雪化粧 肆
ついに死んでないことが義母に露見してしまう雪化粧。義母の手にかけられ、毒入り苺大福を食してしまった。彼女はどうなってしまうのか・・・
雪化粧は、七人の子供達からそれぞれに愛され、また動物達にも好かれていた。
だから彼女が亡くなった時は皆、それはもう動揺した。
正気を忘れ、泣く者、喚く者、怒る者、狂う者、様々だった。
「くそっ、なんでこんなことに・・・」
「やられたね、きっと母親だ。あの時、部屋から微かに女性の香水の匂いがした」
「なんで、なんでや。・・・絶対許さへんぞ。」
「・・・僕がもうちょっと早く帰ってれば」
「ふん、あんなに元気だったのに突然こんなことになるとか。・・・寂しくなるじゃん。」
「あんなに純真無垢で、可愛くて、世の大切な家族だったのに。・・・ひっく、ふえぇ」
「ごめんね、守ってあげられなくて」
・・・彼女を籠に乗せ、暫くみんな泣いていた。
生物達は静まり返り、森も悲しみの色に暮れていた。
さて、と壱也が立ち上がった。
せめて雪化粧を近くの寺まで連れて行き、きちんと供養してやらねば。
そろそろ出発しようかという時に、ある者が通りかかった。
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SIDE,???
山の中を散策していると、大規模な動物達の集まりをみとめた。中心の方には少年達が群がっている。
「ん、一体何の集まりだ?」
興味本位で近づいていくと、真ん中に籠に乗せられた世にも美しい女の子を確認した。
肌が雪のように白い。死んでるのか?
ふと、その女の子の顔を見ると・・・
きゅぴーん。
鎮、この世に生まれて一六年、初めて恋をした。
「ああ、なんと美しい。おい」
鎮は御付きの者を呼ぶ。
「何でございましょう?」
反応の速さは一人前。
「あの娘を連れ帰る。例え屍でも」
「・・・ち、ははあ」
今あからさまに嫌そうな顔したよな。
・・・もうちょっと帝を敬ってくれよ。
鎮はずかずかと輪の中に突っ込み言った。
「おい、皆の者。その美しい娘、連れ帰ってもよいか?」
突然の登場に全員が固まった。
・・・え、お前誰? みたいな。
と、すかさず御付きの者が前に出て言った。
「この方は帝だ。敬えよ‼︎」
いや、お前が言うそれ?
「この娘は持ち帰ってきちんと、夜な夜な愛で・・・いや必ず供養してやる」
「はぁ⁉︎ なんなんだよ貴様。突然現れて何言ってんだよ」
「そうだよ。・・・僕の大事な雪化粧を、知らない奴に渡す訳ないでしょ。」
「な、貴様ら・・・なんと無礼な。このお方に逆らったらどうなるか分かっているのか?」
そうだ。鎮に逆らったら隠岐に流すぞ。
「泣きつかれるぞ。」
ん・・・何言ってんの?
まあいい。
「そ、そうだ。そうと分かったならそこをどけ。今なら許してやろう」
鎮が優しくてよかったなお前ら。
「いやいやそっちこそ。この状況分かって言ってる? 7vs2だよ」
「はぁ、お前らこそわかってないな。鎮のお供は・・・柔道の白帯の持ち主だぞ」
「・・・・・・」
え、なあにこの沈黙?
「・・・白帯って素人が付けるんだよ」
「ようするに雑魚とかモブに属す人だね」
「別に強くねーじゃねーか」
「今あの人めっちゃ自慢気にゆうたで」
「うわあ、傑作」
「じゃあみんなでかかれば勝てるねー」
「世も少しは格好いいトコ見せるぞ」
・・・御付きの者を見るとさっと目を逸らされた。
「まあいい、やっちゃって。相手は所詮子供」
「承知しました。」
御付きの者は勢いよく突進しに行った。
パンチ、キック、タックル、ツキ・・・etc。
大人と子供じゃ体格が違い過ぎる。彼らはその攻撃にただ防御するしか術がない。
・・・あーいや、割と互角かも。
「まあ1vs7にしては優勢優勢。じゃ、鎮はこのへんで撤退撤退」
彼らはもう御付きの者のことしか目に入っていない。
そして御付きの者はいい感じに場所を移動してくれた。
これであの娘が手に入る。
「か、可愛い」
少女に近づくにつれ、可愛いさはさらに増していく。
生きてたら鎮の正室にしていたな。
そんなことを思いながらそっと頬に触れる。
・・・冷たい、氷みたい。
「寒いだろう? すぐ鎮のお屋敷に連れて行ってあげるよ。」
そう言って少女を横抱きにする。後ろの御付きの者と少年達の死闘を振り返ることなく山を下り始めたのだった。
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冬の山は寒い・・・当たり前か。
早く帰らないと。元々は公務で来てたんだった。ちょっと散歩に行くっつってそのままだった。
・・・怒られる。
やばい、と思い始めて少し急ごうとした時だった。
「あっ」
木の根に足を取られ、無様にも正面からずでーんと転んでしまった。少女を抱えてるから手はつけない。
「う・・・ってえ」
うーん、派手にこけてしまった。
起き上ろうとして、ふと少女の方を見る。
綺麗な顔に少し皺が寄っていた。
「っ・・・ぅ、痛ッ」
え、突然生き返ったんだけど?
き、急展開すぎる。頭がついていかない。
・・・どうやらこけた衝撃で毒の欠片か何かを吐き出したらしい。
つまり、鎮のおかげ。鎮天才。
「お目覚めになられたんですね」
「あ、あの・・・」
少女は少し困惑したような目でこちらを見た。
「鎮は帝。歩いていたら倒れている貴女を見つけたんです」
ここは紳士的にいこう。
「貴方が助けて下さったんですか」
「ええ、怪我をした貴女を見過ごすことなんて出来ませんから」
「ああ、ありがとうございます。貴方には何とお礼を言えばいいか・・・。大したことは出来ませんが、何かお礼を」
「いえ、そんなものは結構です。貴女とこうして出会えた、それだけで鎮はもう十分です」
性格が180度変わっている自分。
普段はお礼を、なんて言われたら迷わず年貢一年分と答える。
「貴女を一目見てこう思いました。貴女が鎮の運命の人だ、と」
……あ、つい本音が。
これは、ひかれるやばい・・・。
「え……。嬉しい、貴方のような素敵な方からそう言ってもらえて。実は私も貴方からは何か威圧的なオーラを感じるの。これが運命なのかしら」
それはきっと帝だからだよ。
でも何かいけそう?
ふぅ・・・、息を思い切り吸い込み言った。
直球勝負。
「鎮と、結婚してください」
しばらく沈黙。
程なくして返ってきた答えは・・・
「ごめんなさい」
・・・あ、ですよね〜。
「私、まだ七なのでそれはちょっと」
なるほど、九年程早かったか・・・。
本編の話としてはこれが最終話です。
このあと帝は九年の歳月を経て美少女となった雪化粧に再度求婚することでしょう。めでたしめでたし。
気が向けばまた番外編、エピローグ、書いていきたいと思います。