32 代表補佐デカルトは告げた
3、400人といったところだろうか。
広いホールに集まる人、人、人がすべて99、99、99ってなことだろうから、こんなところにもしモンスターが迷い込んだとしたら、そいつに同情するくらいには一溜まりもないだろうな。
それで、恐らくジュドラでさえ秒殺だろう集団に一人の小太りなおっさんが偉そうに話をする。
実際にとても偉い方のようなので、『そう』は不要か。
頭一つ高いところに位置する講壇に手を付き、その偉い冒険者ギルドの代表補佐デカルトさんが声を轟かせる。
内容としては、ここ一ヶ月くらい前から一部地域でのモンスターによる襲撃が相次いでおり、それはすでに看過できない程の被害を近辺集落にうんたらである。
「以上、今回のジェミコルはギルドから諸君らへのモンスター討伐クエストの依頼になる。そして、この依頼は……」
そこまで言って、ぐっと溜めをつくるデカルトさん。
勘が良い奴らは、次の言葉を予測できている様子だな……俺もその一人。
レベル99の冒険者の招集に、その被害が頻発しているらしい地域――、
「魔王討伐をもって完遂とする」
その明言に、ホールがざわざわざわめく。
そりゃそうだ。俺もざわつきたくなる。
俺の知る限り、今までにギルドが魔王をクエスト対象にすることはなく、俺達冒険者の間でも魔王討伐はどことなく敬遠されていることだと認識していたからな。
んで、これだけの人数が一斉にヒソヒソ話したら、それはもうヒソってないわけで、ホールは結構な喧騒である。
「静粛に。静粛にっ。諸君らの疑念はこちらも分かっているつもりだ。今までギルドとして魔王を討伐対象から外していたことは認めよう。理由は一つと言うわけではなく総合的にそれを最善と判断していたからだ。だがしかし、今回は状況と事情が変わった。速やかな魔王並びにその配下のモンスターの討伐が求められ、必要とされている」
冒険者ギルドの代表補佐デカルトさんの説明はこれ以後も続き、最後は三日後の遠征へ向けて資料を熟読しておくようにとの言葉で締められた。
そうして振り返れば、
「今回の討伐作戦。願ってもないことです」
カレンが期待を裏切らず瞳に炎を宿していた。
それと、
「その通りだ。ルーヴァはここに来て良かった。これで、みんなの仇を取れるっ」
バシン、と手の平と拳を打ち合わせるルーヴァのそこにもメラメラとしたものが灯る。
なので、俺は更に隣のアッキーを見たのだが。
「あの、ボクは、カレンさんやルーヴァのような……その、ボクは魔王のドロップアイテム欲しさにルーヴァの魔王討伐パーティに参加しています。……動機が不純ですみません」
もしかしたら落とすかもしれないスキル珠欲しさにってことか。
しかしアッキーよ、謝ることはないぞ。
相手は魔王だしな……そのコレクション魂はある意味誇っていいと思う。
それにしても、である。
このまま行けば三日後、俺は魔王討伐隊の一員として出向くわけか。
まさかだよな。
全然関係ないところの話って思ってたからな、魔王なんて。
だから、面倒臭さ、不安、現実味の無さ。気が滅入る感情がわんさか湧く。
けど反面、やりがい、興奮、自分がゲームの主人公になった擬似感――。
「魔王討伐……なんかアツいよな」
俺の動機は、こんなもんになるようだった。




