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44 最凶の無職

 

 ぐるりと広い部屋――今は闘技場と化した地下室を見回す。

 奥に、増々遠く位置となったカレン。

 左方にミロク。右方の壁際には、重装備の2人から警護されるデカルトさん。


「仕方がないか」


 少し前、気の利く警護の奴がカレンのいる幾何学模様のところへと向かったようだったたが、あえなく瞬殺された。

 そしてその行為がミロクの怒りを買うことになる。

 カレンの状況はそのまま、怒りの矛先はこっちへと芳しくない結果となった。


 現状は――。

 ミロクを遠巻きに俺達後衛職が4人。

 攻撃に参加できるのは、俺と同じ魔法使いの煙管の人、そして女銃士。

 銃士の攻撃は魔法の射程より範囲は広いが、魔法性の攻撃ではないので実質、手の打ちようがない状態。

 回復役は、薬士のメガネだけ。


 俺達後衛職を守る役目もあった、前衛職は残り2人か。

 この2人が送られたら、あとは総崩れだろ。

 だから、早くケリを着けたい。


「シャルード、シャルード、シャルードっ」


 単体の中級氷結系魔法、連射っ。

 軽減スキル-5があるとはいえ、一発につき2ポイントは消費するので、3発で打ち止め。

 気は焦るが、SPはすぐには回復しない。


「くそ、あと少しですべて削り取れそうなのに、減らねえっ」


 ここに来て、ミロクのライフゲージ減りが悪い。

 他も一緒でSPが底を尽き、大技が放てない状態だ。

 だから、小技の連発で少しずつ攻撃していくしかないのだが。


「一人やられたっ」


 騎士が叫ぶ。

 もう後がないとの報告だ。


 ステータス面ではすべて俺達の上。

 脅威の回避感覚持ちで、通常攻撃はほぼ当たらない。

 唯一とも思える攻めどころであった状態異常も効かない。

 

――なろ、なろ、こんにゃろっ。


 だからと言って、このままヤラれるわけにはいかねんだよ。

 ミロクのことだ、奴の気が済むまで何度でもこの馬鹿げた戦闘を繰り返すのは目に見えている。

 カレンが、その間ずっと苦しむことになる。

 この1回で勝つしかねえんだよ。とっととミロクを送ってその間にカレンを救出するしかっ。


 ぎゅっと懐へしまう毒消しの薬を握る。

 そしたら、何か別の物があった。

 取り出して手の平を見れば、毒消しの薬と数個のスキル珠。

 そういや拾ったままだったな、とハート型の赤い玉を見てすぐ、パバッとコンソールを操作する。



【追加スキル欄】


・追加スキル /スロットふえーる /SP消費軽減-5p<*> /SP消費軽減-5p<*> /魔法力ブースト<*>



「残り枠は、ライフ1ポイントを残し教会送りを回避する『ふんばーる』とも思うが、連撃だと意味ないしな。ここは魔法を強化だろう」


 『ふえーる』で増加したスロットに、カレンから貰った軽減を。

 こうすることで、魔法のSP消費量が裏ワザの-10軽減になる。

 俺の最大SPが40。

 50から-10できれば、対象が単体だが最高威力であるはずの技スキル『プレアデス』が使用可能になる。

 あとは、まったく足りていないSPをどうするかってことだが。


「腹をくくれ頭脳で活躍する魔法使いこと俺」


 てか、順調に行けば体張ることになるんだけどな。

 それはさて置き、あまり気乗りがしない”賭け”でもあるばかりか”騙し”も必要になる。


 ”賭け”の部分は、SPの確保。

 俺が今握る、古代魔導士の杖の固有スキルはSPドレイン。

 殴った対象からSPをダメージの割合い分吸収する効果がある。

 反則的使用かもしれないが、恐らく対象がモンスターでなくても、つまり人間でも殴ればSPを吸収できるはず。


 ”騙し”の部分は今からスタートさせる。


 気合入れろよ俺。

 周りを見回し、状況を把握。

 そして、大きく息を吸う。


「ハニーさんっ。後は頼みますっ」


 女銃士に叫んで、俺は左手に持つ古代魔導士の杖をミロクの方へ向ける。

 そして『ティラゴ』を連発しながら駆ける。


 SP消費を必要としなくなった中級火炎魔法は、ミロクのライフを削るためのものじゃない。

 煙幕ならぬ炎幕。

 炎を壁にして正確な位置を誤魔化す。


「まだだ、まだこっちに来るんじゃねえぞ」


 言った側から炎の壁を突き破り、真後ろへミロクが登場。

 だよな。カレンの方へ走る俺を放っておくわけがない。

 しかし、飛び蹴りが当たらなかったのでよし。

 もう拾えたしな。


 傍には俺が放り捨てていた道具箱が転がる。


「カレンっ、毒消しの薬だっ」


 迫る後ろからの気配より早く、叫んで右手に持つ物を全力投球。

 人影が俺を越え、投げたカエルの人形ガーマくんを攻撃する。

 よくゼロ距離で蹴り落とせたものだ、と感心なんてしない。

 ミロクならやってのけるし、薬士と銃士のコンビネーションを見ていたお前なら、絶対にそうするしかないもんな。

 俺があの痺れ薬と同じ方法で、カレンに毒消しの薬を使うと思っただろ。

 残念。

 大切な毒消しを確実性もないここから、そうそう投げたりするものかよ。


 んで、行くぜ。


「『ティラゴ』」


 宙が赤く染まる。

 その赤色の中にミロクの姿はない。

 くそ、なんで空中で躱せる!? ――が、相手の体勢は崩れた。結果的に問題ない。

 なぜなら、こっちが本命だしなっ。


 左腕を目一杯振る。

 魔導士の杖の先のコブがミロクの背中目掛けて加速する。


 どうだ、魔法使いが物理攻撃だなんて思わねえよな。

 完全に不意と意表を突いた。

 直接攻撃によるダメージ&SP吸収で追い打ちも掛けられる。


 ぱし、とコブが足裏で受け止められる。

 んなっ――、


 魔導士の杖を足場にミロクがくるり、回転蹴りを俺へ食らわす。


「ぐふっ」


 吹っ飛ぶ俺。

 決まれば最高だったが、①の案は失敗。

 だから②の案へ期待。


 ②は、このままカレンの方へ吹っ飛ぶ。

 上手く行けば、どさくさに紛れてカレンの毒だけはどうにかできる。

 そう思っていたが。やはりそんな都合よい結果にはならないようで、飛ばされながらにミロクとカレンの姿が離れていっているのが分かる。


 ②の案失敗。

 ならば③に期待――というか、もう打ち止めだから頼む。


 ゴロゴロドン、と壁に激突。


「だ、大丈夫かね君」


 重装備の男が言う。

 その言葉は上司のデカルトさんに取って置いた方が良い。


 俺はごろごろ前転して移動。

 すたっと立ち上がった前には『な、なんだね君は?』といった顔のギルドの代表補佐役の男。


「すんません。ダメージ割合いなんで」


 言って、バットの如く握り締めた杖をフルスイング。

 膨れる腹を凹ませたデカルトさんが弾け飛ぶ。

 自分の行動に思うところはいろいろあるが、今はSPゲージ。


「来いっ来いっ、来おおい!」


 ギュイーンと上昇するゲージは赤色から黄色、そして緑の満タンへ。

 ぎり、と視線をゲージから戦闘の場へ戻せば、俺に追い打ちを掛けようした後が残るミロクが棒立ちであった。

 なんでだろ、とか一切考えることなく唱える。


「『プレアデス』っ」


 俺の声に反応したミロクが襲い掛かって来ていたが、遅いっ。

 ミロクの体の重心に黒い球体が発生。すぐさまの球体が肥大化。大きな黒球となってミロクを封じ込めた。


 黒球の中に点々とした光が灯る。

 そして、球の中心へ向かって帯を引く。無数の光の矢がミロクを貫き通す。

 光の矢は黒球の中で反射を繰り返しその残像を強めていく。

 黒球がだんだんと眩い白球へと変わる。

 これ以上直視できない発光球体になって直後、球体は弾け光は霧散した。

 

 プレアデス。

 俺の使える最大魔法が予想以上の威力をもって炸裂した。




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