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三つの世界 彼女が魔女に堕ちるまで。  作者: 春日部 光(元H.A.L.)
本章 中節 広がりと狭まり
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七十六話 最初で最後と異世界の 2

「お前に何が分かるんだよ。所詮はただの絞りカスだろ」

「分からないわけがないでしょ。自称原液さん」

「……分かった風な口を聞く奴、好きじゃない」

「でも1番分かってないのは君自身」

「……」

「……また来るね」

「……1つだけ。俺の全てがお前に継――」



◆◇◆◇◆◇◆



 ティナのおすすめだという革細工屋へ着いた私達は、早速注文を開始した。

 どうやらティナとは顔見知りらしく、傍から見るとおじいちゃんと孫が話してるように見えて微かにほのぼのする。

 ……ティナって28歳なんだよなぁ。前世だったらそろそろ婚期が! とか言い出してもおかしくない年齢だけど、さすがは魔人というべきかまだまだ子供って感じ。

 最近になってようやく成長が完全に終わったって感じらしいし、人間で言うなら高校生とかそこらへんなんだろうか。あんまり一概にも言えないけどさ。

 私は人間で言うと何歳くらいだろ。えーっと、今が16歳だから……13とか14? なんだ、まだまだ全然成長期じゃん! よっしゃやる気出てきたわ。てかあのハゲガチのロリコンじゃん。


「――そこはもうちょっと削れって。結構引っかかるんだぜ」

「これ以上削ると耐久性がかなり落ちるぞ」

「ならここで打ち返して――」


 ティナの刃物やら武器やらに対するこだわりはやっぱりガチで、その趣味の矛先は鞘にも向いていたらしい。すんごく細かいところまでオーダーを伝えてる。

 私? ふむ、そうだな……実を言うと、革の種類での違いすら分からん。模様と色くらいしか分からん。話が長すぎて飽きた。

 そりゃ最初はちゃんと参加してたよ? この革だって見た目が気に入ったからだし。……あれ、そのくらいしか参加できてないな。だって全然分からんもん。


 さすがに狭い店内を歩き回るってのも怖いしで、今は椅子に座りつつ店内に飾られてる革細工を眺めてる。

 視力が良いったってそれは右目だけの話だし、そもそも距離が遠すぎるしで、そんなに細かく見れてるわけじゃない。だから眺めてるが正しいと思う。残念ながら仮面はなかった。

 ……どのくらい話してんだろこの2人。鞘作るのってそんなに重要なことだったのか。後地味にティナが革細工系のスキルを持ってることが判明した。マジかよ、私そういうのあんまり得意じゃないんだけど。

 自分の鎧とか修復してるうちに勝手に身についたって感じ? それとも趣味? 私だって多少の知識はあるつもりだったんだけど……気付いたら置いてけぼりになっていた。打ち返しって何。テニスか?


 ま、良いものになるんだったらこの時間も無駄ではない。

 しかし……今日中に作ってくれるとか言ってたけど、革製品ってそんなに簡単に作れるものだったとは。なんかこう、もっと加工とかに時間が掛かるイメージだった。

 これは鎧とかの方のイメージなのかな。財布だとかの柔らかめの革だったらもっと楽だったり? ……ダメだ、全然浮かばない。こっち方面の知識は全然足りてないなぁ。



◆◇◆◇◆◇◆



 そんなこんなと考え続ける事数時間。さすがの私ももう限界……となる寸前くらいで話はまとまったらしい。

 良かった。もう少しで干からびるところだった。


「やー、なんか熱入っちった」


 ティナが妙につやつやしい。え、何どうしたの。タンニンでも塗ったの? なんつって。

 ずっと座ってたせいでカチコチになってる気がする。今ならお尻も角ばってそう。あ、腰が……。


「ばばあか」

「爺さんや、飯はまだかのう」

「あれ? そんな時間経ってた?」

「いや、ボケ老人の真似」


 お店の時計はちょうど正午辺りを指してたはずだから、昼食を摂るつもりならこのくらいの時間はちょうどいいのかもしれない。

 けど私達はお互い魔人なわけで。しかも私はともかくティナは日頃に比べれば全然動いてないわけで。つまりお腹は空かないわけで。

 でもここは呪人の町なわけで。昼飯時とあればそこら中から食べ物の匂いがしてくるわけで。


「なーんか良い匂いが……」

「小腹空いてきた」

「匂いパワーやっば」


 前言撤回。食べ物の匂いは簡単に空腹を作り上げる。


「いつも思うんだけどさ、屋台って卑怯じゃない?」

「分かる。アタシもちょっと腹減ってきた」

「でもガッツリって感じじゃないよね」

「だなー……どっか寄ってく?」

「賛成」


 いくら匂いで空腹を作り上げたところで、それはあくまで気分に過ぎない。いやこれが本当に別腹であれば、実際にお腹が空いてるのかもしれないけどさ。

 それでも私達魔人の食事量が少ないという事実は変わらない。だからせいぜい歩き食い……はできないか。両手埋まっちゃってるし。

 とにかく、ちょっとつまむくらいがちょうどいい。……ダールの串焼き、っていうかボネツク食べたいなぁ。あの軟骨のコリコリとした食感、めちゃくちゃ気に入ってたんだよね。


 ダールと違い、キネスティットでは魚醤のような調味料がたまに使われている。

 日本人的には豆の代わりに魚で作った醤油的な奴……がイメージしやすいかもしれないけど、魚を発酵させてるわけで味や匂いに独特の癖がある。

 味に関しては私は結構好きだけど、ティナの舌には合わないらしい。匂いに関してはお互いの共通意見がある。


「うげ、磯臭いのも混じってきた」

「臭いの言うのやめなさい」


 魚醤には独特の生臭さとでもいうべき刺激臭がある。イカに醤油掛けて豆っぽさを減らしたみたいな? ……うーん、表現が難しい。こういうのは私の役割じゃないな。

 これでもキネスティットはまだマシな方らしい。レニー曰くここら辺で使われてる魚醤はほとんどが内海沿岸国由来のもので、あっちこそが本場であり、ほとんどの料理に使われてるんだとか。

 醤油も味噌も豆醤の仲間だと考えてみれば、私はこの2つを使う国の出身なわけで、当然最初はそこまで気にならなかった。ていうか生魚に醤油掛けて食ってた民族だし。

 でも最近はちょっと気になっている。もちろん原因はくせーくせーと言い続けるティナだ。1回気になってしまったが最後、今では私までも臭いと感じるようになってしまい……。


 近くに海があるからこその文化だと考えて、リニアルをただのごん(ぶと)な川だと考えてみれば、内陸部出身とも言えるティナには確かに厳しい臭いなのかもしれない。

 記憶を掘り起こしてみても、リニアルから潮風を感じたことはないような気がする。てことはやっぱりあれは川なのか? いやでもあんな川って……うーん。そもそも川と海の違いが分からん。海と湖の違いなら分かるんだけどなぁ。


「なー、聞いてる?」

「聞いてるー……聞いてなかった」


 ヤバい、またコケるぞこれ。


「なんだっけ、どっか寄ってこって話だよね」

「そうそう。久々にキンパーロとかどうよ」


 キンパーロ、キンパーロ……キンパーロ? そんなの記憶に無いんだけど。


「ごめん。名前聞いてもピンと来ない」

「めっちゃ柔らかいパンにフルーツ入れてクリーム乗っけた奴」

「あーあれね、完全に思い出したわキンパーロ」


 キンパーロとは! 生地こそ違うが大体クレープみたいなもんである!

 ……大体は、である。まず生地からしてガレットのような薄いものではなく、どっちかっていうと今川焼きとかパンケーキの方が近い。当然巻いたりなんかもしない、というか一口サイズだ。

 その大きさや構造的には、むしろたこ焼きの方が近いかもしれない。生地をホットケーキのやつにして、タコの代わりにフルーツ入れて、ソースの代わりにクリームを掛けて、そんな感じで出来上がったたこ焼きはきっとキンパーロ。

 つまりはスウィーティでフルーティなたこ焼き。……そう考えたらクレープには思えなくなってきた。でもたこ焼きと呼ぶのはさすがに違うし、味はクレープの方が近い。……キンパーロのままでいいか。


パクス(ご飯)の方じゃないよね?」

「アタシあれ嫌い」


 お察しの通りというべきか、キンパーロには大きく分けて2種類ある。

 雑にいえば甘い奴かしょっぱい奴か……前者は今から買う予定のやつで、単にキンパーロと呼べば大体はこっちのことを指している。

 後者は誰がどう見てもたこ焼きだ。マジでたこ焼きにしか見えないし、生地も普通のキンパーロと違って甘くない。ま、中に入ってるのはタコじゃなくてお肉やお魚だし、掛けるのもソースではなく魚醤なんだけど。

 こっちはパクス・キンパーロと呼び分けることもあるけど、単にキンパーロと呼ぶこともあるらしい。名前的には寿司といなり寿司みたいな関係が近いのかも。


「おっちゃん、8個ちょーだい」

「どれにする?」

「全部バラバラのおまかせ。ほい、お金」

「すぐ食べてくか?」

「ああ、そこで食ってくよ」

「あいよ」


 あれだけ片言だったティナの呪人語も、今はその面影すら残ってない。ネイティヴからすればまだ訛りが残ってるらしいけど、意思疎通の障害になるってほどでもない。

 いつの間にか看板とかも普通に読めるようになってたし、ティナの脳は成長期を迎えたのかもしれない。少なくとも喋る方面に関してはもう私以上。


 ま、残念ながら"呪人語"ってのは魔人語での呼び方であって、その"呪人語"では"新エンデュ語"などと呼ばれる一地方言語に過ぎない。

 呪人大陸で広域に使われている言語は少なくとも5種類は存在しており、つまりは呪人語が呪人大陸共通言語なんてことではない。

 私達が日常で使ってるのはエトラ語であり、魔人語では「呪人語」と呼ばれるものになる。この"呪人語"には他にビネット語とリウン語があるけど、残念ながら魔人語にはこれらに該当する語彙はなく、3つまとめて呪人語だ。

 ぶっちゃけビネット語とエトラ語は標準語と関西弁くらいの違いでしかないし、かなり離れてるリウン語でさえも津軽弁に片足突っ込んでるくらいとギリギリ別言語を回避しているレベル。


 しかしこっちで使われてる呪人文字と魔人大陸で使われてる呪人文字は見た目が同じだけの別物。呪人語しか知らない人は魔人語呪人文字のほとんどを読むことができず、魔人語を知っていると呪人語呪人文字には不可解さを抱いてしまう。

 魔人大陸で使われる呪人文字にはそれぞれに口の形や舌の位置、息の当てる位置なんかの情報が含まれ、それらを適切に組み合わせると音が表れるようになっている。つまり、呪人文字自体はほとんどの場合で固有の音を持っていない。

 対してこちらでは特定の組み合わせばかりが使われてしまい、その"組み立て後"で1文字という認識になってしまった。その後更に字形の簡略化が進み、どう考えても発声不可な文字がいくつも存在している。

 実際には文字に対応する音が存在しているわけで、つまりはこちらの文字は表音文字と化してしまっている。これでは含まれている情報が別物だ。

 文字に含まれているのが音そのものではなく音を作る方法なのだから、魔人語は文字さえ読めれば正しい発音で音を作り出せる。そのため地域によって語彙や言い回しでの差は生まれても、発音の差というものが生まれにくい。


 あまりに変化しない言語だったせいか、私とレニーの一部の音は、こっちの人からすると歴史レベルで古めかしいんだとか。「拙者、アンジェリアでござる!」みたいな感覚? ちょっと恥ずかしい。

 ここら辺では"アストリア訛り"と呼ばれるんだけど、ティナだけは私達の中でもまともな方らしく、最近はむしろ私達が教わる立場になっていたり。ちょっと悔しい。

 悔しすぎて最近は新しく別の言葉を勉強し始めた。古エンデュ語や沿岸語と呼ばれる奴だけど……ま、それはまた今度。ティナがにっこにこで戻ってきた。


「見て見て。2個おまけしてもらった」

「強請った?」

「ちげーわ!」


 確かに頼んだキンパーロは8個なはずなのに、お皿の上には10個も乗っている。にっこにこの原因はこれだったか。


「いくらだった?」

「64ガランだって。ワンコインって良いよな」

「こちら32ガランになります。お納めください」

「いいって。それより溶けないうちに食べよーぜ」


 さあ実食。まずは1つ目……ふむ……ん、この酸味は……サーサだな、サーサに違いない。

 まあ、別にまずくはないんだけど……中身以外はおいしいし。


「どう?」

「サーサ。そっちは?」

「んー……ラジトス?」

「わーうらやまし」


 実はこのキンパーロ、食べるまで中身が分からないというロシアンルーレットのような料理でもある。

 ……というのは半分くらい嘘である。普通は中身を指定するのである。なぜかティナは毎回これをランダムにしてもらうのである! ……私としてはミルタンだけとかで良いんだけど。

 最初に入っていたのはサーサ。レモスのような強い酸味を持つ橙色の果実で、ぶっちゃけあんまり好きじゃない。というかそもそもキンパーロに入れて食べるもんじゃないと思う。

 ラジトスはフィロスの仲間らしく、生のままだとかなり水っぽい。しかし一度乾燥させることで甘みが濃縮されるらしく、ギュッと詰まった濃厚な味はなかなか癖になる。要するに罪深な存在である。


「お、レフンだ。うまい」

「あー! それかなりの当たりじゃん!」


 レフンとは――



◆◇◆◇◆◇◆



「満足度ヤバくね」

「ヤバい。満腹度もヤバい。多分お腹の中で膨らんでる」

「魔物じゃん」


 食べても雑談、終えても雑談。

 この頭空っぽで続ける会話は気持ちいい。内容よりもテンポを重視してるような。誰かに聞かれてたらバカ2人と思われるに違いない。


「お、太陽出てきたじゃん」

「ちょっと光合成しよ」

「光合成ってなんだっけ?」

「日光浴びて育つやつ」

「草?」

「草」

「アンは草だったのか……」


 ……訂正。実際にバカなのかもしんない。

 でも本人らが楽しければいいのだ。そして私はこれが楽しいし、ならきっとそれで十分。

 サンやセメニアともよくこんな感じで駄弁ってたし、これが女同士での付き合いってやつなんだろうか?

 いや、カクやケシスともこんな感じで話すことはあった。なら性別はあんまり関係無さそうね。


「そろそろ行く?」

「うぃー」


 仮面を探しにレッツゴー! ……の予定だったけど、先に教会に行ってみることにした。

 もしこれがサクッと治せてしまうものなら、買ってしまった仮面をどうするかという問題が……いや、単に節約のため。あんまりお財布事情が良くないことは知ってるし。


 ミルナム・カーナッソ。

 部分的に無理やり訳せば「"獣の神の"ミルナー」になる。このミルナーって単語の意味は分からないけど、魔人大陸ではミルニーアの名前を持つ人が居た。だとしたらこちらでも人の名前だったりするんだろうか。

 カーナッソを信仰するミルナーって人が居て、その人が建てた教会。うん、これなら綺麗に収まるんじゃないか? ま、ただの言葉遊びに過ぎないけど。


「結構歩くんだっけ」

「西の方にあるんだよ。ダーロ風に言うと教区」

「それすっごい分かりやすい」

「レニーってああいうの好きじゃん。暇だから着いてった」

「好きって。信仰でしょあれ」


 好き、とはちょっと違うと思うんだけど……。いや、どうだろう。私は前世は限りなく無神教に近い無宗教だったし、神らしきアレに会ってからの今世では完全に無宗教。

 誰かと信仰を共有したことなんてないし、なら私の考え方だけで決めつけるってのはナンセンス。概念とは多角的に見て初めて発見されるものなのだ。


「ティナってそういうの無いの?」

「んー……ちっちゃい頃は恨んでたからなぁ。

 子供1人助けられない神様なんて、居たとしても何の意味もねーよ。むしろ趣味わりぃ」

「それ、他人の前で言うとあんまりいい顔されないかも」

「言わねーよ。それよかアンは?」


 宗教なんてのは、あんまり踏み込んではいけない領域の1つとしてかなり有名。だのにこんな話を振ってしまうだなんて、私もいよいよがさつになってきたのかも。

 ……神、か。あれを神と呼んでいいなら、私は神に会ったことがあるわけで。そのビックリドッキリ不思議なパワーで今に至るわけで。

 でもどうにも神って感じはしなかったんだよなぁ。なんていうか、こう、私の中での神のイメージはもっと無機質だった。だのにアレは、ちょっと怒ってるような、その癖おちゃらけてるような……どこか人間臭さを感じさせるような。


「もし神様が居るなら、今すぐ私の身長を伸ばすべきだね」

「アッハハ。ならアタシと一緒か」

「そだね。無力な神様なんて居ても居なくても一緒でしょ」


 どうせなら前世で流行ってた転生物みたいにチート能力でもくれればよかったんだけど。

 実際にくれたのはその真逆。古い記憶から少しずつ、少しずつこの世界のものへと置き換えられていく呪い。

 日本語を覚えたのは自我の湧く前の段階なわけで、当然記憶としては残っていない。ローマ字のおかげである程度近そうな音の再生には成功してるけど……結局ラテン文字だって表音文字なわけで、正しい発音だとは思えない。

 そのくせ自分を日本人だと考えてるフシがある。アイデンティティってなんなんだろ。


「アンはさ、八神教のことどう思う?」

「うーん……物語として聞いてるって感じかな。現実とは思ってない」

「へー物語か。アタシの武器がイナーシャの肉だなんて信じらんないし、おとぎ話みたいなもんか」

「そうそう。創作物だと思って読むと結構面白いのもあるよ」


 八神教はかなり広域に信仰されてる宗教の1つで、他にはエヴン教、世界教なんかが有名な奴。こっちに来てからイルナー教というのも耳にするようになった。


 世界教は世界の全てに神が宿る~みたいな典型的な精霊信仰。神は常に私達を見ているのだから、恥ずかしくないように生きていきましょう的な奴。教ってよりは道の方が近いのかもしれない。

 イルナー教は「神の去ったこの世界で、次は君が新たな神になるのだ!」って感じの奴。話だけ聞くと野望やべえってなるけど、その内容自体は「自分に優しくな」「他人にも優しくな」「生きてて偉いぞ」って感じで結構平和。これも道の方が近いかも。

 エヴン教はエヴンって神を祀る典型的な一神教。「人に降臨した古き神の子が、古き神を殺して世界を救いました!」って感じのやつで、かなり英雄譚っぽい。古き神が使ってたのが魔法であって、エヴンはあくまで人の術である魔言にこだわったとかなんとか。


 八神教は世界のほとんどに神が宿る~と、やっぱり精霊信仰ベースっぽい。

 世界教とは違い神同士に明確な格の違いが存在している。真神アステリアの下に7柱の上級神、その下には64柱の下級神、純粋なる精霊、精霊を宿した人間、そうでない人間、魔物……と続いていく。

 特別な力を持つ神が8柱だから八神教だ、なんて一般には言われてるけど……実は元々はアステリアを除いた8柱から来てる名前であり、命にまつわる死の神ってのが分割されたなんて話がある。残念ながら名前は残ってないみたいで、ほとんど忘れられた話らしい。

 この死の神の力を分割管理してるのが"命にまつわる獣の神カーナッソ"と"死にまつわる魔の神シンガイド"で、以前は"肉にまつわる獣の神"と"力にまつわる魔の神"と別の呼ばれ方をしてたんだとか。あるいはニアケの創作に騙されてる。あの人割と嘘付きだし。


「なんで肉が命になったんだ? 後ニアケって誰?」

「生物は肉をまとってるのが多いから……かなあ。

 ニアケはダールに居た知り合い。古物好きの変人」

「じゃあ力が死になったのは?」

「そっちは分かんない。エヴン教の影響とか?」


 世界教以外はどれも原初に別の神が居て、それらが何らかの形で退場してる。これはこの世界での共通認識に近いのかもしれない。

 マイナーな物語まではさすがに手が回ってないけど、宗教とは関係無さそうな語ですら神殺しは結構な割合を占めている。この世界の人々は神に恨みでもあるんだろうか。

 八神教に至っては、古き神である太陽を殺した結果世界が真っ暗になって凍りついてしまい、代わりにアステリアを作り出したは良いが地上の生物全滅しちゃった後で、お前のせいだーと言わんばかりに死の神を分割して……。

 神話ってのは突拍子もない話も多いが、八神教は特にその傾向がある。辻褄合わせとでも言うべきか……ちょっと()()

 世界を氷漬けにしたことにされてしまった女神である「命にまつわる死の神」が氷の魔女の原型だったりして。さすがに飛躍しすぎかな?


「顔隠せーってエヴン教だっけ」

「そうそう。魔法使いは古い神の信仰者であって、人前に表れるべきではないんだってさ」

「じゃあサニリアさんって敵? あ、そこ気をつけろ」

「バッカ、全部ただの創作でしょ。サンはどうせ寝てるだけだよ」


 聞けば聞くほど凄い人らしいんだけど……色々抜けてる人ってイメージの方が強い。多分あっちが素なんだろう。

 お昼も過ぎてるし、さすがのサンでももう起きてるとは思うけどね。


「お、見えてきたぞ」

「……え、ええ!? 何あれ、もしかしてあそこ!?」

「綺麗だよなー」


 燦々と注ぐ陽の光を受けつつ、負けない程に爛々と輝いているのは、とんでもない大きさの魔石。

 あ、ダメだ。どうしてもそっちに目が行ってしまう。本体はあっちじゃなくて、その下の教会。あんまり特徴はない。

 ……1m以上はありそうだし、ほとんど完全な立方体。あんな綺麗に四角い魔石は見たことが無いし、そもそも本物がどうかも怪しいと思ってしまう。

 でも私の魔力視は魔石の向こう側を見ることができていないし、それに強い光を捉えてる。つまり、本物だ。……どんなサイズの魔物なら。


「ねえティナ! あれ本物だよ!」

「は、マジ? ガラスか何かじゃねーの!?」

「ガラスはあんなに濃い魔力持ってないよ!」

「うへー……いくらで売れるかな、あれ」

「そもそも一生で使い切れるのかな……?」


 どう見ても本物のはずなのに、盗難とかの被害に遭わないのはティナみたいに勘違いしちゃってる人が多いんだろうか。

 レニーいわく闘気の魔力探知は非生物の持つ魔力に対してはほとんど利かないらしいし、カクいわく魔力嗅は非生物の持つ魔力に対してはほとんど反応してくれないとも。だからこそ、闘気でも感じ取れる魔力を持つダンジョンが生き物だって言われてしまうんだけども。

 耳……の方は詳しくないから除外したとして、となれば目だけは唯一の例外だ。魔力視は生物かどうかに関係無く保有する魔力を映すことができる。つまり……あの魔石が本物だと分かるのは魔力視持ちだけということになる。

 魔力視とは魔人ですら希少であって、呪人ともなれば魔力視を保有する人間なんてほとんど存在しないらしい。イヴ……じゃなくてレヴィは、あの人はよっぽどの希少種とも言える。


「どうする?」

「どうする、とは」

「八神教の教会だぜ? アタシはレジナイザー様ってことにしてる」


 ああ、なるほど。

 ビューンの孤児院でもそうだったけど、八神教の教会のうち神を祀ってるところでは、入る時に自らの信仰を告白しなければならない、なんてものがある。

 他教徒を排除するって目的ではなく、教会の神に別の神の使いが来たけど入れて良い? って聞くためのものらしい。八神教の同じ格の神同士ならサクサク進むけど、これがエヴン教や下位の神とかだとかなりの費用が掛かってしまう。

 お金を取ることがあるとはいえ、基本的には誰でもウェルカムな八神教の神様達。しかし神を信じない無神教とその教徒とだけは唯一仲が悪い。その神自体を否定する宗教なのだからしょうがないといえばしょうがないかもしれないが、ほとんどの場合で拒否されるらしい。

 ……ビューンの時は素直に無宗教って伝えたけど、おかげで結構な長い解説(説法)をされちゃったんだよね。今回は無しにしよう。


「じゃ私も。レジナイザー様マジかっけー」

「マジかっけー」

「レジナイザー様とカーナッソ様のカップリング」

「……ん?」


 なんて冗談はともかく、レジナイザーとカーナッソは八神教の中でも仲の良い神同士だったはずだ。というかレジナイザーが好んでないのはケイズィンくらいのものである。

 夜にまつわる星の神レジナイザーが月として描かれることが多いのに対し、命にまつわる獣の神カーナッソは黒狼として描かれる物語が多い。この世界でも狼と月の相性の良さはある程度認知されている。やっぱり時代は猫より犬。

 だからか火にまつわる空の神ケイズィンともカーナッソは仲が良いんだけど……レジナイザー的には雲で姿を隠しにくるケイズィンのことはあまり好きではないらしい。ケイズィン的には単なる照れ隠しらしいけど。

 それに、ケイズィンがアステリアと仲が良いってのもレジナイザー的には気に食わないポイントらしい。要するに嫉妬だ。


「神様同士の絡みって可愛くない?」

「そんな目で神様語るなよ……」

「二次創作に自由を!」

「はいはい。中でそういうこと言うなよー」

「い、言うわけないでしょ」


 冗談だってのに、まさかティナにツッコまれてしまうとは。

 以前のユタからの手紙に時系列がズレてしまう記述がありました。「古エンデュ語」は「新エンデュ語」、「アハーラード」は「マル・アフラド」です。

 修正するはずだったのですが、該当話が見つかりません。単に公開してない分なのか、あるいは探し方が悪いのか。見つけ次第修正します。すみません。

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