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33 魔王

 魔王討伐宣言がなされたギルド本館の二階ホール。

 そこから100人くらいに分かれて、俺達は別室へと移動した。

 話にあった資料を受け取るためだ。


 並んでいる間、周囲から聞こえてくるワードランキング一位は『魔王』。

 俺達もそのランキング通り、会話の節々にその言葉を用いていた。


「要は、刺激しないために今までは魔王討伐を発注しなかったってことだろ」


 魔王は自分の領土とするその場所にて建つ城に住み、時折近隣の地域へ現れ集落や街を荒らす存在であった。

 考え方次第ってところだが、それを災害のようなもとして割り切れば、魔王であっても率先して滅ぼすようなものでもなかったのだろう。


「魔王討伐クエストが発注されれば躍起になって冒険者は魔王を倒そうとする。そうなれば魔王の機嫌も損なわれ、今まで以上に暴れる可能性が出てくるわけだ」


「それは否めないですね。実際に私達が魔王討伐を行うことにエールを贈って下さる方もいましたが、ギルド関係者の中には渋い顔をされる方もいました。今の魔王を倒してもいずれはまた現れる存在ですし、それならそっとしておくことの方が良いとの考えなのでしょう」


「魔王のレベルなら魔監獄行きの後、10年くらいはこっちに戻って来れないはずにゃ。それにゃのに対処しないのは魔王対ギルドの全面対決になることを、ここのエラいさんが避けているだけにゃ」


「現実問題としても、クエストを達成した証明も難しいです。モンスター討伐の場合、ほとんどがドロップアイテムがその証明となります。でも、魔王が何をドロップするのかはっきりしていませんから」


 俺の推測から、カレン、ルーヴァ、アッキーと続く。

 俺を含め各々が持つ考えはあるのだが、結局ギルドから具体的な発言もなく、憶測の域を出ない。


 確実なものは、魔王がその魔王たる存在をようやく自覚したのか、近頃になって近隣への明確な侵略を開始したようである。

 これにより、ギルドは重い腰を上げざるを得なかった……と、そんなところだろう。


「あのさ、それで10年? 魔王って倒したら10年後に復活すんの?」


「10年の月日は恐らくの年数ですね。世間ではそれくらいだろうと言われています。魔王もモンスターです。魔監獄行きになった後、そのレベルに見合った時間を掛けて再生します。と、これはアッキーの受け売りなのですが」


 カレンの可憐な顔が、俺から物知り博士らしいアッキーへ。


「魔王はアナライズキャンセル持ちですから、はっきりしたレベルは誰も知りません。でもこの世界のレベルの上限が99だった以上、魔王はおそらくそのレベルで、ボクがこちらの専門家に尋ねたところそれくらいの期間を要すると予測されました」


 たまたま『盗眼』を使うパーティがいなかったとも考えられるけど、魔王に対しては情報取得が無理っていう、先入観がそうさせているんだろうな。


「イッサさん?」


「ああ、はいはい大丈夫、ちゃんと聞いてるよ俺。あのさ、あいつらの魔監獄送りって俺達の教会送りに相当するんだよな。でも俺達と違ってなんであいつら再生に時間が掛かんだろうって……まあ、そっちの方が都合いいし、別に気にしてやることじゃないけどさ」


「いいえ、イッサさんの疑問は最もです。これはボクの見解になりますが――」


 どうやら俺の素朴な疑問はアッキーを喜ばせたようである。

 意図しているわけじゃないが、どうにも俺はこの子のツボを突くのが上手いようで、ボクっ娘からはここ数日でえらく懐かれてしまっていた。


 それで饒舌じょうぜつになる赤毛の少女アッキーの口からは、人間にはお金という概念があって、この世界ではレベルに比例してゴールドの支払が大きくなるとの前置きがあり、その概念が俺達が教会送りで復活できるいわゆる代価だいかの役割になるそうで、エトセトラ。


「完全女子だったならなあ……妹系としてありと言えばありなんだけどなあ」


「何がありなんですか?」


「いや何でもないっす。で、モンスターには人間のような、払える価値を有する存在? がないから……なんでしたっけ?」


「お金の概念そのものが人間からの神への供物といったところですね。価値の支払いです。しかしモンスターにはそのような考えは存在しないので、魔監獄送りになったモンスターは時間という価値、代償を払っているんだと思います」


 なるほど、さっぱり分からん。


「あれか、俺は普段無駄に高い宿代とか施設利用料を払っている分、すぐ復活できるけど、モンスターはそれを怠っているから罰金の代わりとして、復活に時間が掛かる……そんな感じ?」


「はい、そんな感じです」


 自信持って頷かれてしまったが、俺は神様への概念が供物うんたら全然理解してないからな。

 しかし、あっちはあっちで、高レベルによる影響があるわけか。


 うーむ。なんか、あいつらと自分を比べるのもどうかと思うが、向こうも損を味わってる風ってのはちょっと気分がいいな。

 と、小さな平等感による悦を味わっていた時に、影が覆いかぶさった。

 俺の側で人が佇むようだ。


「こりゃ、まいったね。変な蓑虫野郎がいやがるって思ったらテメエかよ。そういやレベルだけは99だからな。レベルだけはよお?」


 挑発的な態度とデカい声。

 更に言えば、俺にカラむデカい戦士の男。

 もっと言えば、覚えのある浅黒い顔に、背中にはデカい双刃の戦斧背負う。

 それと正直に言えば、この男、ライアスとは遭いたくはなかった。

 理由は至ってシンプル、嫌いだからだ。


「ああ? 待て待て、そうかそうか、だから『隠れ蓑笠』だったか。アナライズされたくねーような貧弱じゃなきゃ、んなダセー装備、誰も使わねーからな。おお、こりゃ失敬」


 何がそんなに面白いのか。

 以前在籍したパーティの戦士ライアスが、しかめっ面の俺の前でワハハと高らかに笑う。





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