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ちいさな旅路  作者: 朝霞台りお
2/19

わあ、野生の動物さん!

目が覚めた。


えー…っと。……生きてる。死ぬかと思った。生きてる。死んだかと思った。ホントもう駄目かと…。


「はあぁぁぁー…。」


自然に涙が出てきた。昨日カピカピにしておいた裾で乱暴に拭う。

喉乾いた。お腹減った。でも、生きてる。あの痛みが嘘だったかのようだ。


「し、シロクマ。」


恐る恐る名前を呼ぶ。下っ腹に力を入れて待つが、特に何も起きない。良かった…。っていうか、名前…。ゲームとかでも、名前をつけるのが契約の証しみたいなのあるよね。全然何も考えてなかった。ホントにすまん。いくつか候補を出して、その中から気に入ったのを選んでもらうつもりだったんだけど。今さら変えられないよね!スッゲー適当な名前なんだけど、変更できる雰囲気じゃないよね!ごめんね!

…名前に関してはもういいや。不満そうとか分かんないし、ひょっとしたら気に入ったかもだし?


「…水、またもらっていいか?」


素直にまた半分だけ別れてどこかへ飛んで行くところを見送る。待ってる間、暇だ。この謎の生命体?にまた質問してるか。


「名前、気に入らなかった?」


あっ、気にしないつもりだったのについ聞いちゃった。

これでイエスとか答えがきたらどうすんだよ。どうすればいいんだよ。

シャン。横に一回転。うん?気に入ったの?!それはそれで驚きなんだけど!


「…よかった。」


ぐきゅるるるる。安心したら腹が吠えた。あーぁ、こんなことならカツアg…注意してないでさっさとコンビニ入れば良かった。いや…あの不良共が元からいなければすぐに買えたんだよ。クッソ、あいつら…機会があれば家の犬の糞投げつけてやる。もう顔も覚えてないけど。……待って。今気づいた。俺、帰れるのか?だってもう地球でさえなさそうだし…。糞投げつけるどころの騒ぎじゃねーじゃん。えええ?そういえば今日、俺日直だった気がする。皆勤賞狙ってたのに今何時かも分からないし、部活も今日は引退する三年生を盛大に送り出そうって、話し合いする予定だったのに。motherが帰り遅いから、今日は俺が焼きそば作ろうってfatherが言ってたのに。


「腹、減ったなぁ…。」


何か、一気に凹んだ。腹が減ってるからかな。ああ、凹んだら最近最も凹んだこと思い出した。弟が彼女を紹介しに家に連れてきたんだよ。あいつら中ガキ生なのに。俺なんか恋人出来たことねえのに。まだ子どもだと思ってたのに!別に欲しいと思った訳じゃないんだが、なんとなくおいていかれた感じがして、かなりショックだった。うわぁ、彼女さんと仲良くなりたかったのになぁ。それで弟の恥ずかしい話沢山暴露しようと思ってたのにいいいい!

あれ、なんか元気出てきた。ありがとう、弟。

帰れるかは分からないけど、努力を諦めたら本当に帰れないんだよな。しょうがない、頑張りますか。


「水、ありがとう。シロクマ。」


気持ちに区切りがついたところで、シロクマが水を持ってきてくれた。今度もありがたく頂く。うまい。


「よし。行くか。」


まずはコート拾いに。

第一歩を踏み出し、「ぃふぁッ」コケた。

うわー、嘘だろ。何も無い場所でコケるとか…阿呆なの?

訂正。俺は阿呆じゃなかった。シロクマの一部が分裂して、俺の足元に薄いひし形のタイルっぽいのを浮かせていたのだ。


「え?何?いじめ?」


シャラララララ!風を感じるくらいの速さでシロクマは回った。いやいや冗談だって。そんなに焦るな。三分の一くらい冗談だったって。……で、これ何?罠?

シロクマはちいさな人型を作ると、それをタイルの上に乗せる。


「……乗れ、と?」


シュッと残りのシロクマが上下する。やった、当たったよ!

…………………え?割れない?止めろよ、背中押すなよ。分かったから。乗るよ、乗る乗る。

浮いていたひし形がタイルにひとつだけ残して全て足され、足場が大きく安定する。

どーせならスケボーみたいにならないかな。とか思ったら一瞬で形が切り替わる。え、心読まれた?!それとも偶然?……。スケボーを意識して前に出るイメージを──動いた!マジか‼何これ楽しい!右へ、左へ、うわ、想像通りにスイスイ滑る。ってか、飛んでる!ひゃほーい!




∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇




宙返りとかして夢中で遊んでたら、道に迷いました。


「…ここはどこなんだろう。」


もう、コートは諦めよう。とりあえず地上に出よう。お腹減ってるのにはしゃぎまわったから、ちょっとお腹痛いです。馬鹿だなぁ。


「シロクマさ、外に行く道知ってる?っとわ」


知ってるらしい。勝手に動き始めた。もうマジお世話になってます。シロクマにタイミングを合わせてスケボーに乗ることおよそ五分。外に出た。例の太陽はほぼ空の真ん中。昼か。


「うわー…。超気持ちいい。」


空を飛ぶとか。最高じゃん。どんどん高度を上げて下を眺める。

お、川見っけ。ん、何かあの辺チカチカしてるな。行ってみるか。


「何があるのかなーっと。」


軽い気持ちで覗いて、血まみれのおっさんを見た俺は全力で後悔した。そして叫んだ。


「いぎゃああああああああああああ‼」


振り向く影。おっさんしか見えてなかったけど、もう一人いたらしい。そいつは随分背が高く、ボロボロの──


「OOOOOOOOOOOOOOOOh‼」


人じゃないよ!熊さんだよ?!うわあ、昨日ウッカリ会っちゃわなくて良かったぁ。


「はぁ?!なんだってガキがこんなトコに!しかも飛んでる?!」


知らねーよこっちが聞きたいわ‼何で俺はこんなとこにいるんだ!


「Grrrrr…GAAAAAA!」


おっさんがこっちを見た隙に、熊がその太い腕を薙いだ。「…ぇ」


「ァごッ」


おっさんはもろに爪に当たり、その勢いのまま近くの木に叩きつけられた。それっきりピクリともしない。まさか、し、死ん…。


「ちょ、おい!」


俺の声に振り向いたのは熊の方だった。いや人違いですノーノーノーワタシアナタヨンデナーイ。だからそんな勢い良くこっち来ないでえぇ‼


「ぃいいいいいや、こっちくんなああああああ‼」


無我夢中で熊から逃げようとして、バランスを崩す。シロクマからポンと落ちた。え、ちょお、死んだァァァァ‼降り下ろされる熊の手。今すぐ孫の手とチェンジで!いやいやいや、


「死にたくねぇぇぇぇぇ!?」


その時、俺とシロクマが繋がったような不思議な感覚がした。

そして。

──カッ。

突然の、白い閃光。とても目を開けていられなかった。数秒にも満たないわずかな時間。次に目を開けた俺の前には、熊の下半身しか無かった。そして直線状に倒れていく太い木々。う、うん。これさあ。


「今絶対シロクマビーム出したよね…。」


出せるんだ、ビーム。まあ、そのおかげで命の危機は去った。若干焦げ臭いが。あ‼おっさんは?!まさか、 ビーム…当たっ…。


「なんだ…今のは……。」


うおお、生きてる!良かった!ビーム当たってないし思ったより元気そうじゃない?!


「おっ…お兄さん大丈夫?」


シロクマが静かに降りてきて、洞窟内の時と同じように、俺を中心にひし形にバラける。


「今の…お前がやったのか?」


おっさんは近くで見ると意外と若かった。お兄さんって呼んで良かった。何か呆然としててそれどころじゃなさそうだけど。


「うん?いや、うん。」


分かりきったこと聞くなよ。それよりお前手当てした方がいいんじゃねーのか。大丈夫なの?血、ヤバいよ?


「何者だ、てめえ。」

「分かんない。」


つい突き放すように言ってしまった。だって、俺の質問はスルーですか?怪我は?大丈夫なんですか!質問には答えるから落ち着いてくれないか。そして早く自分の状態に気付け!せっかく最期の言葉がアゴじゃなくなったのに、死にたいの?!


「お兄さん、痛くないの?」


心の内を大分オブラートに集約して言った。誰かこの気遣いを褒めてくれ。


「痛い、な。…坊主、お前一人か。年は?」

「………。」


年。素直に17とは、この小ささじゃ言えない。っていうかまた無視かよ。痛いで終わりなの?


「さあ…?」


あ。しまった。ある意味大変素直に答えてしまった。おっさんは眉間にシワを寄せた。


「この、坊主の周りに浮いてんのはお前の聖霊か?」

「多分?」


聖霊って何。シロクマのことか?

おっさんのシワが深くなる。


「両親はどこだ?」

「少なくともここにはいない、と思う。」


「何で一人でこんなトコにいたんだ」

「知らない。」


「……名前は?」

「門野優」

「………………………………………。」


おっさんは険しい顔でとうとう黙ってしまった。


「お兄さん。」

「…何だ。」

「怪我が大丈夫なら、食べ物を恵んで頂けませんか?」


ぐきゅるるる。

いいタイミングで腹が鳴った。おっさんはため息をついた。


「………。これは返り血だ。」

「え?さっき叩かれてましたよね?」


おっさんは立ち上がり、その辺にぶん投げられていた荷物袋から取り出した厚みがある長細い何かを俺に渡した。ほう、本当に大丈夫そうだ。じゃあさっきのは、たまたま打ち所が悪くて気絶ってとこか。


「やる。食え。」

「おぉ、神よ‼ありがとうございます‼」


やったあああ‼食べ物!お兄様から頂いたそれをとりあえずかじってみる。ン、固い。干し肉か?一心不乱にガリガリ食う俺を、お兄様はじっと見つめて考え事をしているようだった。いやー…うまい。けど、そんなに見ないでもらえますかね?

かなり時間をかけて俺が干し肉を食い終わると同時に、おっさ…お兄さんは結論を出した。


「記憶が無い、のか…?」


あの?心の声、漏れてます。あーでも、それいいね。もーらい。この人が信じられるか分からないし、かといってこの世界のことが赤ちゃん並みに分からないのはホントだし。しばらく記憶喪失で通そう。ナイスアイデア、おっさん。


「ご馳走さまでした。お兄さんのお名前はなんていうの?」


子どもってどんな風に話してたっけ。不自然じゃない、よな。熊の時、死にたくねーっとか、色々叫んじゃったの聞いてたら演技もろバレだけど。あれ?どうだったけ。必死過ぎて細かいとこ忘れた。


「……………アークロルド。」

「アークロルドお兄さんはどうしてここに?」


おい、チャキチャキ答えろや。名前一個言うだけでどんだけ悩んでんだよ。っていうか、なーまーえー。門野優ってそれだけで浮いちゃうじゃん。失敗した。先におっさんの名前聞けば良かった。


「オレは、猟師だからな。狩りに来てた。キャドユー、お前本当に何も覚えてないか?」

「うーん?」


覚えてないっていうか…。まあ、いいや。キャドユー…まあ、これもいいや。小首を傾げた俺をどう解釈したのか、おっさんは首を振った。


「いい、何でもねえ。どこから来たのかは?」

「覚えてない。」


という方向で。


「随分汚ねえが、いつからこの森にいた?」

「昨日。」


ちょくちょく寝たり気を失ってたりしたが、昨日で間違いないはず。


「そうか…。俺はこれからこの近くの村に行く。坊主も行くぞ。」

「なんて村?」

「ジャバラッカ村だ。」

さっそく次までに間が開きます。ごめんなさい。


1月10日、読み返したら何故かいきなりシロクマが分裂してて驚きました。前半部分、


「…水、またもらっていいか?」


のセリフと、


待ってる間、暇だ。この謎の生命体?にまた質問してるか。


の文を、書き足しました。

失礼致しました。

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