45 勝敗
ほのかに輝く六芒星の中に俺はいる。
周りは構える重装備の男達。
中にポニーテールの女性が混ざるのは見た。
「あとほんの少し……ダメージが足らなかった」
ベネクトリアの教会で俺は待つことにする。
もしかしたら、俺の次にここへ転移してくるのはミロクかも知れない。
フー、と息を吐き、俺は重装備の男達に混ざる。
そして、待つ。
すると六芒星が発光。
そこに男が一人転送されて来た。
加えて真っ裸だったと言っておこう。
「大丈夫。拙者達の勝ちだ」
大丈夫そうには見えない、裸の人こと元煙管の人は俺達にそう告げた。
「ユアが何か文句でも言いそうだな……」
一言漏らし、俺はパーティの契約を解約してギルド本館地下へ急ぎ戻った。
ミロクと戦った部屋には、教会送りにされていた冒険者の姿もあった。
呼吸を整える俺はその中にカレンの姿を見つける。
血色の良いものへと戻っていた顔。
ただ、そこに浮かぶ表情は苦々しいものであった。
それでも。
「無事で良かったよ」
「はい。お陰さまで。私の毒の方はすっかり回復しました。けれどイッサ、その言い辛いのですが」
「分かってる分かってる。なんとなく周りの雰囲気でそうなのかな……てね」
はあ、なんつーか、全然嬉しくない勝利だよな……。
「やっと来たね。あんまりアタイを待たせるんじゃないよ」
カレンから道具箱を受け取ろうとして、声を掛けられる。
自然と周りが距離を置くから、すぐに見つけてしまう。
煙管を片手に、煙を漂わすミロク。
着る物を派手な民族衣装へと変えたその様は、より艶やかになっていた。
元が男物だからか、胸元が大きく開いている。
「……その服、返してやんねーのかよ」
「こういうのは、似合う奴が着るもんさ。魔導士の坊やはアタイには似合ない、そう言いたいのかい」
凄まじい追い剥ぎの理屈だな。
煙管――いや、今は真っ裸の人であるが、彼の話だと、俺がミロクを相手にしている隙に、カレンへ毒消しの薬を与えたようである。
俺と同じく、前衛の騎士がやられてはもう後がないと思い、一か八かの行動に出たようだ。
それで、一か八かには二つの思いがあり、一つはミロクの目を盗んでカレンの元へ駆け寄れるか。
これは成功。
もう一つは、ルール通りカレンを救助したとして、果たしてミロクが納得するか。
正直、真っ裸の人はそれで戦いが終わるとは思っていなかったと言っていた。
しかし、実際には俺達の勝利として終わりを迎える。
恐らくミロクという人間のルールでは、己の決めたルールには従うんだろう。
デカルトさんとの会話を聞く限り、約束を守る神経は何かしら持っているような節はある。
けど、『お前のお陰でアタイが負けになったじゃねえか』との鬼のよう形相で言われ、思い出したくないような仕打ちを受けて教会送りにされました、と真っ裸の人は語っていた。
ミロクのルールの定義は難しい。
「それで……なんで、俺なんだよ」
「そうだね。理由なんてないさ。気分。でもあのハゲをぶっ叩く様は見ていて気持ち良かったね。さすがにアタイが直接手出すと、ギルドの連中も可愛げがなくなるからねえ」
そう言って、にっこり微笑みかけてくるミロク。
なんとも背筋が寒いのであるが、どうやら俺は、最強の無職ミロクとパーティを組まないといけないようである。
加えて、俺はこれから、この妖美の乙女の関心を引いた行動の責任を取らないといけないわけで……。
「まったくもって……なんだかなあ」
俺はとてつもなく大きな溜息を一つ吐いた。




