2 出会いは突然に。でも、ここではありきたり
◇ ◇ ◇
青々した広い空と、広大な大地。
今日はアリアント討伐をテキパキと午前中に終えた。
昼飯は何を食べようかと街へ足を運ぶ途中だった。
にょ~んにょ~んと伸び縮みしながら、大きな緑の液体状の塊が蠢く。
そして、そのモンスターと鋼の鎧に身を包み戦う者あり。
鎧が覆わない可動部を見るにスタイル良し。
ついでに、風に長い髪を流すその容姿から紛うことなき美少女の可能性高し、なのだが。
「あの人、苦戦してんね」
どこから取り出したのか、自作のキャンディー棒をペロペロなめながらユアは言う。
「ユア、助けるぞ」
「えー、要らないお節介にならないかなあ。相手プルルンスライムでしょ。あの程度を倒せないようなら、この辺のモンスターキツイだろうし、ここで助けてもあの人の為にならないよ」
確かにプルルンスライムの推奨討伐レベルは20程度、この辺で良く出遭うアリアントのなんかのそれは50くらい。
だからユアは、それらしいことを言っている、が。
「お前、スライムが嫌なだけだろ」
俺の図星に、むっとした顔が返ってくる。
「だって、ネトネトのキショキショじゃん。斬撃、突撃、両方効果薄いし」
「『ドラゴニール』っ」
愚痴るユアをシカトで、叫ぶ言葉とともに魔法スキルを発動させる。
上空で炎のランスが構築される。
視界の端にセットしているSPのゲージが、ギュイ~ンと減っていく。
「うわっ、この人、雑魚相手に炎系の最上級魔法使っちゃったよ。次戦闘あったらどうすんのさ」
隣からの文句に構うことなく手をかざせば、メラメラと揺らめく巨大な赤い槍がぐごおお、とモンスターを襲い貫く。
一瞬にして蒸発したスライム。
一瞬にして赤色に変わった俺のSPゲージ。
魔法、つまり魔法使いの俺で言うところの技スキルはSPを消費して使用する。
おおよそ器用さの値と同じになるSPの容量。
俺の最大SP値は32ポイント。
『ドラゴニール』の発動には、30から追加スキル効果でマイナス5の、25ポイントを消費する。
「仕方ないわ~。男って女の前では、カッコつけたくなる生き物なのよん」
「いくらカッコつけても元が元だし、中身が中身だし意味ないのにねー。無駄な努力、乙ですイッサ先輩」
「なんとでも言ってくれ。俺は一人で勇ましく戦う彼女を放っておけなかった。ただそれだけさ」
そうして俺の台詞は、ユアの顔を汚物を見たかのようなしかめっ面にさせたのであった。
彼女は名をカレン・マクガレイといった。
『うわ、外国の人だった』とのユアの一声に、彼女は微笑み『いえ、折角こんなところへ来たのですから』と言って、改めて幕之内可憐の名を教えてくれた。
名に恥じない、可憐な大和撫子の騎士である。
【レベル99 カレン――騎士】
体力値……124(△162)
攻撃力……105(△137)
防御力……117(△153)
魔法力……63(△82)
素早さ……76(△99)
器用さ……98
・《特性スキル》――獅子の咆吼<*>
・《追加スキル》――スロットふえーる極/身体ブースト極<*>/ダメージ増加極<*>/雷・水撃耐性極/SP最大値増加+100p
俺がアナライズ《情報取得》して見たカレンのステータス画面。
「なんじゃこれ」
数値に3桁のものがあるでやんす。
「うわ、すごっ。追加スキル極み仕様じゃん」
「さすが、最大レベルの騎士のステータス。壮観だわね~」
ユアの丸い顔とノブエさんの縦長い顔が寄る。
ノブエさんのアゴからは剃り残しのヒゲが一本、にょきっと生える。
「近い、近いっ」
「何照れてんのよ、君はドーテーくんか」
「いやいや、そうじゃなくて、ノブエさんのが、ちょっと」
「ねえ、なんでカレンってこんなに強いのに、スライム倒せないの?」
俺越しにユアが問う。
それは、適当な岩場のある場所で集まる俺達全員の疑問でもあった。
「このロングソードのスキル効果を見て頂ければ」
カレンは苦笑しながらに、すらりと抜いた剣を見せた。
「ああ、パーティ契約しているわけじゃないから、アナライズじゃそこまで見れないんだよね……」
「ケチケチしないで、ハイ・アナライズ使えばいいじゃん」
「まあ、そうだけどさ……」
ユアに追い立てられるままに、ハイ・アナライズ《詳しい情報取得》を使用。
俺のパーティへのさりげない勧誘は、気の利かない盗賊娘によって阻止される。
【匠の蒼剣】
スキル効果……竜系、ダメージ3倍/骨系・獣系、ダメージ2倍/液系、ダメージ0.01倍
「なになに、匠のソウケン、なんつー攻撃特化武器……あっ、落とし穴発見」
「あらあ、スライムにはダメージ100分の1になるのね~」
指を咥えながらにノブエさん。
そっと俺は離れる。
「ええ。技スキルで対応すれば良かったのですけれども、私面倒くさがりなタチなもので、横着してガンガン切り裂いていました。そこへ皆さんが」
「あははは、それわかるわかる。ウチもさあ、よくメンドーで足で物とか取ろうとかして、つったりして後悔すんだよね」
「いや、わかんねーよ。どういう状況だよ」
ケイタイとかリモコン、とユアから懐かしい響きを聞いて、俺達の興味は次にカレンそのものへ移る。
この地域はレベル30~60くらいの冒険者の狩場。
基礎値が低い俺は例外的存在であるが、まっとうなレベル99の騎士であるカレンには相応しくない場所である。
更に、一人というのも珍しい。
どの職業をリーダーにするかによって、一つのパーティが契約できる枠は変わってくるが、アイテムを共有できたり、個人が得た経験値を契約する仲間も得ることができたり、恩恵があるので大方の冒険者は最大枠まで仲間を集う。
そうして、しばし時は流れ。
「――という経緯になります」
正座しピンと背筋を伸ばして座るカレン。
話を終えたカレンが、ユアから貰ったキャンディー棒を遠慮がちにぺろりぺろり。
奥ゆかしさというものは良いものである。
その隣では、胡座をかくユアがガリガリとキャンディー棒をかじる。
それを見守るようにして、ノブエさんがキャンディー棒を――すべては言うまい。
「カレンとその仲間達が魔王と戦ったが負けてしまう。本来なら俺達のような冒険者の敗北、つまり死んでしまうと教会送りになるが、なぜかこのザイル荒地に送られてしまっていたと」
「はい。恐らくなのですれども、摂理が乱れていると言えばよいのか、魔王城は何かと特殊な影響下にある場所でした。だからこうなってしまったのでは、と考えています」
なるほど……そういうものなのかな。
俺達に戦いによる完全な死はない。
ライフゲージが0になると、最寄りの教会へと強制的に転移させられるだけだ。
ペナルティと言えば、所持する経験値が半分になることと、パーティの仲間が迎えに来てくれないと教会から出られないことだろうか。
なので、どうしても外出したい場合は、パーティを解散するしかない。
この世界にあるこの理。
友達付き合いの下手な者からすれば、苦痛だよな。
かくゆう俺も、乾いた笑みで迎えに来る仲間の視線が怖くて、教会送りにトマウマなのだ。
今の連中はそんな風にはならない……はず。
「強制的にパーティも解散されていて、仲間が持っていた地図もコンソールから開けなくなり、うろうろしていたらあのスライムと戦闘になったのです」
「ふーん。じゃあさ、カレン、ウチらのパーティに入る? 地図持ってるし、一枠空いてるよ」
と、ユア。
「でも」
「ああ、ダイジョブダイジョブ。遠慮も要らないし、また魔王退治に行く準備ができたら気楽に抜けていいからさ。これからどうするか。方針が決まるまででも、どうですかーってお誘いね」
「……ありがとうございます。では、ユアさんのお言葉に甘えてご一緒させて頂きますね」
「さん付けなんてよしてよー。ユアねユア、こっちはイッサ。あっちがノブっち。よろしくうー」
はしゃぐユアは続けてこうも言う。
「良かったねイッサ、男一人に周りは可愛い女子が3人。ハーレムだよ、ハーレムうー」
「混ぜて3で割れば、丁度そうなるかもな」
あはは、と顔引きつらせ俺は笑うが、カレンなら大歓迎だ。
理由は可愛いから。
可愛いはなんとかって格言があったはず。
「あっ、それとカレン」
「なんですか、ユア」
「イッサのステ見て驚くことなかれ。うふふー」
ユアはきひひ、とその白い歯を俺にも見せつけた。
もう慣れたが、新しい仲間を迎える為の洗礼だな。
カレンよ。俺のレベルとステータス知り、慄くが良い。わっはっは……はあ。
自虐、乙である。