アイ(サンプル)
何かが腐った臭いがする。
(さようなら さようなら)
どうやら眠っていたようだ。
(もう なくしたくないから)
此処はどこ?
(たいせつな あなたを きずつけた)
ゆっくり体を起こす。
(たいせつな あなたが きずついた)
あちらこちらが痛かった。
(わたしのせい このちからのせい だから)
(( さようなら ))
あれ?
私はだれ?
◇◇◇
闇に包まれた廃ビルが立ち並ぶところで、迅速にかつ確実に事は運ばれていた。
響くは、時折聞こえる爆発音のみ。
そして囁かれるは、少しの人の声と、荒い呼吸音。
<もうA班だけで済ませちゃって。B班は待機よ、静かにね。>
無線から僅かなノイズと共に吐き出されるその命令に、黒髪の青年が食って掛かる。
「待機なんて誰でも静かにするに決まってんだろ!」
わかりきったことを一々うるせぇな!と続いた言葉に、
黒い機器から聞こえる女の声は冷ややかに言う。
<あら、今の貴方を静かだなんて誰が思うかしら。>
「んだとてめぇ…!<だから静かにしなさいよ。>
隣に佇んでいた赤茶色の長い髪をひとつに結んだ男は、苦笑いを零し黙って青年の肩を叩いた。
黒髪を揺らしギンッと睨みつけてきたのにも、彼は肩をすくめただけで流す。
その内、爆発音が辺りを震わせる。
雑音まじりの低めの声がする。
<A班だ。無事つかまえた。>
バックには騒ぎ声が聞こえる。
それにまた、女が返す。
<わかったわ。大木の下に集合。B班もね。>
「わかってるっつの!」
いかつい機器を睨みつけ、彼女はまた眉を顰めた。
大木の下で、本当にうるさいわ。と呟きながら。
また、そうした中で思い出す。
今夜の任務である、「能力所持の可能性がある少年の保護」。
A班との通信の際に耳に入った騒ぎ声は、例の少年のものであろう。
そしてもう一度呟く。
本当にうるさいわ。