五十七話 洞窟と凍結
蜘蛛を捌き、魔石を取り出しながら考える。節足動物っぽい感じの魔物のその保有魔力に対して生成される魔石がかなり小さいと。
この大きなタランチュラのような魔物――茶毛蜘蛛と言うらしい――もそうだ。恐らく7級なんだろうけど、発火石にすら満たないようなクズ中のクズ魔石しか取れない。
鉄芋虫はやや例外か。ギリギリ8級相当の魔石が取れる。魔人大陸では中銅貨5枚……そのまま考えるなら64ガランくらいにはなるはずだけど、買い取りに差があったりするかもしれないので確実とは言えない。
鉄芋虫が8匹、そのうち2匹は魔石が取れなかったので6匹、全部64ガランで売れれば3ベル。茶毛蜘蛛の方は不明、18個取れたけど全部合わせて1ベルになれば良いかなくらいだろうか。せいぜいが魔石粉行きくらいしか思いつかない。
弓骸骨は全て魔石を撃ち抜いてしまったので回収不可、泥人形の方はカクが2つ回収していた。魔石を砕くか体から遠く離してしまえばいいらしい。こっちは魔人大陸なら7級品で大銅貨2枚くらい、そのまま考えるなら3ベルと25ガランだろうか。
全部合わせて、6ベルと25ガラン。それからクズ魔石が18個。あれだけの数と戦ってこれだと言うんだから、魔物と戦うだけじゃなかなか稼げない。
今回は私1人でも倒せそうな奴らだったけど、仮に1人で総取りしたとして、毎日この量を倒してなお赤字だ。正直しんどい。そもそもこの金額で売れるかどうかも分からないんだけどさ。
「終わったか?」
「うん。それにしても鉄芋虫の表皮、これどうなってるの?」
「さてな。外に居るこいつらは脱皮した際の自身の抜け殻を利用してるらしいが、ここはダンジョンだしよく分からん。
実際この皮はそこそこな値段で売れるはずなんだが、持ち帰れねえし……」
カクはやや不満げな表情。仕方ない、ダンジョンの魔物は外の魔物とルールが微妙に違う。基本的に何かを食べたりはしないというし、この芋虫は成虫にはならず一生幼虫のままだ。
図鑑曰くになるが、そもそも外に生息している鉄芋虫は地中生物の一種、ほとんど外には出てこない。外に出るのは羽化の際と、それから何故か脱皮直後だという。甲羅干し的な感じなんだろうか?
体を覆う鉄は結構良質であるらしく、蛹化・羽化後は一気に脆くなるため買い取り額は下がるが、幼虫の段階では良いお値段で買い取られる。養殖なんかも何度か試されているらしいが結果は惨敗。
当然ながら戦闘なんて論外な生物であり、そもそも人の目に入ることすら珍しい貴重な魔物の1つである。羽化後はトンボのような挿絵が描かれてるが、どうにも23年に1回しか発生しないらしく、ほとんど記述されていない。23年トンボとでも呼んでやろう。
そんな魔物でも戦わせるなんて。結局ティナにバターのように切られてしまっていたし、ウズドによる爆発にも耐えることは出来ていなかった。とはいえリズ・ダン自体は弾いていたし、カクはお手上げと言っていた。やはり肉壁役なんだろうか。
「安全地帯まで突っ切っちまうか」
「ここじゃダメなの?」
「バカ。魔物が流れてきた時に鎧が無かったら危ねえだろ」
それもそうか。私もバカの仲間入り、3バカトリオの結成だ。
◆◇◆◇◆◇◆
2つ目の小部屋も大きな違いはなかった。せいぜい魔物の比率が違うくらいか。それから、鎧を着込んだ骸骨、アーマード・ボーン・ウォリアが居た。あの鎧や剣に使われている金属は一体どこから来るのだろうか。
残念ながらあの骸骨からは魔石は抜き取れず、売却予想金額は伸びが悪い。クズ魔石の扱いにもよるけど、これを無視した場合はせいぜい12ベルかそんなもん。買い取り額は魔人大陸と大きくは変わらないとカクが教えてくれた。
ダンジョンに入って10分以上が経った。さすがに雨に打たれるよりかはマシだが、濡れた服により体温がかなり奪われているのが分かる。ダンジョンの中でも水は気化するらしい。
私はリチ・ゾエロである程度の温度は保てているはずだが、それでも気付けば手が震えている。ティナに至っては唇が真っ青、シュ・リチで微かに温めるのが限界だ。ゾエロは他人に掛けることは出来ないし、療術で温めようにも歩きながらでは難しい。
2つ目の小部屋から続く道は今までと違い、人が3人並んで通れるくらいには広くなっていた。
どうやらこの先に安全地帯と呼ばれる場所があるらしい。
「分岐を右に行けば安全地帯だが、火系のトラップは現在も稼働中。
簡単なものらしいからアンに塞いでもらおう」
火系のトラップとはこれまた雑な説明だ。火炎放射器でも設置されてんだろうか。
ティナとレニーを温めつつ、安全地帯へ向かって進み続ける。魔力にはまだまだ余裕はあるが、両手が塞がってるのはどうにもよろしくない。いっそ口から使えるように練習してみようか。ザ○ル! とか言ってドイ系を放ったらそれっぽい。
いや、無しだな。
しばらく歩くと情報通り道が分かれていた。左の道はこれまで通りだが、右の道は後から誰かが掘り進めたような、やや違和感を覚える分岐。増築でもしたんだろうか。
「うっし、アン、行くぞ」
「うぃ」
ここから先は一応だが魔力視に意識を向けておく。ほとんど真紫の視界ではあるが、魔力のめちゃくちゃ濃いところや薄いところは僅かながらに変化が見える。
ま、空気自体にも高濃度の魔力があるからあんまり視程は長くないんだけども。50cmくらいが限界だろうか。あんまりこちらばかり見ていると普通の視界すら奪われる。
「あれか?」
先行していたカクが呟いた。カクの視線の先は地面。むき出しの魔法陣が描かれたプレートのようなものが、敷かれている。……踏んだら燃えるってこと? 見え見えの罠に意味はあるのだろうか。
「アン、防御の準備。俺が魔術で叩いてみる」
「了解」
防御の準備って言ったって、何をしたらいいのやら。氷壁でも作れば炎を防ぎつつ向こうの様子もある程度見えるだろうか。
なら、ウィニェル・ウニド・クニードだろうか。一応力詞も付けたほうがいいかな? じゃあニズニも付けておこう。
「準備出来た」
「撃つぞ。土弾」
「ニズニ・ウィニェル・ウニド・クニード」
カクの手から土弾が発射されたことを確認し、ほとんど同時に通路を塞ぐような形で氷壁を出現させる。
土弾がプレートに直撃。プレートに刻まれた魔法陣が赤く輝き、足元から火柱が立ち上がる。
5秒ほどで火は止み、後にはやや赤っぽくなったプレートのみが残されている。この短時間でってことはかなりの熱量なんだろうか。
「よし、ゆっくり消してくれ」
言われるがままに氷壁への魔力供給を減らしていき、魔術を終了させる。
想像していたよりも火は弱かったのか、熱さはほとんど感じられない。
「もう1回撃つぞ。今度は防御無しだ。アロ・エレス・ダン」
滅多に聞かない弱化系の力詞を付与された土弾は、プレートの向こう側へ着弾した。
空中に判定があるかの確認だろうか。火柱は上がらなかった。
「プレートの上に氷壁を作り、そのまま落としてくれ」
先ほどと同じ術式の魔術をやや離れた位置で発現させる。
現れた氷壁がプレートに触れると同時、また魔法陣が一瞬輝いたが、火は生まれない。
「魔術に変化は?」
「特に無し」
「ならこれで進めるな」
どうやらトラップはこの1つしか残っておらず、これより向こう側が安全地帯になっているらしい。
ティナとレニーを呼び、更に奥に進む。少しして小部屋に着いた。
広さはどのくらいだろう。少なくとも10人が寝そべるくらいはできそうな広さ。天井は他に比べるとかなり低いが、それでも3mはありそうだ。
部屋の隅からはチョロチョロと水の音、情報通り水が湧いているらしい。ダンジョンの安全地帯には湧き水が付き物なんだろうか。
「さっさと乾かそうぜ」
カクはいつの間にか下着のみのあられもない姿になっている。一体どうやったんだそれ。
レニーとティナもゆっくりとだが脱ぎ始めている。
私のは既に乾き始めているが、革製等の一部装備は水に弱い。形を整えてある程度乾燥させる必要があるかもしれない。革製の鎧は魔術によって乾かすことが出来ないし、どちらにせよ結構な時間が掛かりそうだ。
カクを始めにレニー、ティナの順で予備の服に着替えた。なんとなく私も着替えたが、特に意味はない。
まあ半乾きの服というのは気持ち悪いものだし、完全に意味がないわけでもないか。熱系の術で乾かすとすぐ痛むし。
◆◇◆◇◆◇◆
「そろそろ乾いたか?」
理由は分かっていないが、ダンジョンの中では服は結構早く乾くらしい。
もやっとするが、そういうもんだと知られているので私も納得するしかない。別に乾燥してるって感じには思えないんだけどな、むしろジメッとしてる。
とにかく、ビショビショだった私達の服はほとんど乾いてしまった。もちろん火の魔術によってある程度温めてはいるせいもあるんだろうけど、それにしたって思ってたよりもずっと早い。
「鎧はまだだなー」
すっかり体温を取り戻したティナが、自身の鎧にため息をつきつつ返事をする。さっきまでガタガタと震えていたしおらしティナちゃんは一体どこに行ってしまったんだ。返してくれ。
レニーが部分部分で使ってるような金属製の鎧であれば水に対してもかなり強いのだが、残念ながら全身金属製の装備というわけもなく、革装備を少なくとも1箇所は全員身に着けている。
「つーか腹減ったんだけど」
「飯にするか? 魔術で温めるしかねえけど」
魔物の気配が全くないせいでどうにも締まらない。息抜きは重要だとは思うけど、ここも一応はダンジョンの中なんだよね……?
まあ安全地帯と呼ばれてる時点である程度調べられた後だろうし、多分ホントに安全なんだとは思うけど。
それなら本でも読もうかな? ぶっちゃけかなり暇だ。
「カク、あの本読ませてもらってもいい?」
「今か? 別に良いけど……先に飯食おうぜ」
冒険者であり運動量が多いとはいえ、私は戦士達ほど動き回るわけじゃない。要するにそこまで空いてない。
けどいつまた時間が取れるか分からないし、食べておこうか。
「あの水、使う?」
「あんまり飲みたくはないな。そのままでいいんじゃねえか」
「ん」
湧き水があるとはいえ、例のごとく水質はあまりよろしいものではない、というか泥臭い。
ダンジョンの外に持っていってしまえば綺麗な水になると知られているし、実際口にしても体調が悪くなるようなことはないと知っている。
とはいえ泥臭いものは泥臭い。あまり飲みたいものではないと全員一致であったため、今回はそのまま食べることにした。
あの湧き水はダンジョンを出る前に水袋に入れるだけでいい。外にさえ出てしまえば臭くもなんともないただの綺麗な水なのだから。
干し肉と木の実が混ぜられた乾パン。朝食で食べたパンと違いかなり硬いが、先に干し肉を口にしておけば多少唾液でマシになる。
今回はそんな事はしない。水にはまだ余裕があるので、濡らして熱すればある程度は柔らかく出来る。想像よりも味はかなり良い。クルミのような木の実のおかげで香ばしさがある。
干し野菜は茹でて灰汁を取らないと食べられたもんじゃないから無しだ。1回乾いたまま食べたことがあるが、渋いような苦いような、なんともいえないえぐ味が未だに忘れられない。
完食する頃には鎧も大分乾いていた。まだ若干の柔らかさがあるような気はするが、少なくとも雨に打たれていた時よりはマシだ。
「さて、1回外に出て雨が止んだか確認するか、それとも奥まで行って魔石稼ぎを続けるかだが……どっちがいい」
「奥行こうぜ!」
ティナはともかく、私はどちらでもいい。レニーに目配せしてみれば、どちらとも決めかねているらしい。
ティナの意見に賛成と告げればレニーもこれに合わせてくれた。あまり戦闘好きではないレニーが、とは思ったが、そもそもダンジョンの魔物って生き物じゃない可能性すらあるしそういうものなのかもしれない。
「うっし。んじゃ行くか」
食事中もずっと火を維持していたわけだが、魔力にまだ余裕はある。
もう少しだけ、潜ってみようか。
◆◇◆◇◆◇◆
安全地帯を抜け、例のトラップには氷壁で対応。分岐路を右に行けば先に進めることになる。
そろそろ分岐路だというところで何か物音が聞こえだした。どうやら奥の方から聞こえているらしい。
「魔物……じゃないな、多分人間だ。他にパーティが来てんのかも」
「便利だねえ」
私にはさっぱり分からないが、どうやら人間の匂いがするらしい。
耳を傾けてみれば確かに金属音がやや多い。カクが鉄芋虫を切りつけた時のような音がする。
「行こうぜ!」
「ま、そうなるか。一応警戒はしとけよ」
仕事の都合上、外で別の冒険者と会うことは少ないが、もし困っていたら手を差し伸べる。魔人大陸に居る頃から一応続けていることだ。
これによって不利益を被ったことはないし、むしろ知り合いが増えたりすることもある。残念ながら死んでいることもあったりするが、その時はその時だ。
前世に比べると人の死はかなり身近になってる。慣れなきゃやってらんない。
警戒というのは少し別、その冒険者に襲われる可能性だ。ダンジョンに限らずあのパーティが殺されたなんて噂はたまに耳にする。そんな目に遭わないためにも出来る限り味方は増やしておく。
部屋に近づくに連れて金属音は大きくなったが、同時に悲鳴のようなものが聞こえ始めた。
「戦闘準備。多分魔物の勝ちだ」
武器を抜き構えつつ、やや小走りで部屋に向かう。
ちょっと遅れた、そのタッチの差で死んでしまうこともある。そうなるとさすがの私でも寝覚めが悪い。せめて同族であろう人間の命くらいは大切にしておきたい。じゃないと一線を越えてしまう。
気付けば全員が駆けていた。私もゾエロへの魔力供給を増やし足を早めるが、やはり戦士との速度差は埋められない。
通路はやや曲がっており、3人の姿が一瞬消えたように見えたが、部屋に到着した時には2人は本当に居なかった。
「おっらぁ!」
「くっ……」
恐らく最初に飛びかかったのはティナ、同時にレニーも飛び込んでいたらしい。
辺りにいくつかの骨や鎧が散らばっている。アーマード・ボーン系を何体か倒すことには成功したが、途中で2人が死亡。残った1人が魔物に押しつぶされようとしている場面に遭遇したらしい。
生き残ってる最後の1人の剣は根本から折れており、それを囲むのは鉄芋虫と剣骸骨、それから数体の泥人形。レニーがそれらを押し退けティナとカクは切りつけている。
「ウィニェル・レンズ・ウニド・キュ・クニード!」
即座に氷壁を出現させる術式を構築、詠唱する。基点座標はレニーの魔力。
発生までの時間はきっとレニーが稼いでくれる。そしてどうやら遠距離攻撃持ちは居ない。
氷壁に意識を集中。レニーともう1人の全方位を氷壁が囲う……よし、完成した。
中に1匹鉄芋虫が入り込んでしまったが、レニーがガツガツと切りつけている。問題はなさそうだ。
それにしても、数が多い。
生きてる魔物だけでも、今まで出てきた魔物全部を合わせた数よりも絶対に多い。
魔力に余裕は十分ある。ここは大技で一気に仕留めてしまおうか。
「広域凍結、時間稼いで!」
イメージするのは部屋一帯の凍結。
骸骨共はともかく、他の2種類には効くはずだ。
欠点は発生の遅さと範囲指定の不自由さ。
発生までの時間はカクとティナが稼いでくれる。
レニーは纏火のスクロールを持っている。
この魔術はある地点を中心に発動する、レンズにも似た性質を持つ魔言を使う。
「ぅらあッ!」
ティナが骸骨を魔石毎両断した。
カクは火沫によって他の魔物の気を逸している。
今のうちだ。
基点座標は変換された私の魔力。つまり、あの氷壁。
領域限界は生の私の魔力。つまり、私自身。
氷壁を中心に魔力を展開。部屋そのものを包み込む。
内外の魔力を隔絶し、内側の制御を握る。
「もう下がって!」
カクとティナは反転、私の横に立つ。
準備は出来た。
「プート・リズ・フィール」
部屋中に満ちた魔力に命令、一度に全ての熱を奪う魔術。
レニーはと見てみれば、手にしたスクロールから魔力が噴き出している。
一緒に居る冒険者も同様だ。多分渡したんだろう。なら、問題は無い。
部屋中の熱を奪い、消失させる。
空気中の水分すらも凍り、部屋中がキラキラと輝き始める。
泥人形は凝固し、動きを止める。
鉄芋虫も動きを止めたが、生死はよく分からない。
骸骨の歩く音だけが、妙に遠い音として響いてる。
氷壁は少し削れ始めているが、まだ大丈夫そうだ。
「……ふぅ。処理お願い」
「おう! 爆風弾!」
現時点で合わせて10術使ってることになる。単体の10術とは全然違うけど、それでも消費魔力はかなりのもの。これ以上は操れない可能性がある。
それに私の魔力は私の魔力を通しづらい。氷壁によってレニー達が助かってるのはこのせいもあるのだが、逆にいえばこの空間では私の他の魔術は利きが悪い。
私は凍結の維持に専念して、撃破はティナとカクの魔術に任せよう。
爆風弾が直撃した泥人形と鉄芋虫は文字通りバラバラに砕けた。
体内の水分まで全凍結させたから、衝撃を受け流すことが出来ないんだろう。
しかし、やっぱりフィールやレンズは普通の魔言じゃない。
詠唱前から魔力を流すこのプロセスは、明らかに魔術とは少し違う。
いつかどこかで聞いたことのある、魔法の魔術って奴なんだろうか。
魔法のプロセスに近いとサンも言っていたし、慣れればそのうち魔法も使えるようになるかもしれない。
にしても、消費量はやっぱり多いな。
すっからかんとまでは行かないが、頭が痛いし、感覚が鈍い。一度に魔力を使いすぎた。魔力酔いが始まってる。
とはいえ枯渇したわけではないし、骸骨共はゆっくりながらもこちらに歩いてきている。
……彼らにも低温は効果があるってことなんだろうか? 明らかに動きが遅いもん。
骸骨がもはや目前にまで来ている。
そろそろ魔術を終了しよう。
「解くよ。骸骨お願い」
「っしゃ! 魔術でちまちまは性に合わねーんだよな!」
なんか若干ディスられた気がするが、話は後だ。
フィールへの魔力供給を終了し、隔絶されていた魔力が流れ込む。
辺り一帯の温度はすぐに戻るわけじゃないが、問答無用で奪うような領域ではなくなった。
後は骸骨共だけだ。
「リズ・ズビオ・ダン」
あの骸骨共の鎧はかなりの強度を誇るが鉄芋虫程じゃない。
硬度を重点的に強化した氷弾であれば、抜けないこともない。
しかし、入り口に居た骸骨は裸だったのに、ここの骸骨は全員が鎧を着ている。
やっぱり種類が違うんだろうか。
なんて考えつつカクとティナの援護を続け、気付けば敵は居なくなっていた。
2人に掛けた氷壁の魔術を解除し、歩み寄る。もし怪我をしていたら、もし治せるならば治してやろう。
ボツパターン
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あまり得意じゃないけど、一気に仕留めてみようか。
「拡散雷槍、準備!」
イメージするのは地を這い迸る電撃。
フィールと違い空間そのものに使う術ではないせいで撃ち漏らしは出るかもしれない。
しかしウィニェルと違いドイは耐電ブレスレット持ちなら程度軽減出来る。
ティナやカクへの被害を考えれば、こちらの方が得策に思える。
一応声を掛けておく。当たり方が悪ければ火傷じゃ済まない怪我を負う。
彼らが魔物から距離を取った。今だ。
「ドイ・レズド・ダン」
この魔術はほとんど操れない。
ドイが放出系と合わせて使われる事が少ないのはその制御の難しさにある。
レズドを付与してなお操りきれない電撃に、辛うじて1つの命令を与えた。
生物を狙え、と。
電撃は暴れ馬のように部屋を駆け巡る。
当然その対象には私も含まれる。
ゾエロの防御の上からなお流れる電撃。
思考とは別。体は電撃に反応し、魔力の供給を絶ってしまった。
鉄芋虫の過半数が死んだのは見えるが、成果はそれだけだ。
ティナとカクは電撃により倒れており、私もしばらくは動けそうにない。
剣骸骨が悠々とこちらに歩を進め、その剣を振りかざす。
ああ、ここまでか……。
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理由:ドイは得意ではない。