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三つの世界 彼女が魔女に堕ちるまで。  作者: 春日部 光(元H.A.L.)
本章 中節 広がりと狭まり
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八十八話 二度と潜った 1

 ――歳になると、死んでしまうんです」


 レアの呪いは本人が把握しているものだけでも17個。

 たった1つしか呪いがなく、更にはその対策すらも用意できる私とは全く違う。

 呪いのうち、特に重いものの1つに"短命"というものがあるのだという。

 全てのレアは――歳で死ぬ定めであり、"今回の"レアもそれは変わらないのだと。


「次のレアは、どんな世界を見るのでしょうね」


 そんな風に語る彼女の見る世界とは、私の世界とどのくらい違うんだろう。


「もう1回だけ、故郷を見てみた――



◆◇◆◇◆◇◆



 ティナを先頭にレニー、私、ハルアの順で進むことになった。久々の竜の依頼ごっこだ。

 先頭に居るティナだけど、残念ながら彼女に探知は行なえない。3番目の私でようやくであり、4番目のハルアは滅多なことでは手を出すつもりはないらしい。

 しかしレニーは私を後ろに置きたがるし、ティナは1番前が良いと言うし、と意見をまとめた結果がこれ。中々見事にアンバランスだ。

 ティナかレニーを探知役にできればよかったんだけどなぁ。斥候を普通の魔術師が務めるというのは非常に都合が悪い。なんてったって近接戦闘に向いてないし、自慢の遠距離攻撃も活かしづらい。

 近接戦闘と探知の両方共がいけるハルアが居るんだから、と思えばどうやらお目付け役的な立ち位置っぽいしなぁ。一体何が目的なんだか。


 今は縦列だけど、戦闘になれば予め決めておいた陣形へと展開することになる。

 そちらの方は先頭がティナで少し距離を取ってレニー、そのすぐ右に私ということになった。ハルアは一応レニーの左側ということにはなってるけど、あんまり積極的に参加するつもりはないらしい。


 何が目的なんだ、と直球に聞いてみても「秘密」と言い切られてしまう。残念ながら予想するしかないけど「私の監視役」ではないと思う。

 この残念おじさんはレアの一行の1人なわけで、しかも謎に戦闘力のある人なわけで……と考えてみれば、むしろティナとレニーを見てる可能性の方が高いか。

 危険人物であるアンジェリアの仲間を監視してる、ってのは別にぶっ飛んだ発想だとは思えない。


 ただしフォローはすると宣言してるし、実際に以前に助けたこともあるようだ。こっちの排除を目的にしてるって感じではなさそうだし、なら信頼はできなくとも信用はしてもいいのかも。


 考え事にリソースを割きすぎるわけにはいかない。

 ただの平原くらいならまだセーフだけど、ここは森なわけで、危険な魔物ってのがいつ飛び出してくるか分からない。


 魔力の流れに目を向けてみれば、確かに近くにはほとんど何も居ないように見える。

 しかしたまにこちらに向かってくる魔力がある。これはある程度以上の魔力を持った魔物がいるってことになるけど……実際にこちらに姿を表わすことはほとんどない。

 魔物だってバカじゃなく、自分が怪我をしそうな相手に絡んでくるようなのは実はそんなに多くはない。

 人間に置き換えてみれば分かりやすい。あの……パンだっけ? はハルアを見た途端に逃げていったし、強弱がはっきりしているなら争わずに済ませてしまう奴の方が圧倒的に多いのだ。


 でも魔力だけを見た場合には、相手の魔物はかなり強いように思う。

 彼らが実際に姿を表さないのは……なんでだろう。確かなことは分からないけど、単にお腹がいっぱいなだけなのかもしれないし、喧嘩なんて怖いよぉって子なのかもしれない。あるいは縄張りの外だったり。

 確かな事は分からないけど、ある程度以上知能のある魔物であれば対話も可能なはずだ。私達だって怪我なんて作りたくないし、お互いに不干渉を貫くってのは別に悪いことではない。

 それにほら、こっちを警戒してか離れていってるように見えるし。


「不作だなー」


 先頭を歩いていたティナが唐突に言葉を漏らした。

 森に入ってから少しして、私達は会話をやめている。単に話題が尽きたというのもあるけど、駄弁りながら進む空気ではなくなったというのもある。

 ……と思ってたけど、ティナ様には特に関係無いらしい。


 ティナの視線はたまに高い位置へと向けられる。

 私も最初の方では何度か見ていたけど、しばらくは直視することもなかったところ。


「ここ、普通に冬だもんね」

「それ。あっちと全然違うからびっくりするわ」


 魔人大陸で足を踏み入れた森は、そのほとんどが常に一定の気温が保たれているような場所だった。

 外の季節に応じて雨の多いだの日差しの多いだのといった違いくらいはあったんだろうけど……例えばダールの東の大森林では、常に熱帯雨林のような蒸し暑さに包まれていた。

 高濃度の魔力による異常な成長速度と一定の気温が齎すのは豊作。木々にはたわわな果実が実り、大量の火蛇が住んでいたりしたわけなんだけども。


「ここのが魔力薄いよな?」

「外よりは濃いけどね。大森林とかとは比べ物にならないって感じ」


 確かにハルマ森の魔力は濃く、実際に植物がよく育つだなんて現象も起きてはいるみたいだけど……なんというか、中途半端。

 外とは明らかに生態系が違うけど、だからといって大森林ほど完全に独自のものでもないというか。

 木々は今が冬であることを思い出させてくれはするけど、一方で地面の枯れ葉はそこまで朽ちてないというか。

 微生物やらの分解が間に合ってないのか、かなり分厚く積もっている。これはこれでこの森独自の要素なのかもしれないな、なんて。


「なー、ホントにこの道で合ってんの?」

「掃かれた跡があるだろう」

「……だから?」

「何度も通る必要があったということだ」

「それがダンジョンへの道なの?」

「多分、な」


 残念ながら私はこの森に足を入れるのは2回目で、ここがどこらへんなのかをいまいち理解していない。

 というか町中ですらたまに迷子になるのだ。私にそういう役は向いていない。


「つかさ、なんで森の中で方角分かんの?」

「よく分からん。感覚の一種じゃないか?」

「魔力視的なヤツか。羨ましいわー」


 どうやらレニーの頭の中には天然のコンパスが内蔵されているらしく、私達はこれに頼って足を進めている。

 一体どういう原理なんだ。レニーの前世は渡り鳥か何かだったに違いない。

 私だって遠景見てちゃんと考えれば答えに辿り着くこともできるけど……ここ森だよ? 無理無理。


「ハルアも分かるんだっけ?」

「魔人じゃないしな」

「え、魔人だから分からねーの?」

「らしいぞ。俺らが今向いてるのは北西だ、な?」

「ええ。ちょっと北寄りですけど」


 ……さらっと初情報を手に入れたんだけど。

 なんだ、方向音痴なのは魔人として生まれてしまったせいだったのか。つまり私に罪はなく、ティナと2人で動き回ればそりゃ迷子になってしまうわけだ。

 と思ったけど前世でも別に方角が分かるだなんて感覚は無かったわけで、と考えてみればむしろ呪人と人間の違いになるのかな。


「獣人とかも分かるんです?」

「人間種は魔人以外みんな分かるとよ」

「……私達だけ例外?」

「俺はむしろ魔人の方が不思議だよ。なんで分からないんだか」


 なんでと言われましてもね……!

 「なんで分かるんですか?」に対して「なんで分からないんですか?」と答えてしまったらっ……! それはもう戦争だろうがっ……!


 ん、ふざけてる場合じゃない。一瞬だけど強い流れが見えた。


「レニー、左側200m」


 草原のような場所なら風向きによっては魔力嗅よりも探知向けなのかもしれないけど、ここは森。魔力視の探知は木々によって簡単に遮られてしまう。

 だから残念ながら方向とその規模くらいしか分からない。魔力100があることまでは分かっても、魔力10が10体なのか、50の2体が争ってるのか、100のダンジョンなのか、20の魔術が5個使われてるのか……なんてのは判別がつかない。

 発生源までの間に障害物が少なければ種類や数も判別しやすくなるけど、ここまで木々が茂っているとさすがに無理だ。それと固まれていても分かりづらくなる。


 だからレニーに頼んでみた。レニー自身から魔力が吹き出ているようには見えないが、周囲の魔力の流れは明らかに吹き出していることを示している。私の目で見えない魔力……私の魔力や闘気が現れた時に見える流れ方。


「……分からん」

「あんまり大きくはなさそうだけど、どうする?」


 レニーはこっちを敵視してる生物ならほとんど確実に位置が分かるらしい。闘気による探知技術の1つらしく、本人曰く「感情を感じ取る」んだとか。ニュータイプか?

 闘気による探知とは、自身に向けられたものを感じ取るものと、自身で放って反射してくるものを読み取るものの2つ。要するにアクティブ式とパッシブ式だ。


 今使った闘気の放出はアクティブの方であって、その精度はまだあまり高いものではないらしい。また見ての通りかなりの魔力を使ってしまうようで、あんまり頻繁には使いたくないと言っていた。

 ヘイラーの中にこれを使える人が居たらしく、見よう見まねでやってみたらできてしまったんだとか。天才か?

 知らない魔術の使用を注意しちゃったけど、好き勝手やらせておいた方が面白いかもしれない。ちゃんとスクロールさえあれば、だけどね。


 パッシブの方は昔から使えていたみたいで、向けられている強い感情――特に敵意は分かりやすいらしく、敵の攻撃を読んだりするのに使っていたようだ。

 闘気の感覚は皮膚で感じるものに近いと覚えていたけど、これはどうやらロニーの表現の問題だったらしい。個々人で捉え方は変わるのかも。

 何にしろ、闘気を扱える人間は大体がこれを使えるらしい。あれだけの速度で動き回ったり武器を振り回したりする戦士達が、相手を見失わなかったり適切に攻撃を防げるのは、きっとこの感覚のおかげ。


 使い手によってはかなりの精度になるらしく、現状のレニーは「ハルアに剣を振るう」くらいまでだけど、ヘイルという呪人の場合は「0.2秒後にハルアの左脇腹から右肩に向けて剣を振るう」といったところまで分かるらしい。もはや未来予測の一種だろ。

 これを聞いて戦士に闘気が必須と言われる訳がなんとなく理解できた。確かにそんなのはゾエロじゃ分からないはずで、ゾエロだけでレニーと張り合ってるティナはやっぱり人外で……まあそれはともかく。


「野生の魔石――」

「回避しよう」

「賛成。変化があったらまた言うね」

「ええー、お喋り飽きたー」


 2対1で回避することになった。



◆◇◆◇◆◇◆



 結局、森の中で会敵することはなかった。

 レニーの使う闘気による探知は相手にもこちらの居場所を知らせてしまう諸刃の剣ではあるんだけど、逆に言えば相手に「お前を見ているぞ」的な圧を与えてもくれるらしい。

 つまるところ、レニーの闘気に当てられた魔物は全てがビビってしまったわけだ。やーいざーこざーこ。語尾にハートでもつけてやろうか。

 本人曰く敵意をぶつけたってわけではないらしいから、単に「ここ通りますよ」って伝わっただけなのかもしれないけどさ。

 ほら、挨拶って大事じゃん? 古事記にも書かれてるって手帳にあったし。

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