十話 ユタの考え
2020/09/15 ルビ修正(文字数調整)
食欲をそそられる匂いが漂う。
「みんな、おかえり」
「ロニー、体は大丈夫なの?」
「ああ、このくらいなら全然問題無いよ。見えるだろう?」
夜ご飯はパパご飯だ。ロニーが料理をしているのを見るのは珍しい。と言うか君は暫く休んでいたほうがいいのでは。
◆◇◆◇◆◇◆
夕飯はジャガイモ?と川魚が目立つシチュー。前世だったら赤いクラムチャウダーとでも言えば良いのかな。よくある石のように硬い……よりかは全然柔らかいパン。それに苦味の目立つサラダ。栄養バランスは良いように感じる。
食事を終え、ユタの部屋に行き、いつもどおり雑談をする。
「ママもね、まじゅつ教えてくれた」
「どのくらい出来るようになったの?」
「見ててーウィーニ・クニード」
周囲の魔力を右手に集め、溢れる風を制御する。その右手に左手を添え、サンが教えてくれた両手を使う魔術に繋げる。
「ゲシュ・ズビオ」
魔力で作った風を球体に圧縮して……あ、ダメだ。魔力が足りない。制御不能になる前に風を解放する。思ったよりも強い風が放たれる。
「ウィニドイ・キュビオ」
溢れた風をユタが抑えてくれる。……危うく事故るところだった。さすが私のお兄様。
「アン、屋内ではこういう魔術は使っちゃダメだよ……でも凄いね。ゲシュって魔力の消費激しいのに」
「アンはまりょく、多いからへーき」
「うんうん。でも今みたいなのは僕らが危ないからね。人の居ないところでやってね」
「うん。ごめんね、ユタ」
こんなに強い風が溢れるとは思ってなかったんだが。風船が割れる程度かなと……。
「最初は調節難しいから仕方ないよ。でも魔術は危ない物だって覚えておいてね」
「うん!」
ユタは私に優しく微笑むと、荒れてしまった部屋を片付け始める……手伝わなきゃ。
片付けをしながら、ユタにゲシュについて気になる事を聞く。
「ゲシュってそんなにまりょく使うの?」
「うん。さっきのは3術クラスの魔術だけど、実際は4術使ってるでしょ?だから、普通に3術使うより魔力を使うんだ」
「なるほどー」
「何それ、セレンの真似?」
そう言ってユタがクスクスと笑う。魔言数の事を術数とも呼び、2術3術……と数える。この数が増えれば増える程魔力の消費が加速度的に増えていく、と皆が言っていた。使ってみてそれは実感している。
確かに2術の魔術を2回使うよりも、こっちの方が消費量は多い気がする。
「ゲシュって両手で別々の魔術使うでしょ?だから、制御も難しいしね。僕もあんまり得意じゃないよ」
確かに難しい。右手と左手両方で箸を扱うような小難しさがある。……慣れたら出来そうなもんではあるが。
「ふぅ、片付いた。とりあえずは片手でちゃんと扱えるようになってからだね」
「むー……あと、ろくせきって何?」
「録石っていうのはこれの事だよ」
そう言って、棚から八面体の結晶を見せてくれる。サンやユタがたまに弄ってる奴だ。
「魔道具の一種だね。魔力を流すと、中から音が流れてくるんだ。映像を映すタイプのもあるらしいけど……」
「え、すごい」
なんだそれは。本をあまり見たこと無いなと思ってたら本どころじゃないオーパーツが出てきたぞ。
「そんなに凄いかな?アンも使ってみる?」
「いいの!?」
そんなオーパーツをユタは、簡単に渡してくれた。これは使ってみるしかないじゃないか!早速魔力を流してみる。
……あれ?何も起きないぞ?魔力が流れていかないのは感じるけど。
「これ慣れるまでは魔力の調節難しいからね。細く長く通すんだよ」
「むぅ」
「あはは。魔力制御の練習にもなるし、その録石はあげるよ。ちゃんと見れるようになったら教えてね」
「ありがと!」
すげぇもんを貰った。使い方も教えてもらった。まだ使えないけど。
◆◇◆◇◆◇◆
自分に充てられた部屋に行き、早速魔力を流してみる。やっぱり何も起きない。コツを聞きに行くかどうか悩むな……。
とにかく、細く長くだな。今度セレンに教えてもらうとして。魔術の復習でもしておくか。確か"キュビオ"だったよな……うん。また暴走したら大変だし、キュビオの練習をしてみよう。抑えよって言ってたからレジスト系かな?
まずは右手から。集中して……でも、魔力は濃くなりすぎないように。霧散しないように。
「ウィーニ・クニード」
そよ風のような柔らかい風が溢れ出す。よし、成功だ。このまま魔力を送りつつ左手で……。
「ウィーニ・キュビオ」
左手で魔術を使った途端、右手の風が全て左手に流れ始める。あれ?失敗したか?そういえば、ユタはウィーニじゃなくて、ウィニドイって言ってたな。意味は分からんが、とりあえず左手の魔術を解除して唱えてみよう。
「ウィニドイ・キュビオ」
左手に周囲の魔力が集まり始める。あれ?これも失敗だ。同じ詠唱なのに……あれ?解除できないぞ?そう考えるうちにも、左手に集まる魔力の濃度はぐんぐんと上がっていく。
これはヤバい、何か分からんけどヤバい。
「ユター!たすけてー!」
ヤバい。もう魔力としてじゃなくて物質として見えてきてる。紫色だったのか、なんて考えている場合じゃない。体から魔力が引かれている感覚もある!
「どうしたの……アン!?何したの!?」
「わかんない!ウィニドイ・キュビオってやったらこうなったの!」
「もう!アルア・ログ・ウィーニ・クニード!!」
部屋に入ってきたユタが私の左手を掴み、そう唱える。ユタの左手の先には開けっ放しの窓があった。唱えたユタの左手から強風が放たれる。それは窓の外へ……窓枠を吹き飛ばし、流れていく。それと同時に左手の魔力が薄まる。
「左手の魔力を右手に移して!」
「う、うん」
言われるがままに魔力を右手に移す……あ、魔力が集まらなくなったみたい。
「家の中でやっちゃダメって言ったでしょ!」
「どうしたの!?」
怒るユタの裏からサンが現れる。あーこれお説教コースだ。ユタがこんなに怒るなんて見たこと無いかもしれない。
「アンが理解してない魔言を使って……それで、暴走しちゃったみたい」
「ごめんなさい」
「……これ、壊したのアンなの?」
「いや、僕が魔力を除去しようとして。ごめんなさい」
「ユタは悪くないじゃない。ありがとう。アン、魔力は無闇矢鱈に使わないって教えたよね?」
「ごめんなさい…」
「それはもう聞いたよ?あんまり変な事してるともう魔術使わせないからね?」
「ご、ごめんなさい……」
「まぁ、2人が無事だからそれで良いけど……ユタ、偉い偉い。アンは……もう……」
サンが泣き始めてしまった。え、どうしたらいいの?
「あんまり怖いこと、しないでよ……」
「ママ、泣かないで……」
「母さん……」
◆◇◆◇◆◇◆
サンを落ち着かせるという謎のイベント中に、ロニーが入ってきて、ゲンコツされた。いてえ。
ロニーは「あんまり心配させちゃダメだよ」とだけ言って、サンを連れて行ってしまった。
「……アン、もう、あんな事しちゃダメだよ」
「……うん。ユタも、ごめんなさい」
「うん。ウィニドイを唱えたんだよね?自分の知らない魔言は扱っちゃダメだよ。ウィニドイは複合魔言で、制御が難しいんだ。
それに、さっきみたいな暴走を起こしちゃうと、とても大変だからね」
「うん、もうやらない」
完全に私が悪い。どうしようもないくらいに私が悪い。便利なだけではなく、危険なものである事を理解出来てなかった私が悪いのだ。
「アン、僕は家を出ようと思ってるんだ……母さん達には、まだ言ってないけどね」
「え?」
唐突にユタが話を変える。そんな事は聞いてない。勿論彼が言わなかったのもあるんだろうが、まだ7歳の子供だろ?何故そんな事を?
「この前の事でちょっと悩んじゃって。父さん達みたいに冒険者になって、もうちょっと強くなりたいなって思ったんだ。
まぁすぐに出ていく訳じゃないよ。2人を説得しなきゃいけないし、まだまだ知らない事もある。
セレンさんから教わりたい事もたくさんあるしね。でも、もうちょっと……外の世界を知りたいかなって。
父さんは強かったよ。エリアズ相手に無双してたって聞くし。それでも、あの怪物には手が出なかった。
僕なんてもっと弱い。だから皆を守れるくらいに強くなりたいなって思っちゃったんだ」
ユタは私にも分かりやすいように、ゆっくりと砕いて説明してくれる。
「でもアンが今日みたいな事をまたするなら、僕は心配になっちゃうよ。だから、ちゃんと自分の魔力を制御出来るように頑張ってほしいんだ。色々手伝いもするよ」
あのユタが決めたんなら、それは本当の事なんだろう。でもまだ整理が付かない。ユタは私の1番の理解者だと思っていたのに。
「この事はまだ秘密だよ?10歳になるまではね!」
ユタはイタズラに笑った。




