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The Killer School  作者: 織上、闇璃
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− 1 −(織上)

 



 泉崎学園の生徒会は悪である。

 少なくとも彼はそう思っていた。人殺しを否定する俺達と、人殺しを肯定する生徒会。どちらが悪かと聞かれたら、一般的な人間ならば、間違いなく生徒会だと答えるだろう。

 しかし、この学園では違う。どれだけ「生徒会は悪だ!」と叫んでも、多くの人間がそれを否定する。そうしてどうしようもなく、人殺しを肯定する生徒会が正義として君臨するのだ。

 人殺しを肯定する生徒会が悪にならない理由。それは、この学園そのものにあった。

 日本の何処か、人里離れた孤島の奧にぽつんと存在する学校。それが我らが『泉崎学園』である。周囲をぐるりと金網フェンスで囲い、容易に出ることができないように作られたこの学校を、一部の生徒は牢獄と呼んだ。

 殺し屋を、育成するこの学園を。


『逃げることはできない』


 誰にも聞こえぬようにそう呟く。何かを一生懸命に説明する教師の声を聞き流し、如月奏(きさらぎかなで)は舌打ちをした。

 彼の鋭い目が細められ、知らず知らずのうちに威圧感を放つ。首を左右に振って左目にかかる前髪の位置をずらすと、そのまま机へと突っ伏した。

 教えられる暗殺術も、手にしてしまった銃器も、引いてしまった引き金も、すべてを捨てて逃げ出したい。口にすれば自分ごと消されてしまうかもしれないその言葉は、ただひたすらに彼の頭の中に渦巻いていた。

 隣の席の真面目そうな生徒はひたすらにノートを取り、爆薬について語る教師は怪しげな笑みを浮かべる。そんな日常に、耳を塞ぎ目を瞑ることしかできないで、奏は大きく息を吸い込んだ。

 しばらくして、授業終了を告げるチャイムが鳴り響く。教室の中がだんだん騒がしくなるのを感じながら、奏はゆっくりと顔を上げた。

 欠伸をしながら、机の横にかけてある鞄を手に取り立ち上がると、さっさと教室を出て行ってしまった。


 レベル。

 そう呼ばれる集団がこの学園に存在する。一言で表すのなら『反逆者』、理由は多々あれど皆この学園に抗いたいと願う生徒達の集まりだ。

 集まり、とはいうものの、反逆者全員が1箇所に集まることはまずない。それどころか、お互いが同じ反逆者であることを認識していない場合も多い。

 自分達に反逆の意思があることを、この学園から逃げ出そうとしていることを、生徒会に悟られてはならないから。悟られてしまえば、きっと生徒会は、彼らを野放しにはしておかないだろう。泉崎の正義を振りかざし、彼らに制裁を加えるだろう。

 この悪夢のような場所を抜け出せる日を、ただひたすらに、信じて息を潜めているしかないのだ。


 ――頭が痛い。

 大きく息を吐き出し、奏は少しだけ歩みを早くする。一瞬視線を下に落とすが、前から聞こえる足音に顔を上げた。かつかつと、急くような足音だ。

 自分のではない、ため息が聞こえる。疲れたようなため息だ。

 どうやら向かいから歩いてきている女生徒のようで、奏はつい彼女へと視線を向けてしまう。

 左目の下にあるほくろが特徴的な少女だった。ピンと伸ばした背筋と、自然にお腹の前に組まれた両手が、彼女の育ちの良さを表している。ウェーブのかかった栗色の髪を払い、声を漏らした。

「はぁ、どうしてあんな方が教師になれたかわかりませんの。もっとしっかりした方でないと、まともに勉強もできませんわ」

 女生徒の独り言が耳に入り、奏は眉間にシワを寄せる。わざとらしく鼻で笑う。その気持ちは、残念ながら彼には分からなかった。さらに歩みを早めて彼女の横を通り過ぎる。

 言葉を置いて。

「俺からすれば、なんでこんな学校で真面目に授業受けたがるのかわかんねーよ」

 低く呟かれた言葉は、騒がしい放課後の音に溶けていく。それでも奏の言葉は、しっかりと女生徒の耳へと届いていた。

 女生徒は足を止め、右耳に髪をかけながら振り返る。その頃には奏はすでに角を曲がったところだった。深い蒼色をした瞳で曲がり角を見つめ、少女は思案するように顔をしかめる。

「随分な物言いですわね。……まさか、レベルなんてことは」

 ないですわよね。ほぉっ、と息を吐き出し、女生徒はまた歩み始める。

 生徒会会計 水無月憐奈(みなづきれんな)は、先ほどの男子生徒の顔をしっかりと記憶に刻みつけ、足早に生徒会室へと向かった。




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