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8 悩んだ結果・・・


 よく聞くのが、「ゴールドを所持する奴がわざと死んで、教会へ転送された時点でパーティーを抜ける」とかいう話。

 コンソールを開いてポチリポチリと操作をするだけで、パーティーからは離脱できる。

 罪の意識さえ克服できるなら、こんな簡単な金稼ぎの方法はない。


 とまあ、こんなのもあり、財布係は信頼できる信用できる人が選ばれる傾向にあるのだが、前衛職の戦士や武闘家は嫌うようだ。

 大金は物理的に邪魔になるのである。

 だから、後衛職が預かることが多く、俺達のパーティでは一番年上であるノブエさんへお願いしているのだ。

 ここ大事だよね。

 決して俺が、信用に足りない男だからではないのだ。


「カレンの分はあるね。じゃあ、ムカつくけどあのチビっこのところへ戻ろうか」


 と、ユア。


「そうだな――じゃねーよっ。俺は、俺のことはいいのかよっ」


「また今度ってことでイイじゃん。だって、イッサにはカレンみたく魔王討伐のような志ないんだしさ。なんとなくレベル上がったらいいな~、とかこんな感じでしょ」


 紛うことなき図星だ。

 だが、だがよ。


「俺がすんげー楽しみにしてたの、お前知ってんだろ……」


「じゃあ、レディーファーストってことでカレン」


「うぐぐ、メンズファーストしろよ、とまでは言わんが、せめてジャンケンとかクジとかにしようぜ」


「いえ、その必要はありません」


 俺とユアの間に、凛とカレンが割って入る。


「ゴールドのほとんどは、皆さんがコツコツクエストこなし貯められたお金。私よりイッサが筋でしょう」


「うおお、カレンありがとうっ」


「こら、ありがとうじゃないわよっ。ねえカレン、そういうのはナシ。ウチらパーティ組んでるんだからさ、パーティのお金はみんなのもの。他人行儀っぽいことはしない」


「そうユアから言われてしまうと……弱りましたね」


「盛り上がってるところごめんね~、ちょっと私の話を聞いてもらえるかしらん」


 手帳へあれこれ書き込む姿を見せていたノブエさんが俺、ユア、カレンの会話へ参入してきた。


「仮にどちらかをあのサーシャって子にお願いしたとして、残りは2万ゴールド。ううん~、切り詰めればやり繰りできない金額ではないけれど、ちょおおっと、知らない土地へ来てこれは心許ない感じ~」


 ノブエさんは言う。

 宿泊費、食費、旅費、エトセトラ。

 日々お金は使う。

 お金は減るものだ。

 だから出費があれば、クエストで稼げば良いのだが、一番近くの街の冒険者ギルドにどんなクエストがあるのかも分からないし、いつものクエストとは勝手が違うかも知れない。

 つまり、10万ゴールド使った後は露頭に迷う――とまではいかないせよ、財布係としては遠慮して欲しいようだった。


「だから、ここはぐっとガマンして、必要な分のゴールドを貯めてまた来るの。どお? これが一番健全だと思うのお~、イッサとカレンどちらか選ぶよりも、2人で一緒にヤっちゃうってほうが、気持ち良いでしょ~」


「ねー、どうすんよのイッサ」


「どうするって、ノブエさんが言うんだったら……今回は諦めるさ」


 そう、それが正しい。

 どちらかなんて選択は、二択しかない時にすればいい。

 他に選択肢があって、無理にするもんじゃない。


 もしカレンがレベルの上限を超えたとして、俺はやっぱり羨ましがるだろうし、カレンのことだ、そんな俺に感じなくていい負い目を感じるだろう。

 逆に俺がレベルの上限を超えたとして、魔王討伐への想いが強いカレンの前では喜びづらい。

 そもそも、この話と巫女の所在を知り得たのはカレンのお陰だしな。


 ……今更だが、さっきの駄々こねた俺を無かったものにできんかね。

 すげえ……人としての株が下落したような気がする。


「ゴメンね~イッサ。でもお、私のお願い聞いてくれて、あ、り、が、と。なんだったら、今夜だけは私を好きにしていいわよん」


「明日の朝まで考えさせて下さい」


「それで、カレンはどうする~」


「私もノブエさんがそうおっしゃるのでしたら、異存はありません。実際に巫女がいる。そして、噂は真実のようである。それらが確認できただけでも大きな収穫でした」


「ほんと、カレンって前向きだよね~。イッサに爪の垢しゃぶられないように気をつけてよん」


 そんな言葉で、俺達の話し合いは締められた。

 そうして俺達は、神殿にいたメイド服のお姉さんにまた来ますと伝え、テレル山を下山するのであった。



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