20 ガーマの街へゴーゴー
◇ ◇ ◇
カジノ街として有名なガーマ。
湖畔をすぐ近くで望めるその街の規模は、他のそれらに比べると小さい。
だが、名前から想像できるように、他の街にはないカジノが営われる。
また教会がない街としても珍しいかな。
ただ、この部分は街の成り立ちから、自然なことだろう。
『地元の人』の話じゃ、街があって教会が建ったのではなく、教会が建つところに街ができたらしい。
元になる教会は誰が建てたのか頭を傾げるところではあるが、モンスターに襲われた結果、教会送りになるのは『地元の人』も一緒で、教会には嫌でも人が集まり、大きくなる集落はそのうち街へと発展した。
道理かな。
それで、ガーマの街は教会とは関係なくしてできた街になる。
だから、比較的歴史の浅い街ということになるのかな。
まあ、成り立ちうんむんはともかく、教会としては、そのイメージに賭博とは無縁であって欲しいだろうし、この街には教会がないことのほうが健全かもな。
もしあったらあったらで、パーティの所持金を持って教会送りになったヤツがそのままカジノへ直行――と、冗談はいいとして。
この街、人がいっぱいである。
その内訳は、ほとんどが一環千金を求めてやって来た旅行者で占められる。
俺達もその中の、儚い夢をみる一行だな。
「ふふーん。どれにしようかな。カレンどれがいいと思う?」
「ユアにはどれも似合いそうですが、艶やかな色の物も良いのではないでしょうか。私には着れそうにないですけれど、この赤のドレスなんて、ユアに似合いそうです」
洋服屋、いいや冒険用の服など一切見当たらない、金庫まで備える高級洋服店に俺達はいた。
そこでのユアとカレン会話である。
タキシードっぽいような、貴族が着てるような服っていうか、きっちりかっちりした衣装に身を包む俺は、どれでも大して変わんねーから早く決めろよ。
などと思ってはいるものの、それを口に出すのは憚られるのをしているくらいには大人の男である。
それで、俺達がこの店で服を借りるのは、カジノが行われる遊技場へ入るためだ。
いつもの格好じゃ、ドレスコードに引っ掛かるんだよね。
「ねえ~ユア、カレン聞いてよ~、ほんと嫌になっちゃうっ。このお店、私のサイズに合うドレス置いてないって言うのよ。私そんなに大柄じゃないのに、失礼しちゃうわ」
珍しく腹を立てる模様のノブエさんの隣では、若い店員さんが困り顔であった。
俺も貴方の立場だったら、その顔になるな。
「ノブエさん。なんつーか、あれだよ、サイズが合わないってノブエさんのスタイルが特別だから合わないってだけじゃないの? ノブエさんって胸板――ぶるぶる、豊満な胸囲からすれば、信じられないくらいきゅっと締まったウエストだし、たぶんそういうことなんじゃない」
「あら~、やっぱり私ってそうなのかしらん。う~ん、仕方ないわね~」
どうやら、少しは機嫌が戻ったようだ。
そうこうして、各々服を選び終えた仲間達のお披露目が行われた。
「どうよ、イッサ。ユアちゃんに惚れ直したっしょ」
ユアがくるりと回り、その赤いドレスのスカート膨らます。
「まず俺が惚れてる前提になってんのがおかしいぞ」
だが。
くそ、可愛いじゃねーか。
女は化けるから、とか耳にするけど、ほんとに化けやがった。
ユアから女性らしさを感じてしまう。
そこへ、す、と胸元で両手を抱くカレンが登場する。
薄い紫色のグラデーション。
紫陽花を彷彿させるドレスに飾られるカレンは、はやり可愛く……、
「綺麗だな……」
ぽろりと、こぼした感想に、
「ありがとう。ふふ、イッサのそれもとても似合っていますよ」
「マゴにも衣装ってヤツだよねー」
相変わらず一言が多いユアのそれが耳に届いた時である。
後ろに何か大きな気配を感じた。
「二人ともとても似合っているな。普段もステキだが、今日は一段と輝いて見えるよ」
明らかに男性の野太い声だった。
でも、これ俺じゃねーから。
振り返れば正装する、どこぞの渋い俳優のようなダンディがいた。
「おお、ノブっち、なんかキリっとして漢って感じだね」
「本当はユアやカレンのように可愛いドレスを着たかった。しかしそれは叶わず男装するしかなかった。だが一度男装すると決めたのなら、女の意地にかけて、男として振る舞わらないとな」
聞きようによっては、ただの変態の発言としか思えないばかりか、ちぐはぐなことも言っているようなそれ。
普段の濃いアイラインとかチークとかを落とし、メイクダウンしたノブエさんであってノブエさんではない、ノブヒロさん。
そして、ノブエを改めたノブヒロさんは、
「じゃあイッサ。この綺麗なお嬢さん方を遊技場へとお連れしよう」
ぽかんと口を開けたままの俺に、カッコよく言い放つのだった。