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烈士

この話はフィクションです。実在の事件、実在の人物とは関係ありません。

 私のすぐ横には、偉大な先生のご遺体が横たわっておられる。

 殺風景な総監室に満ちた、濃い血の臭いが鼻をつく。


 私が不甲斐ないせいで先生には随分と痛い思いをさせてしまった。

 やはり最初から児賀に任せれば良かったのかもしれない。

 児賀ならば一刀のもとに介錯できただろう。


 総監は我々の切腹を止めさせようと必死の説得を続けている。


「総監、既に大願は成就し、後は如何に幕を引くかが肝要なのです」


 私は毅然として総監に告げた。

 顔面蒼白となった益本総監は私の決意が揺らがないと悟って首をうなだれる。


「児賀、後の事は頼んだぞ」

「委細承知」


 先生の血がべったりと着いた関孫六を白紙で拭いながら、児賀が短く返事をした。

 私は軍服を脱ぎ上半身裸になると、それを丁寧にたたんでから先生のすぐ横に正座する。

 先生がそうしたように、私も事前に用意しておいた辞世の句を読み上げた。


「明日にかけ かねて語りし 胸中の 言魂知るは 御霊のみぞか」


 今から腹を掻っ捌くというのに、私の心は落ち着いていた。

 情けない醜態を晒しはしないかと危惧していたが、男がここと死に場所を決め込んだからには、八百万の神も助けてくれるのかもしれない。

 児賀が短刀をそっと差し出してきた。

 その目には一片の曇りもない。

 私の準備を待たずして関孫六を右八双に構える児賀。


 正面に向き直り気合一閃、短刀を腹に突きつけ真一文字に切り裂いた。


「まだまだ……。――よし!」

「御免!」


 首に強い衝撃が走り、視界がぐらあっと前に傾いた。

 さすが児賀! 見事な介錯。

 私の意識は急速に暗転していく。

 死の直前、焼け野原であった故郷の景色が鮮やかによみがえった。


(父上、母上、おそばに参ります……)



 

 1970年。

 世界を震撼させる大事件が起こった。

 世界的な文豪と若い学生が命を賭して自衛隊の意味を問うたのだ。

 アメリカの言いなりでいいのか? 憲法の改正が必要ではないのか? と。


 これを機に日本は激動の時代を迎える。

 各地で自衛隊が一斉蜂起。

 内閣は責任を取って解散。

 すぐに行われた総選挙では憲法改正が焦点となり、僅差で改正派が勝利する。

 一方、アメリカはこれに強い不快感を示し、在日米軍と自衛隊の間で小規模な戦闘が起こった。

 この事態を受けてソビエト連邦がアメリカを激しく非難し、国連での総会は大もめにもめた。

 

 自衛隊と政府はアメリカに対して、厳しい要求を突き付ける。

 「自衛隊の国軍化を認めないならば、ソビエト連邦と軍事協力について協議する」というものだ。

 さすがにアメリカもこれには引くしかなく、日本は晴れてアメリカの支配から脱するのであった。

 



……という、パラレルワールドのお話でした。


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