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第15話

お久しぶりです。今回はやっと心が近づいてきたファストとイガードのお話。運命は無情にも二人を突き放す。。。このまま読んでいただけたら幸いです。

 あれからどれくらい経っただろう。城でライクからイガードの事を聞いて、そして地上に再び降り立ったってからまだ一日も経っていないのにすごく長く感じてしまう。

 ライクに手紙を見せられた時はなるべく安心したような雰囲気でやり過ごしたが、内心は不安でしょうがない、いくらイガードから手紙をもらってもこの眼で見なければ。

 彼女、ファストはある場所に向かっていた、本当は指示が出るまで来ては行ってはいけない場所。


 捕われている彼が居る場所。


 ファストは両腕に絡めていた布を頭から被り城に近寄る。ファストの持っている布は、以前のように姿を変える力と頭から被れば気配を消す力がある。

 イガードが居るとされている塔の最上階の窓へ行く。結界が張られている可能性を考えて、すこし離れたところから中を覗いてみる。

 中は暗く、中央にある蝋燭の灯だけがこの部屋の照明らしい、見えるのは薄汚れた壁と机。

 机の上にはトレイにのせられた冷めてしまったスープに固そうなパンがあるが、手を付けた形跡はない、机から少し右に視線を移動させると床に何か塊があった。

  ズッ

 塊が動いた。よく目を凝らして見ると、それは人だということがわかった。人が床にうずくまっているのだ。

(イガード…なの?)

 ファストはさらに注意深くそれを見る、それは小刻みに震え、時々、手で床に落ちた何かを集めるような仕草をした。

「…イガード?」

 ファストは無意識に頭から掛けていた布を取り、声を掛けていた。慌てて口を手で塞ぐがすでに遅い。人は全ての動作を止め、一度腕で顔を拭いてから声のするほうに顔を向けた。

「ファスト…? 何故ここに…」

 やはりイガードだった。

「泣いて…いたの?」 彼の目は腫れぼったく、鼻は赤くなり涙がまだ頬を伝っていた。

 ファストに指摘されてまだ涙が拭い切れていないことに気付いた。

「ち、違うよ。ただゴミが目に入っていて…」

 今度は服で顔を拭く。

「ねぇ」

 ファストの声で服から顔を上げる。

「何があったの?」

 その問いに顔が曇る。

「なんでもないよ」

 だがすぐに明るい顔にかえて答える、何かが引っ掛かった。

 イガードはこれ以上問い詰められたくなかった。

「うそ! 絶対何か」

「静かにしろ! 言ったってお前には分からないだろ!」

 さらに言われて思わず怒鳴ってしまった、やばいと思いファストを見ると今にも泣きだしそうな顔でいた。

「ご、ごめん。君は心配して言ってくれたのに…」

「…ううん、大丈夫。私が悪いの、イガードが嫌がってるのに」

 ファストは俯いて震える声で話し続ける、泣かないようにしようと涙を堪えながら話しているからだ。

 涙がでるのは怒られて悲しいからじゃない、優しくしてくれて嬉しいからでもない、悔しいのだ。

 どんな形でも良いから力になってあげたいのにそれができない、痛みや悲しみを共有したいのにそれは叶わない。

 イガードが立ち上がり、窓のまで近づいてきた。

「ファスト…ごめんな」

 イガードは彼女に触れたいと思い、気を手に集中させて幕を作り出し手を伸ばした。

  バチッ バチチチッ

「イガード!」

 目の前のすごい音でファストが顔を上げた。目の前は光が発せられて眩しかった。

  バチチチッ

 やはり結界が張られていた。それでも彼女に近づくため、結界を貫こうとする。

「くっ…」

 結界に弾かれたイガードの手は、気をまとっていたにもかかわらず、火傷をしたように焼かれた。

 イガードは地に膝をつく、痛さで汗が吹き出てきた。

 ファストは結界のむこうで痛みに耐えるイガードを見て、もどかしく感じる。

「ギャー!!」

「ヴヴ…」

 その時、城から複数の魔物が這い出てきて、ファストはあっという間に囲まれる。

「…っ」

 魔物は空を飛び背後にいるガーゴイルが六体、下の窓や屋上からから這い出てきたオーガやゾンビ、骸骨騎士が二十弱だろうか、そして、

  ガチャ

 女が一人、イガードの部屋に入ってきた。

「あら、誰かと思ったらチビのファストじゃない」

 知っている。この女はルイの側近、如月きさらぎ 史遠しおんだ。

 史遠はファストをちらりと見て言った。

「ふーん…この子を助けるために一人で来たんだ。でも残念ね、結界が張ってあるから入れなかったでしょ?」

 史遠は可笑しい、というように眉をひそませファストを嘲笑う。

 悔しそうに拳を握り締めるファストに、痛みに耐えていたイガードが叫んだ。

「ファスト! 逃げろ!」

  ガッ

「ぐっ…!!」

「…うるさいわね」

 史遠が焼けたイガードの手を踏み付け、冷たい視線を彼におくる。

 イガードは手に更に加えられた激痛に顔を歪ませる。

「イガード!!」

 助けなくてはと、今自分が置かれている状況も忘れ、どこからともなく柄の紅い短剣を取出し構える。

 その姿を目の端でとらえたイガードが、

「オレ…に…構わず…行け。もう…大切…な人を…失いたくない…」

 言葉も絶え絶えにファストに投げ掛ける。ファストはその言葉に少しためらいながらも、一歩下がる。

「おや、逃げる気かい? そうはさせないよ!」

 ファストが身を退こうとしたのを見た史遠が、彼女の周りにいる魔物達に指だけで指示を出した。

 それを合図に魔物が一斉にファストに襲い掛かる。

「…くっ」

「ファス…ト…」

 四方八方から襲いくる魔物、さすがのファストも全てを倒せるかは分からない。

 意を決したように、剣を握り直し気を溜める。いきなり剣に炎がまとわりつくように現れた、それはまるで木に絡み付く蛇のように見える。

「剣技・流炎朱蛇リュウエンシュジャ!」

 ファストが剣を振り下ろすと同時に、炎が剣から離れ周囲の魔物を順に焼き殺していった。

「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!」

「ギィ! グゥア゛ヴ」

 魔物は断末魔をそれぞれ吐きながら灰へと変わり、焼き残った者は地へと落ち、焼けたものは塵になり風にさらわれて遠くに逝く。

 しかし、次から次へと魔物が現れ襲い掛かってくる。

 その魔物が焼かれていく光景はイガードの心を締め付けた、あの彼女の光景がまたよみがえる。


 泪が流れた。


 幸いにもファストはイガードに振り返らず、一言告げて飛んでいった。


   「待ってて」


 と。

 ファストが遠くに行ってしまったのを見届けた史遠は、イガードの焼けた手から足をどけ、足元に転がる男を見て言う。

「あら、本当に行ってしまったわね…まあいいわ、すぐ大勢の仲間を連れて来るわね。ふふ」

  バタンッ

 史遠はこれから更に不利な立場になることを知りながらも、楽しそうに部屋を出ていく。

 床に俯せていたイガードは腕を使って身体を起こし、近くにあった棚に寄り掛かるようにして座り、窓から空を見る。目にはまだ光るものが残っている。

 焼けた手は既に感覚を失いかけていた。




 ファストはイガードの下に戻りたい気持ちを抑え、なるべく塔から離れる。

 魔物を振り切ることができたときには、塔からかなり離れた所まで来ていた。後ろを振り返ると塔は小さくなっていた。

 それと同時に、イガードの心までが遠くに行ってしまったような気がしていた。

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