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第25話

すみませんでした。やっと試験も就活も終わりました(´Д`;約3ヶ月?ぶりの更新となってしまいすみません。これから頑張りますが、9月からは仕事が始まるかもしれないので、またこんな事態になっても見捨てないでいただけたら嬉しいです。では、このまま読んでいただけたら幸いです。


  ガァン…


 巨大な洞窟内にその音は響き渡る。重厚な金属の扉を何かで叩く音。


  ガァン…


「さて、行こうかしら」

 女性は組んでいた手を解き、ゆっくりと扉に向かって歩いて行く。

「あなたも行きます?」

 途中、岩の前で足を止め、上に座っている老人を見上げた。

 老人は細い目を開くと、腰をあげた。岩から音もなく降り、女性の前に立つ。背中が丸くなり女性より小さな老人は、右に持っている木の杖で地を二回叩いた。

 洞窟内に備えられたランタンが老人の顔を明らかにさせる。

「そうじゃな、そろそろわしも鬼事は辞めるとするかの」

「私は辞めるつもりなどありませんが…」

 グラダの言葉に史遠は釘を刺した。そう、彼女は決して降参しようなどとは考えていない。


 そんな二人のやり取りを、ブルニアルスは地面に転がったまま見ていた。手足は縛られ動きがとれないため、うつ伏せのまま顔だけをあげている状態だ。

 実際のところ、二人の会話などに興味はない。彼は自由を奪う縄を外そうと小型のナイフで切っているのだ。それを気付かれてしまっては意味はない、だから二人の動きを見ている。


 運良く、まだ二人には気付かれていないようだ。二人はまた話し出す。

「そうか、若いもんは元気があって良いの…わしのような老いぼれにはこれ以上はきつい」

「………」

 ゆっくり、史遠の横を通りすぎ来訪者が待つ固く閉ざされた扉に向かって行くグラダ。


 彼は今回の計画から外れるだろう、ならここで息の根を止めてしまうのが一番だ。


「お前さんは暫く待っておれ。おそらくあやつらは何かしら仕掛けてくる。まずはわし一人で行くとする」

 後に立った史遠をグラダが制する。史遠は珍しいものでも見るような目で、老人の背中をみる。

「まあ、私の盾になってくださるの?」

「…冗談はよせ、初めからその約束で手をとった」

「そうでしたね」

 史遠の安い芝居にグラダは苦笑いを浮かべ、再び杖で地面を二回叩く。

 懐に手を差し入れ、取り出した何かをグラダの背中に突きつける史遠。

「しかし、あなたを失うのは惜しい」

 突きつけたのは剣、史遠の得物だ。


 史遠の得物には不思議な力が備わっている。火をおこし、風を呼び、雨を降らせ、地を震わす、そして、その得物自体の大きさを変えることが可能。また、要となる火種などが無くともその現象をおこすことができる。


 剣の先は確かに服越しだが皮膚にふれている、しかし、グラダは慌てていないようだ。さすがは司令官であるライク・バスクを育てた男、などと関心してしまう。

「お前さんの計画に老いぼれの贄が必要か? それともわしの力か?」

 少し低い、だが怒りも哀しみも含まれていない声。史遠はその問いに心が躍った。彼に対して恐怖など微塵も感じない、感じるのはこれから彼と戦えるという喜び。

「力です」

 彼女の答えにグラダは腕を胸の前で組み、関心したように何度も頷いた。

「素直じゃな、だがもうお前には関わらんぞ」

「何故です?」

 声が嬉しさのあまり震える、抑えようと、冷静に接しようとしても声は震えた。

「長く逃げ、生きながらえてきた。その間、少しは老いぼれなりに考えておった。再び世界を闇に陥れては何も解決せぬ、何も変わりはしないと…」

 グラダがまた杖で地面を叩く。背に突きつけられている剣の存在を無視し、前に数歩出た。そして、史遠に向き直る。

「変えることならルイさまの下にいればできる」

 剣を下に払い、小刀ほどの大きさに変えると腰に提げてあった空いていた鞘におさめる。

 今度は三回地面を叩く。

「…それは蛇の道じゃ、人の進むべき道ではない」

 次は4つ叩いた。音が洞窟内に響き渡り、先程までの轟音は何故か消えていた。

「だが、あいつらに捕まれば命はないぞ? ましてや、あなたの息子さんが居る。息子さんはあなたを殺そうとここまで来た、確実に殺られるわよ」

 近くの岩に飛び上がるグラダを史遠は何もせずに見ていた。腕を組んで仁王立ち。だが、隙は全く見せない。

「覚悟の上じゃ…」

 岩に飛び乗ったグラダは振り返り、微笑んだ。

「何を言っても無駄か…おそらくあなたは話すだろうな、やつらに全てを…」

 一度鞘におさめた得物を取りだし、剣の大きさに戻し真っ直ぐ正面に構えた。

「その前にわしを消すか…」

 剣の切っ先がグラダの心臓の位置に合わせられる。

「これは覚悟していなかったのか?」

 グラダは口の端を持ち上げ笑う。

「しておったよ」

 言い終わると同時に、グラダの杖は姿形を変え、身の丈程はあろう長剣になった。

 長剣を鞘から抜くと、刀身は弱々しいながらも光を放ち、グラダの周囲を照らし出した。

「私相手に本気をだしていただけるの? 光の剣をとりだして…」

 史遠は長剣をみて、身体中にグラダの殺気を浴びながら微笑む。そして、剣を鞘にしまい込んだ。

「残念ながら、私は貴方と戦いたいのですが、此処で死ぬわけにはいかないの」

 無防備に敵に背を向け、エメラルドの氷柱に歩み寄る。

「逃げるのか? あのルイの片腕とも言われたお主が」

「ええ、逃げさせていただきます」

 悔いる様子もなく、史遠は人差し指で頭上に紋様を描いていく。グラダもそれを止めようとは思っていないらしく、剣を構えたまま立っていた。

 紋様を描き終えると、グラダに向き直り、手を振った。

「ごきげんよう」

 一歩下がり紋様の下に足を踏み入れると、紋様から光が現れ柱となり、史遠とエメラルドの氷柱を取り込んでゆく。

「史遠!」

 やっと縄を切り落とすことができたブルニアルスが槍を持ち、史遠に向かって走っていく。しかし、それはグラダに止められた。

「グラダ様…」

 グラダの剣がブルニアルスの首に突きつけられ、再び身動きがとれなくなった。

 この男に隙をつく、なんてものは通用しない。いや、無意味なのだ。かれには隙がない、あったとしてもダメージをあたえられる可能性はゼロに近いだろう。

「そのまま行かせてやれ、ブルニアルス」

「くっ…」

 おとなしく槍を下げ、悔しそうな顔で立っている少年の視線を感じつつも、史遠は光の中に消えていった。


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