17 巫女再び
◇ ◇ ◇
迎えに来てもらっただけであるが――。
ユア達と合流した俺は早速、戦利品を売りゴールド増やした。
そして、3日目の朝には、テレル山にある神殿を目指していた。
いつかの時と違い、俺は先頭に立って皆を引き連れ山道を登る。
サーシャことサチコちゃん(アナライズで知る)がいる神殿が見えれば、その足は更に加速した。
「こんにちは、冒険者さん。こちらへはどのようなご用件で」
メイド服の女性が言う。
その彼女と一度目と似たようなやり取りをして、焦る思いを押し殺し奥へと突き進んだ。
大広間の一番高い床では、ソファのように柔らかそうな椅子に座るサーシャがいる。
俺達が20万ゴールドの入る革袋を渡せば、それを膝に乗せチャリチャリ中身を確認し始めた。
「うむ。しっかり20万ゴールドあるようじゃな。では、騎士カレンと魔道士イッサのレベル上限を上げるとしよう」
サーシャはひょいっと椅子から飛び下り、俺達の前に立つ。
隣を見れば、カレンが片膝をついて頭を垂れていた。
顔を正面に向け直せば、サーシャがオホン、と咳払いをしたので、カレンを真似て俺も大理石の床に膝をつく。
そうして、始まった。
歌だ。
それで、なかなかに上手かった。
ただし、演歌だった。
俺は日本の世界に誇れる音楽ジャンルに物申すつもりがないが――
「……なんだかなあ」
である。
しかししかし今はそんなことより。
「おお、体が赤く光ってる」
レベルUPの時のように、体を縁取るように走る赤い光線。
「終わったぞ」
その言葉とともに、こぶしをきかせた歌も終了していた。
「ええと、終わりっすか。以外にあっさりだな」
「妾の歌にアンコールはない。サインもなしじゃ。しかし、ファンレターは好きなだけ書いて送ってもいいぞ」
歌手きどりの子供の戯言には耳をかさず、俺は早々にコンソールを操作して確かめていた。
《次のレベルUPに必要な経験値は――》
「うお、うおおお、0じゃなくなってるっ」
加えて、懸念していたこともクリアされているようだ。
もしかしたら、果てしない桁数で9の数字が並ぶんじゃないかとの不安があったが、そこには妥当な感じで数字が並んでいる。
「ねえねえ、どうなのどうなの? 本当にレベルの上限って上がった?」
「待て待て、あいや待たれい。落ち着けってよ。まだあれだかんな。まだ、とにかく落ち着けっての。急かすな」
画面からは目を離さずユアに言い放ち、レベルUPする時のボタンを、
ポチリ。
俺の体が今度は、レベルUPした時の光色で縁取られた。
そして――。
「ふお……ふおおおお。『5』か!? これ5って数字か!?」
ユアを引っ張り寄せ自分の画面をのぞかせる。
「うげ、マジじゃん。マジでレベル上がってる!? 上がってるってことは」
顔を見合わせる俺とユア。
「「いえーい」」
ハイタッチした。
それからそれから、俺の興奮はまだ止まるところを知らないっ。
奇跡の最高ポイント『5』が、どうステータスに振り分けられたか見ようと画面を触れば。
『+10』の数字。
「これか、これなのか。これが噂に聞くボーナスポイントってやつなのか、だよな……くうう」
怖いくらいの幸福感にクラクラする頭。
俺はこのまま卒倒するんじゃないだろうかと思った。
「良かったね、イッサ、ちょ」
「ありがとう。ありがとう。俺生きてて良かった」
「……もう、大げさなんだから」
ぎゅっとユアを抱き締めた。
なんていうか、世界中の人達を抱擁したい。
「あの……いいでしょうか」
「どうしたの、カレン」
ユアの声に釣られるようにして振り返る。
そこには、ぴんと腕を伸ばし挙手するカレン。
その目は訝しげに四角い画面を見ていた。
「私、レベルを上げてみようとボタンを押してみたのですが、少しおかしいなことになっていると言いましょうか」
「え、何、カレンのほうは上がらなかったの!?」
「そうなのか? ――あっ、あれじゃないか、経験値っ。カレン経験値足りているか!?」
ユア、そして俺。
「いえ、経験値は問題なくてですね、レベルも上がってはいる様子? なのですが、ポイントの数字がどうみても『9』なのです」
その言葉に俺とユアがカレンの見る画面をのぞき込む。
「うーん、どっからどう見ても『9』だねー。イッサにはどう?」
「……逆さから見ない限りは『9』だな」
「変ですよね。コンピュータで聞く、バグというものでしょうか」
大いに変ではある。
1~5の数字の間に、9も6も入らないからな。
カレンの言うように……バグかあ。
ゲームちっくな世界だし、それっぽいちゃーそれっぽいが。
「イッサ、ユア、カレン。ちょっとこっちいいかしらん」
俺を含めた悩める3人にノブエさんからの声。
す、と顔を向ければ、苦々しい顔のノブエさんに、その隣――からちょい下。
腕を組み、だんだん、と足しを床に叩きつけるチビっこがいる。
「近頃の小童どもは、ところかまわず騒ぐばかりか、礼を述べることも知らんようじゃの」
「ええと……なんか、すんません」
小さな巫女サチコちゃんは、ご立腹のようであった。