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49 なんとなくが彼の良さです

 高台の戦場を背に丘を歩く俺とカレン。

 俺が珍しく真剣な顔をしていたからだろう。

 デカルト隊指揮官の元へ向かう最中、


「……情けないなどとは思っていませんよ。つまらない挑発にも乗らず、立派なものだったと思います」


 カレンが、ふとこんなことを言ってきた。

 見れば真剣な眼差しが迫ってきた。


「ああ……と、そんな大真面目な顔で言われるとなんか照れくさいような……でも、ありがと」


 俺の感謝の言葉は、ふふ、とカレンを笑顔に変える。

 そっちの方が、いいな。

 俺も合わせて口元を緩めた。


「いやさ、別にライアスのイチャモンを気にしてたってんじゃないんだ……。なんつーか、あいつ俺になんで魔王討伐作戦に参加してんだよ的なこと言ってたろ。それで、俺が魔王を倒す理由ってなんだろうなあ……って」


 カレンには苦しむ人を助けたいと願う強い正義がある。

 俺にもこの正義の感情はあるけど、カレンの前で口にできるほどの志ではない。


 ルーヴァは、魔王への復讐が動機だ。

 復讐なんて言葉は聞き心地悪いが、彼女の故郷の家族は散々魔王達に弄ばれたそうだ。

 人体実験とでも言えば良いのだろうか。

 魔王が治める領土の近隣に位置したルーヴァの村人の半数は、魔王の配下に連れさらわれ、その後数年に渡り、村へ戻ってくることはなかったらしい。

 そして、戻ってきた者はもう以前の面影もないくらいに精神を朽ち果てさせていたそうだ。


 それで、戦士ライアスもルーヴァと同じ理由から復讐を誓う。

 あいつがひたすらに強さへ固執するのは、復讐を遂げる為の力が欲しいと願う欲求からくるものだろうと、ルーヴァは俺に語った。


 アッキーはアッキーで自分の欲望に忠実だ。

 あのには、スキル珠の為ならどんな苦労も厭わない覚悟を感じてしまう。

 それに比べて俺は……。


「……理由がなければ駄目なんでしょうか」


 立ち止まるカレン。

 だから俺も足を止め、振り返ることになる。


「いや駄目っていうか、それなりに理由ないと、なんか適当な感じっていうか、なんとなくじゃ不真面目じゃね?」


「私に不真面目になりなさい、そう言ったのはイッサですよ?」


 少しからかうような口調のそれだったが、


「カジノのあれとこれとは話が違うって」


 カレンは無邪気な笑みを浮かべると、こうも言葉を続けた。


「なんとなくでいいじゃないですか。イッサはなんとなく居るだけで、なんとなく頼りになるんですから」


 言って、軽やかに歩き出せば俺を通り越して先へ。

 そうして直後、言い忘れていたことでもあったのか、真っ直ぐな長い黒髪をふわり膨らませ、くるり振り返った。


「私達の魔法使いはやる時はやる魔法使いです。期待してますよ。イッサの手は私の手でもありますから」


 要は私の期待に応えるのが理由になります。カレンはそう言いたいのだろう。

 再び向き直ったカレンは艶やかな髪を揺らし、サクサク先を行く。

 俺は跳ねるような足取りの道標を追いかける。

 可憐な乙女の背中に、なんとなくな俺はなんとなくやる気を充填させられるのであった。







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