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43 最強の無職

「さあーて、どうしてだろうねえ」


 纏わせる雰囲気を狂気から妖気へ変えるミロク。

 次に、


「キヒヒッ、聞かれてほいほい教えるわけねーだろ、馬鹿か?」


 荒々しい口調で言って俺を嘲笑う。

 至極まっとうな言い草だけに反論もないので、『器が小せいのな、あんた』とだけ返した。


 あからさまな俺の挑発。

 そして、メリット小、デメリット大のそれである。


「クククッ、あんたアタイにいい根性だねえ」


 俺と向き合うミロクは顎に手を添え微笑むばかり。

 どうやら、即殺しの結果は迎えずに済んだ。

 デメリット中へ下方修正。


「俺達冒険者はギルドへの登録時、ギルドから職についての説明を受ける。内容は職を得ることで各職業固有の技スキルが使えるようになることと、職業で得ることで使える追加スキルのスロット数が各職業で決まっていること、あとスキル珠の話なんかも聞かされたかなあ。まあ、手短いものだったから苦痛になるようなものでもなかったけど、これらは冒険者の特典だよな」


 早口になる自分を抑えつつ、素早く息継ぎ。


「それで、俺は思っていた。無職になればこの冒険者の利点と失うってね。実際無職になれば技スキルを使えなくなる。だから、追加スキルも使えなくなる。そんな風に思い込みで誤解していた。恐らく、無職でも追加スキルにスキル珠は装備できる……だよな?」


「そういやあんた。アタイの特性スキルの時もケチをつけた魔道士だったね」


 ミロクの突き刺さるような視線は、俺を覚えようとしているように思えた。

 あはは……すげー勘弁してもらいたい。

 けど、反応からして無職でもスキル珠装備できるようだな……あとは幾つ装備できるかで、戦いの結末が変わりそうだよな。

 『ふんばーる』とか持ってなきゃいいけど。


「待て待て、そんな話私は聞いておらんぞ。勝手な憶測でギルドが作り上げたシステムを貶めるような発言はやめてくれないか。追加スキルはギルドへ登録する冒険者のみへ与えている。職を剥奪した者へなんぞに使わせたりするものか」


 予想外にデカルトさんが話に加わってきた。

 貶めようなんて気はなかったが、時間稼ぎには持って来いだ。

 俺がこうしてミロクと嫌々話しているのも、さっきの騙されたことからくる動揺を失くす為だからな。


 カレンを思うと焦燥感に駆られるが、あのままミロクのペースにハマてやられてお終いってわけにはいかない。

 虚を突かれた前衛職の連中には気持ちを切り替える時間、ヒーラーには仲間への回復を行う隙が必要だ。

 

「ハゲは黙って見てるはずじゃなかったのか、ええ?」


 デカルトさんは言い返すこともなく、定位置の壁際へ引っ込む。


「アタイくらい職を繰り返し剥奪されたら、なのかもねえ。それとも誰も試そうとする野良がいなかったのか。職を失えば追加スキルの枠はなくなるよ。ただね、クククッ、どうしてだが一つだけ装備できちまうんだよ」


「それはセット枠がないが、コンソールで通常操作をやったらセットできたってことなのか」


「さあ、どうだろうね。この世界はそこまで精巧にできていないのだろうさ。それよりも、時間稼ぎなんて小細工にはもう飽きたね。他に面白いことができないなら、坊やと話すことなんてないよ」


 きっと俺は瞬きをしたんだろう。

 目の前に、ミロクの嬉々とした顔があった。

 考えるよりも先に屈む俺の体は縮地攻撃を交わす。

 ジュエルドラゴンと戦いまくった成果だなと、230の素早さを凌いだ数値じゃない自分の素早さに感心した刹那――吹っ飛んでいた。


 連撃だったんだろうとかの考察が即座に消えるくらい、ガチで痛え。

 声が出ないほどに痛え。

 頭蓋骨、イってんじゃないだろうか。

 ステータスの数値がある分、車から衝突されても耐えられるくらいの身体の強度があると思っていたが、相手の数値が上回り過ぎていると関係ないようだ。


「ぐだっ――」


 ゴロゴロと転がりながら、ライフゲージを確認。

 気分はとっくに天に召されていたが、セーフ。


 ポタポタと鼻から滴る血を拭う先では、既にミロクが他の冒険者達との戦闘を再開していた。

 どうやら俺の自慢の顔は、再開のゴングとして打ち叩かれたらしい。


「ブサイクになったら、どうしてくれんだよ」


 戯れて、痛みと恐怖を振り払う。






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