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三つの世界 彼女が魔女に堕ちるまで。  作者: 春日部 光(元H.A.L.)
本章 中節 広がりと狭まり
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八十五話 対比と対比を対比して 3

 遂に私の番が来た。対するはティナで……怖いなぁ。


 今の私はかなりのリソースを下半身に対して割いてしまってるし、それは魔力やイメージングだけに留まらない。

 戦闘に使えるのは多くて6割ってところかな。……ま、こっちは割とどうにかなるはずだ。

 1番の問題は感覚の薄い下半身への攻撃だろう。仮に怪我をしたとしても、すぐに気付くのは難しいかもしれない。


 さて、ここは砂浜だ。それも鳴り砂。きっとここの砂はよっぽど綺麗なものなのだろう。 

 傾斜自体はそれほど強くもなく、平坦と言ってしまっても構わないほど。


(氷よ、2つの姿をここに現せ)


 ここで使うのは2つの魔術。そのうちの1つは小さな氷の板を足から発現させるもの。さてもう1つ……。


ウィニェル・ゾエロ(冷気よ、纏われ)


 リズとウィニェルはどちらも氷の真名を持ち、クニード系と合わせた場合の挙動はほとんど同一だ。

 しかしゾエロと合わせた場合、この2つの魔言は全く別の性質を見せる。だからここは、リズではなくウィニェルを使う。


 ゾエロの本来の範囲は自分自身の肉体までだけど、慣れればある程度範囲を拡張できるようになる。

 私がハタキにドイ・ゾエロを掛けてるのもこの性質からだし、レニーだって盾ごとゾエロを掛けている。

 しかし自身が魔術で生成したものを含めようとすれば途端に難しくなる。同一魔力の反発性という特性だけど、利用できることもあれば邪魔になることもある。

 今回の場合は後者だ。でもこの特性は無理やり押しのけることができる。それの極地が多重ゾエロであって……ま、いっか。

 さ、サンドスキーと行こうじゃないか。


「なんだそりゃ」

「私の新しい足」

「へー……んで、どのくらいにする?」


 そんなの決まってるじゃないか。


「もちろん、全力で」

「泣いても知らないからな!」

「誰が泣くか!」


 ティナの魔力が集まるのが見える。

 やっぱりティナは分かりやすいくらいに猪突猛進で、それ故に強力だ。

 正面から受けてしまうと並大抵の魔術では簡単に砕かれてしまう。だから――


「氷壁!」


 目の前に氷の壁を作る。

 普通に詠唱しただけじゃティナには分からないだろうし、だからこそ短縮詠唱の()をとった。

 さあ、おいで。


「んなのぶった切ったっれっ!?」


 ただの氷の壁(・・・・・・)と思い込んだティナは、予想通りに壁を切り砕き、()を被ることになった。

 いくらゾエロが対魔術に優れる術式だとはいえ、水を被れば当然に濡れる。

 ――氷よ、形を現せ。水よ、これを溶かせ。

 壁を作るのに使った真名はこうだ。

 表面は氷のままだが、その内側は全て水へと変化させてある。

 ウィニェル・ゲシュ・エルではエル同士の反発が起こる可能性があるし、ゲシュを使わず別々の術式で作ると術数が増えてしまう。

 だからリズ・ウニド・クニードとゲシュ=プート・エルにした。

 これならエル同士の反発は起こらないし、術数にもまだ余裕がある。

 中々いい感じに無詠唱を使いこなせてきたんじゃないだろうか。


 もっと言えば、正しい方法なのかはともかくこれはれっきとした欺騙詠唱だ。

 さて、後半の術式を終了させてしまえば……。


「はい、ティナの氷掛けの完成」


 ゲシュ=プート・エルによって一部を液体化させていただけなのだから、それを解除してしまえばあの水は全て氷に戻ることになる。

 もちろんこれだけじゃ実際の魔物は止まらないだろうし、それはティナも一緒だろう。でも一瞬とはいえ動きを止められたのなら勝ちだ。


ゲシュ・ドイ・レズド(雷よ、掻き乱せ)


 ティナ相手であれば、ね。

 ここ1ヶ月以上ドイ・レズドを使い続けてたわけで、ていうか今も使ってるわけで。

 これだけ長時間使い続ければ、ドイが苦手な私でもさすがにある程度は使えるようになってくる。


 ドイ系統には魔術や闘気といったものを不活性化させてしまうという面白い特性がある。

 だからこそ戦士連中の大半はドイを練習するし、ドイ対策にとブレスレットを付けている。

 とはいえドイを直接相手に流し込むような使い方はかなり難しく、基本的には一瞬の作用でしか無い。


 しかし相手に流し込まなければ話は変わる。だからこそのゲシュであって、私のドイはあの氷へと注がれている。

 その氷はティナにまとわりついてるし、ついでに彼女は体のほとんどをゾエロで動かしているはずだ。

 氷が付着している以上、ティナがゾエロを発現させようとしても即座に不活性化させてしまう。

 魔術とは発現する瞬間こそが最も脆く、同時に最も魔力を使う。

 そしてティナの魔力はそこまで多くない。魔力が切れてしまったティナなんて――。


「……なぁ、結局その"足"ってなんだったんだよ」

「あ、忘れてた」


 結局のところ、機動戦闘にならなければ私の強さは変わっていない。

 使える術式や魔力が増えている分、純粋な魔術だけ考えてみれば以前よりも今のほうが上だとすら言える。


 サンドスキー、できなかったな。



◆◇◆◇◆◇◆



 さて、次だけど……。


「リベンジ!」


 とのことで、ティナと連戦になった。

 先程の戦闘ではお互いに怪我らしい怪我はしていない。

 魔力にはまだ余裕があるし、私としては問題無いんだけど……。


「魔力切れてない?」

「ん……まだ大丈夫だろ、多分」


 だってさ。

 元のティナの魔力を100%とすれば、今のティナは10%も無いように見える。

 ま、良いけどさ。動けなくなってぶーたれても無視してやろ。


「水、水、水……」

「なぁにそれ」

「次は水に気をつける!」


 ……まあ、確かにそれは得策だ。

 私の術のほとんどは水を絡めているものだし、今回もその予定だった。

 しかし本気で警戒されてしまうと直接浴びせるのは難しい。だからこその溶けかけ氷壁だったんだけど……もう見せちゃったしなぁ。


「いいよ、いつでも」

「っしゃ!」


 最初の動きはやっぱり一緒。魔力が足に集まるのも見えるし、きっとこのまま突進だろう。

 分かりやすすぎるくらいのワンパターンだけど……さてどうしよう?

 足は作ったしウィニェルも掛けた。ていうかこれ対レニー用だったんだけどな。まさかあんな移動方法作ってたとは思ってもなかったけどさ。

 でもおかげで利用できる。

 ロニーのシュベースのものと違い、爆発位置が少し離れていた。となればクニードベースかな。


ウィーニ・ウズド・レ(風よ、爆ぜる)ズド・ログ・クニード(流れとなれ)


 詠唱した瞬間、何かに突撃されたかのような衝撃を受けた。

 想像してたよりも推力がかなりある。そして速度も……私はウィーニ・ゾエロじゃなくてウィニェル・ゾエロを使ってるわけで、それにレニーよりも軽くて小さい。ここらへんの差かな。

 レニーの使った術式丸々は分からないけど、大体合ってそうな気がする。……いつの間に5術まで?


エル・クニード(水よ、溢れよ)!」


 残念ながら思考は中断、イノシシが地面を蹴ったのが見えた。

 やっぱり私よりも明らかに速いな。後数瞬で追いつかれてしまいそうだ。

 ま、もうイメージングは終わってるし、2つの詠唱もしてるんだけどさ。


 もちろん声の詠唱はダミー。魔力こそ込めてはいるが発現に至ることはないはずだ。

 この術式ならティナでも理解してたはず。ほら、構えが変わった。

 でも残念、実際に発現させたのは透明で厄介なあの魔術。

 風弾だ。


「ん!? 邪魔っ!」

「うそぉ!?」


 風弾って切れちゃうの!?

 ちょ、えっと、まだ次は――


「いっぱーつ!」



◆◇◆◇◆◇◆



 こうして私の2戦目は敗北に終わった。

 直前までドイの性質を思い返していたくせに、相手も利用していることを何故か考えられていなかった。

 ドイ・ゾエロの扱いに関してはティナは私以上なわけで、それを考慮しないってのは……勘が鈍るという奴だろうか。

 正直ショックが大きい。


 とはいえレニーは満足したようだ。

 療術は特に変わりなし、魔術戦闘に関しては以前以上、機動力もそこまで問題にはならない……という判断らしい。

 ダメだって言われたら実力で叩き伏せるつもりだった。

 私にはシュ・ウィーニやその派生があるわけで、"連爆"でやった今回よりももっと楽に、そして自由に動けるはず。

 だからあれはまだ本気じゃない。本当だ、負け惜しみなんかじゃない。……じゃないといいなぁ。


 本当はドイ系統の術をもう少し見せるつもりだったんだけど、私はティナと2回やっただけに留まった。

 レニーとやれなかったのはちょっと予想外だけど、きっと「怪我人相手になんざ無理!」みたいな変な信念があるんだろう。だってあいつレニーだし。


 想像してたよりも魔力の消費はずっと多かった。

 ドイ・レズドとゾエロを同時に発現させている分――多重ゾエロでは無いから発現自体はしてくれていたものの、発現できずに消失するだけの魔力が多くなってしまっていた。

 だからといってどっちも切れる魔術じゃないし、じゃあ魔力を減らしたらと考えれば今度は反発作用によってまともな効果が得られない。

 これは今後の課題になりそうだ。


 増えた消費に追いつけるほどではないけど、私の魔力量がまた増えていた。

 日常生活でもかなりを消費し続けてるわけで、私の年齢からしてみれば驚くべきってほどでもないか。


 今日の分の日記はこのくらいでいいかな。

 まだ書き足りないことも多いけど、とりあえずはこんなもんで。


「――には……りぃ!」

「……や、絶対に……しょう!? なら――」


 扉に耳を傾けてみれば、この家がかなり騒がしいことになっていることを思い出せる。

 ドゥーロとは方向が違うが、ハルアもハルアでなんかイメージしてた聖職者とは違う。

 クレリックって呼ぶよりもアウトローと……は言い過ぎにしても、……私のイメージが前世寄りすぎるのだろうか。


 八神教には八つの枢要罪のような存在がある。8つの犯してはならない事と24の犯すべきではない事の2つに分かれ、どの神を信じてようが守るべき事項だ。

 例えば暴力は24の犯すべきではない事に含まれてるけど、近親者を見捨てるのは8つの犯してはならない事になる。家族を守るためであれば暴力は"赦された罪"となる。

 なんて大きい話はともかく、泥酔と暴食はそのうち24の犯すべきではない事に含まれていたはずで、特に赦しが降りる理由も見当たらない。

 にも関わらずあの2人ときたら……。なんかさあ、こうさあ、清廉潔白みたいなイメージあったんだけどさあ。聖職者ってなんなんですかね? 頭痛くなりそ。

 ま、いいですけどね。2人共オフだとか言ってたし。オンオフのある宗教とか割と謎だけどさ。いいんじゃないですか、仕事みたいで。日本語では聖"職"者と書かれるしね?


 さて、手帳も纏め終わったし混ざるとしますか。

 私にもオフの日があっていいじゃない。

 ね?

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