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九話 先生2

 帰宅すると、ロニーがサンと話し込んでいた。


「アン!おかえり。それにセレンも。今回は力及ばずで……ごめん」


 目覚めたロニーの開口1番はそれだった。



「よう、ロニリウス」

「久しぶり。サンから聞いたよ。色々迷惑をかけちゃってるな。ごめん」

「困った時はお互い様だ。それに俺らの仲だしな」

「助かるよ。ありがとう」


 おっさんずが仲良く話してるのを尻目にサンに声をかける。


「ママ、見て。エル・クニード(水よ、溢れろ)


 手から溢れ出す水、床に出来る水溜り。焦るセレンと目を見張るサン。

 サンがセレンを一瞬睨みつけ、私に声をかける。


「あら、すごいすごい!でも、部屋の中でエル()はダメよー。

 セレン、ちゃんと教えなかったの?」

「いや、俺は……まだ内魔力での魔術しか……」

「私達は魔人(セクセル)なのよ?外魔力だってすぐに扱えるようになるに決まってるじゃない」

「いや、練習中は手の中で一瞬で消える水を作るのが精一杯だったんだが……」


 何やら物騒な空気になってきてるので、ひとまずロニーの元に行こう。ちなみに外魔力……体外の魔力を利用する方法は買い物中に聞いた。


「パパ、おかえり」

「おかえり、か。そうだね、ただいま。アン、おいで」

「うん!」


 ロニーの胸に飛び込み、抱き締められるその圧力に安心する。最初の頃は苦痛だった子供の振りももはや慣れた物……いや違う。この現状に満足している自分が居る。前世では親にあまり甘えられなかったから、その反動かもしれない。


「セレンから魔術を習ってるんだって?あんまり無茶しちゃダメだよ。僕みたいにね」

「うん」

「ユタはまだ帰ってこないのかい?」

「きょうはがっこうだよ」

「あ、そっか。そうなんだ。学校か。当たり前だよね。うん」


 ロニーと話す裏で悲鳴が聞こえる。


「その手の魔力をどうするつもりだー!」

「セレンの丸焼きを作ろうかなって」

「俺は呪人(セクセル)だぞ!そんなんレジスト出来ねーよ!!」


 ……サンってあんなキャラだったっけ?まあ仲が良さそうで何よりである。


「ただいまー……って母さん何してんの!?」

「セレンにお仕置きしようかなって」

「落ち着いて!どうしてこんなことに!?」

「冗談に決まってるじゃないー。おかえり、ユタ。ロニーが起きたよ」

「ホントに!?父さん!!」


 ユタがロニーに駆け寄る。それを受け止めるロニー。


「おかえり、ユタ。みんな無事で良かったよ」

「父さんこそ生きてて良かった!ホント心配したんだよ!!」

「この歳で子供に心配されるとは……トホホ」

「だって、世界に父さんは1人しか居ないもん。心配もするし、大切にもするに決まってるよ」


 ユタって転生者か何かなんだろうか。大人びているにも程があると思うんだが。そんな家族団欒の時に浸る。やはり笑顔は大切だ。


「あれ?父さん魔力が……まだ本調子じゃないの?」

「それなんだが……ユタ、ちょっと散歩に行こうか」

「アンは?」

「アンは私とお勉強しましょうねー」

「アンもいきたい」

「男同士の秘密のお話だから、私たちは家に居ましょうね」

 これでも"元"男なんだが……駄々をこねても仕方がなさそうだ。折れよう。というか、私にも魔力が見えるのだ。ロニーの異変にも勿論気付いている。彼の両腕と右足には魔力がほとんど見えないし、抱きしめられた時に腕の力がいつも以上に弱かったことも。

 サンの魔力もだいぶ薄い。薄いと言うか、ほぼ見えない。ロニーより確実に薄い。


「むぅ……わかったよ。ママ、まじゅつ教えて」

「よしよし偉い!セレン、付き合ってね」

「もう今日は3時間練習させたんだが……まぁ、確かにアンの魔力的にはまだ余裕があるが。さすがに飽きるか疲れるかしてるんじゃないか」

「だいじょうぶ。まじゅつのべんきょ好き」

「さすが私達の子!その意気だよー」


 そんな話をしていたら、ユタに耳を打たれる。

「後でこっそり教えてあげるからね」

「!ユタにー、すき」

 持つべきものはユタである。やっぱりこいつはお世辞抜きに頼りになる兄貴だ。最も、伝えにくい物はボカされるんだろうが、それでもこいつは最高の兄だと思える。徐々に呼び方も変えていこう

「だから」

 そこまで言い、顔を遠ざけるユタ。

「魔術の勉強頑張ってね?」

「うん!」

 ……いや、俺がちょろいんだろうか。そのうちチョロインとか呼ばれそう。いやねーな。今のところ心は男のまんまだ。努めて私と呼んでいるが、やっぱりどこか違和感がある。



◆◇◆◇◆◇◆


 私達3人は、本日二度目の東の広場に来た。

「セレン、私の現状についてはなんとなく分かってるよね?」

「あぁ。実際に魔術を放つのは俺がやろう。呪人の俺に放てる範囲でだが」

「アン、セレンはあんな事言ってるけど、呪人の中では魔力操作はかなり上手な方だから、安心してね」

「分かった!」

 サンの言葉の裏でセレンが照れてるが、そんな事は気にしない。セレンは周囲に自身の魔力を放つと同時に、その魔力を体内に戻している。まるで地磁気のようだ。夜中に宇宙関連を調べたら止まらなくなったせいで、浅く覚えてる言葉の一つだ。

「アン、あなたどのくらい魔力が見えるの?」

「どのくらいって?」

「セレンの体の流れる魔力は見える?」

「うん」

「セレンから出てる魔力は?」

「見えるよ」

「おー凄い凄い!じゃあ、私の魔力は?」

 最後の質問を問うサンの顔は、言葉とは裏腹に暗く見える。


「見えない……」

「そっかそっか。大体分かったわ。セレン、やっぱりうちの子は天才よ!」

 ドヤ顔を決めるサン。両親もセレンも年齢不明だが、まだ20代に見える美人でもドヤ顔はうざいことが判明した。


「……お前、そういう親馬鹿なところはユタのときから変わってないんだな」

「失礼な!ユタもアンも天才には違いないでしょ?」

「あー……確かにアンの魔力量は目を見張る物があるし、ユタの物分りの良さも凄いが、世の中には上が居るって早めに教えておいたほうがいいんじゃねーか」

「セレンは分かってないね。うちの子供は天才に決まってるじゃない!ロニーと私の子だよ?」


 ああ、サンは親馬鹿だと思う。上には上が居るのはどの世界でも絶対なのだ。俺はオリンピックで金メダルも取れないし、全国模試1位ですら取れない。いや、そもそも自分の才能の無さに嘆く側なのだ。いつだって、常にそうだ。いくら魔力量が多かろうが、その制御が出来てない現状では全然ダメなのだ。

 つっても魔力の制御ってのがいまいちコツが掴めん。化物とコンニチハした時に何故すぐに出来たのかが不思議なくらいだ。

 やはりあれか。人間土壇場に陥ればなんとかなるんだろうか。いや、私は純粋な人間ではなく魔人らしいが。

 そもそも|"純粋な"《前世のような》人間なんて居るんだろうか。冒険者になって旅したら分かる事だろうな、やっぱり旅はしてみたい。前世じゃ都内にほぼ引きこもりだったし。


「……アンー?」

「!なに、ママ?」

「アンは考え事が多いねー。これからお勉強だから、ちゃんとお話聞くのよ?」

「うん!がんばる」

「よしよし、その意気ね」


 なんということだ。既に新しい情報で一杯の頭に更なる情報が襲いかかり、私の頭は爆発してしまった!!

 そんなスプラッタなイベントも起こるはずがなく、必死に教えられる情報を頭に叩き込む。多分3割以上は右から左へ受け流しちゃってるけど。


 サンはセレンとは違い、属性に関する説明が多かった。それに魔力のデメリットも教えてくれた。

 なんとなく想像はしていたが、魔力は使いすぎると早死にするらしい。少し驚いた。生活に使われるような魔術……それこそランプのようなものに光を灯したり、調理の際に火をつけるくらいな簡単な物ならともかく、自分の魔力をすっからかんにしてしまうとダメらしい。

 但し成人前……特に魔人では10歳頃までは、そのデメリットはなく、むしろ使えば使うだけ増えるらしい。それに、増えた分だけ将来的に魔術の使い過ぎで寿命が縮まることもないと。

 それに人間(エレス)の中でも魔人は長命な種であるらしく、魔術を使いすぎなければ100歳までは生きられる……むしろ病気とかに気をつけなさいと言われた。一部の病気は療術でも治せないんだとか。


 属性については、魔と火と雷、水と土と風の2種類に大きく分けられるらしい。それぞれ現象魔術と物質魔術と呼ばれている。この点はセレンから聞いた時に疑問に感じていたところだが、思ったよりこの世界は科学的だ。魔属性ってのはよく分からん。属性を指定しなければ……と思ったら、その場合は不安定になるので基本的には指定した方がいいとか。


 それ以外にもたくさん教えてもらったが……量が量だ。混乱しそうだ。それに、魔力が減る感覚に体がついていけずに、眠気が凄い……ウトウトしてはサンに起こされた。

 とりあえずは暫く魔力を使いまくれば良いってだけ覚えておこう……。1歳には難しすぎるぜ。

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