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短編

ワニさん。

作者: 382

 「お嬢、そろそろお起きろ」

 「ん?んぅ……」

 小さな手で目をこすり、開ければ見慣れた世話役の顔が見えた。

 強面だがスッとした顔立ち、目は細く、強い印象を受ける。歳は29、体躯は大きくあらゆる武術に通じているため、ボディーガードも兼任している。

 「ワニさん、おはよ」

 「ああ」

 ワニブチ。それが彼の名前だが、「ワニさん」と呼ぶのは彼女だけ。

 ベッドの上でボーっとしていれば、ワニブチがテキパキと準備を始める。

 この家では、12歳の姉と7歳の妹それぞれに世話役が付けられている。ワニブチはサヤが生まれた頃に見習いとしてやってきて、今に至る。

 「ほら」

 「いい。今日は自分で着る」

 いつもなら着替えは彼に任せきりなのに、伸ばされた手を避けるように横を向き、自分でパジャマのボタンを外そうとする。

 「珍しいな」

 「お姉ちゃんが、大きいんだから自分でしなさいって」

 「そうか」

 僅かに眉を寄せるワニブチだが、ボタンを外すのに手間取っているサヤには見えない。

 「できた!」

 パジャマを脱ぎ捨て、用意されたシャツにスカートを穿いて、リボンを止める。が、所々ヨレヨレで、リボンも曲がっている。

 「……」

 「あ!サヤがやる!」

 「直すのはダメとは、言われてねえだろ。」

 「……そっか。」

 シャツを入れ直してやり、曲がったリボンを直してやる。

 「おねーちゃー!」

 脱ぎ捨てた服もそのままに、サヤは姉に見てもらおうと部屋から出て行った。

 「やれやれ。」

 残されたワニブチは服もベッドも整え、通学かばんを持ち部屋を出る。廊下ではサヤとその姉、チヨが話していた。

 「見て!今日は自分で着たよ!」

 「まあ、すごいわ。……本当に自分一人で?」

 「着たよ!」

 「本当に?」

 「……ちょっと、ワニさんに手伝ってもらった」

 バレた。と、ばかりに目をそらし、少し口を尖らせれば、そんな妹の頭を撫で、チヨは小さく笑いながらも「じゃあ、また新しい事にチャレンジしましょうね」なんて言ってやる。

 姉妹が手を繋いでリビングの方に向かえば、ワニブチはチヨの部屋から出てきたエリを見やる。

 チヨの世話役を務めるエリはワニブチに無言で一礼すると、別方向へと歩き出した。

 「………」



◇◇◇◇



 「お父様」

 「ん?どうした?」

 「ワニブチさんの事なんだけど……」

 「彼がどうかしたか?」

 「サヤの世話役から外した方がいいんじゃないかしら?サヤも大きくなるわ。いつまでも男の人じゃ、サヤも恥ずかしいと思うの」

 「ふむ。赤ん坊の頃からだから、あまり気にした事もなかったが……。しかし長年勤めてくれた彼にいきなり「辞めてくれ」とは言えない。新しい勤め先を見つけて、女性の世話役を迎えよう。それなら、彼も安心だろう」

 「そうね。ありがとうお父様」

 チヨは笑顔でお礼を口にするが、父親の書斎から出れば顔を曇らせた。

 「(私の気のせいなら彼に申し訳ないけれど……でも、彼は何か怪しい)」

 何が。とはハッキリしないのだが、彼を見ていると心がざわついてくるのだ。

 「お嬢様、お庭でサヤ様がお待ちになっております」

 「……分かったわ。ありがとう」

 エリに何度か相談しようとしたが、やめた。

 自分の想像で事を大きくしたくなかったからだ。


 しかし、自分の警戒が間違っていなかったと気づいたのは、父親が冤罪に掛けられ、警察に連れて行かれたと聞いた瞬間。

 給仕長のハヤシや他の者達は動揺しながらも、決して皆を混乱させまいと下の者に声を掛けていく。家が混乱に陥っている中、ワニブチとエリが家の乗っ取りに成功。気づいた時には、ほとんどが彼らによって奪われていた。

 「貴方…ッ!貴方がお父様を!」

 「ハハハ。何を根拠にそのような事を?」

 家も何もかもを奪われ、追い出されたチヨはワニブチの腕に収まるサヤに手を伸ばす。

 「サヤを返して!」

 「残念だが、サヤはもうお前の妹じゃない。」

 エリが書類を見せてやれば、いつの間にかワニブチの養女になっているサヤに、チヨは目を見開く。

 「あな、貴方、何が目的なの!?サヤまで!」

 「お嬢さん、ここはもうお前の家じゃない。これ以上この敷地内に居座るつもりなら、通報も辞さないが?」

 「……ッ!」

 この家の人間……使用人も含むほとんどの人間が追い出される中、ハヤシに促され、チヨは悔しそうにその場を後にする。

 「ワニさん、お姉ちゃんどこ行くの?何で怒ってたの?」

 「チヨお嬢様は……--」

 チヨが何故怒っていたのか、父親がどこに行ったのか分からないサヤは、クロコダイルに訊く。分からない時は、彼に訊くのが一番だから。

 彼の言葉に疑問を抱かず、サヤはよく分からないままに返事する。

 「サヤお嬢様が真実を知るのは、何時になるんでしょうね」

 エリの言葉にワニブチは睨むように一瞥し、屋敷の方へと戻る。


 「サヤお嬢様は、最初の計画には入ってなかったでしょうに」



(彼は、人に執着しないと思っていたのだけれど)

法律関連をうやむやにする為、世界観をぼかしてます。

一応企んでる系な話なので、サスペンス。サヤとワニブチのほのぼの(?)したお話でヒューマン……と、分けてみましたが、これ、どの分類が正しいんだ……?


人物紹介

【ワニブチ】

とあるお屋敷にて、サヤの世話役兼ボディーガードを務める29歳。

暴力団関係の方ですか?と、訊かれそうな風貌。性格と口調を表と裏で使い分ける。

とある目的の為、お屋敷に潜入する。

【サヤ】

ワニブチに甘やかされて育った8歳。

考える事も、何かする事も、全部ワニブチ任せ。本人曰く「ワニさんに間違いはない」

お姉ちゃん大好きっ子ではあるが、ワニブチと比べたら若干ワニブチに軍配が上がる。

ワニブチに抱っこされるのが好き。

【チヨ】

サヤの姉。12歳。

サヤとは違い、自分で考え、自分でできる子。賢い子故に、ワニブチに疑惑を抱く。

【エリ】

チヨの世話役。

涼しげな顔立ちのスレンダー美女。体術ではワニブチに劣るが、他は卒なくこなす。

【父】

サヤとチヨの父親。

古くから続く名家の現当主。

性格は穏やかで、あまり人を疑わない性格。

【ハヤシ】

長年、お屋敷で給仕長を務める女性。

朗らかでいつも笑ってはいるが、食事に関しては誰にも譲らない頑固さを持つ。

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