表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちいさな旅路  作者: 朝霞台りお
19/19

あ~……面倒だけど、やりがいはあるかなあ

ギルドマスター視点

 ギルド。お金が王侯貴族よりも力を持ち始めた今日この頃。各商会が国とは違う、中立な組織を目指して創設した。要は、商人のお金儲けのための組織だね〜。主な仕事は、猟師が狩ってくる獲物や超文明のなごりを、国を挟まず直接売買すること。いい獲物を沢山狩れる腕のいい猟師は、どこかしらの商会と専属契約を結ぶ。そうすると依頼だけでない固定のお給料をもらえるし、怪我をした時に手当や引退した時の退職金が出たりするんだ。まあ、専属契約を結べる猟師は、全体のほんの一握り。大半は契約を夢みるフリーの猟師だ。


「今更ギルドの説明などいらん。つまり、なにが言いたいんだ」

「え〜。冷たいなー、せっかく事情聴取をほっぽり出して来たんだよ〜?もうちょい付き合ってよ〜」

「年寄りの話は長くてかなわん。特にエルフはな。いいから早くしろ」

「ケチ、せっかち。つまりね〜、今回のカムカム感染、人為的なものじゃないかなー、ってことだよ」


 応接室の赤いソファにどっかり座る色黒の男。この街の自警団長、ハルマニュリガだ。ヒトの成長って早いよねー。小さくてひょろひょろだったハルマニュリガが、いつの間にか二メートルを超える大男になっちゃうんだから〜。


「なんだと!?」


ハルマニュリガはびっくりして立ち上がった。すごい前置きしたのに、全然予想できてなかったんだねえ。頭の方は、あんまり育たなかったんだねえ。


「最近は戦争も、等級の高い魔物も出なかったから〜、契約が欲しい猟師の誰かがー、自分でカムカムを置いたんじゃないかなあ。そうだとしたら、今回の件で一番活躍した猟師が怪しいよね〜」

「怪しいよね〜、じゃ、ないだろ!目星はついてんだろうな!?」

「だからその目星をつけるために、今まで事情聴取してたんだ〜」


ハルマニュリガは天井を仰いで、目を手で覆う。あ、それ、懐かしい。ハルマニュリガのおじいちゃんも、よくこの格好してたっけ。あの頃は僕も若かったなあ。


「まーまー、座ってよ〜。話はまだ終わってないんだからさ〜」

「そうなのか?」


ハルマニュリガがソファに座り直す。妙に素直なところ、変わんないなあ。


「どうもねえ。カムカムが思ったより直ぐに広がっちゃったのかー、もっと話を大きくしたかったのか、今回の功労者の中に容疑者が浮かんでこないんだよねえ〜」

「はあ?つまり…なんだ。今回の討伐は、犯人にとって予想外だったってか?」

「うん。遡ると、魔素の調査依頼になっちゃうんだよねー、今回の事件。百歩譲って、魔素は想定内だったとしても、熊の討伐依頼まで予想できたかな〜?」


ハルマニュリガが、あご髭をかく。あー、難しい話は苦手だもんね。そろそろ飽きてきちゃってるな。さっさと終わらせようか。


「つまりね〜、犯人の目星はまだついてないってことだよー」

「ダメじゃねえか!なんでだよ、一番活躍したヤツが怪しいんじゃなかったのかよ?」

「今回活躍したと言える猟師は三組。そのどのチームも既に契約持ちだったからねえ。契約が切れそうな様子もなかったしー、他に関わった猟師は、偶然居合わせただけって証言も取れてるんだ~」


ハルマニュリガが頭を抱える。


「オイオイオイ…!オレは町のババアどもに、なんて言やあいいんだ?強力な魔獣が出た。で、その魔獣はどうなった?ギルドの話はイマイチわかんねえっつって、オレがケツ蹴られて放り込まれたんだぞ!この上黒幕がわかんねえなんて言ってみろ!ババアども、自警団を町中引きずり回すぞ!」


えぇ~、そっちの心配~?まあ、最近は事件もなかったし、平和ボケしちゃうのも無理ないのかなあ。危険度の高い魔獣を手に入れられる黒幕がいるのに、ここまでのんきに構えてるなんて。でもその危険性を説いて、パニックになってもいやだしー。ちょっとずつ手伝ってもらって、警戒を促してみよっかな?遠回りだけど、急がば回れっていうしー…。うん。


「あ、そうだね~。ここまでお話したんだから、ちょっと手伝ってよ~。カムカムを連れてきた人がいるのは間違いないんだし、町の見回り強化とー、聞き込みお願いしたいなあ~」

「なぁっ!?……クソッ。つかまんねえんじゃ、やっぱ危ねえのは確かだかんな。しょうがねえ、やるか」

「うんうん~。じゃ~お願いねえ」


これで町全体が、ちょっとは警戒してくれるといいけど。自警団はなんだかんだ言って、地域に根づいてるものだから、影響力があるしね~。


「おう。邪魔したな」

「はいはーい。進展があったら連絡するね~」

「おう」


来るのが急なら、帰るのも急なハルマニュリガ。さっさと出ていっちゃった。

 さてさて。書類仕事に戻るかな~。


「と、あれー?サミューさん。どうしたの?」


ドアを開いたら、新人の子が立ってた。

 サミュー・エンバ。鹿の獣人で、ちょっとぽっちゃりした女の子だ。仕事の覚えはあんまりよくない方だけど、一回覚えたら早い。覚えるのに苦労するけど、その分忘れにくい。長く勤められたら、きっといい戦力に、いい先輩になるだろうねえ。

 肉食系獣人に大人気の彼女が、どうしたのかなあ、顔を青くして立ち尽くしてる。


「あの、あの……」

「うん、うん」

「あっ、えっと、その、き、聞こえちゃって。あの、すみませんでした!でも、あの、く、黒幕がいるって…本当なんですか」


床を向いて、服の端を握り絞めるサミューさん。……ん~。


「まあね~。でも、そんなに心配しないで。自警団の協力もあるし、ギルドも調査していくつもりだから」

「は、はい…」


顔が上がったけど、まだ表情が硬い。怖がってるみたいに見える。


「もしもの時は、僕もイルダさんもいるから大丈夫だよ~。今日のイルダさん、見たでしょ?ベテラン猟師だって歯が立たないくらいすごい人なんだよ~。僕だって負けてないしー、こう見えて結構強いんだよー?」


元気づけるように、拳を握って腕を上げてみる。力こぶを見せるポーズに、サミューさんは顔をあげて、ちょっと笑った。


「支部長…力こぶ、出来てないです。ふふ」

「え~、そう?まぁ、怖くなったら僕のとこにおいでねぇ~」

「はい。ありがとうございます」

「午後の仕事も頑張って~」


お辞儀して行っちゃうサミューさんを見送って、僕も部屋に戻る。四階建てのギルドの最上階。階段から少し歩いたところに、ギルドマスターの執務室がある。厳めしい扉には術が施されていて、僕が許可した人以外の出入りを制限している。その扉を開けて、部屋に入る。大きめの椅子に腰かけて……くてっと机に倒れた。


「う~ん」



 応接室、防音なんだけどなあ。



 魔術回路が壁の中に埋め込まれてるから、たとえすぐそばの廊下に立ってても聞こえないはずなんだよね。この部屋もそう。物理的に、聞こうと思って聞けるものじゃない。でも、黒幕が捕まらないってとこまで漏れちゃってたねえ。


 今回、自警団のハルマニュリガに話したことは大したことじゃない。あれは一応、外の人たちに向けた話だったからね。本当は、犯人の狙いも、黒幕もなんにもわかってない。犯人は魔獣を使ってことを起こしてるわけだから、魔獣に詳しい誰かが噛んでるのは確かだね。猟師、ギルド職員、魔獣を取り扱う商会…。候補は色々挙がるけど、実行犯と立案者が分かれてる可能性だってある。そうなると容疑者が多すぎて絞り込めない。どうしようかなぁ。


 今回の事件の真相解明。それから、並行して職員の身元調査。真相解明の方は大々的にやっちゃえるけど、職員の身元調査の方はこそこそやらないとなぁ。

 あ〜、あと盗聴はされてる前提で話さないと…。応接室に仕掛けをしたのか、中にある何かに仕掛けしたのか、出入りする誰かに仕掛けたのか…。


「あ〜…聞き取りも終わってないねぇ〜…」


 カムカムの討伐。早く済ませないと、記憶って不確かなものだから忘れたり都合のいいように置き換えられたりしちゃうし。まだあらまししか聞けてないのに…。ん〜、ひらめいた。イルダさん。彼女に記録媒体渡して、聞き取りに回ってもらおう。彼女は目を引くからね〜。エルフにも迫るきれいなかんばせに、女性的な魅力の強い体。物怖じしない精神力もあるし、濃い紫色の髪は、遠目にも見分けやすい。今日、彼女を動かすいいエサも見つかったし。うん。で、イルダさんにサミューさんをつけて、ある程度の情報を渡して泳いでもらおうかな。

 色々目立つイルダさんに表で動いてもらう形で、ちょっと世間の目を逸らそう。で、その間に僕はネズミ捕りだね。


 机上に置いてあるハンドベルを鳴らす。聞こえる人を指定してあるハンドベルは、カランコロンと澄んだ音を響かせた。すぐに秘書がやって来るだろう。


「僕の庭で、なにを企んでるのやら……」


 久しぶりに、ギルドマスターとしての大仕事になりそうだ。

次は主人公目線の予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ