31 ベネクトリア
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俺達が山を背に踏み入れたベネクトリアは平地に広がる大きな街で、冒険者ギルド本会館が拠を構えるばかりでなく、主だった商業、工業組織が集まるこの辺り一帯の重要な都市である。
そのベネクトリアへ期限の日まで2日を残して到着した俺とカレン、そして、ルーヴァとアッキーは街観光と洒落込んで初日を過ごし、期限の翌日の昼にはギルド本館へと足を運んだ。
それで、わらわらと人が集まる本館ロビーでは、懸念していた儀式が待っていた。
儀式とはアナライズ《情報取得》。
否が応でもレベル情報を隠し通さなくてはならないってわけでもないが、なんか面倒くさいことになりそうな予感だけはひしひしと感じるんだよな……。
「受付けはギルドの人だし、きっと蓑笠は脱げって言われるだろうなあ……」
「そうでしょうね。今回のジェミコルはレベル指定があるものですし、見透かしの水晶でレベルを確認してもらうことが中へ入る為の条件になるでしょうから」
列に並ぶ俺とカレンは、とりあえずは指摘があるまでこのままで臨むことにする。
「ほんと、あの見透かしの水晶は面倒くさいものにゃ。あちこちで見透かされたルーヴァの情報がギルドへ送られてにゃいなら、ルーヴァはさぼぼたーじゅできたにゃ」
「でも呼び出しのお陰で、カレンさんと合流できたんだし、結果としては良かったじゃないですか」
「ただ、残りの戦士と魔法使いがレベル不足できっと来れてないにゃ。あいつらがルーヴァ達をこの街で待ち構えているかもにゃーと思ったけど、そんな気配はないし、どこでなにしているのにゃらら」
後ろでは、人目があるところでは頑張ってネコ科を演じるらしいルーヴァがアッキー相手ににゃーにゃー騒ぐ。
そんな中、俺の見透かされる(アナライズ)順番が回ってきた。
何食わぬ顔で素通りしようとしたが、まあ案の定である。
足を踏み出す前に蓑笠を脱ぐようにと、キリリとした目つきのお姉さんから指摘された。
受付けの助手っぽいちっこい黒髪の子がキョウカ先輩と呼んていたので、この方はキョウカさんとの名のようだが。
「あの、紐が固結びになちゃって……その、脱げないからこのまま通るってわけにはいけませんかね……」
「固結びですか」
「はい、頑張っても解けないくらいに固結びです、ウキィーってなるくらいガチガチです……なんかすみません」
ポニーテールが似合うキョウカさんの目がギロリと光る。
「……なるほど。では、仕方ありませんね。このままお進みなって本館二階へとお上がり下さい」
俺は恐らく高レベルの盗賊職であるキョウカさんの言葉に従い、てとてと歩く。
その身にはアナライズされた感触を覚えていた。
「技スキルは『盗眼』だったか……」
思い当たるのが他にないので間違いないと思う。
アナライズの盗賊版くらいにしか思っていなかったが、アナライズキャンセルを無効化するとは、なかなかに侮れ難し盗賊職。
「さすがは、ギルドの受付けですね。抜け目がないと言いましょうか、私達が甘かったと言いましょうか」
後ろからそう声を掛けてきたカレン。
カレンは蓑笠を素直に脱ごうとしたら、逆に結構ですと断られたらしい。
「しかしそのキョウカさんとおっしゃる方の対応から、増々ギルドが私やイッサのようなレベル上限を超える者の存在をはっきりと認識している可能性があるように思えますね」
「だな……カレン、ルーヴァ達にはレベル100の話はした?」
「いえ、特には。私は今100ですが、レベル99同士だと変化のないステータスの話が話題になることもありませんでしたので」
「うーん。なんとなーくだけど、いずれ知られるような気がするから、この後話しておく?」
「ええ、私は別に構いませんけれど、イッサがそれで良いのでしたら」
カレンの言葉から、レベルより俺のステータスを気にかけてくれていたことが分かる。
あれだな。あんまこう、カレンに気を遣わすのもいい加減自分が情けないように思えて仕方がない。
なんつーか、動機はカレンの前で良いカッコしたいだけなのだが……俺も少しは堂々としててもいいんだよな、レベル99で間違いなんだし、いや100なんだし。
パーティを組んでからもカレンは俺をステータスで馬鹿にしないでくれた。
たぶん、カレンにしてみれば俺は俺であるからして、ステータスが俺ではないわけだ。
なんのこっちゃだが、俺はこのまま良いように思い込んで、この世界を楽しもうかなーなんてな。
「最近、誰かさんのお陰で自分のステータスがそんなに嫌いでもなくなってきているから、全然平気だぜ俺」
俺は親指を立て、にっと笑って見せた。