五十四話 整理と気絶
帰り道、未だに話を消化しきれていない私が居た。
最初は何かの冗談かと思った。
ヘッケレン冒険者ギルド長ヘルストイ・クッターラ・ナムマンは頭がおかしいのかと思った。
ユタと知り合いで、私にどっきりを仕掛けているだとか、そういうものなのかと思った。
が、残念ながらそうではないらしい。もう1回話をまとめよう。
ユタも私達と同じように拓証の引き継ぎを行なった。アストリアからヘッケレンに向かう冒険者は一定数存在している。この時のユタは数多くの内の1人でしかなく、ヘルストイとの面識はなく、別に有名人でもない。
その2週間後、ハルマ森林で新たに見つかった当時はまだ無名だったダンジョンを六花が攻略した。呪人大陸でダンジョンを1つ攻略したとは聞いていたが、ヘッケレンに存在しているものだったらしい。
まだ無名だったこのダンジョンに対し、不変の魔法陣を書き入れダンジョンコアの保護と拡張の阻害を行なった。私は魔法陣に詳しくないが、どうやら魔力による干渉を止めるものらしい。監獄とかに刻まれてる奴の仲間だろうか。
これにより大金と名声を手にした六花はヘクレットを出てアルマニエットへと向かう。ここらへんで六花の魔術師として知られ始めたが、しばらく名前を聞くことはなくなり下火になる。
話が変わるのはその8ヶ月、つまり半年後。ユタを含む第3王子派がアルマニエットの独立を宣言した。
いきなりにいきなりすぎて飲み込みづらい。先にアルマニエットの話をまとめよう。
アルマニエットはヘッケレンに吸収されて間もなかった都市であり、元はアルムーアという名前の都市国家であった。
アルムーアは元々東部の玄関とも言われるような交易の要所であり、都市も非常に広かった。王都であるヘクレットよりも遥かに大きく、ヘッケレンの全ての都市を合わせてもようやく人口で並ぶかどうかといったところだったという。
そんなアルムーアを吸収出来たのは、王家であるアルム家のゴタゴタに起因している。第1王子と第3王子で意見が真っ向から割れていたのだ。雑にいえば第1王子は呪人の下の魔人を、第3王子は呪人の横の魔人を宣言していた。
しかし国が真っ二つに割れるとまではならなかった。元々呪人の多い国であったためか、第1王子優勢で話は進み、第1王子が王を継いだ。第3王子はインセンビウンへ留学という名で追放された。
その後宣言通り魔人への差別が強まり、国から魔人がほとんど消えた。また呪人大陸北部に拠点を置く呪人大陸版魔導ギルドのような存在も弾いた。これにより魔術が大きく退歩、周りの国から遅れを取り始め、反乱が起こるようになり始めた。
もはや後戻り出来ないところまで国力を落としたアルムーアはヘッケレンに従属する形を取り、3年後には吸収・合併された。こうしてアルムーアはアルマニエットと改名されヘッケレンの一都市となった。
合併から2年後、インセンビウンより第3王子が帰還する。ユタを含む六花がこれを護衛しており、つまり今回の話はここが主軸になる。
第3王子はアルマニエットに帰還するとすぐに魔人の保護を始める。元国王である第1王子はこれに反対する立場を取るが、ヘッケレンの方針は魔人と距離をとっての融和であったため反対しきれない。
2ヶ月後、第3王子は突然の独立宣言を行なう。たった2ヶ月の間に国内に残っていた第3王子派をまとめ上げたらしい。
当然ヘッケレンとしてはそれは都合が悪い。数日のうちに挙兵し、同時に冒険者ギルドにも協力を要請する。国同士の戦争には関わらないスタイルはこちらの冒険者ギルドも同様であるらしいが、今回は内乱だったので多少は関与したらしい。
ただ強制力のあるものではなく、参加したい冒険者がいれば参加してもいいですよ、程度のものだったという。これにはヘルストイとアルマニエットのギルド長、そして第3王子の関係の説明が必要になるから一旦置いておこう。
兵力の大きく落ちていたはずのアルマニエットだが、第3王子の策略によりヘッケレンは攻めきれず、とうとう独立を許す形となって終わる。
ユタの関与無くね? と思ったがどうにも第3王子の右腕だかなんだか知らんがそんなポジションで大活躍してくれやがったらしい。
というにもたった2ヶ月という短期間の間に城壁を用いた超大型の魔法陣を作り上げ、これによってヘッケレンの部隊のほとんどが殲滅、全く攻めさせなかったという。
冷血のユーストはここから来てるらしい。というのもこの魔法陣はどっかの錬成陣と違い城壁外の生物の魔力を用いて発動するものであり、近づけば近づくほど魔力を吸われるもの。
要するにヘッケレンの兵士はアルムーアに近づくと魔力が抜けて死ぬ。それも体内に魔石を残さないほどの勢いで。ついでに死体は勝手に燃え上がるらしい。その後のアンデッド対策もばっちしだね! ……いや何やってんのあいつ。
前世の定義とのズレこそあるものの、軍隊とは部隊のうち25%を失った時点で全滅、50%で壊滅、そして100%が殲滅だったはずだ。
もちろん通信機器があまり発達していなかったり、そもそも数の区切り方が違ったりと細かい差はあるが、本質としては変わらないはず。前世での全滅とは全体の3割、戦闘要員の6割を失った場合の言葉だから同じような意味になる。
いや、殲滅か。いくら連絡の取りづらい時代だとしても100%が失われるなんてありえるのか? 周りの人間が死んでいく中で逃げようと思った兵士は居ないのか? ……ほとんどって言葉が部隊を指しているのか構成員を指しているのかで少し意味も変わってくるけど。
魔法陣に関しては詳しいわけじゃないけど、だからって無知というほどでもない。例えばサークィンでは街全体に張り巡らされた都市魔法陣によって周囲の土壌改善を行なっている。砂っぽい土地な上に海沿いのくせ、町の周辺には畑があるのはこれのおかげだ。
しかし戦闘用の魔法陣、となると知ってることの方が少なくなる。そもそもが私の魔法陣の知識はほとんどがテルーから聞いたもの。テルーは魔道具作ったり未解明の魔法陣を解読したりを"趣味"でやってるだけの変人だったし、戦闘用の魔法陣なんてのは専門外だった。
そもそも魔法陣とは厳密には2種類ある。1つは魔術同様、魔法の再現を目的に作られた狭義の魔法陣。魔術では再現できないような魔法すらも再現する技術が確立されていたりするが、逆に魔術で再現できている魔法を再現できなかったりもする。
この魔法陣の最大の特徴は魔力供給を終了しても効果が継続する点。極端な話、土でできた家なんてのも作れてしまう。もちろん耐久性とかはまた別の話になるし、そもそも習得が難しいとかで扱える人間はそう多くはない。
もう1つは魔術の再現を目的に作られた広義の魔法陣。スクロールとして販売されているもののほとんどはこれだし、安い魔道具もこっちの方が多い。当然その全ては魔術で再現できるが、全ての魔術を再現できているわけではない。
こっちの特徴は扱いやすさ。魔言を魔法陣向けに翻訳する形式であり、魔言に魔力を流し込むという意味では魔術と何1つ変わらない。魔法陣を書き込む時点で魔言や真名が確定してしまうので柔軟性は無いけども、変わらない結果を求める場合では魔術よりも信頼できる。
この魔法陣は私もいくつかの書き方を知っている。翻訳方法自体を知っているわけではないが、例えば魔法陣の上部5cm程度に火を生み出す奴とか……要するにコンロで使われている奴だけど、基本が詰まってるからとテルーが教えてくれた。
町全体を覆うような魔法陣が他にも存在しているとは聞いたことがあったし、サークィンでは実物を目にした。しかし命を奪い取るような凶悪なものとなるとおとぎ話くらいでしか聞いたことがない。
ダンジョンまでその範囲を広げれば、例えば踏み抜いた者の水分を急速に奪うものだったり、老化させるようなものだったり……そういうのは聞いたことがある。でもこっちは見たことがあるわけじゃない、というかダンジョンなんて浅層しか潜ったことがない。
まあともかく、狭義の魔法陣とは"別の起源を持つ魔術"だ。魔術では不可能な術式を数多く抱えてるし、魔言同様にまだ未解明のものも数多い。そう考えてみれば中には想像を絶するようなものがあってもおかしくはないのかもしれない。
"魔力を吸う"という意味ではサークィンのものもそれに該当するし、何なら私のダガーもその手の魔道具だ。常に周囲から魔力を吸い続け、その魔力によって術式を発現させている。
うん、こう考えればありえない話でもないのか。ただその"魔力を吸う"部分がめちゃくちゃ強力な魔法陣なのか。……吸った魔力は死体の発火に用いた? うーん、こっちはさすがにまだ分からないな、情報が少なすぎる。
……しかし、魔法陣か。てっきり魔術師か戦士かはたまた魔戦士か、そこらへんにでもなってると思ってたけど全然違う方向に進んだのか。陣師、は魔道具なんかに魔法陣を書き込む人のことだけど、これでいいんだろうか。
っとそうじゃない、また頭が変な方向に……。冷血のユーストを含む、六花のメンバーを生きたまま捕らえた者には褒章と大金を与える。そう命が出されたのが5年前。つまり私が10歳の頃であり、ユタが15歳くらいの頃だ。
私と同じくらいの年齢で彼は王族と仲良くなり、クーデターを成功させ、ヘッケレンに名前を轟かせたことになる。
その後の消息は詳しくは分かっていない。どうやらアルムーアを出たらしい、とだけ言われた。アルムーアのせいか中部との連絡が取りづらく、また冒険者ギルドとしてもこの件には積極的に関わろうともしていないらしい。
ただ1つだけ、どうやらヘルストイは第3王子の息が掛かった人間であるっぽいということだけは分かった。
私は場所を知っているが、言わないことにした。最後に来た手紙にはリアトレットから出され、北部に向かうとあったはずだ。
デカい。
うん、話がデカすぎる。うちのお兄様は一体何をやらかしていらっしゃるのでしょうか。
ヘッケレンから見るとユタはテロリストであり、都市を占領し、兵士を大量に殺戮し、独立を宣言させたやべーやつ。
アルムーアから見ると主権を回復させ、国を守りきり、正当な血筋の者を王座に据えさせたすげーやつ。
いや、うん、ちょっと処理能力を超えてる。そりゃユタは凄い人だなとか思ってたよ。半分くらい尊敬してたよ。でもちょっと、予想の外すぎる。歴史上の偉人って同年代に生きてたらこんな感じなんだろうか。意味が分からん。
なんでこんな話を送ってくれなかったんだ。
いや、まあ、こんなのを送られたところで何言ってんだこいつってなるけどさ、普通に。国家独立の支援なう、とか送られても絶対信じない。都市1つ使っての魔法陣作りなう、とか言われても絶対に信じられない。
というかそもそもの情報量が多すぎる。3回くらいまとめ直してるけど、理解は出来ても消化はしきれてない。
こんな話、どうすればいいのよ……。
◆◇◆◇◆◇◆
「ずーっとだなー」
「珍しいな」
「でも歩けんだよな、不思議だわ」
アンの様子がおかしい。
何の話をしていたのか分からんが、なんかすげー考えてる。
いつもと変わんないっちゃ変わんないけど、こんなに長いのは初めてかもしれん。
絶対ギルドの説明聞いてなかった。いや、アタシもあんまり聞いてねーけど。ああいうのはアタシの専門外だ。
「とりあえず宿行こうぜ。死にかけのカクを拝めんぞ」
「あまり病人をいじめるな」
冗談の通じない、頭の固いやつだ。
内心愚痴を零しつつ、とりあえずはアンが逸れないように手を取って歩かせる。
ったくなんでアタシがこんなことしなきゃいけないんだ。まあ色々教わってるし話してて面白いから無下にはしねーけどさ。
お、宿が見えてきた。
今回選んだのは、えーと、なんて読むんだったかな。カクが教えてくれたんだけど……名前はいいか。ふつーの宿だ。
中は結構明るい。魔道具が惜しみなく使われてるし、なんかこっちの方が性能がいいっぽい。
もしかしたら良い武器も見つかるかもしんないな。カクが治ったら町に見に行こう。
「ティナ、部屋は?」
「上だ。えーっと、201だな」
「鍵はあるか?」
「いや、預けたぞ」
当たり前だろ。鍵を持ち出したら怒られんだぞ。
なんかすげー音が鳴ってカクとアンに説教された記憶が蘇る。もうあれは食らいたくない。
とと、レニーの視線が刺さってる。分かりましたよ取ってきますよ。
「セルティナだ。201の鍵くれ」
声を掛けたら無言で渡された。全く接客のなってねーガキンチョだ。
ま、魔人なんかと話したくねえって奴は一定数居るみたいだからしゃーねーな。サークィンだと逆の立場だったし我慢してやっか。
「おっと」
「あん?」
レニーが突然声を上げた。
振り返ってみるとアンを抱えてる。考えすぎてぶっ倒れたらしい。考えなきゃ生きられない奴は大変だね。
つーかアンが気付いてるかは知らねーけど、レニーは絶対アンに気がある。この前見た劇でもこういう話あったぞ。
にしたって相手選べよとは思うけど。あの身長差はやべーだろ。傍から見たら犯罪者待ったなしだ。
「……どうした?」
「大人と子供みたいだなーって思って」
「さっさと案内しろ」
「はいはい」
こいつとのお喋りは楽しくない。
さっさと部屋に行こう。さすがにアタシも少し疲れた。
◆◇◆◇◆◇◆
目を覚ますとベッドに居た。
知らない天井だ、なんて思ってもみたがどう考えてもここは宿だ。だって私の横には涎を垂らしたティナが幸せそうな顔――つまりアホ面――で眠っているし、隣のベッドには少し顔色がマシになったカクが眠っている。
サークィンではお金があったのでベッドが4つある部屋を取っていたが、どうやらここは2つしか付いてないらしい。なんか久々に間近で見た気がする。
まあこれが普通、というよりサークィンやその後の船での生活は少し贅沢すぎた。ティナを起こさないようにと慎重に降りてっと……わ、くっつくな、くっつくな!
ふむ、ベッドに入った記憶も無ければ眠りについた記憶もない。なのに鎧やマントは脱がされ綺麗に畳まれベッドの横に置かれている。一体どんな自動運転をしたんだか。てかいつもあんな綺麗にしてたっけ。
しかし一緒のベッドか。そういえばダニヴェスの宿は安くてもベッドが人数分ある部屋も多かった。魔人は寒さに強いともいうし、温かさよりもプライバシーを優先していたのかもしれない。いや知らんけど。
軽く伸びをし、ついでにカクの居るベッドを見てみると、どうにもレニーの姿が見当たらない。
窓を覗いてみれば辺りはもうすっかり暗い。一体どのくらい寝ていたんだろうか。そしてレニーはどこに行ったのだろうか。
よくよく外を見てみれば、日はすっかり姿を隠しているくせに、人の往来がかなりある。サークィンでは夜に人が出歩いているのも珍しくはなかったが、さすがにここまでではない。……もしかするとそこまで夜更けってほどでもなかったり?
まあ正しく夜だとして、そう考えて見てみればここは確かに呪人の街だ。呪人はあんまり寝なくてもいいと聞いたことがあるし、これが彼ら本来の生活スタイルなのかもしれない。
ふむ、レニーは外に出たんだろうか。というかこれだけ騒がしいのに他の2人はよく眠ってられるな。……いや、私もあんまり人のことは言えないか。さっきまでぐっすりだったわけだし。
部屋を確認。ベッドが2つに毛布が4枚、机が1つと椅子2つ。お、天井に室内灯がついてる。てことはどっかにスイッチが……あった、けど点けるのは止めとこう。起こしちゃ悪いし。
幸いにも私にとって暗さは大した問題にはならない。まあ完全に光がないとこだと魔力視もダメになるみたいだけど、窓から多少光が漏れ入るだけでも十分なのだ。
んーっ! ともう1回体を伸ばす。部屋に鍵がないってことは、多分レニーは外出中だろう。時間は分からないが、受付で鍵があるか聞いてみよう。本当に外出してるなら多分預けてるはず。
変な時間に起きちゃったし、妙に頭がすっきりしてる。二度寝はできそうな気がしない。どうせだしちょっと外をぶらついてみようか。ポシェットを掛け、マントを羽織り、ダガーは……一応持っていくか。念の為って奴だ。
扉も音がならないようそーっと開ける。軋むような古い扉じゃなくてよかった、と開けつつ気づく。廊下が妙に明るい。
どうやらかなりの量の室内灯が置かれてるらしい。こんなにいくつも点けられるだなんて、魔力の使用料は結構安いんだろうか。
というか1つ1つの光量も凄い。ライトの形さえ見せなければ現代の木製家屋の廊下だって言ったら騙される人が居そうだ。ダールに帰る時に買えたら買っていこうかな。
部屋の番号は201。これを忘れると悲惨な事になるから必ず覚えておこう。私は結構忘れっぽいのだ。
さて、と1階に向かってみればロビー兼食堂といった感じの広い部屋がある。やや懐かしい、安めの宿でよくある奴だ。
そのくせ魔道具がしっかり並べられ十分な明るさがある。なんというかミスマッチな感じがする。この町では魔道具が安く買えたりするんだろうか。後で市場調査してみよう。
受付には当然ながら人は居ない。こんだけ人が歩いてるならまだ眠ってないはずだし、多分ここに居ないだけだろう。
「すみま……」
と声を出してから気付いた。受付に魔力の目立つベルが置かれている。多分これも魔道具だろう。
人通りはあるものの夜は夜。あんまり大きな声を出さなくて正解だったと思いつつ、ベルに手を掛け振ってみるが、音は鳴らずに魔力だけが放たれる。静言や遠報に似た術だろうか。
にしてもこのベルは結構な重さがある。魔力が蓄えられている辺り"充電式"なんだろうか。魔力を蓄えられる魔道具は大体高いイメージがあるんだけどなあ。
ひっくり返してみたり、耳元で揺らしてみたり、なんとなくこのベルを調べていたら受付の奥から足音が聞こえた。どうやら起きていたらしい。
「201の鍵、ありますか?」
「あるよ」
やや不機嫌な表情の男性が現れた。これはあれだな、きっと私がベルをこねくり回したせいで何度も通知音的なのが響いたんだろう。
私の言葉に怪訝そうな表情を一瞬作ったが、すぐに無表情になり回答してくれた。もしかすると私の顔を覚えていないんだろうか? 少なくとも私は覚えてないが。
「一緒に居た大柄の呪人の男性、外に出てますか?」
「2時間ほど前か。この鍵を預けて外に出たよ」
「あの、今って何時ぐらいですか?」
2時間というワードが出てきて驚いた。あまり細かく時間を管理する習慣がダニヴェスやアストリアではなかった。
普段の会話で自然に出てくるということは、時間を気にできるような道具があるのかもしれない。
「21時と半分を少し過ぎてるな」
「1日って何時間ですか?」
「そりゃ26時間だろう」
ビンゴ。腕時計のようなものを付けている。……考察は一旦置いといて、とにかく時間を測ることが出来ているらしい。
魔人大陸では1日は26時間に分けられているが、どうやら呪人大陸でも同様らしい。これでいきなり1日は4時間だとか言われたら困っていた。良かった良かった。
「ありがとうございます。ちょっと外に出ます。言付けを頼めますか?」
「お前さん魔人じゃないのか? ……まあいいか。25時には鍵は閉めるから、それまでに戻るんだな。で、誰になんと伝える」
「すれ違いに外に出ました、24時までには帰ります、と。201の鍵を受け取りに来た大柄の男性にお願いします」
「ああ、分かったよ。16ガランだ」
か、金を取るのか……まあ仕方ない。背に腹は代えられないし、16ガランなら安い。
ヘッケレンでの通貨はガランとベルの2つがあり、1ガランは小銅貨1枚よりちょっと高いくらい。ベルは128ガランの事を指している。
すぐに頭に浮かんだのはセントとドルの関係。大体似た関係だと考えればすぐに頭に入った。やっぱり似たようなものを知ってると覚えやすい。
ただ大体1ドルが100円だとして、1ベルは中銅貨10枚、多分1000円くらいに当たるのがちょっと違う点か。日本で硬貨と紙幣を円と札みたいに呼び分けたら似た感じになるかもしれない。
ガラン硬貨は1ガラン、4ガラン、16ガラン、64ガランの4種類であり、それぞれ素材や比率が違うのか色が異なる。2の冪を1つ飛ばしにした感じだから感覚的に覚えやすい。4つ揃えたら次の硬貨と覚えて良い。
ベルも同様に1つ飛ばしの2の冪で64ベル硬貨まで。64ベル硬貨は小銀貨3枚より少し安いくらいであり、それ以上の硬貨は存在していない。
魔人大陸でも大銀貨なんて滅多に使われてなかったし、使い道がなさすぎて256ガランは作らなかったのかもしれない。それか単に1つの硬貨に256ガランもの価値を持たせられなかったとか。大銀貨もそのもの自体には小銀貨16枚分の価値はないらしいし。
しかし魔人じゃないのか、とはどういうことだ。もしかしてこの人は見分けることが――
「おいどうした。行くんじゃないのか?」
と、そうだった。このタイミングは考えてはいけないタイミングだ。町でもぶらつきながら考えよう。
宿を振り返り名前を確認する。水鳥の宮か……やっぱ出ない方が良いだろうか。迷子になりそうな気配がある。
せめて昼間なら町の地図を買えたかもしれないが、この時間じゃさすがにやってないかもしれない。
さて、外に出たは良いが特に用事もない。そもそもなんで外に出たんだっけ? ……ああそうだ、二度寝出来そうにないからだった。案外寝ぼけてんだろうか。
ともかく、適度に眠くなれればいいんだ。例えば運動……はこの時間には多分無理だろうから、じゃあお酒でも……うーん、これもどうだろう。
最近お酒を飲みすぎている気がする。いくら魔人とはいえ16歳で飲みまくりはどうなんだろうか。まあダールでは小さい子でも薄いアルコールを普段から飲んでいたし、あまり問題にはならないのかもしれない。
と、あまり考えるのはよくないか。気付けばもう水鳥の宮が見えないところまで来てしまった。私の足は勝手に動くのが長所であり短所でもある。
町の景色を見ながら歩こう。そうすれば迷子にはなりづらい。迷子になりやすいのは周りを見ずにぼーっと考え事をしながら歩くせいだ。
@ustrdin 25時間前
都市丸ごと使った魔法陣書いてるなう
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@angelia 5時間前
嘘乙
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@ustrdin 3時間前
ほんとほんと。今度見に来てよ
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@angelia 3時間前
アルムーアでしょ?遠いじゃんめんどい。渡航費出して
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@ustrdin 3時間前
ワーサンに伝えとくよ。後払いになるけど大丈夫?
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@angelia 2時間前
おっけ、5年くらい待ってて
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