表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/81

23 運だめし


 予想を裏切らなかった結果に、けろりとしていたユア。

 チップをすべて使い切ってしまったその手には、2枚のチケットを持つ。


「はいこれ。なんか10万ゴールド分のチップ買ったら1枚貰えるみたい」


 ぴらっと渡された1枚の券はクジ引き券。


「なんで俺? 2枚あるんなら、お前とノブエさんとで使えよ」


「ノブっちはイイって。カレンはあんなだし」


 ユアに釣られて傍らへ目を配る。

 大きな紳士の背中には可憐な紫陽花が一輪。

 一杯の酒にて眠りへと落ちていたあんなカレンは、ノブエさんからおぶられる。


「……じゃあ、引いてみっかな。最近はなんかクジ運も普通のような感じだし」


 俺はキョロキョロとしてウサ耳を探し、発見した赤いウサギちゃん(赤色のバニ―ガール)に券を使用する場所を尋ねた。

 夢を乗せカラカラと白い玉が回るルーレットに、めくられる度に歓喜と溜息を鳴らすカード。

 俺達は静かな騒がしさ、冷ややかな熱気の音を残して、別室へと移動する。


 ロビーを通り案内されたそこには、俺と同じクジ引き券を手にする幾らかの客。

 受付けらしき台があり、ネクタイをする男性とバニーちゃん。

 こちらは黒いウサギちゃんだった。

 で、その女性がテーブルに置く物体のハンドルを客に回すよう促していた。


「あー、ガチャポンだ」


「確かに、ガチャガチャだな」


 ガチャリガチャリと回して、中からカプセルが出てる抽選機。

 まさか、こんな場所で見るとは思わなかったが。

 前に並ぶ客を見るに、取り出し口からころんっと出てくるプラスチック容器が、硝子玉に代わる以外はまさにガチャガチャで、その中にある番号に照らし合わせた物がもらえるようであった。


「それではお嬢様、どうぞお回しになって下さい」


 ユアがガチャリガチャリ。

 ころん。


「こちら、当カジノのマスコットでもあり街の人気者ガーマくんです。おめでとうございます」


 ユアの手にカエルのぬいぐるみが渡される。

 7対3でリアルな造形の方が勝っている緑の人形。


「ねえ、イッサ。ウチは、きゃー何これ、ゲロカワいいんですけど☆ とか言った方がイイのかな」


「言葉にしない気遣いもあると俺は思うぞ」


 『ウサギでカエル推しされてもね』とハズレを引いたユアはボソリ言って俺に順番を譲った。

 ガチャリガチャリ。

 珍しく期待を込めて俺はハンドルを回す。


 クジ運が良い、は言えない俺。

 けれど、今日このごろは”悪くはない”とは言えそうだ。


 レベル100の時のステータスポイントもよくよく考えれば、『5』は真ん中であり普通。

 損得で考えれば+10のボーナスがある俺はカレンよりも勝っている。

 そして、散々戦ったジュエルドラゴンからは、2分の1程度で難なく『輝く赤石』を手にできた。

 なんだか近頃の俺、やっと当たり前の運になっている。そう、実感できているのだ。


 だから、ハズレのカエルなんて引かねーかんな。


 ころん。


 カランカラン、とベルが鳴った。


「おめでとうございます。大当たりです]


 鐘の音と祝福の声が鳴り止む頃になって、ようやくその意味を理解し胸が高鳴った。

 驚愕といった顔を向けてくるユアを放ったらかしに、黒ウサのお姉さんからの話に耳を傾けた。

 どうやら、冒険者の俺には都合の良い、『高級装備品』を引き当てたようである。


 客が冒険者ではない場合の配慮か、同じの価値のある高級家具にも変更できると言われた。

 高級家具――タンスとかが一瞬過ぎったが、たぶん違うだろうなあ、などと思いつつ、俺はここで高級装備品の方の内容を問う。

 案の定、決められてからのお楽しみです的なことで教えてもらえなかったが、職業に合わせたものであると説明を受けた。

 だったら、迷うことなく。


「変更なしでお願いします」


 職業魔法使いを伝えて間もなく、蝶ネクタイの男性が横に長いケースを抱えて持って来た。

 小柄なユアなら、押し込めればどうにか詰め込めそうな大きさ。

 さっきから、俺よりそわそわしているからウザくていかん。落ち着けっての。

 そうして、ケースが開かれる時がきた。

 期待感がピークに達すると同時に俺の目に飛び込んできた物は――1本の杖だった。


「う……ん」


 喜びを一気に冷ます自分が、嫌なくらいに分かる。

 ローブを纏えし魔法使いが、いかにも使いそうな木の幹から削りとった大きなコブのある杖。


――確実に邪魔くさいな。


 俺、軽装第一、手には何も持たない派なんだよね。

 もちろん武器は持っていた方がお得なので装備しているけど、

 普段は指揮棒のようなコンパクトな杖を、ナイフのように腰のベルトに掛け収納している。


「こちら古代魔道士の杖は、SPドレインが備わる大変優れた高級装備品です。おめでとうございました」


 その言葉にますます顔をしかめてしまったが、とりあえずは笑顔を貼り付け、ケースはいらないと中身の杖だけを手にしてその場から身を引いた。


「良かったじゃん、大当たりなんだから、当たりなんでしょそれ」


「まあな……」


 その点は素直に嬉しいけどさあ。

 俺は浮かない顔でユアを見ていた。


 下手に貴重なSP関連の効果が付いているから、たぶん俺はこの場所を取る長さと無駄に頑丈そうな太さを持つ棒を、捨てることも売ることもできないだろう。

 この世界ってほんとSPにキビしいっていうか、よく出来ているっていうのか……SP関連のアイテム、装備、スキルは貴重なので疎かにできない。


 それで、古代魔道士の杖はSPドレイン。


 この世界に於いて、ライフとSPはセットである。

 よってSPを持たないモンスターはいないだろうから、相手を殴れば確実にダメージ割合で自分のSPを回復できることになる(そう効果の説明があった)。


 一見とんでもない武器を手に入れたようにも思えるが、魔道士たるもの後衛職である。

 モンスターを殴る行為が、まず難易度高いつーの。

 こいつを作った奴は、その辺りのことをまったく分かってない。


「どうせなら、増加とか軽減系が良かったよな……」


 邪魔にならない小物は前提として、もしSPの容量が増加するのだったら、強力な魔法を使えてたかも知れない。 

 今俺の最大SPは40だから、あと10以上増えれば『ドラゴニール』の更に上の『フレイヤ』や、無属性の『プレアデス』を使用できるんだよな。

 (追加スキルの-5があるから、増加ポイントは最低5以上であればなんでもいいのだが、増加系は50ポイントからスタートする物がほとんどだった気がする)


 軽減なら、ポイント次第では中級クラスの魔法がSP消費なしで使える。

 強敵でないモンスターとの連戦であれば、増加よりこっちの方がかなり利点があったりもする。


 うーん。

 どうしよう、この古代魔道士の杖……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ