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三つの世界 彼女が魔女に堕ちるまで。  作者: 春日部 光(元H.A.L.)
本章 中節 広がりと狭まり
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百話 伝えられないと伝えたい

2022/04/19 妹の年齢修正

 長い期間仕えていたというのは伊達ではなく、レッド(ハクナタ)の技能は多岐に渡る。

 レア達は移動している期間が長かったらしく、そうなれば当然今回のような野宿もある。

 その際の料理番であったりも務めていたようで、用意できる食材に差があるという言い訳も虚しく、私の作ったやつよりも明らかに美味しかった。

 ……いやなんで? 大した違い無いと思うんだけどなぁ。レニーと比べた時も思ったけど、もしかして魔人って料理下手なの?


 夜の見張り番はレニー、ティナ、そして私の3人で回すこととした。特にレニーの負担が大きくなった。

 レアがこれに参加したがったけど、急な戦闘になった場合の対処が難しいだろうし、万一逃げられたらと考えたら承諾することはできない。一応名目上は人質なのだし。

 ハクタナに関しても似た理由があるし、加えて彼には馬を御すという大事な大事なお仕事がある。少なくとも馬車を保有してる間はぐっすり眠ってもらうことにしよう。

 結局のところ、私達3人と新しい2人の間には小さな溝がある。これを埋めることさえできればもう少し楽になるのかもしれないけど……今はまだ早すぎるかな。


 最初は私とレニー、次が私とティナ、最後がティナとレニーという形での見張りになった。

 睡眠時間がかなり削られる形になるけど、こっちは移動中は仮眠することでカバーする。

 あの馬車は6人以上乗れる構造になってるし、レッド(ハクナタ)を御者台、私を片方の座席で寝かせたとした場合でも、もう片側の座席だけでブラウン(ティナ)ブラック(レニー)ホワイト(レア)を収めることが出来る。

 問題は体の大きなレニーだけど……それは自力でなんとかしてもらおう。ていうか多分普通に座ったまま寝るだろうし。


 というわけで最初の火の番はレニー、いや、ブラックと。癖を付けておかないと……。


「夜の1/3しか眠れないって、キツそー」


 最近は周囲の生活リズムに合わせてたから朝型だったけど、本来は夜型だったりする。

 これが前世の影響なのか、サンの影響なのか。どっちなのかは分からないけど、どっちかといえば夜更かしのほうが得意。


 カクが居た頃は4つに分けての交代だったから、夜のうちの半分を睡眠に使えていた。

 1/6減るだけと考えてみれば大したことはないような気がするけど、あの頃は全員が見張り番をしてたから全体として多めに"夜"を割り当てていた。

 14時間を4人で見張っていたのが、12時間を3人で見張るになったって感じ。適当な数字だけど、この場合なら睡眠時間は7時間から4時間にまで減ることになる。


「そう気は張らなくていいんじゃないか? こっちの方が野生の魔物は少ないようだし」


 国や町の治安の悪さはともかく、こと魔物に関してはこっちの方がぶっちゃけしょぼい。

 もちろんあっちには生息してなかった種類なんかも居るし、全てがしょぼいってわけでもないんだけど……魔力濃度の影響なのか、全体的にこっちの方が魔物を見かける頻度が少ないようだ。

 ていうかあっちには魔嵐とかいう定期的な魔力供給源があるからね。あっちっていうかダニヴェスに、もっと言えばダールに、だけど。

 おかげであそこら辺の魔物は近隣よりもやや強いとかなんとか。あんまり壁の外に出ることはなかったから詳しくはないけども。


「アン……いや、ブルー(アン)か。聞きたいことがある」

「なぁに?」

「これから先、どうするつもりだ?」


 どうする、とは。

 カクの飯巡りに付き合うってのが無くなった代わりにカク探しが追加された程度で、ユタ探しの方はそのまま。私の目的は大きくは変わってない。

 ブラック(レニー)はもちろんこれを知ってるし、何度か話し込んだこともある。だからきっとこんな回答を望んではいない。


 ここに時制と現状という2つの要素を足してみれば、隠されている主語がホワイト(レア)レッド(ハクナタ)だということが分かる。きっとあの2人の処遇に関してが本題だろう。


 正直な話、仮にレアが嘘を付いていたとしたら、私はそれを見抜くことができない。

 なんてったってお互いに感情を読み取り・取られづらいタイプ。


 例えば私の場合では、そもそもが自ら隠そうとしてるのもあるし、代わりに別の物を出していることもある。

 何も考えてない時やあんまりにも感情が強い時なんかには、ブラック(レニー)ブラウン(ティナ)に見透かされることもあるけど……それはこの2人が私に慣れてしまっているせいだ。


 ホワイト(レア)の場合がどうなっているのかを深くまで知りきっているわけではない。

 けどあの言動と一致しない表情だったり、わざとらしいほどに大げさな表情だったり……少なくとも表情からホワイトの本位を汲み取ることは難しい。

 なら仕草からといいたいところだけど、ホワイトの場合癖らしい癖が見当たらないし、こっちは表情以上にごまかしやすかったりする。

 じゃあ声色からなら? これも無理。多分ホワイトは私と違って素で表に出てこないタイプ。出てこないにも関わらずそれを隠そうとして無理やり装飾してるような違和感がある。

 それらの装飾を全て見通せたとしても、目に映るのはただの無地でしかない。あれこそが本来のレアであって、それ以上内側を覗くというのは……私には少しむずかしい。


 レッド(ハクナタ)なんてホワイト(レア)以上に難しい。彼を理解するためには観察する時間がもっと必要で、まだ1日も一緒に居ないのだから私の技術では不可能だ。

 むしろブラック(レニー)こそ闘気でなんとか読み取ってくれ。


 ホワイトが信用できる人間であれば、これほどに楽なことはない。ホワイトを獲得できれば芋蔓式にレッドも獲得できるし、いくつか気になる呪いもある。

 しかしもし嘘をついているとしたら?

 これこそが最も怖い。きっと私はその嘘を見抜けないだろうし、ホワイトにしか分からないことが多すぎる。

 ドゥーロが平原で魔物に襲われて殺されるという未来を見たと言ってたけど、あれですら本当なのかも分からない。実際にドゥーロは別の未来へと進んだわけだし、手放しに信用するというのはどうにも……。


 もし本当にあれが嘘で、今は寝返ってるふりをしてるだけなら? レアはドゥーロを切り捨ててでも自分が生き残る道を選んだだけだとしたら? 私に近づいたのも元は奴隷紋を入れるためだったとしたら?

 ……自白剤でもあればいいんだけどなぁ。私だけじゃ分からないことが多すぎる。

 レアを拷問にでも掛けられれば楽なんだろうけど、そういうのレニーは絶対嫌うしなぁ。


「……決まってないのか?」

「正直ね。行き当たりばったりなところある」


 考えることは好きでも別に得意ってわけじゃないんだよね。

 好きこそものの上手なれだなんて言うけど……こういうのは私の好きとはちょっと方向が違う。ただ道具が一緒なだけだ。


「こっちからも聞かせてよ。ホワイトって信用できると思う?」

「……さあ。俺達はそこまで話せてない」


 ま、それもそうか。2人はハルアと一緒に居た時間の方が長かったわけで……あ、ハルア。


「もう1つ。なんですぐにヴィヴロ捕まえたの? ハルアからなんか聞いてたの?」

「ああ、それは――」


 これは完全に初耳だったんだけど、ブラックは両親だけでなく兄と妹を亡くしているらしい。

 周りに魔人が多いせいで兄弟ってワードをほとんど聞かなかったけど、呪人であれば居ない方が珍しいとか。イールも兄弟居たもんね。

 兄は生きていれば32と少し、妹は生きていれば20になるはずだとも。……ハルアとちょうど年齢が被ってるし、ティナも呪人基準だとそのくらいの見た目らしい。

 ブラックは兄妹と私達を重ねていただけだったのだろうか。


 ハルアもハルアで少し離れた弟が居たらしくけど、こっちは生きてるのかすら不明。

 どうにもハルアは記憶があやふやになっているらしく、あまり古いことは覚えてないとかなんとか。

 ハルアとブラックはお互いに失ったものを補完しあってたって感じだったのかも。私にはよく分からん。


 最初はお互い無意識だったのかもしれないけど、なんとなーく惹かれたものがあったりしたのかもしれない。

 そこそこ仲良くなったこの2人は、私には秘密で本当に特訓してたらしい。ブラウン(ティナ)にはすぐバレてしまったけど、私には漏洩せずに済んだと。

 ……微妙に疎外感があったのってこれのせい? 別に怒る気にはならないけど、なんだか複雑な気分。


 ともかくこの3人は一緒に行動することが増えて、その中でハルアが漏らした言葉がある。

 「スドゥプロさんを信用しすぎるな」と。


 ブラウンはそこまで深く受け止めてなかったみたいだけど、ブラックはどうにもこれが引っかかっていたらしい。

 んで紋入れ墨を見た時にこの言葉を思い出し、私の行動にすぐ合わせられたと。

 紋入れ墨や奴隷紋に関してはレヴィから聞いていたようだ。馬に関しての妙な知識もメルナと話した結果だとか。


 レアが私のことを探してたのは確かだし、ということはあの検問所でのゴタゴタが無ければブラックは奴隷紋に関してはあまり詳しくないままだったかもしれない。

 もしその場合で今回のイベントが発生したとしたら、きっとブラックの行動はもっと遅かったし、なんなら私の"敵"になっていた可能性すらありえる。

 ……最近は"未来"だなんて漠然としたものを考えることが増えてきたけど、実際何がその"未来"へ繋がるかなんてさっぱり予測できないや。

 歴史にIFは無いだなんていうけど、IFでの末路をレアの呪いは捉えているようだし、なんだか本当に訳が分からない。


 正直荷が重い。

 別に自ら背負ったものばかりというわけでもないし、放り捨てることだって簡単なんだろうけど……ロニーとサンに合わせる顔が無いしなぁ。

 そもそも私はダニヴェスに帰れるのか? って問題すら出てきている。

 今はまだ大丈夫かもしれないけど、そのうちヘッケレンへの入国ですら難しくなるかもしれないし。……何してんだろ、ホントに。


「ハルア、大丈夫かな」

「……というと?」

「もしドゥーロとハルアが敵対していたとしたら、馬車の外での戦闘ってさ、あの2人なんじゃないかなと思って」


 ドゥーロの領域に入れられてしまっていた以上、魔力視はほとんど機能していなかった。

 幸いにもドゥーロの領域内だけは見ることが叶ったけど……馬車自体は透視することができなかったし、外の様子なんてさっぱり分からない。


 突然の雨とあの爆音。

 前者がハルアのものと繋げるのはそこまでぶっ飛んだ考えじゃない。

 爆音に関しては、空気の裂けるような音と地響きのような音が混じっていた。あれが雷の音だって言われても私は別に驚かない。

 ま、これはレッドから後で聞けばいいか。私達と違って直接目撃してるはずだし……あ、いや、どうだろ。レアの指示通りに動いてるとしたら、嘘をつかれる可能性は十分にあるか。


「スドゥプロが居なくなったとなれば、八神教で騒ぎが起こるはずだ。

 アルムーアでの滞在を伸ばせば何か掴めるかもしれない」

「それだけどさ、ドゥーロの話しっぷり的にアルムーアの権力者なんかとつながってそうじゃない?」


 「私に従っていただきます」というのをただ「奴隷にします」とだけ解釈してしまうのはどうにもしっくり来ないというか。

 本当にそれだけなら別にいいんだけど、もし王族だったりとかと繋がってるならマジで面倒臭いことになる。

 一応私も「ユタの妹ですなんか恩恵くーださい!」みたいな感じで図々しくしてみようとか考えてたけど、もしドゥーロを"味方"としてカウントしてる人たちだとしたら、私達は当然"敵"ということになってしまう。


 アルムーアは一応こっちの言葉での"都市国家"ではあるけど、その規模は前世での"都市国家"とは比べ物にならない。

 土地そのものがかなり広く、当然領土内には無数の農村や漁村が存在してる。こっちの言葉での"都市国家"とは大きい都市が1つしかないって意味に過ぎない。

 前世の言葉通りの都市国家ならまだなんとかなったかもしれないけど……たかが5級の冒険者風情で国家と戦争だ、なんて考えたくもない。


「私、間違ってたと思う?」

「絶対に正しいことなんて存在しない。自分が正しいと思えば正しいんだ」

「……え、何どうしたの。なんか悪いもんでも食べた?」

「飯に毒は入ってなかったと思うが……」

「いやこれ冗談」


 なんだかブラックが達観してる。こんなキャラだったっけ?

 どうにも呪人大陸に来てからというものブラックのキャラ崩壊が激しい。一皮むけたって奴なんだろうか?

 原因は……やっぱり私になるのかなぁ。拉致られる以前と以降で特に変化が激しいし。なら責任も私にあるの? 勘弁して。


「ねぇ――」

「ブル――」

「あ、お先どうぞ」


 ちょっとした沈黙が流れた後、2人の声が被ってしまった。

 私が話そうとしたことなんてしょうもないことだし、ここは道を譲ってやろうじゃないか。


「嫌なら答えなくてもいいんだが……何か隠してないか?」

「どうしたの? 突然当たり前のこと言って」


 何を突然。

 いくら私達の仲がいいったって、別に全てを曝け出し合ってる訳じゃないことくらい、ブラックだって十分に理解してるはずじゃん。

 兄や妹が居ただなんて今日はじめて知ったことだし、別に話したくなければ話さなくてもいい。

 そんな距離感だからこそ私のくせに長続きしてるんだけどな。


「もし……いや、忘れてくれ」


 ブラックとの会話はこれっきり。

 微妙に話しかけづらくなってしまい、なんとも眠い時間を過ごすハメになった。



◆◇◆◇◆◇◆



 今日は2日目の野宿。

 昨日より減ったとはいえ、村自体は結構ある。それでも野宿を選んでるのは、ここにはホワイト(レア)レッド(ハクナタ)しか居ないからだ。

 ドゥーロやハルアなんかが不在なことを怪しまれてしまった際、私達ではどうすることもできなくなってしまう。


 もちろん、あんな農村なんかにそこら辺を察せられる人間がそう居るとも思えないけど……だからって絶対とも言い切れない。

 私はあのハルミスト(イールの)村で学んだのだ。人も村も見かけにはよらないんだって。

 どうせ失敗してしまったのなら、せめて同じ過ちを繰り返さないようにしようじゃないか。


「おやすみー」


 というわけで、今日もブラック(レニー)と火の当番。

 3人で回すというのは正直かなりキツい。昼の間も交代しつつ眠り合ってたけど、疲労感は抜けきっていない。


 とりあえず、ホワイトとレッドの2人からアクションが起こることはなかった。

 あの2人を信用しきれるなら、もっと楽に回せるんだけどなぁ。


「ブルー、昨日の続き、いいか?」

「ふぁ……うむ。なんだっけ、隠し事?」

「それもあるが――」


 私は別に主張を変えるつもりはないし、話は平行線を辿りそうだけどなぁ。

 でも昨日みたいに無言が続くと眠くて眠くて死にそうになってしまう。昨日よりも眠い今日なのだ、そんなのできれば回避したい。


「アンジェリア、好きだ」

「うん? 私も――」

「1人の女性として」


 ん……ん!?

 百話目にして告白(される)イベント発生。

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