嫌な予感がするんだよ。
アークロルド目線。少なめです。
やっとまともな会話が出来ると思ったら、今度は会話文が多くなっちゃいました。
「勘違いするな、馬鹿。このガキは「可愛い女の子かと思ったらヤクザかーい‼」
人の言葉をさえぎって、悲鳴のような大声を出すガキ。おい、本音出ちゃってるぞ。まあ…オレも初めてシャロッツに会ったときは、驚いて、ちょうどさばきかけの獲物の内臓を投げつけた。あれから11年経つが、シャロッツは未だにその事を根にもっていやがる。
そんなシャロッツの目が、ガキに行った。
「ご、ごめんね、ボク。ビックリさせちゃったね、大丈夫?でも、あの…やくざって、何?」
「ぅえ!?そ、そのー…ぼくちいさいからむつかしいことはわからないなー…」
こそこそとオレを楯にしてシャロッツを見上げるガキ。
オレの連れは悪人面だからな。たいていのガキは泣いて話にならねえが、さっきまで問い詰めてたオレの後ろに隠れるとは、ずいぶん肝が太い。
「嘘ついてんじゃねえよ。ガキィ、てめえホントはいくつだ?何を隠してやがる。」
「うわわ、おっさ…お兄さん怖いよ、ぼくなんにもかくしてなんか…」
「くっ、アークノルド、おっさんだって。あはは、こんな小さい子に何すごんでるの。あはははは。そんなに老けて見られたのがイヤだったの?」
「シャロッツ。お前はもう少し周りをよく見ろっつってんだろうが!いいから黙っとけ!おい、ガキ、てめえはどこに逃げようとしてんだっ。」
すこし目を離した隙に、ガキが聖霊に乗ってどこかへ飛ぼうとしていた。首根っこを掴んで止める。オレとシャロッツの真ん中に置いた。
「ちっ。ばれたか。」
「え、ちょっと待って。すごいすごい、ボク、そんなに小さいのに聖霊使いなの?…アークノルド、本当にこの子供どうしたの?」
「拾った。詳しい事はこの坊主に直接聞け!こいつ、オレに嘘をつきやがったんだからな。さあ、今度こそきっちり答えてもらおうじゃねえか…!」
「拾ったって…うん、でも、そうだよね。いくらなんでも、アークノルドが小さい子どもを誘拐するはずないよね。子ども、嫌いだもんね!」
信じてたとでも言いたげだが、シャロッツ。お前オレの首狙ってたよな。割りと本気だったよな?
じたばたムダなあがきをしてたガキが、不意に大人しくなった。
「うぅ…。……うーん、分かった。なんか、あんた良い人そうだし、流石に俺も右も左も分かんないところで、協力者が欲しかったし…。うん、もう嘘はつかねえ。俺はあんた等を信じるよ。」
ガキの雰囲気が変わった。シャロッツが何か空気を読まずにしゃべりだそうとしたから、横目でにらんで止める。すねたような顔すんじゃねえ。気色悪い。…協力者?嫌な予感がするんだが、ここまで来たら、全部聞かないと気持ち悪い。
「じゃあ聞くが、お前は何者だ?」
「あー…そこからか。一番信じてもらえないヤツだ。」
「いいから言え。信じる、信じないはオレが自分で判断する。」
「できれば信じて欲しいなぁ。えー、俺は門野優。多分、異世界から来ましたぴちぴちの一七歳でっす。」
異世界。一七歳。どっちも、すぐには信じられない。言葉も通じてるし、聖霊だって付いてる。正気を疑う内容だが、ガキには不釣り合いな言葉づかいと、態度なのは確かだ。
「えーっ一七歳?全然そうは見えないけど、イセカイの人ってみんなそんなかんじなの?」
「やだなあ、そんな訳ねえじゃん。俺、いつの間にかこっちに飛ばされて、気がついたら体が縮んでたんだよ。いくつくらいに見える?誰かに聞かれた時の参考にしたいから、ちょっと教えてくんね?えーっと、シャロッツさん。」
「そうだねー。…五歳くらい?あとね、遅れちゃったけど、僕の名前はシャロッツ・ヴァーミコート。職業は猟師で、筋肉族の二五歳。よろしくね。」
「よろし…筋肉族って言った?今。」
「言ったよ。知らないの、筋肉族。か、かづ、きゃ、…ごめん、もう一回お名前聞いてもいい?」
「か、ど、の、ゆ、う。言いにくいなら優って呼んでくれ。俺もシャロッツさんの名字は発音できないわー。」
「えー、本当?ヴァーミコートだよ、ヴァーミコート。」
「ば、バーミコート。」
「あはは、ほんとだ、出来てない。惜しいね。」
「お前等、会ってすぐに馴染み過ぎじゃねえか?!シャロッツは人を疑うってことを覚えろ!坊主は…がああッ、もういい!とりあえず信じてやる‼異世界だろうが、縮んでようが、関係ねえ!」
頭をかきむしりながら、何とか状況を整理する。
ガキとシャロッツは、並んでオレに拍手した。…………何で。
「さすが、アークロルド。カッコいいよ!」
「いやー、漢気だねぇ。そんな直ぐ信じて貰えるとは思って無かったわー。」
…お前等、ホントに今会ったばっかりなんだよな?かなり息合ってるが。
「…で、異世界から何の用で、どうしてここに来たんだ。」
「うん、それな。俺にも分からねえ。さっきもちょっと言ったけど、いつの間にか森の奥に一人で立っててさ。周りには誰もいないし、焦ったよ。誰か人間がいねえかなって散策してたら、変なのに捕まるし…あー!嘘ウソ!しょげるなよシロクマ!変じゃない、キレイだぜシロクマ‼」
ガキの言葉に、聖霊が黒っぽく変色して、地面に力なく落ちる。あわててなだめるガキを見つつ、ずいぶん表現が豊かな聖霊だと驚いていた。分かってる。現実逃避だ。この子どもが何を言ってるのか、オレには理解出来ない。
「捕まる…。それにしては、ちゃんと契約出来てるね。ひょっとして、ユウ君、彼に血をあげたりしたかな?」
「血ィ?あ、えー、あげたっつーか、吸われた?」
「やっぱり。で、お名前もつけてあげたんだ?」
「お、おお。聖霊って、シロクマのことだろ?契約って、どういう意味があるんだ?」
「うん、えっと、聖霊と契約するっていうのは、聖霊から一目惚れされて、お付き合いをはじめる…みたいな?」
上手く説明出来ないんだな。分かったからこっちを見るな。
「お前も聖霊使いだろうが…。何だよ、その適当な説明は。」
「マジか。シャロッツさんも聖霊と契約してんの?何、契約ってどのくらいの割合の人がしてんの?」
「正確な数字は知らんが、百人いたらその内の一人は聖霊使いだ。聖霊との契約ってのは、生きてる間は聖霊が契約した人間の言うことを聞くが、死ねば聖霊の糧として塵ひとつ遺さず喰われる。シャロッツの言う通り、聖霊に勝手に惚れられて、死んでも離されない…要するに、執念深いストーカーって覚えときゃいい。」
「ええええええ」
「し、神聖な聖霊との契約をそんな風に言っちゃうの、アークロルドくらいだよ…。」
「間違っちゃねえだろ。」
「でもでもっ、聖霊はスゴいんだよ?契約すれば、体が丈夫になるし、聖霊が知ってる言葉なら通訳もしてくれるし、それからそれから…。」
「え、通訳?聖霊って話せるんだ?」
「はあ?な訳あるか。耳に届いた言葉が、勝手に変換されちまうらしい。」
ガキはそれを聞いて、何か考えていた。それを横目に、シャロッツが言う。
「アークロルド。ユウ君、どうしようと思ってる?」
ガキが、勢いよくオレを見る。
「………面倒事はごめんだ。記憶が無いってんなら、近くの村に放り投げようと思ってた。だが、こいつの話は謎が多すぎる。一回、そうだな、ラーミェの商会でじいさんに指示をあおぐ。シャロッツ、お前はどうしたい。」
ガキが何かぶつぶつと呟いていたが、無視だ。
「うーん、そうだね。そうしよっか。…ユウ君、君はしばらくお兄さん達と一緒に旅することになったんだよ。心配しないで。きっと悪いことにはならないよ。僕の相棒は、ひねくれてるけど、本当はスッゴク優しい人なんだから。」
「……何だ、それは。どういう意味だ。」
「そのまんまの意味だよー。」
愛剣に手を掛けたら、不意にガキが地面に座り込んで、上半身を伏せてちいさくなった。
「俺は、この世界に来たばっかりで、何が何だかまだよく分からないですし、迷惑をたくさん掛けると思います。二人の親切に返せる物は、今はまだありません。でも、この恩は忘れません。いつか必ず、倍にしてお返しします。」
幼いながらも、どこか覇気を感じる、漢の背中だった。
「そーゆーのは、ユウ君のこれからが、ちゃんと決まってからでいいよ。でも、倍に返って来るのかー。いっぱい優しくしないとね。」
「………来い、ユウ。村ではお前は俺の弟で通すぞ。その方が面倒が少ない。」
春の夕暮れ。太陽がオレンジ色に変わり、すこし肌寒くなって来た。そろそろ村に寄って、今日の寝床を探さなけりゃならん。
ガキが立ち上がって、シロクマとかいう聖霊に乗る。シャロッツは嬉しそうにガキを見ている。お前、ガキは苦手だって言ってなかったか?
短い間だが、今日、俺達の旅にちいさな子どもが加わった。
筋肉族…スルーされちゃいました。
いつか書きます。