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八話 先生1

2020/09/21 改行、ルビ修正

 3日経ってサンが目を覚ました。ロニーは相変わらず意識が戻らない。

 サンが目覚めた。とユタに伝えると、彼は急いで医師を連れてきた。

 その後、ローブを羽織った人が来たりしてなんだかんだで1時間くらい診察されていたらしい。


「ユタ、アン、心配かけちゃったね……ってセレン!?」

「久しぶりだな、サニリア。街が騒がしかったので見に来た」


 セレンがサン、本名サニリアに簡単に説明をする。


「セレン、ありがとう。来てくれるなんて思ってなくて、少し驚いちゃった」

「困った時はお互い様だ」


 私達は今、長宿と呼ばれる宿泊施設に居る。1日単位で取るものではなく、数週間、数ヶ月と長期間で借りるタイプの宿だ。

 冒険者と言えば1日限りの宿を使うイメージがあったが、実際はそうでもないらしい。

 というのも、ダンジョンを攻略するとなると拠点が必要になり、しかし毎日宿を借りるとなると高くつく。

 そのためこういった長期間借りられる場所が重宝されると言うわけだ。多分。


「サニリア。ユスタディンとアンジェリアが戦闘技術について教わりたいとの事だ」

「……え?アンも?」

「うむ。本人からの希望でな。俺からすると、ちと幼すぎると思うんだが……」


 セレンさんが疑問の表情を浮かべつつ言う。私としてはあの化物から逃げられるくらいには魔力を扱えるようになっておきたい。所詮はまだ1歳児なのだが。


「確かに魔力の扱いを教えるべきだとは思ってたけど……でもまだ1歳だし……うーん……」

「僕が一緒に居るし、危険は無いと思うよ。それにアンは僕より賢いからね」

「ユタが一緒なら確かに……でもねえ。まだ1歳よ?」

「僕の時も、1歳の誕生日を過ぎてから母さんが教えてくれたから、一緒じゃない?」

「そう言われるとそうなんだけどね……」


 サンが迷っている。当たり前だ。1歳を迎えたばかりの我が子を他人に預けるなんて、中々難しいと思う。

 しかし、学んでおきたいのでここは私も説得に入る。


「アン、まりょく、つかいたい」

「うーん……そうね、魔人(マジケル)は魔力と切っても切れない関係だからね。セレン、お願いしても?」


 サンはベッドの上で、頭を軽く下げる。

 やった!これで魔術やらが本格的に学べる。


「ああ。まあ最初は魔力量の増加とその制御に務めさせるさ。

 アンジェリアは魔力がかなり多いからその分難しいかもな。

 だが録石なんかは扱えたほうがいいだろう?ここは魔人の街だ」


 先生!録石ってなんですか!

 基礎からってことかな?地味そうだけど、基礎が大切なのは前世でもよく聞いたからな。


「ユスタディンの方はロニーが色々教えてたんだろ?その時間を使っての訓練になるな。

 そこらへんは直接話して色々決めてきゃいいか。ユスタディン、ロニーからどんな事を教わってた?」

「剣術と、その剣の構成方法について、後は属性の付与や維持とか―――」


 サンとユタ、それからセレンが会話を進める。なんか蚊帳の外にされた気分だけど仕方ない。

 それより学べるようになった事の方が大きい。やはり日本人としては、魔術や魔法は興味をそそるものだ。



◆◇◆◇◆◇◆



 8日後。私はセレンと一緒に、西の広場近くの空き地?に居た。


「さて、今日から魔力の扱いについて教えるが……どのくらい自分で扱えてるんだ?」

「わかんない。まりょくは、みえるよ」

「そうか。目か……まぁそれは後々でいいか。魔術は使ったことないよな?」

「うん、たぶん」


 化物に会ったときに意思を伝える何かを覚えたが、あれは違うだろ。多分。


「なら基本からだな。自分の中の魔力は……お前の場合は目だな。見えるか?」

「うん」

「ならその魔力を手に集めるイメージは出来るか?」

「やってみる」


 例の化物のおかげで魔力の動かし方はなんとなく理解はしているつもりだ。某忍者漫画のチャクラみたいなもんだ。そういえばあれの続編はどうなったんだろう……戻れないけど、やっぱりちょっと気になる。

 っとそうじゃない。今は手に魔力を集めるのだ。螺旋○のイメージだ。右手で良いか。


「はい」

「お、こっちの説明で出来るならお前はイメージ派だな。なら、その魔力を俺に投げつけてみろ」


 気○波だな。オーケーこいつを大きく振りかぶって……あれ?飛んでいかない。


「ふむ、内操作系は良いが外操作系は……なら、次はその魔力を増幅させてみろ」

「どうやって?」

「そうだな…魔人なら周りの魔力を手に集めるんだ。言葉じゃ説明しづらいからな。見ていろ」


 そう言ったセレンは右手に魔力を集めていく。おお、周りの魔力が彼の手に集まって……なんだこれ。例えるならブラックホールみたいだ。


「こんな感じだ。魔力は集めすぎると、周りの魔力を延々と吸い込みはじめて、最後には爆発してしまうからな。操作に慣れるまではあんまりするもんじゃないが……俺が居るから今は問題無い。さあ、やってみろ」

 そう言って、手にあった魔力を霧散させるセレン。ちょっとかっこいい。

 私がやることは、オラに魔力を分けてくれって感じかな。よっしやってみよう。ぐぬぬぬぬ……。


 ……3分くらい集中してみたがさっぱり集まらなかった。才能がないのかもしれない。


「これもダメか。アンジェリアは魔力自体は多いが、その魔力を活かせてないし、外操作もあまり得意ではないな。魔人としては……と言った感じだが、ちょうど俺は呪人(セクセル)だ。呪人は周りの魔力を活かすのは基本的に苦手だからな。却って教えやすい」

「アン、ダメなの?」


 魔人としては失格だが、一般人……呪人としては普通か。なんというか……まぁ、自身の魔力自体は多いらしいので問題なかろう。多分。問題あるって言われても自分じゃどうしようもないぜ。


「どうだろうな。呪人としては普通だが、魔人としては……いや、俺は魔人じゃないからどうだか分からんが、そのうち出来るようになるのかも知れん。ロニーは外操作系に秀でた魔人だしな。

 まあともかく、周りの魔力を扱えないなら、自分で魔力を生むしかない。しかし、実際魔力自体を生み出せるわけじゃない。だから、全身の魔力を一箇所に集めるんだ。さっきよりもより強く。今は周りの被害なんて考えなくていいぞ」


 残念ながら私は魔人としては落ちこぼれらしい、まあいいや……魔術が使えるだけで楽しそうだし……っと、そんな事より全身の魔力を手に集めるのだ。さっき以上に。さっき以上に?さっきもかなり全身の魔力を集めたんだが……まあ、やってみるしかない。全力だ。ぐぬぬぬぬ……。

 全身の魔力を右手一点に集める。イメージは流れを持った球体だ。やっぱり螺旋○だ。……全身が気だるくなってきた。その辺りでセレンから声が掛かる。


「よし!一旦そこで止めて、維持し続けるんだ。それ以上となると俺でも中々打ち消せなくなる」


 維持……維持?一箇所に集めるのは全身を流れるイメージで出来たが、維持?そう考えているうちに、手に集めていた魔力が空間へと流れ出ていってしまう。ああ、私の魔力達……。


「一定量を流し続けたり、維持するのは苦手か……ならゾエロ系統、纏身の練習が重要になりそうだな」


 ゾエロって、ユタが前に唱えてた奴か。聞く分には身体強化系っぽいが……。


「ゾエロは体に魔力を纏わせる魔術の1つだ。元々魔力は人体を流れているが、これを外部に移送し、しかし逃げてしまわない程度に維持をしつつ、その身体の強化に当てる。例えば……」


 セレンは徐に川辺の石を掴む。水切りには向かないような、少し大きめの石である。


「これは硬い。それもすっごく硬い。だが……リュニズ・(……より多くの魔)ゼロゾエロ(力よ、我に纏われ)


 魔術を唱えるとセレンの手……いや、指だ。人差指と親指に魔力が強く集まる。そして……石を握り割った。たったの指2本で。鬼の背中の人かよ。


「魔力ってのは体の動きを補佐するもんだ。んで、こんな感じに1箇所に集めればこのくらいは出来るようになる。

 この技術は魔術師と言うよりかは魔戦士がよく使う。そこらの戦士も無意識にこの魔術を使っている。これを使えなければ、戦士としてはやっていけないからな。闘気とも呼ばれる技術の1つだ。

 これが出来ないと魔人の街じゃ生き辛いだろうな。魔石を使わない魔道具はこれが出来なきゃ話にならないし、魔人の街にはそういった魔道具が多いからな」


 セレンはそんな説明をしながら、鞄の中から道具を取り出す。


「ここにランプがある。これも魔道具の1つだ。試しに魔力を送ってみろ」


 私は渡されたランプ……電球に近いな、に魔力を送ってみる。おお、明るくなった、と思ったらすぐに消えてしまった。


「きえちゃった」

「最初はそんなもんだ。その光が消えないように、でも明るすぎないように魔力を送り続けてみろ。それが最初の訓練だ」

「がんばる」


 ランプに魔力を送り……不安にならないように、一定量を延々と送る練習がはじまった。


 なるほど地味だ。基礎練ってのはやっぱこんなもんか。しかしランプですら魔道具なのか……中世ファンタジーだと思っていたけど、案外科学の代わりに魔術が発達してる世界なのかな。魔学とでも言うのか?

 この手の世界だと「魔術で火を起こせるならライターもコンロも要らないよね」ってなってそうだけど、そうでも無いのかな?魔術を扱えない人もある程度は居るんだろうし。


 なんて考えていたら、1時間くらい経ってしまった。さすがに飽きてきたぞ。1時間ランプに魔力を送るだけの修行ってのは。と思っていたらセレンから声が掛かる。


「一旦休憩するか。そればっかりでもつまらないしな。魔力もほとんど……いや、全然減ってないな」

「あきたー」

「魔力が多いとは聞いてたが……なるほど、じゃ、簡単な魔術の練習してみるか?」

「うん!」

「じゃあ最初はエル・クニード(水よ、溢れろ)だな。出し過ぎたら俺が消すから全然問題無い。さっき手に魔力を流すイメージをしたろ?それに手から水を出すイメージを加えるんだ」

「水……」

「こうだ。エル・クニード(水よ、溢れろ)


 セレンの指先から水が溢れ出す。水道の蛇口から出る水のように、綺麗に一本の筋を描いて……あれ?地面に着く前に水が消えてるぞ?


「水きえちゃうの?」

「ああ、これは体内の魔力を使ってるからな。体内の魔力で生成した物質は消えちまうんだ。もちろん、どのくらい残るかってのも自分で決められるけどな」


 なんだそれ。すげー便利じゃね?洗濯物を乾かす手間が省けるな!……飲水なんかに使えないのは難点だけど。


「さあ、やってみろ。最初はすぐ消えちまうだろうが、慣れれば1日くらいなら消えない水だって作れるようになる。要は、イメージだ」


 なるほど……すぐに消えるかどうかも考えなきゃいけないのか、面倒だな。とりあえずは水を出す事だけを考えて……。


エル・クニード(水よ、溢れろ)


 私の手から水が溢れ……出さない。いや、水自体は発生しているんだが、外に出ると同時にすぐ消えてしまっているようだ。


「やっぱり維持は苦手なんだな。そろそろ良い時間だし、エル・クニード(水よ、溢れろ)の詠唱だけ覚えておいて、暇な時にやってみろ。寝て起きても消えない水を作るのを目標にだな」

「ずっとしゅうちゅうしないと、水ってきえちゃうの?」

「いや、そんな事はない。水を出す時にどのくらいの長さで維持するかを決めるんだ。起きるまで消えないようにって考えながら水を出して、そんで寝るんだ」

「むー」


 さらっと難しい事を言われた気がするが……まあやってみるしかないだろう。すぐに消えてしまうんじゃ暖炉にすら使えない気がする。いや、魔術の火が燃え移った場合は消えてしまっても良いのか……?分からん。そもそも火は現象で水は物質だからな……魔力ってのがどんだけ応用が効くのか分からない現状、考えても無駄か。


「さて、1日3時間までってサニリアに言われてるからな。今日はここまでだ。これから買い出しに行くが……一緒に行くか?」

「うん」

「よし。なら歩きながら、色々教えてやるか」


 そこからはセレンの魔力や魔術に関する説明が入った。ユタから聞いていた事も多かったが、それ以上に知らないことのほうが多かった。

 魔力とは、この世界のどこにでも、それこそ空気や地面、水や生物の体にもあるらしい。今の私じゃ生物の魔力くらい圧縮されていなければ見えないが。

 魔力量とは、その物体が体の中に保持していられる魔力の総量の事で、これによって使用できる魔術やその回数が決まるらしい。要するにMPだな。因みに魔力だけの生命体も居るらしい。ゴーストとか呼ばれるらしい。生前お化けなんて信じてなかったが、まさかこっちの世界には存在しているとは……。

 魔術とは、魔力を利用して何かに変換する事象全般の呼び名らしい。魔言と呼ばれるワードを組み合わせるのが基本で、そのワードを利用するのを詠唱と言う。もちろん口に出さずに自分の頭の中だけで処理出来るようになれば無言でも良いらしい。つまり無詠唱というやつだな。

 魔言とは、魔術や魔法の発動に於ける……触媒や翻訳機のようなものか。魔術を発動させる上で最初に覚えるべきもので、脳でのイメージングを代わりに行なうものらしい。条件反射のようなもんだろうか。魔言がいつ作られたのも分からないんだとか。

 とにかく覚えることが多そうだ……大変だ。

この後セレンとめちゃくちゃ買い物した。

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