9 金策会議
テレル山から一番近い街ウーゴ。
その宿にある一室にて俺達、ユア、カレン、ノブエさんは会議を開く。
お題は、効率の良いゴールドの稼ぎ方だ。
適当にギルドのクエストを地道にやっていくのが一番なのであるが、早くレベルの上限を越えたい俺、そしてカレンはこの会議にノリノリである。
というか、カレンが良い方法があると、みんなを集めたのだ。
「パジャマですか。どこに売っていたのですか」
「ああこれ? これノブっちのお手製」
「そうなの~、ユアと私の着ているパジャマは私がちょちょいと裁縫して作ったのよお。カレンのも暇をみて作ってあげるわね。今度、お風呂で採寸しましょうね~」
ノブエさんが風呂をどうしているのか謎だが、お願いしますね、と会釈したカレンは、本気でこのおっさんと一緒に風呂に入ってもいいと思っているのだろうか。
うむ……俺、オネエになろうかな。
と、それはそれとして、カレンの鎧を脱ぐ格好は長袖長ズボン。
これが、パジャマに――とそうじゃない、これも置いといて。
「それでカレン。良い案って何?」
「あ、はい。では……そうですね、見て頂いた方が分かりやすいですね。皆さんモンスター図鑑を開いて下さい。そこからジュエルドラゴンを――」
言われるがままに。
虚空で小さく円を描く。
浮かぶ四角い画面。
ピッ、ピッ、とタッチ。
今まで出会って情報取得した、モンスターの一覧が表示される。
「ジュエルドラゴンか……」
なんか金稼ぎに良いとか、聞いたことはあったが、今んとこ戦う機会には恵まれなかったモンスターだな。
「ああ、そっか、カレンが加わったから、図鑑のモンスターが増えてるんだ。うわ何、こいつ、こんなのもいるんだ。ウネウネでキショー」
ユア、他のモンスターのことはいいから、早く言われたジュエルドラゴンのページを開けよ。
「触手系のやつね。こういうの好きな人って多いわよん」
「ウソ!? これ好きなヤツとかいんの。うげえ、ウチ、悪いけどそんな人と友達になれそうにないわー」
その好きなヤツが同じパーティにいるんだがな……と、いかんいかん、ノブエさんに同調してしまった。
「ノブエさん、それ別の意味での触手でしょ」
「何? 別の意味? どういうこと?」
「あ、いや。い、いいから、お前は早くジュエルドラゴンのページを開けよ」
問うてきたユアに、誤魔化すようにして急かす。
「ジュエルドラゴンはギルドの討伐クエストの対象ではありませんけれども、倒すと必ず『竜の卵』か『輝く赤石』どちらか1つを落とします」
カレンの声が場の空気を正す。
「確かにドロップアイテムの欄には、そう載ってるわね~。輝く赤石だなんて、私にぴったりの宝石のような気がするわあ」
「市場ではどちらとも高値で取引きされる物で、どこの道具屋でも『竜の卵』が1万ゴールド、『輝く赤石』は8万ゴールドで引き取ってくれます」
「うわ、8万。今ウチら12万持っているからそれで20万じゃん」
「でもそれ全部は使えないわよん。そうね~最低でも12万の半分。6,7万ゴールドは残さないと生活が苦しくなるかしら」
「順調にいけば2回。このジュエルドラゴンの落とす『輝く赤石』を2つ売れば事足りるって話か」
だが。
「そうそう『輝く赤石』のほうは落ちたりするのか。確率はどれくらいとか分かるか」
「私の感覚では、2回倒して1回は拾える感じですね」
「あれ、結構高確率じゃん。ウチもっとキビしいって思ってた。10回に1回とか」
うーん。俺は明るい雰囲気の中唸る。
こう確率的なものに抵抗というか、恐れがある。
話だと50%で当たりのようだが、俺にはその数字でもまったく引ける気がしない。
なぜなら、であるが。
すごい身近な確率との勝負に、レベルUP時のポイント振り分けがある。
1ポイント~5ポイントのヤツだ。
はっきりとした解析ではないが、アンケートを取ってそのポイントの振り分け確率なんてものを作った人がいて、俺はそれを見て驚愕したものだった。
5ポイント……20%
4ポイント……25%
3ポイント……40%
2ポイント……10%
1ポイント……5%
らしい。
ある意味引きが強いのだろう、俺ことマイノリティ・イッサは、5%を引き当て続けられる男である。
最低ポイントである1ポイントの最高連続記録は12回。
計算するのが怖くて控えているが、凄まじい確率だと、大海のような大きな自信を持って言える。
あと、最高値の5ポイントだった場合に限り、一定の確率でボーナスポイントとして10ポイントのおまけがついてくるようだ。
その確率を今調査中とか添え書きがあったが、俺には関係ない世界の話で、逆に仮に5ポイント引いてまた抽選かよっ、とイラついたのを覚えている。
あと、おまけのほうがなぜにポイントが高いっ、てな。
「まあ、あれだな。たとえ『輝く赤石』を落とさなくても、20回倒せば『竜の卵』で20万だし、無駄はないよな」
「うわー、どこからか卑屈な声が聞こえたー」
「あれよね~フラグってやつう? 自分からそうなるように仕向けてるわよね~」
俺のことをよく知るパジャマ組が言ってくる。
「わーたよ。10回に1回は『輝く赤石』をゲットできる。そうに違いない。俺はやればできる子。ここに宣言しますっ」
「投げやりー。てか、10回で1回なら、最低でも2個はいるから結局20回戦うつもりじゃん」
ユアがぶーぶーブタのようにである。
「わーたよ。じゃ、5回に1回くらいで、このジュエルドラゴ、ん? 平均レベル80? は、はちじゅう!?」
「ハチジュウ?」
「モンスターレベルだよっ。ユア、図鑑をよく見てみろ。このジュエルドラゴンってヤツ、平均レベル80クラスのモンスターだ」
「げっ、マジじゃん。あーあ、宝石ドラゴンでホクホク大作戦オワタ。レベル20差くらいならなんとかだけど、40近いとウチ即死だよ」
「大丈夫ですよ」
落ち着いた声が言う。
ユアの発言に俺、それにノブエさんも落胆ムードであるが、カレンは違った。
「ジュエルドラゴンのその行動、その性質をしっかり知れば、レベル45のユアでも十分戦えます。戦いの勝敗はレベルの大きさだけで決まるものではありません」
「どっかの仮面さんが言った、モビルスーツの性能がうんたらを思い出すが……」
ユアに向けられる柔らかい笑顔。
俺はカレンのその顔に見惚れていたが、その言葉には目を背けたくなった。
言っていることは分かるが、レベルの大きさ……それはこの世界で絶対的な影響力を持つ要素だ。
カレンの言葉は頑張り次第ではどうにかなるってものだ。
でも俺は、その”頑張り次第ではどうにかなる”って時点で、負けてる自分を認識してしまうんだよね。
……卑屈だよな。
だから俺には、カレンの笑顔が向けられないんだろうな。