12 スキルな珠
「気が早いかも知れませんけれども、さっき説明した追加スキルのスキル珠を渡しておきますね。慣れも必要ですから」
カレンが巾着袋を取り出し、中身を床へ広げた。
出て来たのはビー玉くらいの珠。
珠とは言っても、四角ものもあれば、ひし形、星形など形は様々で、色とりどりでもあった。
このスキル珠は所持することで取得扱いになる。
コンソールを開けばすぐに反映されており、画面操作をして追加スキルを入れ替えたりできる。
一生ものの特性スキルと違って、追加スキルはこうやって変更が可能であるばかりか、枠=スロット分複数セットできて大変使い勝手がよろしい。
ただ、物理的にスキル珠を仲間に渡すなどすれば取得欄からは除外され、追加スキルレベルのあるものはレベル1へとリセットされる。
つまり再取得後は、同じ物だったとしても初期化された状態からでの反映になる。
ちなみにこのスキル珠は、たまに道具屋で買えもするが、入手手段は宝箱やドロップアイテムが主になる。
あと、範囲なのか時間なのか、珠を身近なところから放置していると、そのうち取得欄から消失してしまう。
落としたりしないことが大切で、もしそうなった場合は泣くハメになるということだ。
「これ極みでしょ。七色なんだ。綺麗だね」
「私の打撃効果の珠なんて、どどめ色よお、いいわね~」
「では、ノブエさんにはSP+100を。これでより多くの回復サポートが可能になります」
「本当にいいの? カレンの方が技スキルを使う回数減っちゃうわよ~」
「今回の相手はドラゴンなので、私の匠の蒼剣であれば普通の斬撃でも3倍のダメージ。ここは私の技スキルより、ノブエさんの回復スキル回数を優先させた方が効果的だと判断します」
「じゃ~あ、遠慮なく使わせてもらうわ~ん。ピンク色ってのが、気に入ったわ~」
「イッサには余っていたSPの消費軽減とスロット増加を。本当は貴方にも、SPの最大値を増やすスキル珠を渡したかったのですが」
「あ、カレン。SPの消費軽減なら俺装備済みだからいいよ」
「はい。なので、イッサには2つ装備して欲しいのです」
「2つ?」
「はい。消費軽減スキルは最大までレベルを上げれば-5。合わせれば消費が-10となり、『ドラゴニール』を20ポイントの使用で放てるようになります。10以下の魔法なら、SP消費は必要としないはずです」
確かに30の魔法から10の値を引いたら、そうなるけどさ――ただ、
「同種の追加スキルって、装備しても効果ないんだけど」
この場合、-10にはならず、-5のままってことだ。
ブースト系なら、最大の30%を2つつけて、60%ってことにはならない。
「裏技、小技? とでも言えばいいんでしょうか。追加スキルは増加させたスロットへのセットに限り、重複扱いにならないようです」
珍しくカレンの得意気な顔を見た気がした。
で、言われた通り追加スキルをセットしてみて試すことにする。
まずは、カレンから渡された消費軽減のスキル珠を最大値まで上げる。
レベルUPに必要なものと言えば、経験値。
この点に関してはノープロブレムといいますか、俺の特性スキルの効果もあって経験値は腐るほどに余っている。
俺の特性スキルは『子供の成長』。
今でもそのネームに恥かしさを覚えるこれの効果は、5段階あるスキルレベルを最大まで上げると、取得経験値が30倍になる。
まだレベルUPできてた頃は、俺ってすんげえお得な特性スキル持ってるぜひゃっほーい、だったが、今ではね……無用の長物と化してます。
それと、この効果は俺にしか及ばないので、同じパーティを組むユアからはケチ呼ばわりされた。
理不尽も甚だしい女子である。
ピッ、ピッとコンソールを操作して、連打。
はい、最大の-5がいっちょ出来上がり。
んで、基本の追加スキルスロットに、枠を増加する『スロットふえーる極』とそのまま俺の『SP消費軽減』。
増えた3枠には『SP消費軽減』、『魔法力ブースト』。
最後の空いてるところは、後で決めるとして。
・《追加スキル》――スロットふえーる極/SP消費軽減-5p<*>/SP消費軽減-5p<*>/魔法力ブースト<*>/ ――――
では。
宿屋の窓から夜空へ向けて、消費ポイント10の火系中級クラスの魔法『ティラゴ』。
手の平の先から、ゴバアアアと範囲魔法の火炎放射が噴き出る。
普段は5ポイント消費。もし更に追加スキルの効果が働くのなら、0ポイントで――。
SPゲージを確認すると、
「全く減ってない……だと」
俺の驚き具合はカレンを喜ばせるに至るのであった。
そうして後ほど、宿の店主からはお叱りを賜るのだった。