で見た場合、おそらく1番はブラックだ。


「ブラックとかさ、アイツとか見てるとさ……なんか、自信無くすんだけど」


 珍しくブラウンがおセンチなことになっている。

 ……まあ理由は考えなくても分かる。私達3人のうち、唯一響霊に勝てなかったから。そしてあの獣人がどうやらとんでもなく強いらしいから。

 しかしなんて言葉を返そうか。私、あんまり人を慰めたりするの得意じゃないんだよね。しかも戦士ですらないし。


「結構頑張ってるつもりなんだけどなー」


 ブラウンは暇さえあれば体を動かしている。

 単なる趣味だと思ってたけど、どうやら彼女なりの努力の一環だったらしい。

 努力ってのは頭を使わないと簡単に裏切る。もちろん継続は大切だけど、間違った方法で継続した場合に得られるのは間違った完成品だ。


 シパリアに教え方が下手だったとは思わないし、ブラウンの努力も知っている。

 じゃあ何故結果がついてこないのか。


「ブラックはいいよな。闘気使えるもん」


 やっぱり闘気の有無だろうか。

 本人もそれを分かってるだろうし、であれば欲しがってるのは解決方法じゃなくて共感や捌け口だ。

 ……といっても、私に共感を示すだけの資格があるのだろうか。

 私だって闘気は使えないけど、別に無くてもなんとかなりそうな魔術師をやってるわけで。闘気無しの気持ちは分かっても戦士の気持ちは分からない。


「どうした、ふてくされて」


 闘気の使える戦士であるブラックの声は響かない。

 魔術師である私の声も、戦士としての期間の短いレッドの声も、きっとブラウンには響かない。

 今の私ができることなんて、不満の捌け口になるくらいだ。……だというのに、矛先がブラックに向かっている。

 詰んだ。


「才能あるヤツが羨ましいなーって」

「無いならより努力するだけだ」

「まだ足りてねーって?」


 火に油を注ぐじゃないけど、あんまりいい選択肢だとは思えない。

 ブラウンにしてみればブラックは"才能あるヤツ"なんだろうから、何を言っても無駄だろうに。


「ああ。足りてない」

「んじゃどーすりゃいいんだよ。1日中やってろって? 時間が足りねっつの」


 ……ここで口出しするのもなぁ。


「俺は1日中やった。だから今がある」

「んな時間無いだろ」

「何も体を動かすだけが練習じゃないだろう。様々な動きを想定し続けるんだ」

「はいはい、上級様の言葉は重いぜ」


 ああもう知ーらない。

 これ、要するにブラウンは僻んでるだけなんだぞ。その対象にはブラックも居るんだぞ。

 だのにその本人からの言葉なんて……もう少し冷えた後に掛けるべきだ。


「魔術の才能は俺にはない。2人を羨ましく思うことがある。

 だが羨むだけじゃ何も変わらない。だから日がな一日魔術のことを考えた。

 今は十分魔術が使える。……これじゃダメか?」


 おお、ブラックさんがなんか説教始めてる。

 と茶化してみるのは面白くないな。実際にブラックが魔術関連で四苦八苦してるのは見てきたし、それはブラウンだって知ってるはず。

 私と会った時にはゾエロですらまともに使えてなかったのに、いつの間にか戦闘中のほとんどで使うことができている。

 さすがに無詠唱には到達してないけど……しかしかなりの変わり様だ。そう考えてみればたしかに1番変わったのはブラックかも。


「……そんなの、何も言い返せねーじゃん」

「俺は腐ったことがあるからな。気持ちは分かる」


 へぇ、あのブラックが。

 あんまりそんな印象無いけど……ていうか凹んだら持ち直せないように思うけど。どうやって復活したんだろ。

 私の知らない頃だろうけど……ならカクかな。へぇー。


「しっかし上級とはな。驚いたぜ」


 空気が変わったことを察してか、さっきまでだんまりを決め込んでいたレッドが割り込んできた。

 そう、なんとブラックは私達の中で唯一の上級となった。ホワイトとレッドが下級、私とブラウンが中級、ブラックだけが上級だ。

 詳細な階級は明日以降に伝えられるらしいけど……とりあえず、最低でもD級以上になることは確か。

 私とブラウンはG級以上が確定だけどー……さすがに私のほうが上かな? 魔力生物感電させまくってやったし。


 上級戦力測定を終えた後、ブラックとあの獣人は最終戦力測定を受けることになった。

 つまり、11人中2人が既に上級を確定させたということになるけど……まあそれはともかく、この2人は魔法陣の上で睨み合った。

 戦ったと呼ぶにはあまりに一瞬過ぎた。ブラックは何もできなかったのだから。


 その戦闘が終わり、勝ち残った獣人だけが試験官と手合わせ中。私達はそれを観戦している最中。

 ……といっても正直見てて面白くない。何が起きてるのかさっぱり分からないのだ。ゾエロを使ってすらヤムチャ視点にすら届かない。

 とりあえず、さっきから獣人のほうがぴょんぴょん動きまわってるのは確か。ロニーとどっちが早いんだろ。


 ……あの獣人がよっぽど強いのか、あるいは獣人自体がみんなあんな感じなのか。できれば前者であってほしいものだけど。

 あ、そういえば獣人って魔力世界側の生物なんだっけ。筋肉痛にならないってこれのせい? あのスピードも? それは関係無いか。


「解説のブラックさん、現在の状況は?」

「俺にもあんまり……」


 "あんまり"、つまりは少しくらいは見えているということだ。やっぱり闘気は最高だぜ!


「あの獣人さ、もしかして空蹴ってる?」

「ああ。ロニーさんよりは遅いが……人じゃないな」


 人の父親を人外呼ばわりするな! いや私もよくそう呼んでるけど!


「試験官の方は?」

「守りがかなり上手い。最小限の運動で最大限の効果を引き出している。

 今も……ほら、あの一撃を数cm動いただけで避け、即座に反撃を入れている。

 避けきれない時もインパクトのタイミングをずらしできる限りダメージを下げている。

 少しずつではあるが確実に有利になる戦い方だ。

 それにただで攻撃させているわけでもない。攻撃位置を予測して――」

「ごめん、やっぱいい」


 ブラック、そんなに舌回ったんだ……。

 ええっと……な、なんか防御が上手いらしい! んで長期戦なら勝てるらしい!

 私は魔術以外の武術はさっぱりなのだ。こんな感じで理解しとけばいいんじゃない? もう全然分からんけど。



◆◇◆◇◆◇◆



 結局あの獣人は試験官に負けてしまった。

 いいものを見れた! とブラックはつやつやしてたけど……ぜんっぜん分からんかった。しかも無駄に長かった。

 なんせ気付けばホワイトが居眠りしてたレベルだ。私も寝ておけばよかったと少し後悔した。


 本拓証は後日渡すと言われ、結局そのまま帰って寝た。

 魔力もあんまり余裕がなかったし、特に予定も入ってなかったし、それにブラックのせいで寝不足だったしね。

 もちろんベッドは交換してもらった。もうあんな思いは嫌だ、ブラウンやホワイトのアホ面を眺めたり抱きつかれてたりしてるほうが万倍マシだ。


 で、本日。

 朝一番に冒険者ギルドに来てみると、……ダバァだっけ? があの獣人と一緒に居るではないか。

 同じ試験を受けた者同士、声を掛けてみるなんてのもありなのでは? 名前知らんけど。


「お、アイツら居るじゃん。おーい!」


 私ですら思いついたこと、ブラウンが考えないわけもないか。


「昨日の……」

「ブラウンだ。そっちは?」

「タァブラ。こちらは……テーラ?」

「2人も拓証受け取り?」

「ええ――」


 ……やっぱコミュ力あったほうがいいよなぁ。横の繋がりってのは大切で、こういうところから情報は転がり込んでくるんだから。

 私も声を掛けてみようかな程度は考えてみたけど、実際に話しかけただろうかと考えてみるとちょっと疑問が残る。

 あ、ブラックまで。……ならあっちはブラックに任せちゃってっと。


 呪人の多いギルドってのはどこもこう……なんか剣呑な雰囲気があるのはどうしてだろう。

 なんだろう、闘気扱えない人の比率が低いから? とりあえず呪人が多いと微妙に空気が重たく感じる。いや、逆に魔人が居ると軽いのか? よく分からん。


 ギルド内にざっと目を向けてみても、詳しい理由はよく分からない。

 全体的に魔力が少ない辺り、さすが呪人大陸って感じはするけど……意外なことに、魔人の姿がほとんど見当たらない。むしろ獣人のほうが多いぞこれ。

 アルムーアって魔人と仲良しな国とか聞いてたんだけど?


「ねえホワイト。これだけいて魔人が居ないのはなんでだと思う?」

「寝てるんじゃないですか?」

「あ、ありえる……!」


 まだ5時くらいと日も昇りきってないんだった。

 魔人のほうがよく眠るだなんて言われてるし、実際私達も男子2人に起こされたわけで。

 ここは魔人が1人で歩ける国であって、この国から出る予定がないなら魔人としても呪人と仲良くする理由が特に無い、と。

 それならまだぐっすり眠ってるのかもしれない。


「私ももう少し眠りたかったのですが……」

「次からはもうちょっと遅らせよっか」


 疑問の答えがなんとなく出たところで、ギルド内の観察再開。

 肉体派の呪人と獣人ばかりということもあり、全体的に体格のいい人が多い。魔術師らしきはたったの1人しか見えない。

 その唯一の魔術師っぽい人も、別にそこまで魔力があるってわけでもないし……あれがハルアみたいに魔力を隠せるなら別だけど。

 あ、フードフード……危ない忘れてた。


「ブルー」

「なんだねレッド君」

「いや、あれ……」


 レッドが指差すのは新人2人とブラウンとブラック。

 それから……。


「何あれ、絡まれてる?」

「っぽい」

「えー……」


 これ、なろうで見たことあるやつだ!

 新人が古参に絡まれる例の展開だ!

 いやさすがにもったいぶりすぎでしょ。やるならダニヴェスでやれっての……そういやカクに絡まれてたっけ。じゃあこれは2回目ってことで。


 絡んできてる方はかなり背の高い男性2人、一方絡まれてる方は新人4人。

 あっちの2人は順調に強そうではあるけど……しかし相手が悪くないか? あの新人、上級が2人混じってるんだぞ?

 ほら、もう1人目が吹っ飛んだ。……って! 今先に手出さなかった!?

 だばぁと聞いて最初に浮かぶのは溶岩でしょうか、焼きそばでしょうか。

 私はプリンでした。@さんは不器用なので……。

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