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ハイドアユートピア

作者: 春日部 水鳥

 静まり返った美術室の奥の小部屋。

 先生は床に跪いた私の制服のネクタイを引き寄せて、鼻先十センチの距離で囁いた。

「俺のネクタイを外してごらん。」

 これが初めてじゃない。

 視界の端にしか見えない先生の胸元を探り、ネクタイに手をかける。

 いつまでも、慣れない。手が、震える。

 この先に何があるのかを知っているからだ。

 しゅる、しゅる、と不器用に外されたネクタイは、先生の手に捕まる。

 そして、どうやって巻いているのかもわからない速さで、私の両手首がそれで拘束されてしまう。

「お前を汚せるなら、絵の具塗れにしてしまうのにね。お前を傷つけられるなら、彫刻刀で彫るのにね。」

 目を細めた先生は、それでもきらきらした目で私を見下ろしていた。

 私は自分で望んでこの人のお人形になるのだ。

 この人の望む全てを叶えられない事を嫌悪しながら、だけど、自分を望まれている事に歓喜しながら、その腕の中で息をする。

 動きの制限された両手は常に先生に触れる事を邪魔する。

 抱き合う事もできない。

「お前は俺のものだよ。だから、俺もお前のものだよ。」

 微笑みながら言われても、ふるふると首を振り、涙を流すしかできない。

「先生に、触りたい。こんなの、やだ。」

 懇願するように言うと、先生は一方的に私を抱きしめる。

「お前は欲しがる事を止めて、与える事だけを考えるんだよ。いいね。貪欲な人間は欲しがる方を容易く選ぶけれど、そんなお前はいい子とは言えないな。少なくとも、俺にとっては。」

 先生は、ずるい。そんな事を言われたら、もがく手をおとなしくさせるしかなくなる。

 いい子じゃない私でも受け入れてほしいなんて、願うのは、傲慢なのか。

 唇を噛むと、先生の舌がそこを舐める。

「唇を噛みたいなら、俺のを噛みなさい。」

 差し出された柔らかな感触に戸惑い、だけど有無を言わせない視線に促されるままに歯を立てた。

「先生、ごめんなさい。」

 おずおずとそれを離すと、先生はにっこり笑った。

「わかってないね。そういう時はごめんなさいじゃなくて、ありがとうございますって言うんだよ?」

 後頭部に回された手が無造作に髪の毛を掴み、私は喉が反る程、天井を向かされた。一瞬、呼吸に詰まる。

「ありが・・・」

 震えた声は、首に噛み付かれた衝撃で途絶えた。

 体を駆け抜ける痛みと、熱い何かと、自分が先生のものだという証明をもらっているような気持ち。

 自分という存在が空気に溶けてしまいそう。そんな時、支配でもってして肯定してくれる先生がいると、とても安心する。

 支配、される事。それは、悲しい事じゃない。むしろ、幸せな事だ。

 誰にも知られる事のない秘密を共有しながら、お互いを肯定し合うのだから。

 決して脱がされる事なく乱すだけ乱された制服をきちんと整えると、すでに生徒からカモヤンと呼ばれる、いつもの鴨志田先生がそこにいた。

 言葉はいらない。

 私はかがんで先生の爪先に額を一瞬つけて、とても優しい目をした先生につられて笑って、美術室を出た。

 静かにドアを閉めると、ふうっとひとつ、息をした。

「あれ?」

 廊下の先から聞こえた声に振り向くと、同じクラスの堂島徹平がいた。

 堂島はピアスだらけの耳に、明らかに校則違反の金髪、柄シャツという格好で、右手にケイタイ、左手にはなぜかクマのぬいぐるみ。

「五木も呼び出しくらってたの?」

 堂島は美術室を顎でさしながら、やれやれと言った感じだった。

 私は動揺を押し殺して笑顔を作ると、

「ううん。ちょっと質問行ったら色々話しちゃってさ。でも見つかったのが堂島でよかったよ。カモヤン狙ってる女子多いでしょ?ぬけがけとか思われたら怖いし。堂島こそ、何で呼び出されたの?」

 自然と並んで教室へ歩く。

 堂島はクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめると、頬をむすっと膨らませた。

「こいつ、連れてくんなっていう呼び出しなわけ。ぬいぐるみ位、いいじゃんよー。なー?」

「てゆか、何でそんなん連れてるわけ?」

 思わず吹き出してしまう。

 堂島は少し早足になって、もしかしたら怒ったのかもしれないのかと思った。

「三組の羽田志保って知ってるだろ?彼女なんだけど。私だと思ってずっと一緒にいてねって言われたわけ。」

「で、律儀にそれを守って呼び出しくらったわけ?生活指導?担任?」

「生活指導のパンチ。あのパンチパーマやべぇよな。お前のパンチに比べたらぬいぐるみのが絶対害ないじゃんって、言ったらキレられたけど。」

 堂島が派手なのは格好だけじゃない。入学した時からの女性遍歴も派手だった。先輩後輩同級生を総なめ。

 確かに小柄で華奢で甘え上手でどうやらアッチも上手らしい堂島に、女子が惹かれるのもわかる。

 でも、私にしたら、らぶらぶちゅっちゅっしたいだけの相手にしか堂島が見られていないような気がしてならない。

 それでも女子達はいかに堂島をモノにしておけるか、日々画策しているのだ。

 本人はそれをウェルカムって公言しているのだから、煩わしいと思った事もないのだろうけれど。

 教室でそれぞれ鞄を持つと、堂島が私の机に手を置いた。

「五木は浮いた噂ないよな。」

「ないね。」

「好きな奴いないの?それか他校にしれっと彼氏いるタイプ?」

 すみません。しれっとカモヤンと危ない情事をしているタイプなんです。なんてね。

「どうかなぁ。私、人よりそういう面が発達してないのかも。好きな人いればいいなぁとか、彼氏いたらなぁとか、思わなくもないけどね。」

 堂島の横をすり抜けて教室を出ようとすると、

「一緒に帰ろうぜ。バイクで送ってやるよ。」

「それ、校則違反だよね?」

 露骨に嫌な顔をしたが、堂島は悪びれる事もなく、

「校則?だるい事言うなよ。いこ。」

 鞄の取っ手を引かれ、バイクを隠しているという公園の茂みに連れて行かれた。

 ヘルメットを渡され、ああ、これを何人もの女子にかぶせてきたんだろうなぁとか、きっと女子はこんな事をされたら堂島は私の事好きなのかも、とか思っちゃうんだろうなぁとか、色々な思いが巡った。

 堂島に簡単に道を説明すると、驚くほど早く家の手前の路地に到着した。

 初めてバイクに乗った恐怖で、堂島のお腹にまわした腕がなかなか外せず、恥ずかしかった。

「もし、遅くなる事あったらまた送ってやるし、声かけろよ。これ、二人だけの秘密な。」

 無言で頷いた私を見て軽く手を上げた堂島は、すぐにバイクを走らせた。

 秘密。堂島と私の秘密。でもきっと、何人もの女の子と堂島が繰り返したやり取り。

 何の余韻もなく走り去った堂島の背中は、先生よりも小さく見えた。


「でね、私には先生がいるし、堂島みたいにふらふらしたくないし。大体、彼女に言われたからってぬいぐるみ持ち歩いてる奴なんてどっかおかしいに決まってる。」

 お昼休み、また美術室で先生に会っていた。

 あの日、堂島に見つかった事を告げるつもりが、どんどん違う話になってしまう。

 先生は、床に座り込む私に微笑みながら、何も言わない。

「ごめんなさい。私、しゃべりすぎ?」

 急に不安になって尋ねると、先生は小さく首を横に振った。

「だけどね、そんなに話しているとお弁当が食べられなくなるよ?」

 先生は私のお弁当箱をひょいと持ち上げると、蓋を開け、躊躇う事なく中身を床にぶちまけた。

 あっ、という声を飲み込んだ私は、どうして今日は床に大きな画用紙が広げられていたのか理解した。

「お前は犬みたいにそれを食べるといいよ。」

 肩肘をついてゆったり微笑んだ先生は、すぐにカーテンで遮られた窓に目を向けた。

 堂島が口にする秘密よりも、先生と共有する口にしない秘密の方が、後ろめたくて隠したくていやらしい。

 掛け時計を見ると、昼休みも残り十五分。

 必死に食べなければ、五時限目に間に合わない。

 四つん這いになり、両手で髪の毛を押さえ、そっと床に転がるご飯に口をつけた。

「いい子。」

 楽しそうな先生の声に、思わず笑みが零れた。

 ざらざらした画用紙を綺麗に舐め取り顔を上げると、先生は私の額に靴底を乗せた。

「お前は俺の何?」

 先生がこの質問をする時は、とても悲しい気持ちの時。

 私達が教師と生徒で絶対に相容れない事を嘆いている時、永遠には続かない事を知っている大人である自分を嘆いている時。

「私は、先生の玩具。先生だけの玩具。」

 わざと靴底に額をこすり、わかっています、と伝えようとする。

「先生になら、壊されても汚されても構わない。」

 先生は足を外して、しゃがんで視線を私に合わせた。

「早く教室に戻りなさい。」

 頬に軽く触れた先生の唇は冷たくて、それでも私は舞い上がって涙が出そうなくらい歓喜していた。

 うんうんと何度も頷きながらお弁当箱を片付けて、額を先生の爪先にそっと当ててから美術室を出た。

 先生は、またカーテンで覆われた窓を見ていた。

 いつも、思う。先生は何を見ているんだろうと。

 人目につかないように廊下を小走りに抜け、トイレに駆け込んだ。

 個室のドアを閉めて、軽くなったお弁当箱をじっと見た。

 今日、私は先生の前で犬みたいにご飯を食べた。私は犬みたいに。

 そう思うだけで鼓動が速くなる。

 そうする事で、先生の何かを満たしているという事と、自分の何かが満たされている事が、幸せに感じた。

 でも、その日はもう先生の姿さえ見る事はなかった。

 帰り道、中学の頃からヒキコモリになった幼馴染の家に行った。

 インターホンを押すと、おばさんは笑顔で迎えてくれる。勝手知ったるという顔で二階に上がり、ドアをノックすると、沈黙。

 いつもの事だ。

「いるんでしょ?入るよ?」

 ドアを開けるとお香のいい香り。だけど、電気もつけず遮光カーテンに塞がれた部屋は薄暗かった。

 デスクの前にかじりついている背中は、丸く小さい。

「もしもし、応答願います。こちら、五木鈴子です。」

 じっとドアに背をつけて、反応を待つ。

 パソコンをカチカチと操作する音が止むのを、待つ。

 しばらくして、青白い顔が私を見た。

「ああ、鈴子か。どうしたの?」

「どうもこうも、大志がちゃんと生きてるか確認しにきた。」

「それ、口実だろ?早く話せよ。」

 大志は前置きを好まない。

 諦めて唐突に先生の話をするはめになってしまった。

「前に話したけど、先生と、多分、えすえむっていうの?よくわからないけど、そういう関係なの。だけどね、身体的接触というか、あの、未だに最後まではしないし、たまにキスされたり、たまに体に触れられるだけで。」

 勢い込んで話し始めたものの、生々しい言葉に羞恥心を覚えた。

 もじもじと爪先を動かしていると、大志は座れ、と言うように一人掛けのソファを指差した。

 俯いて座ると、容赦なく言葉を投げつけられた。

「で、何が言いたいわけ?」

 大志はまたマウスをカチカチ操作し始める。

「これって、恋愛なの?ただのゲームなの?大志はこういうの変だと思う?」

 そう、これが本当に聞きたかった事。

 言うだけ言ってしゅんと小さくなった私は、膝に乗せたバッグの中のお弁当箱をそっと触ってみた。先生を思い浮かべながら。

 先生にこれを聞いたら何て答えるんだろうか。本当は先生に聞いてみたい。

 大志は椅子をくるりと回して、こちらに向き直る。

「どうだろうね。えすえむってやつと恋愛が同じな人もいるし、もちろんゲーム感覚の人もいる。ただ、俺は変だとは思わないよ。俺みたいに画面の中にしか彼女がいない、つまり、三次元の女とは何もできないって方が変かもって思うし。」

 自虐的な響きを含んだ答えは、少しも笑えなかった。

「鈴子が欲しい答えを言うとしたら、それは限りなく恋愛に近いだけの中身なんてない恋愛ごっこだと思うよ。えすえむをして二人だけの世界をつくったつもりになって、分かり合ったり認め合ったつもりになって、一時の快楽を得たいだけ。さらに言うと、こんな関係、切ないってロミオとジュリエット的なお互いに酔い知れたいだけかなぁ。」

「ズキッ、グサグサッ、ズドーン、パタン。」

「おい、心の中を擬音化すんな。」

 大志の言葉は私の心を倒した。

 わかってる。わかってるって何度も繰り返した自問自答を改めて他人に言われると、耐えられないのはなぜだろう。

 先生もこんな自問自答をするのだろうか、誰かの言葉で再確認するのだろうか。

「大志は二次元でしか男女の関係になれない事を変って言うけど、私は三次元でも先生とえすえむ。どっちもどっちな気がしてきた。それに、二次元だとデリートできるけど、三次元はデリートできないから。」

「要はエンディングを迎えられればいいんだろ?ゲームだって選択次第で沢山のエンディングが用意されてんだし、リアルでもそういう事なんじゃない?デリートできないなら、クリアするしかないじゃん。」

 それは、どんな形でもエンドロールが流れるに相応しい状況に持っていけって事か。

「先生、鴨志田藤人っていうの。美術の先生。神経質っぽい銀縁メガネで、いつも触れる肌はひんやり冷たいの。三十四歳、だったかなぁ。結婚しないのかなぁ。彼女はいないのかなぁ。」

 大志はカモシダ、と唇を動かすと、少し笑った。

「ちなみに、生徒からはカモヤンって慕われてる。女子には大人気でちょっとでも先生に一人で近づこうものなら壮絶なイジメの対象になりそうな空気が漂ってるわけ。」

「カモシダは、鈴子の事が好きかもしれないね。」

 大志は答えを翻し、楽しそうに笑う。

 好きという言葉にドクドク心臓が跳ねる。

「何それ。さっきと全然違うじゃん。」

「んー、男の勘?」

「は?二次元男の勘なんてアテになんないし。」

 嘘でもそんな事を聞いたら舞い上がってしまう。

 先生に言われたわけでもないのに、にやにやが止まらない。

 私、勇気を出して足を踏み出したの、何もかも信じられなくなっても、先生だけは信じようって思いながら、先生のそばに立ってるの。

 だから、お願い。もしもいつか先生が私を嫌いになる日が来てもいいけど、忘れないでいて。


 相変わらずバイク通学を続けているらしい堂島は、羽田志保と廊下で盛大いちゃつき、みんなの前でパンチに呼び出しをくらっていた。

 羽田はてっちゃぁん、なんてぶりっ子にも程があるだろう声を出し、教室からそれを見ていた私は目が合った堂島のへらへらした顔にため息をついた。

「五木さん?」

 廊下から羽田が声を掛けてきた。思わぬ事態に声が出ない。

 きっと、困った顔になっている。

 ぱたぱたと上履きを鳴らしながら近づいてきた羽田の香水の匂いが鼻につく。

 堂島と同じ匂い。だけど、堂島よりもっと下品な匂い。羽田が堂島を真似ただけなのがわかった。

「こないだの放課後、てっちゃんといたんだよね?勘違いしないでね。てっちゃん優しいから誰にでも構っちゃうの。それに、五木さんカモヤン狙いなんでしょ?てっちゃんが言ってたよ。カモヤンは絶対生徒食わないって。実らない恋追い駆けるより、手近な恋愛楽しんだ方がいいよ?」

 無神経な人は嫌いだ。

 だから堂島も、羽田も、嫌いだ。

 特上の笑顔を作って、教科書を机の上でトンと鳴らす。

「ありがとう。羽田さんいい彼氏持ったよね。カモヤンは大人だから、憧れてるだけ。私も彼氏欲しいんだけどな。」

 模範解答だと思う。

「ま、一度でいいからカモヤンに抱かれたいって女子は思うよねー。私も射程距離にいるなら絶対カモヤン狙うー。ほんと、お互い頑張ろうね。」

 何を頑張るのか全くわからなかったが、話を締めくくるにはそれが適切なのかもしれない。

 そして、羽田もまた先生に抱かれるという妄想を繰り広げた事のある一人なのだとわかった。

 滑り込みで授業に戻ってきた堂島は、やっぱりへらへらしていた。

「五木。」

 後ろの席から呼ばれ、少し振り返ると小さな紙切れを渡された。

 怪訝に思いながらそれを開くと、堂島だった。

 丸く小さな文字で、昼どっかいこう、と。

 羽田がいるのに、こんな事をするなんて、堂島の考えがわからない。

 ここで私が誘いに乗れば、堂島のまわりで何度も繰り返されてきた、私の彼氏を取らないで事件に巻き込まれてしまう。

 だけど、チャイムが鳴ったと同時に席を立った堂島は、まだ終わってないぞと怒鳴る教師を一瞥し、私の席に手をついた。

「一緒にランチしなーい?」

 一瞬にして、教室内がざわめく。

「しなーい。」

 平静を装って答えたが、指先は震えていた。

 先生、助けて。

 堂島は小首を傾げ、私のノートをパシンと閉じた。

「そお?断ったらやばいんじゃなーい?俺、口軽いんだよねー。」

 背筋が凍った。どうしよう。どうしたら。

 だけど、先生との事は知らないはずだ。美術室から出てきたところを見られただけだもの。

 少しくらい話を大きくされても、私が一方的に先生に付きまとってる痛い女で終わるだろう。

「そう?堂島の方がやばいんじゃない?」

 羽田にキレられるし、バイク通学をバラされたら停学くらうかもなのに。

 できるだけ嫌味に聞こえるように、唇を持ち上げる。

「俺ぇ、頭悪いからわかんないかもぉ。」

 堂島はへらへら。

「もう、やめて。女子全員があんたに惚れてるわけじゃないんだから。そういうのきもい。」

 ざわついていた教室が、水を打ったように静まり返った。

 まずい。言い過ぎた。そう思っても遅い。

 きょとんとした堂島と、無我夢中で鞄を取って教室を出た私。

 背中に堂島の声が聞こえた。

「そんなにあいつが好きか。」

 うん、大好き。先生の事、大好きなの。だから邪魔しないで。ひっそりと二人でいさせて。

 美術室のドアは無常にも鍵がかかっていた。力任せに手をかけ、ガタッと鳴った無機質な音に、へたり込む。

 職員室を思い浮かべたけれど、今日は美術の授業もなかったし、先生に会う口実がない。

 せめて姿だけでも見たいと、職員室が見える渡り廊下に移動した。

 昼休みの間中、先生の姿を探したけど、ちらりと視界を横切っただけだった。


 今日の先生はとても不機嫌そう。

 あの日から、羽田に露骨に嫌な顔をされるようになり、堂島は懲りずにへらへらした顔を向けてくる。堂島の発した言葉のせいで、私の好きな人は誰だと噂が飛び交う。

 せめてもの救いは、先生との事が噂になっていない事だ。

 先生はそれらを知っているのだろうか。知っていたとして、不機嫌になる理由は?ヤキモチ?まさか。

「何か話す事があるんじゃないのか?」

 唐突に聞かれ、何からどう話せばいいのかわからなくなってしまう。

 堂島に告白されたわけでもないし、大袈裟に話すのは嫌だ。

「話がないなら帰るけど?」

 放課後の美術室はとても静かで、声を落としているはずなのに、よく響く。冷たく。

「堂島に、ランチしよって言われて、断りました。」

 ぽつぽつと事の全てを話す私を、満足そうに先生は見ていた。

「お前、俺の言う事なら何でも聞けるね?」

 試すように聞かれたけれど、考える間もなく頷いた。

「返事。」

 頷くだけでは足りないと厳しい声がぶつけられる。

「はい。先生の言う事は何でも聞けます。」

「じゃあ、堂島とキスしてきてごらん。」

 え。

 思考が一時停止する。

 先生は何て言ったの?私が堂島とキス?どうして?どうやって?

 先生は私の首全体に指を這わすと、じりじりと幅を詰めていく。

 頭が少しぼうっとしたところに、唇をそっと唇で塞がれる。

 それは一瞬だったようにも、とても長かったようにも感じた。

 離れた先生は私の返事を待っているように、指を机に打ちつけていた。

「はい。わかりました。」

 かろうじて出てきた声はひどく掠れて、心許なかった。

「堂島とキスができるまで、二人では会わない。いいね。今日はもう帰りなさい。」

 理不尽だ。とは思えなかった。それが私と先生との関係なのだから。

 先生の爪先に額をつけると、優しく頭を撫でられた。

 だけど、笑えない。もうこうして会えなくなるかもしれない。

 選択肢は先生に従う事しかない。それ以外なんてない。だけど、だけど。

 どうして先生は微笑んでいるの?

 何もかも打ち明けるには、外界と接触のない大志が適任だった。三次元を嫌うくせに、無神経じゃなく的を得た事を言うところも好きだった。

「話はわかったけど、鈴子の色恋沙汰なんて全然興味ないんですが。」

 大志はポテトチップスをバリバリ食べながら、呆れていた。

「でも、堂島にキスしなきゃ先生に会えない。どうしよう。どうやってそんな事するの?その前に、どうして先生はそんな事をしろって言ったの?何にもわかんない!」

 思考停止ではなく、思考渋滞中といったところかもしれない。

 大志はうーんと考えている素振りをしつつも、パソコンのキーボードを時々パチパチと叩いていた。

「カモシダは鈴子と堂島の事を全部わかってるんじゃないかなぁ。ほら、学校って噂がすぐにまわるし。」

「そういう問題じゃなくて!私は先生のものなのに!どうして堂島とキスしなきゃなんないの!」

 完全なる八つ当たりに、大志は声を上げて笑った。

 他人からしたら、こんな事は所詮、笑い話なのだ。

「大人は俺らの考え付かないような事をたまに考えてる。大抵の事はわかるけど、全然わからない部分も少しある。今回、全然わかんない部分にぶち当たったわけだろ?それを前向きに捉えると、カモシダの新しい一面が見れたって事。」

「後ろ向きに捉えたら?」

「絶対的に越えられない何かに突き当たったって事。」

 大志の的確な言葉に、ため息が止まらない。

 堂島の性格を考えれば、二人きりでもそうでなくても、キスしようよの一言が言えれば、軽くしてくれるだろう。

 だけど、今は羽田という彼女がいる。

 もしも、その一言が言える勇気が出たとしても、彼女持ちの男に手を出した女というレッテルを貼られる事になるだろう。

 もしも、キスできたとしても、先生からしたら他の男とキスしてきた浮気女になってしまう。

「えすえむとかわかんないけど、鈴子がカモシダのものだとして。カモシダはそれを確認したいのかなぁ。」

 よくわからない事を言われて、首を傾げた。

「カモシダがそんなに難しい事を考えてるとは思えないんだよね。カモシダは鈴子の事を好きって俺は言ったけど、もしそうなら、あれと同じような気がするんだ。」

 あれって何よ、と言う前に、大志はパソコンのディスプレイ一面に子供用のカラフルな玩具を映した。

「めちゃくちゃ大好きでお気に入りでどうしようもない玩具って、子供の頃、見せびらかしただろ?こっそりタンスの奥にしまっておくんじゃなくて。いや、最初はそうだとしても、誰かに見せたくなるんだ。どーだ、いいだろって。ともすれば、友達に一回かしたりして、あげないよーって自分の手元に戻す。それは自分の玩具がどんなにすごいかを誰かに知ってほしいから。」

 大志が言う事はとてもよくわかるけど、先生はそれを人間でやってるって言うの?

 もしこの推測が当たっていたとしたら、とても子供じみている。

「それ、ただの馬鹿じゃない。」

 冷めた口調に、大志は大きく首を横に振った。

「わかってないなぁ。カモシダは馬鹿な子供と同じじゃない。鈴子を玩具に置き換えたけど、子供の頃、玩具を壊した事があるだろ?それにも当てはまると思うんだよ。めちゃくちゃ大事なんだけど、どこまで大丈夫なのか興味本位で叩いたり切ったり。結局、壊れるんだけど、それって教科書にのってるような大切がゆえに壊してしまう、に当てはまると思うんだよ。」

「じゃあ今、私は見せびらかされそうになってて、叩いたり切ったりされてる最中なわけ?」

「そうそう。でも。」

 大志はそこで言葉を切ると、黙り込んだ。

 先生の愛情表現が歪だとしても、そんな事はどうでもよかった。むしろ、これが愛情なら、愛情を受けていられるなら、何でもよかった。

「カモシダはそれだけじゃない。絶対にだ。もっと何か考えてるはずだ。」

 突然、真剣な顔で言われて、胸が痛んだ。

 先生と通じ合ってるなんて思わないし、恋は盲目って言うように、もう充分自分は盲目になっているから、何もわからない。

 だから、大志が何をどこまで考えているのかもわからない。

「わかったら、ケイタイ鳴らすか、また鈴子が来た時にでも話すよ。しばらくは動きはなさそうだしな。」

 そう、しばらくはどうにもこうにも動けない。

 

 憂鬱な毎日。

 根も葉もない噂は広がるばかりで、くだらなさすぎる。

 でも、ここで私が騒げばさらに事態は悪化するだろう。

「五木、元気ない?」

 最近、堂島が休み時間の度に私の席にくる。必ず机の上に顎を置いて、捨て犬のような目をするのだ。

 元気がないのは堂島のせいだと言ってやりたい気持ちを押し殺して、何度も流してきたが、今日はキスするための一歩として、話してみる事にした。

「羽田さんが怒るよ。」

「志保は関係ないだろ。」

「あるじゃん。堂島の彼女でしょ?」

「でも浮気してるわけじゃないし。」

 あっけらかんと話す堂島には、もしかしたら罪悪感がないのかもしれない。何もかもに対して。

 こんな事をしていたら羽田に悪いとか、私の好きな人がいたらその人に悪いとか、思わないのかもしれない。

 ただただ自分の赴くまま。

「放課後、中庭行かない?」

 ごく自然に出た自分の言葉に固まる。

「まじー?行く行くー。鯉にエサやりながら待ってるわー。」

 ルンルンと席から去った堂島は、自分の席でニヤニヤしている。

 この際、堂島も羽田も私もどうでもいい。先生さえ笑ってくれればいい。

 放課後、堂島は一目散に教室を出て行った。

 人に言われた事を即行動するなんて、単細胞というか、素直というか、憎めない。

 私はしばらく教室で友達と雑談し、たっぷり堂島を待たせてから中庭に向かった。

「鯉のエサって何あげるの?」

 堂島の背中に声をかけると、笑顔で振り向いて手のひらに乗っている深緑の粒を見せてきた。

「用務員のおっちゃんにもらってきた。本当は決まった時間以外はあげちゃいけないけど、俺はおっちゃんと仲いいから、たまにくれるんだよねー。ほら。」

 無邪気にエサを池に放り込む堂島は、頭の中が空っぽなんじゃないかと思う。

「どうして私が堂島呼んだと思う?」

 池の淵にしゃがんで、鯉を見つめていた。

「んー、カモヤンに相手にされなくなってきたから。」

「は?なんでカモヤンが出てくるの?」

「五木、俺が年中夏休みな脳みそだって事は認めるけど、これでも結構目ざといんです。」

「そういうのいいから。もう。なんでカモヤンなの。」

「俺さ、パンチにめっちゃ追いかけまわされてんじゃん?毎日くらい、髪の毛がどーたらシャツがどーたら、ピアスがどーたら、キリないくらい。ある日、こっそこそ逃げ回ってたわけよ。校舎のそこらじゅうを。で、何見たと思う?」

 その続きは聞きたくなかった。いや、聞きたいのかもしれない。

 いつもはへらへら笑ってる堂島が笑っていないのだから、聞くべきでもあるのかもしれない。

 堂島は鯉のエサを全部池に投げた。水面がびちびちと跳ねる。

「カモヤンが五木の髪の毛引っ張って、床に転がして、いちゃいちゃ?違うなあれは。いたぶってる、とかゆーのか?とにかく、そういうのを楽しそうにしてるカモヤンと、嬉しそうな五木だったわけ。廊下と教室の間の窓って立て付け悪いから、微妙に隙間とかあんだよね。覗くと色んな面白いもん見れるから、たまに覗くんだけど、こればっかりは面白いどころかやべぇんじゃねーかって思って。」

 堂島は知ってた。私と先生が何をしているかを知ってた。

 でも、それを不利だと思わずに、逆手に取らなければ。

「やばいね。堂島を口止めするには何したらいいのかなぁ。キスでもすれば黙っててくれる?」

 口止めと称したキス。

 我ながらいい流れだと思った。

 堂島は穏やかになった水面を見つめながら、少し考えているようだった。

「キスかぁ。キスはしたいなぁ。でもカモヤンと同じ事もしてみたいなぁ。あれって気持ちいいの?」

 皮肉るような堂島の言い方に、頭に血がのぼる。

「からかわないで。私とカモヤンの事、堂島にわかるはずない。」

 何の考えもなしに、精一杯声を抑えて言った私は、堂島の挑発に乗ってしまった馬鹿なのだろうか。

 立ち上がり、堂島を見下ろす。

「わかるよ。五木がカモヤンにいかれてるって事くらい。でも、俺はカモヤンに劣っているとは思ってない。」

 どうして堂島と先生を比べなければならないのかもわからないけど、そんな事もどうでもいい。

「何て言われようと構わない。でも、堂島はカモヤンとも私とも違う。」

 私と先生の間に介入しようとする邪魔者をどうにか追い出さなければいけない。

 もう二度とこっち側に指一本入らないように。

「違わない。」

 堂島は強く言い放ち、こちらを睨んだ。

「何もできないくせにそんな口聞かないで。」

 そう、私が先生にされてきた何もかも、堂島はその欠片を知ったからって、先生のようにもできないし、私と同じように従う事もできないだろう。

「じゃあ試しに何か言ってみろよ。俺を試せば?」

 それでも堂島は挑発を止める気はないらしい。自信満々な顔で、笑っている。

 私は鯉の泳ぐ池を見渡し、微笑んだ。

「そう言った事、後悔するわよ。この池に落ちてみせなさいよ。足を浸けるとかじゃなく、頭からずぶ濡れになってみなさいよ。できもしないくせに。」

 きっと、先生にそう言われたら、私は迷わずそうするもの。

 池でクロールを披露する勢いさえあるかもしれない。

 堂島は池を見て、眉間に皺を寄せた。誰だってこんな苔や藻だらけで、鯉の泳ぐ臭い池に入りたくは無いだろう。

 しかも、頭からずぶ濡れなんて、それでどうやって帰るのか。

 堂島の視線は、池と私を行ったり来たりして、それでもやる気はあるのかケイタイを池の淵に置いた。

 ニヤリと堂島が笑った時だ。

 その体は大きな飛沫を上げて池に沈んだ。

 血の気が引く、というのはこういう事かもしれない。

 自分がけしかけた事なのに、現実だと認識できずにくらくらする。

 堂島は池から顔だけ出して、濡れた前髪をかきあげた。

 あまりに大きな水音に反応したのだろう、パンチの声が飛んで来る。

「堂島!そこはプールじゃない!すぐにあがれ!そこで待ってろ!」

 いつもへらへらしてるくせに、堂島は笑っていない。

 池の淵に立つ私の爪先をがしっと強い力で掴んで、じっとこちらを見上げている。 

「ほら、見ろよ。俺はカモヤンに劣っているとは思わないし、五木と違うとも思わない。なぜなら、ずぶ濡れの俺を見て、五木は心が痛んでいるはずだ。なぜなら、五木は心と体が繋がっている事をわかっているからだ。なぜなら、五木はカモヤンに虐められる事で、心を痛めてきたからだ。」

 何もかも見透かしたような言葉に、わなわなと体が震える。

「やめて。触らないで。堂島はどうしてそっとしておいてくれないの。」

 堂島の手を思い切り蹴り上げると、校門に走った。

 背後でざばっと水音が鳴る。

「五木!口止め料払え!」

 堂島は、ずるい。

 私の足を絡め取る呪文を簡単に唱えるんだもの。

 ちょうど校門のところで堂島に追いつかれて、家路に着く生徒から冷めた視線を送られる。

 だって、どう見たって堂島はずぶ濡れで頭おかしい人なんだもの。

「くそっ、気持ちわりぃ。」

 呟きながら髪の毛や袖口を触る堂島は、それでも余裕があるように見えた。

「堂島!帰れると思うなよ!」

 パンチの怒号が響いた瞬間、堂島はやばいって顔をして、反射的に私の手を取って走り出した。

 向かう先はわかっていた。バイクのあるあの茂みだ。

 全力疾走に付き合わされて、息切れした私は、何も言えなかった。

 キスしようとも。

 堂島はつけている意味もないようなゆるんだネクタイを外すと、濡れたシャツを脱いだ。

 堂島はとても綺麗で、先生とは全然違う体をしていた。それは、姿かたちじゃなく、匂い、だろうか。大人と子供の違いだろうか。

 先生よりも線の細い堂島は、それでも全身に筋が浮き上がるほどの筋肉があって、きらきらと水滴が光っていた。

「五木とキスしたら、俺、志保にぶっ殺されるかなぁ。」

 のん気な声を出した堂島は、くくっと一人で笑っていた。

 濡れた前髪を無造作にちょんまげに括り上げると、堂島は鯉くせー、と言ってまた笑った。

「じゃあ堂島も私に口止め料払わないと。」

 ねぇ、先生。

 他の誰かに汚されても私を見ていてね。

 堂島は慣れた仕草で私の耳の下に手をあてがうと、ゆっくりと顔を近づけてきた。

 こわくて、こわくて、私は目を閉じた。

 先生、私を先生だけのものでいさせて。

 堂島の唇は池の水のせいか何なのかわからないけれど、湿っていて、だけど、とても熱かった。

 唇を軽く噛むようにして離れた堂島は、ゆっくりと巻き戻しがかかったように同じ位置まで顔を戻し、手も同じように下げていった。

「どんな気持ち?今、どんな気持ち?」

 優しい顔した堂島は、とてもひどい質問をする。

 私は逃げるように立ち去った。


 休みの日に、大志の部屋に入り浸り、山積みの漫画を読み漁る。

 事の成り行きを洗いざらい大志に吐き出して、すっきりした。

 だけど、逆に大志は難しい顔して、やっぱりパソコンにかじりついている。

 ちらりと覗き見したら、アダルトな画像や言葉ばかりで、すぐにソファに引っ込んだ。

 大志が絵に描いたような年中発情期のヒキコモリだと、改めてわかったところで意味がない。

 三冊目の漫画を開いた時、大志がわかった!と大きな声で言ったので、驚いて閉じてしまった。

「何。独り言は小さい声にしてよ。」

 大志の部屋なのに、文句は一人前の私。

「カモシダは子供じみた遊びをしてたんじゃないよ。」

「は?もうわかんないからいいよ。」

 そう、考えたってわからない事は考えないようにしたのだ。

 それを掘り起こされたって、どうにかなるものでもない。

 だけど、話したくてうずうずしているらしい大志は、無駄にマウスをカチカチ鳴らしている。

「独占欲と所有欲だ。」

 聞くって言っていないのに、すでに話が始まった。

「わかった。それがどうかしたの?」

 諦めて漫画を置くと、大志に視線をやった。

「カモシダはそのふたつを持っていたんだよ。独占欲っていうのは、誰にも求められないものには感じない。誰かに取られるかもしれないところに置いて、それでも自分が掠め取って行ってこそ、それが満たされるんだよ。だってそうだろう?独りで占める、その構図が独占欲には必要なんだから。」

 はぁ、と気のない返事をしながら、やけに興奮している大志に頷く。

「そして、所有欲。そんな全てを自分の意思、つまり支配下で行われる事に意味があるんだ。鈴子を所有していると確認するには、思い通りに操れる事を実証してこそだろう。」

「ちょっと、難しくてわかんないんだけど。」

 ため息をつくと、大志はそれより大きなため息をついた。

「だから、カモシダは鈴子を思い通りに操る事で所有欲を満たし、堂島とキスさせて自分の手元に帰ってこさせる事で独占欲を満たしているんだよ。一見、自信過剰な行為だけど、えすえむでは絶対的な主従関係には不可欠なもの?なのかな?」

「しゅじゅー?とかわかんないし。だけど、先生が満足するって事はよくわかった。」

 パソコンに映った、さっきのアダルトな画像や言葉はこの話をする為だったのかもしれないとぼんやり思った。

 大志も上手く説明できないのか、つぎはぎの知識を懸命に言葉にしているように思う。

「まぁ、それは前置きみたいなものなんだけど。」

「は?まだ本題じゃなかったの?」

 間の抜けた声が出た。

 だって、こんな小難しい話が前置きなら、本題はもっと難しい話だと推測が立つ。

 天井を仰いで、できるだけ大志の言葉を理解しようと目を閉じて集中した。

「カモシダは鈴子を愛してる。」

「はっ?愛っ?」

 驚きすぎて、半分ソファから立ち上がった状態で止まる。

「ああ、愛だ。」

 力強く肯定する大志は、夢でも見ているように顔が緩んでいる。

 ただの高校生の私達、いや、大志はヒキコモリだけど。が、愛などと重い言葉を使う事になろうとは。

「カモシダはナントカ欲っていうものを使って、鈴子との信頼関係を形にしているだけで、その根本に心がなければ、そんな事はできないはずなんだよ。それに、カモシダは言う事を聞けば聞く程、鈴子を可愛がって?いや、必要としてくれるだろう?それは、あなたがいなければ何もなかったって事の裏返しなんだよ。」

 大渋滞を起こしていた先生との関係が、他人の言葉によって明確にされた。

 先生は、欲しがる事は誰にでもできる、与える事を考えろと私に言ってきた。

 それは先生がそうだったから?私にずっと愛を与える事ばかりを考えていたから?

 同じものを見たいと願ったから?

 先生、私は先生に何を与えられるかな。


 昼休みの美術室は明るかった。

 先生はとても機嫌がいいらしく、鼻歌まで歌っていた。

「もう知ってるかもしれないけど、堂島が中庭の池に飛び込んだの。堂島は先生と私の事、知ってたの。堂島にそれって気持ちいいの?とか同じ事したいとか、からかわれて、むかついて、じゃあ飛び込んでみろってけしかけた。パンチにめっちゃ追いかけられて。」

 茂みの中で。茂みの中で。

 顔を上げると、先生は本当ににっこりと笑っていて、同じように笑ってしまう。

 大志の話が本当なら、この続きを話しても先生は笑っていてくれるはず。

 だけど、うまく言葉が出ない。

 もうお前なんかいらないって言われたらどうしよう。

「その日。堂島と。」

 胸が詰まる。

 先生、大好きです。

 何でもしちゃうくらい、先生の事が、大好きです。

「キス、しました。」

 零れた涙は頬を滑り、床に落ちていった。

 先生は泣きじゃくる私を初めて真正面から抱きしめてくれた。

 大きな胸の中、ぬるい温度、先生の匂い。

「よしよし。頑張ったね。えらかったね。」

 子供をあやすような言葉に、また涙が零れる。

 うーっと声にならない声を漏らしながら、先生の背中に回した腕に力を込めた。

「お前ならできると思ってたよ。ご褒美はもう考えていたんだ。」

 そう言った先生は、少し体を離して、涙でぐちゃぐちゃの私に微笑んだ。

「ひとつだけお前の欲しい物をやろう。形のある物でも、ない物でも構わない。一番欲しい物を言ってみなさい。」

 欲しがる事を禁止されていた私は、欲しがる事を要求されて、戸惑った。

 えっと、えっと、としゃくり上げながら考えていると、頭ごと抱きすくめられて、息が苦しくなる。

「先生。笑わないでね。」

 くぐもった私の声で、そっと体が離れた。

 ん?と顔を傾けた先生は、とても私を虐めている人と同一人物には見えない。

「きっと先生は笑わないと思うけど。私、先生が一番よくしてる赤いネクタイが欲しい。」

 そう言うと、先生は今日の藤色のネクタイに指先で触れた。

「学校を卒業する時、大好きな人の制服の第二ボタンをもらうでしょう?うちの学校はネクタイを交換したりする子もいるけど。だから、私ね、先生の事が大好きだからネクタイが欲しい。一生大切にする。おばあちゃんになっても持ってる。」

 これを告白と呼ぶのかはわからない。だけど、私の中では精一杯の告白だった。

 顔から火が出そうな程、恥ずかしくて、涙もぽろぽろ出るし、胸がいっぱいで苦しい。

 片手で口を塞ぐようにうーっと声を漏らす私を先生はふわりと抱き寄せて、何度も頬にキスをしてくれた。

 最後に唇にキスをすると、

「ほら、お前は俺のものだろう?誰と何をしたって、俺だけのものだろう?」

 本当に、そうだ。堂島とのキスくらいで、揺らいだりしない。

 先生と私はちゃんとここにいる。今も、ここにいる。

 まだ体を震わせる私の頭を撫でる先生は、本当に嬉しそうに言った。

「お前、可愛いね。顔とかじゃなくて、存在が。」

 それはより一層、私を泣かせる言葉で、私は先生の胸に額をつけて思い切り泣いた。

「ネクタイは次の時に締めてくるよ。お前の手で持っていきなさい。」

「はい。」

 この日、先生は私を虐めなかった。

 大志が言った通りならば、虐めても虐めなくても、ここには愛があるって事。

 だから、もう私は悲しくなかった。

 堂島は先生とは対照的に、とても不機嫌だった。

 朝から羽田と派手な喧嘩をした挙句、昼休みにはパンを買占め、パン投げ大会とかいう訳の分からない事をやって、例のごとくパンチに連行され、こってり絞られても懲りないらしく、カッターナイフで皮膚を削ってタトゥーとか言って笑っていた。

 だけど、堂島が一人になる事はない。

 羽田と喧嘩したと知った他の女子は、ここぞとばかりに堂島に優しさという下心を見せる。パン投げ大会も調子のいい男子が参戦し、流血沙汰のタトゥーは心配という名の私達はこんなにも堂島を気にかけているの合戦を巻き起こしていた。

 だけど、堂島はイライラしていた。笑っていなかった。へらへらしているつもりなのだろうが、殺気立っているのがビンビン伝わってくる。

 放課後、中庭に堂島を見つけた私は鯉のエサをやっている背後に立った。

「堂島、どうしたの?」

 声をかけても、こちらを振り返らない堂島は、池にエサを放っている。

「めちゃくちゃすぎるじゃん。羽田さん、大丈夫なの?」

 無言の背中は、まだピリピリしていた。

「ごめん。一人になりたい時もあるよね。じゃあ。」

 立ち去ろうとした時、堂島が振り返った。

「俺、今まで恋愛とかどうーでもいーやって思ってきてさ。本心を言うと、あの時のカモヤンと五木見た時、嫉妬したんだ。こう、なんていうか、あん時のカモヤンと五木には誰にも入り込めない何かがあったんだよ。絆、なのかな。今まで何人も女抱いてるはずなのに、そういうのできた相手いねぇなって。そう思ったら自分にむかついて、まわりにもむかついて、自分のずっと先をいってるような五木やカモヤンにもむかついた。」

 ああ、堂島は子供な自分に苛立っていたんだ。

「堂島、人を好きになった事ある?その人がいるだけで死ぬ程、幸せになれたり、絶対にその人はいなくならないって信じられるような。」

 私が先生を大好きなような。

 堂島は眉間に皺を寄せて、唇を噛んだ。

「ない。だって俺、五木といる時のカモヤンみたいな顔になった事ないと思うもん。カモヤンといる時の五木みたいな顔も。」

 堂島が、どんな顔を見たのかはわからないけれど、絶対に言える事は、二人はとても幸せそうな顔をしてたって事。

「でも俺、五木もカモヤンもいなくならないって事はないと思うんだ。別に教師と生徒だからじゃない。信じてないわけじゃない。だって、俺のまわりの女はみんないなくなるからだよ。そういう女と、五木やカモヤンが全然違う人間だとは思わないからだよ。」

 ぼんやりと池を眺める堂島は、そう言い終えると地面に横たわった。

 空を仰ぎ、世界を遮断するように目を閉じていた。

 堂島はとても孤独だった。いつも沢山の人といるのに、いつもひとりだった。

 派手な格好や行動で人目を引きながら、流れて行くものを冷めた目で見ている人なのだと思った。


「五木、ちょっと。」

 授業終わりに先生に呼び止められたのは初めてだった。

 少し困惑したが、まわりから見れば呼び出しくらって最悪!という顔に見えているだろう。

 ちらりと堂島を見ると、気の抜けた顔であっかんべーをされた。

 先生は美術教師らしく、前回提出した絵の話をしていたが、すぐに、

「ああ、ついでに五木のクラスのプリント預ける。」

 といつもの小部屋に手招きをしながら移動した。

 すでに他の生徒は教室からいなくなった後だけれど、誰かに見られていたらと思うだけで体が強張る。

 先生は椅子に座って本当にプリントの束を机に置いた。

「ネクタイ。」

 先生はそう言いながら、顎を少し上げた。

「自分で持っていきなさい。」

 とても優しい声だった。

 私、知ってるの。先生がこの赤いネクタイが一番のお気に入りで、張り切ってる時とか、生徒にとって大事なテストの時とか、絶対つけてきてるの。授業で色の話になった時、赤が一番好きだって言ってた事も覚えてる。初めて私の手首を縛ったのもこのネクタイ。

 そっと先生の胸元に手を添えると、震える唇に力を入れた。

「先生、私のネクタイ外して下さい。」

 しばらく見つめ合うと、先生は私の胸元に手を添えた。

 しゅしゅっと布のすれる音が響く。

「あげます。うちの学校は、好き合ってる人は、ネクタイは交換しなきゃいけないの。だから、先生と私は、そうだから、そうでなくちゃいけないの。一生大好きなままなの。」

 言い終える頃に、お互いのネクタイが外れた。

 先生は私のネクタイを自分の首にかけると、細い銀縁のメガネを外し、私の顔にそっとかけた。

「おまけ。」

 そう言って笑った先生は実際の年齢よりも幼く見えた。

 今まで、先生は目が悪いんだと思っていた。だけど、私の視界に変化がない。伊達メガネだったの?

「今から言う事に、はい、以外の返事をしてはいけない。」 

 先生はそう前置きをすると、プリントの束を差し出した。

「今までの事全て、なかった事にできるね?」

 先生?

 私の事がいらなくなったの?嫌いになったの?他の誰かができたの?

 溢れ出す言葉を飲み込み、私は笑った。

「はい。」

 きゅっと床を鳴らし、先生に背を向けた。

 だけど、小部屋を出る時、足が固まる。

 先生が私を見てる事、わかるんだもの。悲しくて優しい目で、包むように見てるんだもの。

「なかった事になっても、いいです。私、先生の事、大好きだから。先生が思ってるよりずっと、先生の事、大好きだから。辛い事も痛い事も我慢するって約束したし。だけど、先生、お願い。何もかもなくなっても、私の事大嫌いになってもいい。五木鈴子を一生忘れないでいて下さい。」

 お願い、なんて聞き入れられるはずもないのに。

 悪あがきしてしまうのは、私が子供だからだろうか。

「馬鹿だね、お前は。愛する人を忘れる日なんてくるはずないじゃないか。」

 もう、声が出なかった。

 何度も頷きながら、無言で美術室を出た。

 すぐにポケットにネクタイとメガネを入れ、平静を装い、教室に戻る私は先生の事が大好きだった。先生が私を愛してる事と同じかはわからなかったけれど、胸いっぱい大好きだった。

 放課後、大志の部屋で号泣しながらエンディングを語る私は、終わりさえ受け入れられない子供だった。

 大志は珍しく私の隣に座り、ティッシュを箱から出しては渡してくれた。

「先生は本当に私の事、愛してると思う?」

 こんな馬鹿げた質問に、大志は声を荒げた。

「カモシダは、嘘つかないだろ。鈴子に嘘ついた事ないだろ。」

 ふんふん頷いていると、次々と言葉をかけてくる。

「絶対に鈴子の事を愛してるよ。鈴子がこんなにカモシダの事、好きなんだ。カモシダだってそうに決まってる。俺はカモシダの事をデキの悪い頭で分析したけど、あなたがいなければ何もなかった、って、お互い思ってるはずだろう?何がどうとかじゃないんだよ。無条件にお互いが大好きなんだよ。それ以上なんてどうしてありえるんだよ。」

 もう二度と来ないまたいつかを交わすよりも、お互いのデリートボタンを押した私と先生。

 だけどやっぱりゲームのように本当にデリートなんてできるはずもなく、先生との始まりも過ごした時間も別れの瞬間も今この時も、確実に私の人生にセーブされていっている。

「先生の事が大好きなの。忘れないでって言ったけど、私も忘れないけど、やっぱりそばにいたいよ。先生といたい。先生と一緒にいたいよ。いられるなら何でもする。」

 顔をぐちゃぐちゃにして、髪の毛も振り乱し泣き叫んだところで、先生はもういない。

 いるけど、いない。これは、堂島の言った、いなくなるとは違うような気がする。

 きっと、ずっといるって事だ。

 大好きだよ、愛してるよ、忘れないよ。

 近くにいても、遠くにいても、それは変わらない事実。

 先生は、私に何を伝えたかったのだろう。私をこんなにまでして、きっと先生も教師生命を危険に晒してまで、何をしたかったのだろう。

 あまりに未熟で思慮の浅い私は、今、涙で何も見えない。


 堂島は羽田と別れたと噂で聞いた。別れの原因は今までと同じで、羽田が堂島の女関係に耐え切れなくなった事だと。

 その直後から、堂島は誰とも一緒にいなくなった。

 言い寄ってくる女子がいると、わざと大声でこう言うのだ。

「なんだ、君も俺と手を繋いだりキスしたりしたいの?堂島は私の彼氏って言ってみたいの?何なら今ここでやってあげるよ?君の妄想の中で彼氏になってあげてもいいよ?君の事、大好きって言ってあげてもいいし?」

 あまりに刺々しく、酷な言葉に、泣き出す子もいれば、堂島に罵声を浴びせる子もいた。

 ただ、そんな女子達を見て、堂島は必ず楽しそうにケタケタ笑った。

 堂島が中庭に入り浸っている事は知っていた。

 職員室を覗き見する渡り廊下から、よく見えたから。

 派手な格好をしている割に、あまりに小さくて消えてしまいそうな堂島の背中が、気になった。

 ある日、無言で堂島の隣に座ってみた。

 堂島はポケットから鯉のエサを出して、私の手にコロンと置いた。

 私は促されるままに、それを池に投げた。

 どれくらいそうしていただろう。 

「なんだ、カモヤンと別れたの?」

 きっとずっと前から察していただろう堂島は、興味なさそうな声でぽつりと言った。

 私は水面をじっと見つめながら、少し笑った。

「んーん、カモヤンと一生一緒にいる事にしたの。」

「は?意味わかんねぇんだけど。」

 間髪入れずに返されて、堂島の顔を見た。何なんだよって呆れた顔をしている。

「堂島にはわからないよ。多分、誰にもわからないの。でも、幸せだったなぁ。カモヤンの事が大好きってだけで、一生生きていけそうな気がする。」

 強がりなのはわかっていた。

 堂島に向けたピースサインの指先が震えていた。

 へへっと笑ってみたけれど、堂島は私の指先をじっと見て、ため息をついた後、ピースを隠すように手を握ってきた。

 堂島が口を開きかけた時、声が降ってきた。

「お前達、呼び出される前にやめとけよ。」

 渡り廊下で、先生が笑っていた。

 もちろん、私はこんな状況にも関わらず視線は先生に釘付けで、堂島の手の熱さなんてわからなくなっていた。

「先生、ごめんなさい。じゃなくて、ありがとう。」

 中庭に響く私の声は、さようならの代わりだった。

 先生は新しい伊達メガネをくいと指で押し上げると、浅く頷いた。

 険しい顔の堂島は私の手を握ったまま立ち上がり、つられて私も立ち上がった。

「カモヤンよりいかした大人になってやっからな。待ってろよ。」

 訳の分からない啖呵を切った堂島は、それでも真剣そのもので、笑えなかった。

「堂島が大人になる頃には、俺はおじいちゃんだよ。」

 先生はそう言って笑うと、左手をひらひらと振りながら校舎の中に吸い込まれて行った。

 私と堂島は、先生がいなくなってもじっと動けないままで、息をする事も忘れてしまいそうな位、何かに一生懸命だった。

「カモヤン、結婚指輪してんじゃん。」

 そう、先生の指に、この間まではなかった結婚指輪が光っていたのだ。

 でも、不思議と先生に対する問いは浮かんでこなかった。結婚するから私を捨てたの?とか、そういう問いだ。

 だけど、問いはなくとも先生に大事な誰かがいるという現実には耐えられそうにない。

 堂島の手をぎゅっと握り返すと、そのままへたり込んだ。

「ちょ、五木。」

 引っ張られるようにして尻餅をついた堂島は、焦点の定まらない私を見て、仕方ないなって顔をした。

 何もかもわからなかった。

 ただわかるのは、もう先生は私のものじゃないって事だ。

 私が戻る場所は、先生のところじゃないって事だ。

 がらがらと音を立てて崩れたのは、先生との関係なのか、私の気持ちなのか、もっと違うものなのか、わからない。

 私が先生と同じくらいの年になったら、先生の気持ちも選択もわかるようになるのだろうか。

 私と同じくらいの年があったはずの先生は、私の気持ちや選択をわかっているのだろうか。

 先生にもらったネクタイやメガネはいつか必要じゃなくなるのだろうか。

 涙が枯れない事をきっと知っているだろう先生は、私に泣けと言っているのだろうか。

「五木、行くぞ。」

 堂島は問答無用で私を引っ張ってバイクのある茂みまで連れて行った。

 そこで、ぎこちなく抱きしめられ、本当に悲しくなった。

 ここにいるのが先生じゃない事が悲しくなった。

「先生の事、大好きなの。どうして私は子供なの?」

 堂島に言っても仕方ないのに、そう言うと涙がぽろぽろ零れた。

 堂島はよしよしと背中をさするばかりで、しゃくり上げる私に付き合ってくれた。

 支離滅裂に先生への気持ちを口にする私に、時々、なだめるような言葉をかけていてくれたかもしれない。

 先生よりも細くて軽い堂島の体に包まれていると、堂島がいつか言っていたみんないなくなるという事を少し理解できた気がした。

 それさえ大人になる為に必要な傷ならば、あとどのくらいの傷がつけば私達は大人になれるのだろう。

 堂島が私の頭の形を確かめるように手を這わせた。

 ぐっと髪の毛をつかまれ、唇と唇がくっつきそうな距離まで引き寄せられた。

「好きなだけ泣けよ。お前が辛い事も痛い事も俺が引き受けるから。だから、この先どんな事があっても俺の言う事を聞け。」

 堂島の言葉は、いつかどこかで聞いた事と似ていた。似ているだけで、違うものだとわかっていたが。

 吐息のかかる唇を、ゆっくりと舌で舐められ、熱く熱くなっていくのがわかった。

 涙の混じった唾液は、しょっぱくて、だけど、堂島が噛み付くようにキスをした時、頭が真っ白になって目を閉じた。


 私は人生のセーブボタンを押した。




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