79 冒険する者たち
「周りが驚いているのは分かる気もするお姉ちゃんだけど、ノブくんが驚き顔になるのはおかしいんじゃないかな。ちゃんと近いうちに遊びに来るねって、手紙まで書いたのに。そんな態度だと嫌われているんじゃないかと、勘繰りたくなっちゃうぞお」
「だって~、姉さんの”近いうち”は半年とか一年じゃない~。まさかこんなに早く会いに来るなんて、思わないわよん」
ノブエさんは頬に手の平を添えながらクネクネ。
姉弟の間でもノブエさんはノブエさんだね、と少しばかりの『へえ』を抱きつつも、未だ以って血の繋がりへの事実に戸惑う。
俺達転移者の”家族”ってのがまず珍しいのと、外見があてにならないにしても、どの辺りに遺伝子の共通点を見出していいのかさっぱりだ。
「うふーん。そういう時もあるのさ。相変わらず細かいわね。それはそれとして、本日お姉ちゃんは、ノブくんではなく別の用事で訪れています。そこんとこよろしくね」
トーワさんがこっち、つまり俺に向かってつかつか。
嫌な感じが予期としてあったが、だからといってどうにでもできなかった。
「ではでは、イッサくん。約束通りお話しましょうかしら。さあさあ、私達の『秘密の部屋』に行きましょう」
掴まれた腕は俺のものだったが、強烈な反応を示したのは、
「私達の!?」
「秘密の部屋!?」
カレンとユア。
「何よっ、私達の秘密の部屋ってっ。あんた魔王を倒しに行ってたんじゃなかったの。なんでこの人を押し倒そうとかしてんのよっ」
「押し倒すってなんだよ!?」
「軽蔑します。そう、私は軽蔑します」
「カレンっ、そんな、自分に言い聞かさなくてもっ」
てか、てか、てか――。
「なんでトーワさんはいきなり現れて、俺を連れて行こうとするんですか!?」
「……またしても、少し考えさせられてしまったよ。それはつまり、イッサくんがお姉さんの誘いを受ける理由が欲しいってことかしら」
「ん? 違う違う、逆逆っ。断りたいんす俺はっ」
「うふーん。照れるな若人よ。私はこの世界の探求者、学士のトーワだ。そして、イッサくん。君はこの世界を冒険する冒険者だ。断る理由なんてまったくないではないかー」
うだはっ、やっぱり駄目だこの人。
自信はよく伝わってくるが、話がまったく伝わらん。
「ちょっとイッサっ、勝手にどこ行こうとしてんのさ。あんたまだ、ウチと1億の話どうするか決めてないじゃないっ」
「そうです。イッサがそちらの方とどういうご関係で、どういった事情かは私には分かりませんけれども、まずは私達の、問題を解決してからにしてくださいっ」
「痴話喧嘩は犬も喰わないというから、お姉さんは傍観者でいたいのだけど。私は忙しいので、手っ取り早く仲直りして欲しいかしら」
「失礼ですが。これは痴話喧嘩というものではありません。ただの話し合いですっ」
「そうそう、部外者は引っ込んでてよ」
「にゃあ、にゃあ、アッキー。シュラバだにゃ。これが噂に聞くシュラバだにゃ」
「ルーヴァは大人しくここで見てなきゃいけないよ。これ以上、イッサさんを困らせては駄目だからね」
「イッサがトワ姉さんと知り合いだったなんて驚きだわ~。すぐ行方知れずになる姉さんと、一体どこで知り合ったのかしらん」
とにかく、とにかく、落ち着こうよ。
皆が俺を見ていて――わいわい大きくなる騒ぎは、店の亭主からの視線を厳しくさせる。
なんで、俺だけを睨むんすかマスター。
そして、よく分からんが、このままだと、なんか、なんだか。
「ゲームのような異世界で、レベル10からの前途多難に思える、俺の冒険が始まるような気がしてならないです……」
了
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