5 巫女はどんな人だろう
◇ ◇ ◇
テレル山にいる巫女を目指して、荒野や駆け、森を彷徨い、辿り着いた山道。
「ちょ、ちょ、ペース早い。もう少しゆっくり登ろうぜ……」
「男のくせに、情けないなー」
「仕方ねえだろ。俺は頭脳で活躍する魔法使いなんだからよ」
「こういう戦闘と関係ない体力ってレベルやステ値関係ないじゃん。それにイッサって、大学受験失敗したって言ってなかったっけなー、いつ活躍したのその頭脳」
「失敗違うわ。合格発表前にこっちに来たから、結果を知らないだけだ」
俺とユアのやり取りに、先頭を行っていたカレンが近寄って来る。
「すみません。もうすぐ巫女に会えると思い、どこか急いでいたようです。団体行動を乱してしまい申し訳ありません」
「ああ、いいのいいの。イッサが悪いんだから。ウチはもっと早くても全然いいし、ノブっちも大丈夫だよね?」
「は~い、私はどんなに早くても大丈夫よ~気にしないわ~」
どうしてだろう。ノブエさんが言うと卑猥だ。
「でも、カレンったら、魔王討伐のためなら、どんな困難にも挫けず、どんな努力をも惜しまない感じだわよね。ある意味、魔王に一途よね~。私、一途な女好きよ。応援しちゃう。叶うことのない宿敵魔王との恋。う~ん、疼くわあ」
「最後は絶対悲恋で終わるよね」
楽しそうなノブエさんとユア。
それをカレンは暖かく見守る。
「でもさ、ほっんとカレンって、魔王退治に燃えてるよね。別に報酬とかないのに。なんかすごいね。勇者って感じだよ」
そう言ったユアに、俺も似たような感情だった。
魔王。
大方のゲームで言えばラスボスに位置し、倒すことがゴールであり、それがプレイヤーの目的である。
しかしゲームのような世界であっても、この世界の魔王はラスボスでもなく、ゴールでもない。
この世界の魔王は、モンスターの軍勢を率いて、街を襲い人々を襲う、もれなく俺のイメージ通りではある。
だが、それで街人の命が天に召されることもない訳で、話はちらほら耳にするが、遠くの火事より背中の灸である。
周りも俺のような感じで、ユアのような他人事な物言いでも薄情だとは誰も思わないだろうし、どちらかと言えば、いかにも勇者チックなカレンの方が稀有である。
「勇者ですか。なんだか心が痛いですね。私、今は魔王討伐に意気込んでいますけれども、昔は対岸の火事といった感じで他人事のようにしていたんですよ。しかし、実際に魔王の悪行を、人々の苦しみをこの目にして、私は自分の頬を叩きました」
覚悟の目が俺達を見る。
そんでユアが、
「だってさ、イッサ」
俺にふる。
「はあ? 何、なんか俺に言いたいわけ」
「どっかのレベル99はのほほーんと、雑魚モンスターを狩るだけで、なんだろ、そう志、志が違うなーって」
うぐ。
「お、俺だってまっとうにレベル99になってりゃ、魔王の一人や二人くらい倒しに行ってたさ」
「はいはい、負け惜しみー。そういうことじゃないんだよねー、心意気の話ね。こ、こ、ろ、粋っ」
「うふふ。本当にユアとイッサは仲がいいですね」
「そうなのよ~、私妬けちゃうわ~」
向こうでカレンとノブエさんが微笑んでいた。
その笑みに俺はそっと感想を漏らす。
「まさしく、美女と野獣だな……」