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53 マサ隊長曰く、カレンはマドンナ? らしい

 食事をすべて済ませ、ルーヴァ達が休む場所へ移動しようとテントの外へ出た時だった。

 俺――というか、カレンに声が掛かる。

 仕切る布が捲られ、ぬうっと大きな体躯のおっちゃんが登場する。

 レベル110の戦士。我が隊、隊長のマサさんだ。


「ちょっとばかし話したいことがあるんだがよ。いいかい?」


「ええ? 構いませんけれども」


「明日ここを発つ前に、この隊の連中には魔王討伐には本当の死があること伝えるつもりだ」


 マサさんのこの宣言……。

 もしかすると、共に戦う者へ対する嘘や騙すといった後ろめたさがあったのかもしれない。

 けれど、少し違うな。

 戦いに誠実であるべきとかのものでなく――カレンへ向けるおっちゃんの目が語っているのだ、この可能性に向き合うことが今は何よりも必要なことだと。


 確たる証拠はない。

 しかし、疑い見る先は仲間の命に関わることだ。十分に伝えるべきだと俺は思う。

 だからマサさんの起こそうとする行動には全面的に賛成だ。

 そしてこれはカレンも同じだったろうが、小さく唸る態度を見せた意味も分かるところだ。

 マサさんのそれは、たぶんキョウカ女史に良い顔をされないものだからな。


「……隊長殿のお気持ちはよく理解しているつもりです。ですが、彼女の意向に背くことになるのでは?」


「参謀殿のことなら、構うことはねえさ。なぜなら今カレンちゃんも言ったろ、俺はこの隊の隊長殿だからよ。ギルド本部からの特派だろうと所詮俺の部下だ」


 あっけらかんとした物言いだった。

 

「それでよ、実際に魔王と一戦交えたことのあるカレンちゃんの口からもこの事を話しちゃもらえねえだろうか。俺が話し下手ってのは置いといて、あんたの口添えがあった方が信憑性があるってもんだ」


 ふーむ、なるほど……ね。

 どちらかと言えば、魔王からの完全な死を否定する存在になってしまうカレンが認めた発言をすれば、自ずと疑念要素の一つがなくなるからな。


「ま、それ以外にもカレンちゃんの誠実な人柄を見込んで頼みたいんだがよ。あんたが嘘を吐くなんて誰も思っちゃいねえし、なんたってカレンちゃんはこの隊のマドンナだからな。カレンちゃんが黒を白と言や、この隊の野郎共は、翌日から魔王の城を白き城と呼ぶだろうさ」


 夜の高地に、がははと高笑いが響く。


「どうだい。頼めるか」


「真実はどうなのか分かりませんけれど、魔王の疑わしき隠された力については、私も十二分に考慮すべきことだと思います。私自身も隊長殿の行動には賛同したい考えですから、謹んでお受け致します」


「堅いねえ。ま、品がねえ俺からすりゃそこがたまらねえけどな。おっと、こういう発言がセクハラってのになんのかね。と、冗談はさて置き」


 豪快に開いていた口が閉じれば、お硬い騎士へ向く顔は精悍なものへ。


「俺が頭張る以上、この隊から無駄死になんてくだらねえことはさせねえからよ。頼んだぜ」


 がし、と熊のような手がカレンの細い肩に乗った。

 隊長殿これがセクハラです、と小さな囁きを耳にする俺は始終蚊帳の外だった。

 けど、そこにあった守る意志、そんな何か熱いものには存分に巻き込まれた。


「俺が頭を預かる以上は……か。見た目はあれだけど、カッコいいおっちゃんだな」


「なんか言ったか、魔法使いのあんちゃん?」


「なんも。……いいや、俺は死ないから。そう言っただけ」


「そうか。なら臆病になれよ。そしたら、俺の期待を裏切らねえで済む」


 がはは。

 夜空の星にマサさんは笑う。


 臆病――か。

 大人はいろんな言い回しで語るもんなんだな。





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