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三つの世界 彼女が魔女に堕ちるまで。  作者: 春日部 光(元H.A.L.)
本章 中節 広がりと狭まり
153/268

百一話 恋の行方と彼のコト

 あらすじ。

 レニーは私のことが"1人の女性として"好きらしい。

 なんつって。……これ夢じゃないよね? え、どうしよ。これ拒否権ある? 拒否ったら逃げられたりしない? いや拒否前提で考えてるけど拒否る理由特に無くね?

 いやいやまてまて落ち着け私、落ち着け私。深呼吸だ、そう、深く、ゆっくりと……よし。

 えーっと、とりあえず話を聞こう。……いや? 聞くも何も返事待ちなのでわ? いやダメだ全然落ち着けないじゃん。めっちゃこっち見てるじゃん。


「それは、そのー……付き合うとか、そういう感じの方で捉えるべき?」

「ああ」


 ガチの奴じゃんどうしよう。

 いや前世では結構告白されてたらしいけどさ? そこら辺の記憶ってあんまり実感無いんだよ?

 そりゃ阿野的には来る者拒まずーって感じで拒否ることはあんまりなかったけどさ、私今アンジェリアじゃん?


 ……よし、もう十分慌てたぞ。こっからは真面目に考えよう。

 突然こんなことを切り出してきたレニーだけど、その視線はまっすぐこっちを捉えてる。まっすぐすぎて見られてるこっちが恥ずかしいくらい。

 レニーはあんまり冗談とかいうタイプじゃないし、これは本当に本気の本音なんだろう。ならロリコンだとか言って茶化すのは無し。

 つか私はダニヴェスなら十分大人だ。色々と小さいだけで別にロリじゃない。


 選択肢は2つある。つまりはイエスかノーかの二択だ。

 さてこれだけど、私に拒否権ってあるの? アンにフラれたやだもう抜ける! とか言い出されたらマジで詰むんですけど。……そんなことをするとは思わないし、そういう下心ありきだとも思わないけどさ。一応ね。

 別にレニーのこと嫌いってわけじゃないし、実は拒否る気もそこまで無かったりするんだけど……。


「私魔人だよ?」

「ああ」


 魔人と呪人ってのはハーフの子を作ることができるけど、私達の場合では確か無理だ。性別が逆でなければいけなかったはず。

 でもそれを気にしないってことは……どうなんだろ、単に本当に私のことが好きなのか? いやそうだろ認めろ私。


 一時期レニーと付き合ったらどうなるのかなーみたいなことは考えたことはあるけど、あれは主題がレニーになかったというか、たまたま近くに居た仲の良い男性だっただけというか。

 こんなことなら真面目に考えておくんだった。あー、うーん……。

 正直断る強い理由が無いんだよね。そりゃカクのことはなんかもう普通に好きだけど、離れてみるとただ依存してただけなのかなーとか思っちゃったりもしてるし。

 それにあいつ、保留とか言って逃げやがったからな。自分からぶつけてきたレニーの方がよっぽど上等じゃあないか?

 ……いや、ホントは1つだけある。レアしか知らないこと、他の人にはまだ言ってないことがあるんだ。

 ()が私を気後れさせる。


「私の前世や深いところにある意識。そういうの、知らないでしょ」

「……そうか――」

「いや、待って、違う。えーっとね、それを聞いてからもう1回考えて欲しいっていうか」


 まあ、これは絶対に知っておいてもらいたい。付き合ってから伝えたとしたら、相手を裏切ったことになってしまう気がする。


「こんなこと言われたタイミングで言うのもどうかなって思うんだけど……私、前世は男なんだ」


 つまりお前は男に告白してるんだ! ……と言いたいわけじゃない。ていうか体は完全に女だし、精神ってどっちかっていうと女寄りな気がするし。


「……女が好きってことか?」

「いや、そうではないと思うんだけど……どうだろ、ティナに告白されたらなんて答えるんだ? 別にティナのことだって嫌いじゃないし、女同士ってのも1回くらいは――」

「声に出てるぞ」

「うわ、え、ホント? ちょっと待って」


 いや全然落ち着けてないじゃんこれ! ちょうど変なこと考えてたタイミングだよ! 顔真っ赤だよ!

 ……よし、もう1回深呼吸だ。深く吸って、深く吐いて……あかんわなんか心臓のテンション上がりっぱなしじゃん。

 え、何、ドキドキしてんの?


「性別なんて関係無い。俺はアンが好きだ」


 んっほなんだこれ。あれだな普段口下手な奴がドストレート投げつけてくるシチュに私結構弱いんだななるほどな。

 ……でも中身がオーケーだからといって、問題点はそれだけじゃない。

 私にとっての引け目はまだある。まだまだたくさんある。


「……でも私、普通に歩けないよ」

「俺が杖になろう」

「顔にも大きい傷もあるし……」

「それがどうした」

「背も胸も小さいし、料理も美味しく作れないし、あんまり周り見てないし、泣き虫だし、すぐ変な事考えるし、嫉妬深いし、それに――」

「アン」


 一度口にしてみると、自分の欠点は次から次へと出てきてしまう。

 しかし全てを吐き出す前に、レニーに言葉を遮られてしまった。


「俺の惚れた人間を、あまり貶さないでやってくれ」


 ああ、なるほど。

 こんな私を受け止めるつもりなのか。

 受け止められるつもりなのか。

 ……少しだけ、期待してみようかな。


「じゃあ……よろしくお願いします?」

「フッ。改めて、よろしくな」


 レニーは何が面白かったのか、私の物言いを少し笑うと――



◆◇◆◇◆◇◆



 ちょっと昼間に眠りすぎた。

 1日中馬車に乗ってるってのは楽で良いけど、ああも体を使わないと全然眠れなくなっちまうとは。

 レアもあんまり眠く無さそうだったし、最初はお互いにお喋りで暇を潰してたんだが……。


「見ましたかブラウンさん! ブラックさんとブルーさんが――」

「シーッ! バレるって!!」


 レニーの奴、遂に成し遂げやがった……!

 これは大事件だ。歴史的快挙だ。なんてったってあのレニーから手を出した!


 ……でも手放しに喜ぶってわけにもいかねーよな。

 色恋沙汰が原因でパーティが分解しただなんて話は何度も聞いたことがあるし、つまりアタシらはアイツらが離れないように補佐しなきゃいけないってことだ。


「どうすっかな」

「どうとは?」

「アイツらが別れないようにさ。パーティ分解なんて嫌だしなー」


 アタシに何が出来んだろ?

 アイツらが自分から言ってくるのを待った方がいいんかな。それともこっちから言った方がいいんかな。

 恋愛相談とかされても全然分かんねーし……つか絶対アンのが知ってるし……。つかアイツ本命カクじゃなかったっけ? じゃあなんでレニーが……。


「……難しい! なんかノウミソかゆい!」

「脳に痒みを覚える神経って走ってましたっけ?」

「例えだ例え。あー……いいな、彼氏。なんかアタシも欲しくなってきた」

「どんな方が好みなんです?」

「そりゃもちろん――」


 アタシより強くて、かっこよくて、頭良くて、話面白くて、なんかクールで、家持ってて、金持ちで、でも貴族でもなくって――


「――ウンさん。ブラウンさん!」

「んだよ。あ……レ、レニー」

「盗み見とは良い趣味だな?」

「待て、落ち着け、やめろ、まだ死にたアアアアアア」



◆◇◆◇◆◇◆



 わ、わいの初めてが奪われてしもうた。

 べべ別に気にしてるとかそういうわけじゃないけど、なんかこう、うわ、顔熱い。


 ……こほん。

 記憶の中だと最初にキスされたのはユタだったし、もっと赤ちゃんの頃なんかに両親にされてたかもしれない。

 だから別にこれは特別なことでもなんでもなくて、ただ普通の……いやぁ……レニー、じゃなくてブラックがあんなに強引なタイプだったとは。……下半身麻痺ってなかったら濡れてたりしそうだなぁとか思ってみたり。

 ところで……。


「寝てなかったの?」

「いやー、寝付けなくってさ」


 この盗み見ガールズをどうしよう。

 見せもんじゃねーぞおらー! とか言ってみてもいいけど、私としては別になんとも思ってないっていうか、人前でイチャイチャしたりされたりも別に気にしないっていうか。

 単にブラックが恥ずかしすぎて死んでるだけっていうか。


「あ、じゃあもうちょうどいいや。ブラウンよ、私は男だ」

「いや女だけど」

「いや前世がさ。私の中身は元男なの」

「両方経験してるってこと? いいなーお得じゃん」


 え、なんかこう、よくも私の裸見たわねー! とかにならないの? ならないか、ティナだしな。つか私も見られてるしな。

 なんとなく流れで告白してみたけど、これはこれで予想外の反応だ。お得じゃんて。

 まあ確かにお得かもしれないけどー……前世の感覚とか意識とかに引っ張られるから性別不一致は面倒だったりするんだぞ。


「ならさ、あとでちんこのこと教えて」

「ち……なんで!?」

「生えてないからすっげー気になる」


 ま、まあ確かに私も女になってから結構いじくり回したけどさあ……どんな感覚なのかなーとか、自分で見るとどうなってんのかなーとかさ。

 でもその代わりっていうかなんというか、失ってしまったものも数多いんだ。


「実をいうとあんまり分からん」

「え、なんで?」

「部分的には分かるけどー……細かい仕様とかまでは忘れちゃってるんだよね。ていうか覚えてないことの方が多い」


 私の呪いは記憶の上書きってやつで、今世の記憶に前世の記憶が上書きされていってしまうもの。

 今の体を弄った記憶は前世の体を弄った記憶に上書きされてるわけで……手帳に書き込んだものはある程度覚えてるけど、それは記憶じゃなくて記録っていうか、単に新しく付けただけの知識っていうか。


「前世の私が男だったとは覚えてるんだけど、記憶の中の前世の私って基本この体してるんだよね」

「アンじゃん。女じゃん」

「女だよ」

「じゃあダメじゃん」

「だからそう言ってんじゃん」


 朝立ちの感覚はこの体じゃ覚えてないし、だからこそ残ってるけどー……例えばおしっこしたりだとかオナったりだとか、そこら辺は完全にこっちの体になっちゃってるんだよね。

 あ、あとはセックスの記憶もまだ男のままか。……こっちはこの体に上書きされることは無いのかも。だって感覚死んでるし。


「じゃあ心は? 男心ってヤツ」

「それも……元々男っぽくなかったのもあるし、今の私で上書きされちゃってるのもあるし……」

「じゃあダメじゃん」

「だからそう言ってんじゃん――」



◆◇◆◇◆◇◆



 翌朝。私達は出発を遅らせもう少し眠ることにした。

 理由? レッド以外寝不足になったからだ。大体ブラウンが悪い。

 手帳からの抜粋。

----

 「記憶の上書き」の予想


1,似たイベントで別の結果を得ると上書きされる。

下半身の記憶が上書きされた理由。

両親の顔が上書きされてるのは2の可能性もある。


2,その当時の年齢を超えると上書きされる。

古い記憶の大部分が現在の肉体になっている理由。

26歳を迎えた頃には"俺"は完全に消えるのかも。


3,完全なランダムで"消える/上書き"されることがある。

原因不明。

以前は体験した記憶だったものがいつの間にか知識へと変わっていることがある。

大量に魔力を使った後に発生してるような気がする。


4,関連した記憶は一度に全て上書きされる。

何らかの"授業"が竹の剣を振るうものに上書きされていた。

その後色々と思い出してみたものの、成人後の記憶にすらこれがある。

これと1と合わせた結果、5が発生しているのかもしれない。


5,知識は残ることがある。

時系列不明な記憶がたくさんある理由。

暇潰しにググってたとしか思えないような情報がたくさんある。

他の記憶が上書きされた結果浮いてしまっただけなのかもしれない。

残った知識を思い出せるかは完全な運。多分呪いと無関係。


例1,日本語

音が上書きされたのは、こちらの世界の言葉を覚えたタイミング?

音が僅かに残ったのは、こちらの世界の言葉を覚えきっていなかったから?

文字が上書きされなかったのは、こちらの文字を覚えていなかったから。

文字が上書きされていったのは、"魔人語"の文字を勉強中。

→おそらく音も徐々に進行した。


例2,英語

アストリアに居た頃には英語と"呪人語"の両方を扱えていた。

上書きされたのは呪人大陸に来て実用するようになった後。

→おそらく一斉に上書きされた、が翻字に使ってたので知識としては残った。

 知識の中の学校では英語の授業をしているまま。記憶は残ってないので不明。

 →"アンジェリアの知識"は上書き対象外。

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