27 出会いは突然に。でもやっぱり、ここではありきたり
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蓑笠を着た男女の二人旅。
雪景色が似合いそうだよなあ、などとどことなく風情を感じながら先行く俺達の旅路は至って順調だった。
街道を駆ける馬車での移動の時、カレンはユアとパーティメールのやり取りをしては楽しそうにしてた。
宿の部屋でも、カレンはユアとパーティメールのやり取りをしては楽しそうにしてた。
そんな印象が残る旅も、ガーマを発って早5日目である。
「この峠を越えたら、村があるんだよな」
「はい。その村へ着けば、一日足らずでギルド本館があるベネクトリアへは行けます」
「じゃあ、今日はその村で宿のお世話になるな」
山間の坂を登るカレンの後ろを、えっほらえっほらついてゆく。
んで、勾配が緩くなったところで、カレンが止まっていたので、どうしたと一言。
彼女が見る先を見れば、何か蠢いていて、それはモンスターの群れだった。
地面にはアザラシくらいの大きさはあって風体も似ているが、元いた世界で言うところのイモムシのモンスターと、空にはバタバタと舞うこれまたでっかいバタフライ。
十数体はいるだろうか。
それで、そのモンスターが集まる中心で人影の獣影?
頭に耳を持ちお尻辺りに尻尾を垂らす娘がいて、集団の外では細い棒でモンスターを叩く小柄な娘。
以上見るからに、モンスターに襲われている二人である。
助けなきゃな、と思った時には、
「イッサ、疾風系の範囲魔法をっ」
隣、剣を携えカレンが駆ける。
「いやでも、それだと」
「巻き込みますっ」
言って、カレンがズザっと地を鳴らして踏ん張り、構える。
剣先を後ろへ送る脇構え。
「『風月の一陣』」
横に薙ぎ払われた剣撃から、大きく広がる風の刃が放たれた。
激しく空気を唸らせ、風の刃はそのままモンスターの集団をまとめて貫く。
「ああ、やっちゃったよ」
外側にいた人は大丈夫だったようだが、中の人はカレンの宣言通り、もろに”巻き込まれた”。
「やはり、一撃では無理でした。イッサお願いします」
俺は言われるがまま、風属性の魔法を芋虫と蝶へ向けて唱えようとする。
俺がやろうとしている行為は、冒険者同士でいうところの『巻き込み』。
本来なら、一声掛けるのがマナーであるが、1回も2回も変わんないからもういいだろ。
それよか、攻撃した以上早くモンスターを倒してやるのが先決だ。
この世界からの人間への恩恵なのか(モンスター側からすれば、モンスターもそう思ってそうだが)、技スキル攻撃での人が受けるダメージはモンスターへのそれと比較すれば軽傷で済む。
だから、パーティによってはこの『巻き込み』を使い、囮を立ててそのまままとめてドーンって戦い方をする者もいるくらいだ。
囮役にはライフゲージが高い者や、痛みはあるだろうからマゾチックな者が適任だろうな。
そんなわけだから、後はあのモンスターに囲まれていた獣人っぽい子が打たれ強いことを信じて、教会送りにならないことを祈るばかり。
「『ティガルシオン』っ」
すべてを切り裂く真空の刃が発生する。
俺は消費SP40、追加スキル効果で-5の35ポイントを消費して、疾風系上級魔法を発動した。
ギュイ~ンと景気よく減少するSPゲージ。
やっぱり女の子を助ける時は、全力投球だよな。