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4 旅の道中は楽しく語らいて

       ◇ ◇ ◇




 レベルの上限を引き上げてくれるらしい巫女。

 即ち、レベル99から先のステータスUPを可能にしてくれるということ。

 それは、ここ1年ほど変化のない俺の基礎数値が上昇する可能性を孕む。


 カレンの相談とは、そんなありがた~い巫女様へ会いに行くのに同行してくれないかと言うものだった。

 旅に必要な物を揃え直し、一人不慣れな土地を旅するよりは、このままこのパーティーで行動できたら助かる。

 カレンは私の我がままですがどうか、と俺達に頭を下げた。


 けれどもこれ。本人は口にしていないが、たぶん俺への気遣いがあったんだろうなあ……。

 それをユアもノブエさんも感じたらしく、カレンの申し入れを快諾した後、俺の方をぽんぽんと叩き、


『期待し過ぎると立ち直れなくなるよー』


 と、


『裏切られる結果になっても、カレンを責めちゃだめよ~ん』


 とを、耳打ちしてくれた。

 気の利く仲間を持つ俺は、分かっているさと彼女(パチもん含む)らへ言い、そして、自分へと言い聞かせた。


 そんなこんなで、今俺達はザイル荒地を駆ける馬車の中にいる。

 側ではユアとカレンが話す。


「ポケベルって何?」


「電話で送った数字を受け取る小さな液晶画面がある器械で、例えば、『084』でおはようって読みます。そうやって連絡を取り合うんです」


「ふーん。でもそれ、ケイタイに電話した方が早くない?」


「私の周りには、携帯電話を持っている人はいませんでしたので」


「うそっ、ケイタイなしの時代なの!? カレンってもしかして江戸時代の人!?」


 大仰に驚くユア。

 冗談なのか本気なのか分からんが、江戸は言い過ぎだろ。

 たぶんカレンは、『ショーワ』からこっちへ飛ばされて来た人なんだろうな。


 俺達がいる、このゲームのようなレベルシステムがある世界。

 この世界へ来訪した者は、俺が存在していた時間からとは限らない。

 いろんな時代から訪れるようで、俺としては俺よりも未来の時代の人と会いたい想いがあるのだが、まだそんな相手とは出会っていない。

 いや、もしかすると会っているかも知れないが、こう『外の人』ばかりだと、いちいちどの時代からとかも聞かないし、大して意味もないし。


 と言っても、中には出会い頭『お前、どこちゅう?』みたく、どの時代からよと聞いてくる奴もいる。

 が、正直『ウゼー』と思うので、俺はそんな奴らを反面教師にしているのだ。


「イッサはどう思う」


 不意にユアから言われる。


「ん? カレンってショーワの人なんじゃない」


「いつの話してんのよ。その話題とっくに終わってるつーの。今はこの世界がなんなのかって話じゃん。ウチは未来のマッドサイエンティストが作ったゲームにトリップさせられた感じ? なんかの実験材料にされてんのよウチら」


「その割には、ゆるい世界だよな」


 などと感想を抱く俺も、飛ばされた当初はいろいろ考えたりもしたが……今じゃ順応しきったのか、マンガ読みてえなあ、とかインスタントラーメン食いてえなー、とそれらが恋しくなった時に帰りたいと思う程度だったりで。


「私は死後の世界なのではと考えています」


「あらあ、カレンってばこっちへ来る前はお亡くなりになった方なの~」


「いえ、そのような記憶はないのですが、明確にこの世界へ来た瞬間の記憶がないので、そうなのではないかと」


 悲しげな顔のノブエさんにカレンはハキハキ答える。

 ユアといえば、うげ、と苦々しい顔になり、『ウチ、一割くらいは戻るつもりでいたけど、死んでたら意味ないじゃん』であった。 


「なあ、よく分からんこの世界の話より、巫女の話しよーぜ。本当にいると思うか巫女? 俺3年くらいこっちにいるけど、聞いたことないんだよね、そんな話」


「またその話? だからー、いるかどうかを確かめるのも兼ねて、ウチら神殿目指してんじゃん。行けば分かることなんだから、少しは我慢してよ。いい加減ウザい」


 面倒くさそうに言うユアを、カレンがまあまあとなだめた時だった。


「冒険者さん、モンスターが道を塞いでいるようだ。よろしく頼むよ」


 馬車の御者からそう言われ、俺達は停まる荷車から飛び降りる。

 眼前に青い空、広大な大地、そして蠢くアリアント。

 特段、代わり映えのない光景といつもの作業が待っているだけであるが、


『――レベルを上げようと思うのです』


 カレンのこの言葉を耳にして以降、俺の目からは曇りが取れたらしい。

 見るものはこの世界へ来た時のように輝く。

 そして、戦闘時もこの世界へ来た時のように身体を巡る血が熱くなった。


 さあ、モンスターどもよ――


「俺の魔法をとくと味わって逝け」



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