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34 戦士ライアス

 周りの視線を気にすることなく、わざとらしい笑いが続く。

 資料を手にする様を見て、とっとと宿へ戻れよと言いたくなるライアスが俺のことを根に持っている自覚はあった。


 その遺恨を残される経緯であるが、一年ほど前になるか……ライアスがいたパーティから俺は誘いを受けた。


 自分で言うのもなんだが、俺のようなレベル99は人気があるから一人でウロウロしているとすぐに噂になり、勧誘が来たりするものなのだ。

 レベル99なんてのは冒険者全体としては意外と少ないから、レアとまでは言わないまでもレベル上限に達しているだけで周りからの視線は自然と熱くなる。

 まあ俺が、本来のレベル99が狩るような狩場に行けなかったから、余計に目立っていたというのもあるけど。


 それで、ライアスの誘いを受けてパーティに入ったのだが、俺が加わる代わりに元いた魔法使いがクビになった。

 言い方を変えれば、元いた魔法使いを切ってまで誘ったレベル99の魔法使いが使い物にならなかった、こっちの方が分かり易いな。


 だからライアスは、そのやるせなさを俺への怒りとしてぶつけるようになった。

 俺としては理不尽なそれであるが、結局俺はそれが元でライアスのパーティから離れた。

 眼前でワハハと笑う男とは、こういった因縁と言えばそれ、ただの嫌な思い出のある相手と言えばそれまでの関係があった。


 しかしながら、俺としては楽しくもなんともない過去なので忘れていたが、どうやら相手は一年経った今でも、景気良く怒りの炎を燃え盛らせていたようである。

 まだ、笑ってやがる。

 こんだけ思い出回想に時間掛けたのに……豪快な風体の割にはみみっちいなこいつ。


「あのさ、ライアス。話があるならここじゃ」


「変なもんだにゃ。イササとライアスが顔見知りとはルーヴァはびっくりにゃ」


 ひょいっと俺の喋りを横切り、獣人ルーヴァが戦士ライアスを知っているような台詞で登場してきた。


「……ち、ヘビ女かよ。蓑笠ばかりに目がいって気づけてなかったぜ……」


「ヘビだとくれれいむが来たから、今は獣人らしくネコ女にゃ。相変わらずライアスは強がり男子にゃね」


「っるせー。俺のは強がりじゃねえっ。俺は本当につえーんだよ、どっかのエセ魔法使い野郎と違ってなっ」


「ぐ――」


 どんっと俺の胸を突いて、ライアスは大きな戦斧背負うその後ろ姿を見せる。

 よれよれっと後退した俺はすかさず踏み出し、前方へと躍り出た騎士の腕を取った。


「いいんだカレン。その……気にしないでくれ」


「……すみません。私が口を挟むようなことではないと分かってはいたのですが、イッサが侮辱されることに我慢できず」


「ああ、分かってる。カレンは仲間想いだからな、ありがと。あれだな、俺が情けないから駄目なんだよな、あはは、なんかワリー」


 掴むカレンの腕から強張りがなくなったと感じ、そっと離す。

 振り向くカレンの顔はどことなく曇っており、そこへ加わるようにして飾りの付け耳が萎れているようにも見えるルーヴァの顔もあった。


「イササにカレレ、なんだかすまないにゃね。ライアスも根っこは真面目で良い男にゃのだけど、強さに敏感なお年頃で融通が利かない利かん坊でござるにょろよ」


 ノブエさんが聞いたら喜びそうな内容だな。


「まずは、ルーヴァの獣人へのこだわり具合が真面目なのかを知りたいところだけど、あれだな。なんか変なヤツだったなあいつ。それで、なんつーか、そうそうルーヴァってあいつと知り合いだったんだな。俺としてはそっちに驚いたな」

 

「んー、クリアレスの民で冒険者をやっているのは珍しいからにゃー、自然と顔見知りになるにゃ」


「ああ、だよな……そういやライアスも『地元の人』だったけ……」


 視線を送った先の広間の端。

 仲間と屯するライアスを発見する。

 用が済んだなら、早く行けよとまたしても思うわけであるが……。


「イササ仕返しの策謀かにゃ」


「いやいや、んなことしねーから。好きにはなれねーけど。ただ、ここにいるってことはあいつもレベル99になったんだなあってさ」


 ルーヴァへは振り返らず、そのまま眺めていた。

 あの頃から一年掛からずに上限に届いたんだから、相当モンスター狩ってるよな……俺と違って特性スキルもないわけだし、苦労したろうなあ……。


「アッキーどうしました。そんなところで這いつくばって」


 俺が物思いにっていると、側でカレンの声。

 今度はちゃんと反応しそっちへ視線を移せば、言葉通りのアッキーがローブを垂れさせ堅い床へよつん這いのままにキョロキョロしていた。


「ああ、カレンざ~ん。ボクのスキル珠が、ボクの大切なたまが床に散らばって。さっきイッサさんからぶつかられた時に、革袋が落ちて」


 うげ。

 よく見れば、ビー玉くらいの大きさの珠があちこちに転がっている。

 そして、それらは他の冒険者から踏まれ蹴飛ばされ、必然涙目のアッキーが嘆くことになる。


 俺のせいだよな。非常にすまん。

 んで、どこかの僧侶が喜びそうなことを君も言っちゃうんだね。




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