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ちいさな旅路  作者: 朝霞台りお
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一体ここはどこの観光地だろう。

初投稿です。更新は不定期ですが、思い出した時に読んで頂ければ幸いです。見切り発車でございます。

空気が綺麗だ。

雲ひとつ無い空に飛ぶ鳥が羨ましい。気温も暑すぎず寒すぎず、なんとも過ごしやすい。

加えて、この緑豊かな大自然。森の香りが鼻腔をくすぐり、どこからか聞こえる川のせせらぎが耳に優しい。



……の、だが。

「いや、ここどこだよ?」


そう、俺─こと門野優(かどの ゆう)は困っていた。 さっきまで真冬の22時で、清き正しい高校生として、コンビニに群がる不良共をちょっと強めに注意してカツアg、もとい迷惑料を貰っていた…ハズだったのだが。


「昼間じゃん。ってか森じゃん。……あっつ。」


なんか知らないうちに壮大な迷子になっていた。寒さに備えた厚手のコートを地面に叩きつける。ええー…っと。え、何?まさかあの弱そうな不良に頭でも殴られて、気絶した?で、打ち所が悪くて死んだとでも思った不良に、森の中に遺棄されたとか。

ハハハ、うける。なわきゃねーか。


……いやー。さっきからちょっと信じたくなくて無視してたけど、さ。


「うわー、俺、子どもじゃん。」


服、ブカブカじゃん。やだー、動きづらいー。声高ーい。見た目は子ども、頭脳は大人!な道路交通法その他諸々を華麗に犯す名探偵とお揃いだー。


「嬉しくないし。どーしよ。」


この状況。


……歩くか。

このままここにいても、しょうがなさそうだし。一応懐中電灯は(武器として)持ってたのがポケットに入りっぱなしだったから、それを持つ。かろうじて着れるシャツの腕を捲って、下は諦めた。無理。コートは適当に巻いてたすき掛けに。靴……………サヨナラ。

靴下を足に巻いて、財布はコートの中に突っ込む。下着の上に畳んだズボンを重ねて、横に靴を並べる。これで俺が去った後にこれを見た人が、うん、どう思うだろうか…?

まあ、この体では持っていけないからしょうがない。さっさと誰か親切な人に助けてもらおう。人の気配は全く無いが。諦めなければいつか会えるだろう。そう、諦めなければきっと体も元に戻るはずだ!そうじゃないと困る‼


「あっちに太陽があるから…太陽に向かって歩いてみるか。」


なあ、ところでさあ、太陽って白かったっけ。六角形だったっけ。ハハハ、新しい惑星かなぁ。それとも俺の目、おかしい?

あー、夢…は、無いな。掻き分けようとした草でスルッと指切れた。いってえ。超いってえ。くそっ草め。覚えてたらいつか除草剤撒きに来てやる。



∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇



日が、暮れようとしていた。


「つ、疲れた。喉渇いた。」


誰だよ、川のせせらぎが聞こえるとか言ったやつ。どこだよ川。許してやるから水持ってこいよ。大体太陽可笑しすぎるから。何で静かに沈まないの。くるくる回って魔方陣的なもの出さなくていいから。大丈夫だよ、君はそんなことしなくても十分輝いてるから。


「地球、ですら、無いな…。」


ああー…。ちょっと休憩しよう。全然進めてない気がする。どんだけ小さくなっちゃってるの。赤ちゃんに毛が生えた程度にしか成長してないんじゃないか?参った「なあああああ‼?」

木の根本に腰かけようとして、後ろにひっくり返った。コートのお陰で怪我は無い。ビックリしたあ。心臓がバクバクしてる。今の俺の声で鳥が数羽飛んだ。あ、虫しか見ないと思ったけど、動物いたんだ。


…ん?


「洞窟発見。」


ひっくり返ったら何か見つけた。

うーん……今日はあそこで寝るか。小さめの穴だし、大きな動物は入ってこれないだろ。

虫は入れる?友達だよバーロー。

アブっぽいのが歩いてるうちに付いてくるのでじわじわ殺しつつ、洞窟に入る。暗い。

あ、懐中電灯持ってるじゃん。

あ駄目だ友達スゲーこっち来る。慌ててスイッチを切る。懐中電灯使えねー…。あれ?でも見える…奥から、光が漏れてる!


「おーい!誰かいるのか!?」


コート邪魔ァ‼またも地面に叩きつける。あああもう!手足短い!全速力遅‼転がるように走って光源を目指す。いや比喩でも何でもなく。ほとんど転がって移動してた。だって遅いんだもん。


「誰か……あづううぅ‼」


頭ぶつけた。思いっきりぶつけた。目から何か出た!出たって、そのぐらい衝撃だった!

頭を抱えて痛みを堪える。頭割れてたらどうしよう。手外したら崩れちゃわない?これ。いってえ。いってえマジいってえ。涙と鼻水もヤバい。くおおぉぉぉ……。


「う、うぅぅ…。だ、誰か、いない、かあ」


幸いなことに手を外しても頭が崩れる事は無かった。シャツの裾で涙&鼻水を拭きつつ、うえー汚ね、恐る恐る声を挙げる。


「く、う、ぅぅ……。え?」


涙に滲む目を凝らす。光源は透明な水晶だった。ひ、とじゃ、無かった、のか…。そうか。………そっかぁ。水晶ってこんなに明るいんだ…。


「うわぁー。…泣きてー。」


もう泣いてるか。これは痛みのあまりに出てきたやつだけど。一応近くまで寄ってみる。

煌々と辺りを照らす白っぽい水晶。デカイ。今の俺と同じくらいの大きさだ。

というか大きめの吹き抜けに、この水晶がポンと置いてあるのって…冷静になってみると大分不自然じゃないか?まあでも、太陽が六角形で回っちゃうようなとこだからな。

あ、足元にも魔方陣的なもの刻まれてる。厨二病が喜びそうな…。ペトっと水晶に触れる。こんなに光ってるのに虫がいない。懐中電灯の時には大量にコンニチハしたくせに。何が違う「うぎゃあッ!」

吸われた!?ななな何っ?切れた指の血を吸われた‼勢いよく全身で跳びすさったらまたこけた。もーやだ。あんまりビックリさせないでよ。心臓止まっちゃうって。うわ、俺の血を吸ったところから、赤いのが水に溶けるようにユラリと静かに広がる。怖い怖い怖い。逃げた方がいいかな?逃げよっかな。


唐突に光が消えた。

はいィィ懐中電灯ォォ‼スイッチオンッ!


「いねええええええェェェェ‼」


水晶モドキは音も出さず消えていた。ちょっと待て待って下さいおねシャーッス‼もうビックリさせないでよって言ったじゃん!ちゃんと聞いてたァ!?懐中電灯を忙しなく動かす。カシャッ。


「何か当たったぁああああああっ」


懐中電灯で何か固いものを打った。

え!?何?本当に何?!

また唐突に光が戻るぅううううう!?

水晶オバケは手のひらサイズのひし形に形を変え、俺を中心に丸く連なっていた。


「あ、死んだ。」


さようなら俺。達者でな俺。





















水晶は、


「動かねー。」


小一時間じっとしていたが、地面から40センチくらい浮いた状態からピクリとも動かない。いい加減、怖がるのも飽きてきた。辞世の句がいくつ出来たと思ってんだバーロー。


「平気、かな。」


試しに一歩踏み出す。ぅえっ?水晶は俺に合わせて平行移動した。ええええー。どうしよう。今度は指で、傷のない指で突ついてみる。キン。大した力で叩いた訳でもないのに、トライアングルみたいな音を出した。


「…………………………。」


何も、無い。それだけだ。え、何?憑いてきたいの?俺に?

考えるだけ無駄な気がしてきた。


「寝よ。」


俺は我を貫くことにする。要するに、気にしない。

隅っこに移動して床に丸くなる。

…あー。水飲みたかったなぁ。腹も減ったし。明日は水を探しに行こう。

妙に空気を読んで水晶が明かりを絞っていく。コート、置いてきちゃったよ。さむ。



∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇



ふと目が覚めた。喉の渇きがひどい。お腹も減った。最悪の目覚めだ。ってか、今何時。

洞窟内だと例の太陽も見れない。果たして今は朝なのだろうか。


「わかってたけど。夢じゃない、か。…水飲みてー。」


俺が起きたからなのか、水晶が段々明るくなっていく。そのうちの約半分が、シャラリとどこかへ消えた。ん?何だ何だ。ま、いっか。コート探しに行かなきゃ。あたたた。地面が硬いから体の節々が痛む。体に北斗七星を持つ男の掛け声を出しつつ、軽くストレッチして筋肉を伸ばす。そのうち、水晶が球体になって戻って来た。あらー、戻って来ましたよ奥さん。よかったわねえ。半分だと心細かったでしょー。


「って、嘘?!水じゃん!」


パキパキ、と球体からボウル状に形を変えて、俺の正面に静止する。え!えええ!?


「貰っていいの?」


声を掛けてみると、肯定するかのようにボウルが傾く。いやすまん、肯定する云々は俺の希望だ。この水晶モドキは何がしたいのかサッパリ分からん。


「イエスなら上下、ノーなら左右に動いて。もう一回聞くけど、貰っていいの?」


ボウルがスーッと上にいって、スーッと元の位置に戻る。うおおおおおお‼マジか?妄想じゃないよな?!意志疎通出来てる!水だ!俺が欲しいっつったから持ってきてくれたのか!?


「ありがとう!」


ここに来てから初めて笑った気がする!感動した!見直したぜ水晶君‼

え。水晶君?ほのかに桃色に染まってあああああ‼沸騰させてる!煮沸消毒してくれてるだと…‼


「うひょわ!煮沸消毒なんて全然気付かなかった‼本当にありがとう‼」


嬉しい。けど、さ。こいつマジ水晶じゃねえなぁ。いや助かるよ?助かるけど、これって一体何だ。救助用の仕掛け、とかだとなお嬉し過ぎて爆発する。うーん、聞いてみるか。水が冷めるまでの暇潰しになるしな。


「君って、どういうモノなの?」

「………………」


返答は無し。話せないんですね、分かりました。イエスかノーの二択でいくか。


「遭難者用のお助けアイテムとか?」


ユラーッと右へいって、戻る。

違ったか。爆発出来んかった。


「じゃ、何で俺に憑いてくるの?俺だから憑いてきたいのか、で縦。ここに来た人なら誰でもいいのか、で横に動いて。」


水晶君は水が心配になる勢いで上にすっ飛んだ。おう、マジ?ホワイ、何故?助かるけど理由が分かんないと怖い。


「ありがとう?そろそろ水頂こうかな。」


喉ガッサガサだし。

水晶君は静かにボウルを傾ける。口、つけていい、んだよね?他に手段はないか。ためらいは一瞬、がぶ飲みである。おおおおお。生き返る!うまいよ、水が甘く感じる!命の水だ!っていうか命がもう水でいいんじゃないかな?あー、テンション上がって何言ってるのか自分でもわからない。


俺は、水晶君が汲んで来てくれた水を飲み干した。


「っあー、本当にありがとう!じゃ、とりあえず移動しようか。」


キン、とボウル状に固まっていた水晶君が別れてひし形になる。そのうちの一つが十センチほど上に動いた。律儀だな。別に今のは返事しなくてもいいのに。そういえば、いつまで憑いて来る気なんだろ、こいつ。昨日来た方向に足を向けつつ、聞いてみた。


「君が俺に憑いて来るのって、いつまで、みたいな期間限定?」


シャラララララ。水晶君が全体で三回転くらい回った。ノーでいいんだよね?え?ずっと憑いて来るの?マジか。


「…俺が死ぬまで憑いてくるってこと?」


正面の一つが縦に動く。あ、そう。


「何で…って、言っても詳しくは答えられないか…。ん、じゃあこれは?」


少年漫画的な質問を思いついた。


「君は俺の味方?」


ビュッ。全ての水晶が怖いくらいの勢いで上に飛んだ。うん、味方なら別にいいか。


「そっかぁ。ありがとう、助かるよ。」


俺が笑い掛けると、水晶君はほのかに桃色に…これって照れてる?さっきの煮沸消毒って、偶然だったりする?いや、いやいやまさか、な。


「あ、そーだ。君って名前ある?」


シャラリ。横に一回転。無いのか。

へ?何か一個俺にくっついて来て、スリスリ腹の脇を撫でる。

???何だ?


「お腹?は、減ってるけど…違うのか。」


シャラリ。横に一回転。


「もしかして…名前が欲しい、とか。」


俺に引っ付いてた一つが上下する。あ、当たった。でも、ええ?俺でいいの?


「え~……。じゃあ、シロクマ。」


透明な水晶をボーッと見てたら、シロクマの毛って透明なんだっていう豆知識を思い出した。アザラシの赤ちゃんもそうだった気がする。あれ?じゃあアザラシでもいいじゃん─────ッ!?

シロクマ、と水晶を名付けた途端。

俺の中で何かが変わった。

まるで体中の血が沸き立つような、心臓が握り潰されるような、脳が酸欠で真っ暗になるような、とにかく酷い感覚が全身を駆け巡った。溺れるように宙をもがき、やがて俺は気を失った。


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