禁忌の異世界召喚
魔王が復活し、人類は絶滅の危機にあった。
魔王軍は次々と人類圏の国家を滅ぼし、残すは数カ国のみ。
ここに来て、ついにとうとう、禁忌と呼ばれ封印された術式が実行された。
そう、言わずと知れた異世界から勇者を召喚する魔法である。
数少ない文献によれば、喚ばれた勇者は凄まじい能力と技能を持ち、見目麗しく、清廉高潔な人格であるという。
時に複数を喚び出し、見事な連携で一軍をも圧倒するという。
その最後に残された希望を胸に、大儀式が敢行された。
王宮広間には床一面に魔法陣が描かれ、かき集められた一級の魔術師が詠唱している。
その外側を騎士団が固め、奥には高位貴族が揃っている。
最奥には玉座があり、王族も勢揃いしている。
魔王軍との戦いで少なからぬ被害を等しく出しており、王族・高位貴族とも寂しいばかりの人数である。
騎士団も最精鋭と聞こえは良いが、負傷し後方送りとなったものの中から、立てるものをかき集めたに過ぎない。
勇者を出迎えるにはみすぼらしい限りだが、ここには王国、いな、人類圏の精髄が詰まっていると言ってよい。
心意気だけは、見事で素晴らしいものであろう。
やがて詠唱が終わり、魔法陣が淡く、徐々に輝度を増し、眩しくなる。
光量を増していき、爆発したように光を放つ。
魔術の心得があるものなら、全身を魔素が突き抜けるのを感じたことだろう。
唐突に光が掻き消えると、そこには十数人の若い男女が立っていた。
皆黒目黒髪…ではなく、結構色々と染めている。
茶色やら金髪やら真っ赤に蛍光緑。
…だいじょうぶか?と、誰もが思った。
「うわっ、なんだよこれ」
「キターーーッ!!」
「は、私、なんでここ。なに、ここ?」
「マジ? マジ? キタコレマジ?!」
「ウホッ、テンプレいただきましたー」
「ふっ、俺の右手の邪眼がうなずくぜ」
…大丈夫じゃなさそうだ!と、誰もが思った。
しばらく王国側は沈黙し、勇者?側は興奮して叫んだり飛び跳ねたり、奇妙な踊りを踊り始めたり。
魔術師長は、そっと国王を見る。
うむ、と頷くのを確認して、声に魔素を混め、緊急ワードを唱える。
「チェンジ!」
魔法陣の上の勇者?たちをマーブルピンクの障壁が覆うと、中身を入れ替える。
これこそ一度だけ許された、勇者再召喚。
やり直しても、より良い勇者が当たるとは限らないが、今のと比べる限りこれ以上悪いことが起こるのはなさそうな気がする。
果たして今度の勇者は、伝承通り全員黒目黒髪で、制服をきっちりと着こなし、全員品格を持った若い男女のようである。
ほっと誰もが安堵の息を吐いた。
魔術師長が国王を見ると、うむと頷き返される。
「よくぞ参られた、異世界の勇者たちよ」
魔術師長の声が、王宮広間に朗々と響く。
勇者たちはまず魔術師長を見、奥の国王に視線をやり、周りを固める騎士団を見て状況を察したらしい。
実に優秀である。
ある…が、何故か次に、勇者全員が1人の勇者に視線を定めた。
見ればその者だけ、他の勇者に比べていろいろみすぼらしかった。
主に外見的な美形度において。
「ああ、そんな」
「まさか、本当に巻き込まれがあるなんて」
「いや、それを言うなら、異世界召喚そのものだろ」
「大丈夫だ。しっかり気を持て。俺達が守ってやる」
なんだか様子が変、というよりも、説明より先に始まっちゃっているような、とのんきに魔術師長は思った。
その時点で、色々手遅れだったが。
「そんな、先輩たちこそ大変じゃないですか」
「確かに俺だけ呼び声が聞こえませんでしたが、拉致されてしまったのは全員一緒でしょう」
うっ、と、拉致の単語で法務大臣が心臓を抑えた。
「特に山田先輩は、両親が働かない穀潰しって有名で、幼い妹達を養うため、1日もバイトを休めないって言ってたじゃないですか」
ぐ、と民生大臣も心臓のあたりを抑えた。
「川島先輩は祖父母4人の介護があって、夜一緒に寝ないと徘徊してしまうって聞いたことありますし」
次は騎士何人かがよろけることになった。
「それに鈴木くんや加藤くんは、立派な官僚になるって夢を語ってくれたばかりじゃないか。自分の仕事しかしない省益第一は反吐が出るほど嫌いで、国民のために活動したいって勉強を頑張っているんだろう?」
色々と身に覚えのある大貴族が何人か、視線をそらせる。
「確かに元の世界のことが気になるのは認める。しかし現実にこうして拉致されてしまったんだ。ならば君のことを気にかけても良いだろう」
「あ、ありがとうございます、先輩…」
そういって涙ぐむ、多分巻き込まれただけのハズレ…もとい、勇者さまの同行者さま。
色々といたたまれなくなってきたので、なるべく気分を害さないようにと声をかけ…ようとした。
「でも、俺ほんとうに先輩たちのことが心配なんです」
「たぶん役立たずの俺は、人質に取られると思います。戦場に出してもあっさり死ぬでしょうから、強大な力を持つ先輩たちの枷にされるに決まってます」
ぶんぶんぶんと首を横にふる国王陛下と騎士団長。
でも勇者さま方は内向きに円陣を組んでしまっており、こっちの様子が全然目に入ってない!
「だって、決まってるじゃないですか。召喚された勇者の力が自分たちに向くのを恐れ、奴隷術式を強要したり、自爆装置を取り付けたり、あまつさえ勝手に子供作って認知を迫るって」
ぶんぶんぶんぶんと首を思いっきり横にふる魔術師長と姫さま方。
そんなことができるなら、異世界から勇者を召喚せずに、とらえた魔王軍幹部に使ってます!!
でも勇者さま方は内向きに円陣スクラムを組んでしまっており、こっちの様子が全然目に入ってない!!
「ばかやろうっ。俺達はいいんだ。戦う力があるんだからな。戦闘能力を奪うような真似、肉体欠損とかはやってこないだろう」
「ええ、しかしあなたは違うわ。どれだけ傷つけても構わない、それどころか犠牲を恐れずに戦えと、拷問にかけたりして督戦してくるのが常道よ」
ぶんぶんぶんぶんぶんと力の限り首を横に振る騎士団長と教会関係者。
そんな督戦は行っておりません。士気を下げるだけで、厳しく禁止しております!!!
でも勇者さま方は内向きに固く肩を円陣に組んでしまっており、こっちの様子が全然目に入ってない!!!
「だったらなおのこと、先輩たちだけに任せておけません。俺、どんなことになっても戦える体になってみせます。魔獣合成も魔導兵器埋め込みも怖くはありません!」
「キミだけに、そんなひどい目に合わせることはできないわよ。私も覚悟は決めているわ。軍資金を出して欲しければ、わかっているだろうなって言ってくるハゲデブ貴族にだって媚びてみせるわ」
「僕も覚悟を決めたよ。なに、あなた色に染まってみせますって言えば、経験がない方が喜ばれるだろう」
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶーんと、残像で三面になるほど首をふる魔術師全員と貴族全員。
だけどっ、勇者さま方は目も心も内向きに円陣を組んでしまっておりっ、こっちの様子を全然知ろうともしていないっ!!!!
「せんぱ…い…」
「気にするなよ。俺達は一蓮托生だろ」
「ええ、私達が互いに互いを守る。それでいいではありませんか」
キラキラと輝く勇者様たち。
固く手を握り合って、きっと国王を見据えました。
「「「さあ、まずは何を要求するのですか?」」」
国王は立ち上がり、力強く叫びました。
「ファイナル・チェンジ!!」
国王の錫杖を飾る魔晶石のことごとくが砕け散り、緊急用に蓄えられた魔力が再度魔法陣を輝かせます。
光が収まると、そこには最初の勇者?さまたちが。
その場にいた全員は、国王から貴族・騎士・魔術師まで誰もが涙ながらに跪き、なかには五体投地してまで勇者さまたちに声をかけました。
「ようこそおいでくださいました、勇者様方。歓迎いたします。世界を救って下さり、とてもありがとうございました!」
「「「…………は?」」」
こうして異世界から勇者を召喚する儀式は、奇跡的な大成功を収めたのでした。
おしまい。
2015年08月06日 誤字修正
・魔術師町の声が、王宮広間に朗々と響く。
->魔術師長




