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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

問題児、増殖中。

作者: さの かおり

ナイフが見えたような気がして、僕はぞっとした。

もしかすると、もしかするかもしれない。

そう思い始めたらもう止まらなかった。


お友達は大切にしましょう。


そのくらい、僕にだってわかるさ。

それでも、だ。


「………っ!」


僕は渾身の力を込めて目の前の男を殴った。


そしてそのまま回れ右をすると一目散に走った。

脇目も振らず、家まで走った。

もし追いかけてきたらどうしよう、捕まってしまったらどうしよう。

そう考えただけでぞわぞわとした恐怖心がお腹のあたりからせりあげてくる。


こわい、こわい、こわい。


横断歩道、信号は赤だった。

無視して走り抜けた。

キィッ!っとブレーキの高い音が聞こえる。

ごめんなさい、と心の中で謝った。


自分の荒い呼吸が耳元で聞こえる。

口の中は鉄の味、吐きそうだ。


なんとか家に辿り着いて、自分の部屋に駆け込んだ。

そこでランドセルを忘れてきたことに気がついたけど、取りに戻るなんて考えてられかった。

僕はベッドに潜り込むと掛け布団を頭から被る。

ぎゅっと目を閉じて自分の心臓の音を聞いていた。


朝の会での先生の言葉がフラッシュバックする。


「不審者には気をつけましょう。優しい人でも知らない人にはついて行ってはいけません」


でもまさか。

それに、知らない人じゃなかった。





「ゆうと君が、その、殴ったのは、ええっとですね、用務員の竹崎さんでして…」


担任の美弥子先生はおどおどと説明している。


「ゆうと君の上履き入れが破れているのを見て直してあげようと思ったそうで」


「まぁ、それはうちの子がすみませんでした」


向かいに座る校長先生と用務員の竹崎さんに向かって、お母さんは頭を下げた。


「いえいえ」


竹崎さんは人の良さそうな笑顔を浮かべる。


「私の方も悪かったんです、ゆうと君ごめんね」


僕は小さな声で


「ごめんなさい」


と言った。






あれから20年、僕は立派な社会人になった。


いつものように妻の作った朝食を食べていると、テレビを見ていた小学生の娘が


「あっ!」


と声をあげる。


「ゆかこの人、知ってるよ。パパのことも知ってるって言ってたよ」


はて、ゆかの知り合いで僕のことを知っている?

誰だろう。

僕はテレビを見た。

そしてかじっていた食パンを思わず落としてしまった。


小学校用務員の男を殺人の容疑で逮捕。勤務先の小学校で知り合った子供を誘拐し殺害した。名前は……



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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が過去に起こした行動は正解だったのですね。 20年後に、ゾッとする怖いお話でした。
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