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十三話 ユタの旅立ち

 2021/06/06 一部描写の変更と誤字修正。

 2018/01/26 学校に関する記述の修正。

「父さん、母さん。話があるんだ」


 その日の晩、ユタが両親に家を出る事を明かした。13月22日のことだった。

 両親は迷いに迷って許可を出した……条件付きで、だが。

 半年に一度、連絡を取ること。その条件さえ守ればいいらしい。そんなもんでいいのか? と思ったが、そういう世界なんだろう。


 そして今日が、ユタが出ていってしまう日だ。



◆◇◆◇◆◇◆



「ユタ兄、本当に行っちゃうの?」

「たまには戻ってくるし、別に二度と会えないわけじゃないんだ。だからそんな顔しないでよ」

「でも……」


 ぐずぐずと引き留めようとしていると、ロニーから声がかかる。


「アンはお兄ちゃんっ子だから、寂しいんだよね。逞しくなって戻ってくるさ。笑ってあげよう」

「パパ……。うん、分かった。またね、ユタ兄!」

「うん、またね。皆も達者で!」


 内心複雑だ。確かにお兄ちゃんっ子な自覚はある。ユタは頭が良いし、話してて楽しかった。だからユタとずっと一緒に居たかった。

 あの日、ユタが私に伝えた時も、実は出ていくなんてことはないんじゃないか? と思っていたのに、結局行ってしまった。とても悲しい。

 いや、ユタを尊敬していたのかもしれない。この世界で1から初めて、そして知識の多いユタに。だから、ベタベタとくっつき回っていたのかもしれない。

 ……そうじゃないな、羨ましいんだ。魔術に長け、人格もあり、それでいて、私とは違って転生した訳でもない。前世の自分は、この歳の時に何を考えていたかなんて。多分うんこうんこ言ってはしゃいでたガキンチョだった。


 ……今はまだ、考えがまとまらないな。何か、引っかかる物もあるし。


「行こっか、アン」

「うん」


 サンに手を引かれ、長宿に戻る。そういえば、セレンは今何をしているんだろう。



◆◇◆◇◆◇◆



 ユタが居ない。家全体が静かに感じる。ユタは私と違って、家で事件を起こすわけでもなく、ペラペラとよく喋るわけでもなかったのに。何か静かだ。

 もう会えない訳じゃないとは言え、こっちの世界でずっと一緒に暮らしてた人が居なくなるのは辛いことだった。

 何もやる気が出なくて、ユタのくれたアノールのぬいぐるみ(ロン田中と名付けた)をぼーっといじる。


「アン、いつまで落ち込んでるの?」


 いつの間にかサンが部屋に入ってきていた。私の気持ちなんて分からないくせに。


「落ち込んでないよ。魔術について考えてただけ」

「ならいいんだけど……そうね、帰ってきたユタを驚かせるくらい、魔術の勉強しようか」

「……うん」

「学校、行く気になった?」


 端的に言うと、私は不登校児だ。

 前世と違って義務教育ではないのだが、両親は学校に行くことを強く推してくる。でも正直、行く気にならない。中身大人なんだから馴染める気もしないし、算術とやらも学校で習うのは四則演算くらいだ。足し引き掛け割りだなんて、勿論ほとんど暗算出来るし。あ、3桁掛け算とかは勘弁な。

 とにかく行く理由がないのだ。魔術に関してだって、ユタや皆が教えてくれたし、下級学校……3歳~10歳くらいに一般的には4年程度通うものだが、飛び級制度がある。ユタはこれでサクッと卒業していたが……。考えが逸れた。

 とにかく、私の周りには魔術に長けた人が多く、生活魔術や護身魔術も覚えられた。算術も出来るし文字に関しては上級学校での科目と聞く。行く理由なんてない。


「前も言ったけど、行く理由無いもん」

「だってアン、同年代のお友達居ないじゃない」


 うっ……これは痛い。言い訳させてくれ。話が合わないのだ。中身25歳の男性が5歳6歳のキッズと全力で一緒に遊ぶなんて無理だ。子供が嫌いとかそういう訳じゃないけど、体力と精神力が両方共削られてしまう。前世で保育士でもしてたらいけたのか……?


「遊ぶの好きじゃない……魔術のお勉強してる方が好きだもん」

「じゃあ、決まりね。ユタを驚かせるくらい、魔術を扱えるようにならなくっちゃね」

「うん」

「とは言えあの子、あの歳で6術まで扱えるからなー……とりあえずアンは、追いつく所からやろっか」

「はーい」


 あいつは天才だと思う。普通、魔人(マジケル)でも一般人はせいぜい3術程度。4術が扱えるならばもはや魔術師と名乗れてしまう。新米冒険者も大体はここらへんだ。

 なのにあいつは、10歳で6術扱える。本人は「上手く魔力を練らないと、すぐ枯渇しちゃうからこれ以上は良いかな」とかなんとか言ってたが、つまり魔力の扱いに更に長ければ、それ以上も目指せると言うことだ。昔読んだ録石の中の英雄は17術とか使ってたが、あれはちょっと頭おかしいと思う。そんな長い詠唱する間に殴られて死ぬだろ多分。


「じゃあ、明日は一緒にお出かけしよっか。ロニーにはもう伝えてあるよ」

「どこ行くの?」

大河(リニアル)の上流の方」

「……行ったことないよ?大丈夫なの?」

「私にまかせなさーい!」


 ……サンって案外、思い切り良いんだよなあ。私まだ3歳なんだけど。身長多分まだ1メートルもないぞこれ。

 もうちょっと傷心に浸っていたかったんだけど。

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