第21話
こんばんわ。公約した月ですが、さっさく破りそうです。。。年始に頑張ります。それでは、このまま読んでいただけたら幸いです。
双方じりじりと歩み寄り、いつでも攻撃が開始できるように武器を構えている。
ある程度の距離まで近づくと、足が止まりその場に少しの沈黙が流れる。
先に動いたのはブルニアルス。術は使わず、槍の本来の力だけでライクに斬り掛かってきた。
「やぁ!」
ガッ!
ライクは二股の刃を杖で受け止める。
「くっ…そのままくるとは、私もなめられたものだな」
「ふふっ、強がっちゃって。本気で来ていいよ? 僕はそれを躱してあげるから」
押してくるブルニアルス、それは子供とは思えないほどの力だ。ライクの足は徐々に後ろに動き、押されているということがわかる。
続いてイガードがファストに向かってきた。
ギィイン!
「つっ…」
相手は男、しかも自分が愛した人。こちらも力では負け、ズルズルと後ろに押され下がっていく。
「ファスト様!」
楼焔が主の下に駆け付けようと走りだすが、すぐに服の裾を普電に掴まれ立ち止まる。
持っている槍を両の手で色が変わるくらい握り締め、今にも泣きだしそうな顔で普電を振り返った。
彼にとって、ファストがどれだけ大きな存在かが分かる。
「何するんだよ普電! このままじゃファスト様が」
パァン!
前触れもなく、普電が楼焔の頬を叩いた。
「いたっ…!」
握り締めていた槍から片手を離し、叩かれ赤くなった頬に手をあてる。
「目…覚めた…?」
引っ張っていた楼焔の服の裾を自由にし、読めない顔で普電は彼に言った。
「私がさっき言った内容は…あなたの頭に入っているのかしら…?」
「覚えてるさ…でも、このままファスト様をイガード様と戦わせるわけにはいかないじゃないか!」
普電の言葉に叫ぶかのように返した楼焔。
それを聞いた普電は小さく息を一つ吐き、楼焔を見て言った。
「誰もファスト様を傷つけろなんて…言っていないわ…この辛い状況から一刻も早く抜け出すために…イガード様とブルニアルスの身体に刻まれた刻印を探せと言っているの…」
楼焔は落ち着いてきたのか、丸くしていた眼が徐々に正常な大きさに戻っていった。
さらに普電は続けた。
「もちろん…このまま何もせずにただ探していたら怪しまれるから…攻撃してもいいわ…ただ殺さないようにね…」
そう言って弓を構え、標準を楼焔のむこう、ブルニアルスの足にむけて射る。
ヒュッ
射られた矢は風を切り、ブルニアルスにむかってゆく。
ガン
「ちっ…」
しかし、矢は足に突き刺さる前にその足によって踏み折られた。
光速の矢をいとも簡単に踏み折ったブルニアルス、彼に少しながらも普電は恐怖を抱いた。
「こんなので僕を殺そうっての? 本気で来なよ、君も」
ライクと対峙していながらも、目だけは普電を見て顔に不吉な笑みをはり付けている。
普電は後ろに下がりたいと思ったが、弓を握り締めその場に踏みとどまった。額にはじっとりと汗が浮き出てきた。
一度目を閉じ、意を決したのか見開いた瞳には、もう何者にも動じない強い心が表れていた。
「言いましたね…? 本気で行かせていただきますよ…」
口の端を持ち上げて笑う普電、近くにいた楼焔は寒気に鳥肌が立った。それと同時に、普電のその顔に美しいと見惚れてしまった。顔が赤くなり、胸が痛い。
主人に生み出されてから今日まで六人、共に主人達に遣え、共に育ってきた仲だったが普電のこの表情は初めて見た。
人を恐ろしいと思ったことは数知れず、人を好きだと思ったのも数知れず、しかし、人を愛しいと思ったこの感情はこれで二度目。一度目はイガードの遣い雷良だった、二度目はもちろん普電。
自分は複数の人を愛してしまったという罪悪感もあったが、今はそれどころではない。現実では自分達の主人達は不利な状況におかれている。自由に動ける遣いの自分達がどうにかしなければならない。
「楼焔…いくわよ…」
敵を見据えたまま視界に入らない楼焔に言葉を掛ける。楼焔は彼女の横顔を少し後ろから見て頷いた。
「刻印を探しましょう」
二人は何かが合図だったかのように、同時にそれぞれの主人の下に駆け寄った。
ダン
「はぁ!」
楼焔が片刃の槍を、ファストと対峙していたイガードの脇腹に斬り掛かった。 ギィン ザシュ
「ふん…」
イガードはファストの剣と合わせていた槍を振り払い、むかってきた楼焔の刃を多少受けながらも後ろに下がる。
楼焔の刃はイガードの腹部の服を破り、見えた肌に紅い血が滲む傷を付けた。その場所からは刻印を見ることはできなかった。
イガードとの間合いが広がったファストは、力が抜けたのか、その場に剣を支えにして片膝をつくように座り込んだ。
彼女は顔を下に向け、肩で息をしていた。
「ファスト様! 大丈夫ですか!?」
直ぐに楼焔は駆け寄り座り込むファストの顔を覗き込むように顔を近付け、前に座った。
「…楼焔。大丈夫よ…さぁ、やりましょう」
遣いの存在に気付いたファストは気丈にも立ち上がり、再び剣を構えた。自分の気持ちを押し殺してイガードを見る彼女の目に、一瞬見せた迷いもすでになくなり、覚悟を決めていた。
「…はい」
彼女の気持ちに答えるように、楼焔も立ち上がり、目の前の敵に槍の切っ先を向けた。
「まだやる気なのか、正気か? やめておけばいいものを…」
イガードは腹部の傷も気にもせず、冷たい眼と刃先を二人に向けた。
「楼焔…」
「はい」
お互い、視線も合わすことなく小声で話す。
「アレは…使ったのか?」
少し躊躇いがちに重く、言葉を並べるファスト。
「…使いました」
「そうか…」
楼焔は間を置いたものの、声色は変えず答え、ファストはそっけなく続いた。
アレとは一体何なんだろうか。
「さっさとやらないとね、苦し紛れに雷良を出されたら堪ったもんじゃないわ」
そう言って剣に気を溜め始めた、楼焔はそれに気付くと直ぐに態勢を低くし、スタートダッシュができるように前後に開いた足に力を入れる。
「見える首や腕には遣いの刻印しかない。さらに、今、楼焔が破いてくれた腹部にも刻印の可能性は低い。ということは、必然的に」
「それ以外の上半身」
「そういうことになるわね」
交互に言葉を交わし、答えを導きだしてゆく二人。
長年コンビを組んできた間柄だ。お互いの考えていることは多少は分かる、そして行動も。
まずファストが術を発動させる。
「剣技・流炎朱蛇!」
炎の蛇が地を這い、ものすごい速さでイガードにむかっていった。
「ふっ…飛雷招鯨!」
開いた左手を向かってくる炎蛇に向け、素早く術を発動させたイガード。
どこからともなく巨大な雷鯨を生み出す。
「ゴォウウゥ…」
地響きのような心臓にまで届くその声は、上半身を持ち上げた雷鯨から発せられたものだった。雷鯨は這い迫る炎蛇を、
ガン!
自らの全体重で炎蛇を押し潰した。二体は爆発を起こし、その影響で爆風による砂煙が視界を奪う。
ボフッ
「つっ…」
「くっ…」
イガードもファストも腕で目に砂が入ることを防ごうとするが、楼焔は。
突然、イガードの目の前に砂煙から楼焔が飛び出してきた。そして彼の槍はイガードを斬った。
「! 貴様…!」
来年もよろしくお願いいたします。