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18 上限突破の先にあったもの

 

【レベル100 イッサ――魔法使い】


 体力値……38


 攻撃力……33


 防御力……29


 魔法力……36(△47)


 素早さ……41


 器用さ……38



「欲を言えば、器用さに偏った分を防御に……そうすればオール30以上……ぬふふ。でもまあ、まさか、40の数字が拝めるとは思わなかったしな……ぬふふ」


 ステータス画面を見ながら、足取りも軽く下山する俺。

 うーん。何度見ても同じだし、そんなに高い数値が並ぶわけでもないが――とても楽しい。


「さっきからニヤニヤ、キモいんですけどー。聞こえてますかー、キモッサ君」


「ああ、聞こえてる。自分でも相当ニヤけ面なのは自覚してっから、好きなように呼んでくれ、どわ。何、邪魔してくれてんだよ」


 浮かぶ画面からユアの顔が出て来た。

 と、いうか、画面が浮かぶところへわざわざユアがその顔と体を重ねていた。


「別にー。これからの話に、ウチじゃなくてこれが邪魔だろうなーって思って。集中できないでしょ」


「これからの話って、レベル”上限”上げに必要なゴールドを稼ぐ。それだけだろ」


「それだけだろって、イッサはムカついてないの? あんなの詐欺だよ詐欺。20万も払って、1つしか上限上げてくんなかったんだよ、あのチビっこっ」


 ユアはプリプリと怒る。

 しかしそこまで、腹を立てるようなことかね。


 ユアが言うように、”1人10万ゴールドで、1つだけ上限を引き上げる内容”だったことを知った時は『なんだって!?』と驚いた。

 けれど、詐欺とまでは思わない。


 実際にレベル99は100とすることができたし、これで打ち止めってことでもない。

 それに、以前カレンやノブエさんが言ったように、レベルの上限を引き上げる値段にしては10万ゴールドは破格だ。

 こうして『1つの上限上げが10万』だったことのほうが、しっくりくる金額とさえ思える。


「ああもう、このロリコンのロリッサじゃ話になんない。ねえねえ、カレンは? レベルが1つ上がったところで99とあんま変わんないじゃん。悔しくない?」


「そうですね……確かに1つではそう変わりないです。ただ、巫女の力については、ある程度こちらの思惑とは違うことになると構えていたので、私はサーシャに腹立たしさは覚えませんでした。そして悔しいよりも、今は確実な希望に心躍る思いです」


「カレンってば、お人好し過ぎだよー。ノブっちー。ノブっちはウチと一緒の気持ちだよね。あれ絶対詐欺だよね。ウチら詐欺られてるよね? だいたい――」


 ユアの苛立ちの矛先は、後ろのノブエさんの元へ向かっていった。

 すると、カレンが俺の側へやってくる。


「しかし驚きましたね。レベル100からは、レベルUP時に獲得するポイントが最大で10になるだなんて」


「ああ、それね。まあ、実際にレベルの上限超えた奴しか知り得ない情報だから、驚くのが普通だろうね」


 たぶん話したくて仕様がなかった様子のカレンに、どこか素っ気なく応えてしまい、ちょっと後悔。

 折角、ユアに気遣ってこっそり話してくれたのに申し訳ない。

 ただ自分を弁護するつもりはないが、俺の心境としては微妙なので、その辺はカレンにも分かってもらいたい。


 サーシャの機嫌を取って解いたカレンの『9』ポイントの謎は、未知の領域のルールによるものだった。

 しかしながら、サーシャも自分が上限を引き上げた人達からの考察だろうから、絶対に正しいとは断言できない。


 それでもどうやら、レベル100からはレベルUP時に【1ポイント~10ポイント】の範囲で抽選が行われるようだ。

 仮に10ポイントならボーナスポイントは+20じゃろと、サーシャは予想していた。

 これを踏まえれば、ボーナスポイントの加味は『5』と『10』の時に起こり得るようだ。


 そんな訳で、俺が狂喜乱舞しそうになった『5』ポイントは、蓋を開けてみれば最高値ではなく真ん中に値するもの。

 ボーナスポイントがなければ、今頃カレンを羨んでいたこと間違いなしだったイマイチなものであった。


「けどま、あれだよな。10ポイントまでになるのも魅力的だけど、なんたってこれからは、ゴールドで確実に上限を上げられるのが一番の魅力だよな」


 そう、ゴールドさえ貯めればレベルを上げる余地が生まれる。

 経験値を持て余す俺としては、ゴールドさえあれば幾らでもレベルを上げられる。


「そうですね。希少なアイテムなどを要求されないところには救われます」


「そうそう。だから俺としてはなんて良心的な子なんだろ、って思ってるよあの子」


「ふふ、それユアに聞かれたら、大変ですよ」


 俺はハハハと苦々しい笑い。

 カレンはクスクスと、口元に手をあてがって笑う。

 それから、俺達の話は神殿にいたメイドの女性の話題になった。


 名前はアケミさんと言ったか。


 俺達はそのアケミさんから、去り際にちょっとしたお願い事をされていた。

 それは簡単なもので、サーシャのことはあまり口外しないで欲しいとのものだった。

 それでこれ、サーシャ本人の頼みとは真逆だったりする。


 サーシャは俺達のレベル上限を上げた後、『感謝の気持ちがあるなら、周りに妾の事を知らしめ宣伝して参れ』と偉そうに言っていた。


「私はアケミさんの危惧は理解できます。アケミさんの言葉を借りるなら、サーシャの特性スキルはこの世界の理を超えるものです。彼女と同じく私にも具体的な説明はできませんが、その事が世間に広まることは、危険性を孕むもののような気はします」


「だから、なるべくサーシャには目立つようなことは避けて欲しい、とアケミさんは本人にも言ったんだろうが、あのサーシャの様子だと聞く耳を持ちません。そんな感じだな」


「ええ。きっとそうなのでしょうね。サーシャとしてはどうやらもっと、レベル上限者を募りたいみたいですし」


「あいつからすれば俺達は、ネギを10万ゴールドに代えてせっせと運んでくる鴨だからな……で、どうする?」


「私はアケミさんの申し出を尊重しようと思います。イッサはどうします」


「俺? 俺もカレンと同じだけど、ただ俺のは自分から言いふらかしたりはしないようにしようかなー程度」


「私もその程度ですよ。特に墓場まで持っていくようなつもりでは言ってはいないです」


 お互い笑った。

 ふと、こうして笑い合うことが自然になったことに気づき、なんかほっこりした。


「同じ、あ、いや、もう100だから違うか。レベル99の他の冒険者には後ろめたい気持ちがなくもないけど、さしあたってはユアだな」


「ええ、ですね。ユアの口を重くしないといけません」


 この日の山道は、カレンの笑顔が絶えなかった。


 それで、宿に戻ってこのアケミさんの思いを尊重することが、この世界ではやや難しいことを知る。

 料金が発生するところには、必ずと言っていいほどある見透かしの水晶。

 アナライズされることで、簡単に俺達のレベル100はバレてしまう。

 さてさて、『故障ですかね』の笑顔、で誤魔化せるだろうかね。






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