うん、とりあえずお腹減った
主人公です。
「ああ、熊っスよ、熊。」
茶髪のチャラ男が言った。
「…ほお、熊か。」
銀髪のおっさん、アークノルドが答えた。
ポテポテゆっくり歩くロバっぽい生き物の隣を、シロクマに乗って着いていく。
とっくに朝日は昇ってて、村に着けた火も鎮火した。残党を狩る組八人と、街に行く組三人プラス俺達の二手に別れて、眠る間もなく歩き始めてしばらく経つ。その間は、街から数匹引っ張ってきたというロバっぽい生き物に負傷者を乗せて、歩きながらお互いの情報交換をしてるのだ。
ちなみに何故ロバと断定出来ないのかと言うと、俺がロバを見たことねえからだ。多分こんな感じじゃなかったっけ?って見た目してる。んだけど、コイツらよく見ると目がヤギだ。それ以外は殆どロバだと思う。なんで目だけそんな進化を遂げちゃったんだ。しかもヤギの目って怖い。なんか底知れぬ怖さがある。ちなみに毛並みはパサついてた。
「そっス。いや、マジでっべー感じの亜獣だったんで、これはフツーに助けてって言っても、準備とかって時間かかりまくっちゃうんじゃね?って考えたんッスよ。でも、そんなことしてたらセビールちゃんがっべーっしょ?んで、どうすっかなーって商会見回したら、熊の討伐依頼があったんスよ。これきたんじゃね?って思って、熊のための人手を途中でパクったんス。」
え?何言ってんのかわかんねえ。っしょ、とか、っべー、とかに気を取られて、あんまり聞き取れなかった。え?皆これで理解出来てんの?
ロバ?に乗ったアークノルドは眉間の皺を深くして、シャロッツは…話聞いてねえ。ロバに騎乗したまま、睡魔と戦って船こいでる。前を進むロバに乗ってた白猫ちゃんが、ヒョイと振り向いた。
「熊の討伐依頼ですか?そんなもの出てましたっけ。」
「出てた出てた。それに混じってとりまこっちまで来て、森に入る前にカムカムの話してさー。」
んー…つまり熊の討伐隊を、引き返せないとこまで引っ張ってきてから無理矢理巻き込んだってことか。よくそれで上手くいったなあ。
と、後ろを歩いてたおっさんが口を挟む。誰だっけコイツ。チャラ男軍団の一人なのはわかるんだが。明るい茶髪を刈り上げ、ゴツい体にピンク色の目をしている。
「この兄ちゃん、凄かったんだぜ。自分の命より大事な女置いてきちまったから、力を貸してほしいってんで、土下座までしてよ。」
「おわああ!ちょ、なんで言っちまうんスかあ!」
チャラ男が慌てて振り返る。そしてこけた。木の根っこに足を取られたんだろう。アホだ。セビールちゃん可愛いのに、なんでこんなのがいいんだ?
「…命より、大事な…。」
嬉しそうに呟いてるし。尻尾がゆるゆる動いちゃってますよ、お姉さん。シーツめくれ上がって お尻出てます。さりげなーくセビールちゃんの後ろに着いて、目隠し替わりになる。
「よかったね、セビールちゃんっ。」
「な、あ、と、当然ですね。価値で言うと、私とビュッチェさんじゃ金とほこりくらい差がありますから。」
はいはい、リア充リア充。
森の清涼な空気の中、ロバっぽい生き物に合わせてゆっくり進む。これはシャロッツじゃなくても眠くなるわ。うわ、今更だけど俺ここんとこ二日、まともに寝れてないじゃん。そりゃー眠いわ。
「あんちゃん達のプロポーズも良かったが、一番驚いたのは聖霊使いのボウズだな。ちっさいクセに中々いい動きをする。」
セビールちゃんの前を歩いていた、若草色のアフロヘアーのおっさんが言う。あれ、地毛かなあ。眉毛もまつ毛も無精髭も緑だし、やっぱ地毛か。アフロも自前?
よく言えば細身の、ぶっちゃけるとガリガリのおっさんは魔術士というやつらしい。村に大規模な放火をしたのはコイツだ。その辺に落ちてた木の枝で地面に落書きをしたと思ったら、そこを始点に見えない導火線が扇形に村に広がったのだ。恐ろしいアフロだ。本体よりアフロの方が目立ってるし、アフロに養分吸われちゃってんじゃないのか。
「ボク?わーい、褒められたよお兄ちゃん!」
眠くて相手すんのが面倒臭い。アークノルドに丸投げしとこう。アークノルドは突然話を振られてぎょっとしてる。
「今いくつなんだ?ボウズ。」
「えーっとね~。」
ええっと、いくつの設定だったっけ?確か…クレヨンな春日部の園児と同い年だから、五歳か。んん?奴結構普通に会話出来てたな。もしかして、俺のって過剰演技?…五歳の子どもとか覚えてないなー。まあ、いっか。
「ごさーい!」
「そうかあ。その年で聖霊使いで、あの煌の量か…。こいつぁおそれいった。凄まじい才児だ。」
「エヘヘ。すごいでしょー?」
「おう、スゲぇスゲぇ。誰に習ったんだ?」
「え?んーと、シャロ兄ちゃんだよ。」
「そうか。んで、ボウズは見慣れない頭してるが、どこから来たんだ。あの怖ぇあんちゃん達とはなんで一緒にいる?」
「…。んー…。」
え、なんかコイツしつこくね?ウザいんだけど。ってか眠いんだけど。まさかこの放火アフロ…ショタコン…?
「色こそ違うが、ユウはオレの弟だ。この間里帰りした時に、無理矢理着いて来ちまってな。」
やっとアークノルドが話に入ってきた。放火アフロの意識が俺から逸れる。
「ほう!あんちゃんの弟か。生まれは?」
「北だ。今はもう無い村から来た。」
「おっと…わりいこと聞いたな。」
「いや…。」
いやそれより、もう無い村に里帰りして、五歳児がどこにいたのかの方が気になるんだが。俺は野生児か。
放火アフロは気にせず、次の話題に移った。
「あんちゃんとは髪も目も違うみてえだが、義兄弟なのか?」
「…。」
アークノルドは目を閉じた。
「そうなる。すまないが、この話はもう終わりだ。アンタがあくまでも首を突っ込む気なら、それなりの覚悟をしてもらうことになるが?」
「おっと…。こいつぁすまねえ。魔術士ってなぁ好奇心が人一倍でな。わかった、もう聞かねえよ。」
おー。事情があることをあえて隠さねえで、上手く躱しやがった。アークノルド、意外とやるな。
…それにしても眠い。シロクマに乗ったままじゃ寝れないしな…。いや、聞いてみるか?
「シロクマ~、眠い。お、ボク寝ても平気?」
ちょっと屈んでぽそっと囁く。まあ一応耳の良さそうなセビールちゃんとかもいるし、俺じゃなくてボクに直した。シロクマはくいっと軽く上下して、肯定の意を表す。やった!シロクマの上でコロンと転がる。ふい~…ヒンヤリ気持ちいい…いや…段々「あっつう‼」思わずシロクマから転げ落ちた。そんなに高いとこは飛んでなかったけど、ケツをしたたかに打った。痛い。
「…驚かせるな、ユウ。何やってんだ。」
見上げると、その場の皆がちょっと戦闘体勢になってた。アークノルドは兼帯していた剣に手をかけて、呆れた顔で俺を見てる。
「エヘヘ、ごめんなさーい。」
えええー、シロクマさん、足の裏は平気なのに顔は駄目なん?どんな基準だよ、むしろマニアックじゃね?シロクマはごめんというように俺にすり寄ったが、集中力が切れていて危ないと判断された俺はアークノルドの膝に載せられた。どうせならセビールちゃんが良かった。でも、まあ、セビールちゃんが一番重症だしな。ガキの世話なんて任せられないか…。うん、アークノルドなら気にせず背もたれにして寝られるし。すり寄るシロクマをちょっと撫でて、俺は直ぐに寝入ってしまった。
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ぷ~ん…。
なんか…蚊よりすこし重めの羽音で目が覚めた。しょぼしょぼする目を開くと、腕に馬鹿デカイ蚊が留まってる。…アークノルドの。じゃいいか。ボーッと眺めてると、蚊はその内重そうに飛び去って行った。
「…起きてるか?」
アークノルドが俺に話しかける。
「んー…。今、どの辺?」
「森を抜けて、すこし進んだとこだ。」
「あぁ…。街まで、あとどんくらい?」
「そうだな。随分早くに出発したからな。今日は野宿だが、明日の昼前には着くんじゃないか。」
空を見上げる。夕方くらいか?寝たなー。ケツが痛い。固まってた体を、両手を挙げてグイグイ伸ばす。体が小さいって便利だ。元々の俺は一七五㎝くらい身長がある。そんなにデカかったら、こんな風に眠れねえわな。アークノルドを背もたれどころか押し潰す勢いだ。…………ん?
「…野宿って言った?」
「言ったな。」
「あ!ユウ君起きたの?」
「シャロ兄ちゃん…今日野宿ってホント?」
「?うん、そうだけど?」
えぇぇえ……。今日も野宿かよ…。え、俺こっちに来てからベッドで寝たのたった一回だけなんだけど。マジかよ。野生児じゃん…ガチで。
「おう、ボウズ起きたか。じゃあ丁度いい、オーイ!今日はこの辺で終わりにするぞー!」
隊列の後ろにいた、ピンクのおめめのおっさんが口を挟む。その言葉を聞いた先頭の放火アフロがゆっくり足を止め、全体がそれにならう。元々チームだったらしい放火アフロ、ピンクのおっさん、それから先行していたどでかいおっさんが集まって何か話している。先行していたおっさんは、岩石に似た灰色のモシャモシャの頭と髭で、顔がよくわからん。人として見ると濃い奴だが、不思議と自然に調和していて、気配がしない。街にいたら目立ちまくるだろうが。寡黙なおっさんみてーで、まだ一度も話してない。
「おい、ユウ、降りろ。邪魔だ。」
「はーい。」
ぴょこっとアークノルドの膝から地面に降りる。アークノルドもロバを降りて、ロバの両側にポツンと掛けてあった小さい袋を外す。そこから木製の杭を出して、手綱を通す。もう一方の袋から金槌を出し、ちょっと離れた地面に杭を打ち込んだ。ほほ~。そうやってロバが逃げないようにしてんのか。隣にシャロッツが杭を打ち、それぞれロバが逃げられないようにする。
「あ、コイツもそっち繋いでいッスか?」
ふと前からチャラ男が声をかけてきた。セビールちゃんが乗っていたロバを牽いて、こっちに近づいてくる。
「止めとけ。あんまり同じ場所に集めると良くねえ。それに、獣の方が勘がいい。こいつ等がなんかしらの異変を感じたとき、お前が分かるような位置に置いとけ。」
「えマジ?っべー、おっさんベテランッスか。カッケー!」
「ビュッチェさん…それ以上アホを晒さないで下さい。ほら、私が教えてあげますから、こっちに戻ってきて下さい。」
「エッ!セビールちゃんも知ってたん!?っべー、これひょっとして常識系?」
「あはは、またねービュッチェ君。」
サッセン、とかなんとか言いつつ、チャラ男が去る。
その後、みんなで夕飯を食べながら見張りの順番とか相談して、俺とセビールちゃん以外のシフトをさらっと決めた。なんで俺とセビールちゃんが抜かれたって、セビールちゃんは重傷人で、俺は子どもだからだ。ああ、小さいって便利。アークノルドは比較的軽傷で、これ以上数を減らすと一人が寝る時間が短くなるから却下。シャロッツは自ら志願した。筋トレをしたいらしい。…すれば?好きなだけ。
ちなみに、夕飯は口の中の水分が奪われる系の、小松菜っぽい緑色のスティックだった。材料は知らんとのこと。味はしょっぱかった。カロリーメイ○みたいに甘いの想像してたのに、全然違った。端的に言うと不味かった。あー、食が合わないと地元が途端に恋しくなるな。食えてるだけマシなんだろうけど。
食ったら直ぐに見張り担当以外が就寝。それぞれのチームでくっつきあって暖を取り、寝袋とか毛布とかは一切無し。一応眠るけど、休憩とか仮眠って感じ。俺は現代っ子だからピンと来ないが、野宿というものは危険極まりないらしい。だから何かあった時、直ぐに動けるようにしておくんだとか。「草食動物の睡眠のごとく浅い眠りで夜を明かす。猟師の基本だ。」ってアークノルドが寝ながら教えてくれた。それはいいんだ。でもさあ、これじゃ眠れねえよ。俺は、子どもは体温が高くて暖かいからっつって、アークノルドとシャロッツの間に挟まれている。むさい。おい、チャラ男、本気で位置代われ。何照れてんの?何イチャついてんの?割りと本気で殺意芽生えたんだけど?クソッ隙を見て髪の毛に蟻入れてやる。
…。
………。
眠れねー。
そうだよねー、昼間爆睡したもん。全然眠くない。寝ようと思う度に目がさえてる気がする。あれだよ、左右がむさ苦し過ぎるんだな。暑苦しいんだよ。わかってる?要するに苦しいんだよ。二重に苦しいんだよ。いいじゃん、わざわざ俺を間に挟まなくても。辛いよ。何が辛いって、もう何もかも辛いよ、おっさんに挟まれんのとか誰得だよ。寝返りも打てねーよ。あああ、駄目だますます目がさえてきた。起きよう。無理。この状態で安らかに眠るのなんて、死体でもハードル高えって。最早呼吸の仕方とか意識してきちゃったし。…あれ、呼吸ってどういうリズムでしてたんだっけ。吸うのと吐くのどっちが長いんだっけ。一回の呼吸でどのくらい空気取り入れたっけ。待て止めろ考えるな俺。ちょっと違う事考えよう。
起き上がって、まだ明るさの残る西日をちょこっと見る。まっぶしい。相変わらず自己主張の激しい太陽だ。
お?見張り番の放火アフロと目が合う。来い来いと手招きされた。
……どーしよっかなあ。まあ…暇だし、行くか。




